~管理監督者の深夜割増賃金,固定残業代の有効要件,2024年裁量労働制改正,最高裁2024年(令和6年)判決まで~
労働時間トラブルは未払残業代請求や労基署対応に直結します。労働時間トラブルの根本原因は,客観的な記録による労働時間把握の不備,管理監督者・裁量労働制・固定残業代等の適用除外制度の誤用,36協定の上限を超える運用の3点に集約されます。管理監督者(労働基準法第41条第2号)に該当しても,深夜労働の割増賃金の支払義務は免除されません(最高裁判所第二小法廷2009年(平成21年)12月18日判決(ことぶき事件))。36協定を締結していても,時間外労働と休日労働の合計には絶対的な上限があり,これを超えると同法第119条第1号により刑事罰の対象となります。専門業務型裁量労働制は,2024年(令和6年)4月1日以降,本人同意が必須です。
- 労働時間トラブルの根本原因は,(1)客観的な記録による労働時間把握の不備,(2)管理監督者・裁量労働制・固定残業代等の適用除外制度の誤用,(3)36協定の上限を超える運用の3点に集約されます。
- 管理監督者(労働基準法第41条第2号)に該当しても,時間外労働・休日労働の割増賃金は不要になりますが,深夜労働(午後10時から午前5時まで)の割増賃金の支払義務は免除されません(最高裁判所第二小法廷2009年(平成21年)12月18日判決(ことぶき事件))。
- 36協定を締結していても,時間外労働と休日労働の合計が単月100時間以上,又は2か月から6か月までのいずれかの平均で80時間を超えた場合は労働基準法第36条第6項違反となり,同法第119条第1号により6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の対象となります。
- 専門業務型裁量労働制は,2024年(令和6年)4月1日以降,新規導入及び協定更新の際に労働者本人の同意,同意しなかった場合の不利益取扱いの禁止,同意の撤回手続を労使協定に定めることが必須となりました。
- 使用者は,管理監督者や裁量労働制の適用者を含む全ての労働者について,労働安全衛生法第66条の8の3に基づき,タイムカードやパソコンの使用時間の記録等の客観的な方法により労働時間の状況を把握する義務を負います(高度プロフェッショナル制度適用者を除く。)。
この記事はこんな方におすすめです
- 自社の労働時間管理体制が法令に適合しているか点検したい経営者,法務・人事・総務の担当者の方
- 管理監督者,裁量労働制,固定残業代等の制度を導入又は見直そうとしている担当者の方
- 従業員から未払残業代請求を受け,対応方針を検討している経営者,法務・人事の担当者の方
- 36協定の運用や長時間労働対策について,最新の法改正・裁判例を踏まえて確認したい担当者の方
主要用語の定義
労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,就業規則等の定めにかかわらず客観的に判断されます(最高裁判所第一小法廷2000年(平成12年)3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件))。
管理監督者とは,労働基準法第41条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」をいい,労働時間,休憩及び休日に関する規定の適用が除外されます。
36協定(サブロク協定)とは,労働基準法第36条に基づき,法定労働時間を超える時間外労働又は法定休日労働をさせるために,労使間で締結し労働基準監督署へ届け出る協定をいいます。
事業場外みなし労働時間制とは,労働者が事業場外で業務に従事した場合において「労働時間を算定し難いとき」に,所定労働時間又は業務に通常必要な時間だけ労働したものとみなす制度をいいます(労働基準法第38条の2第1項)。
- 1.労働時間トラブルが企業に生じさせる法的リスク
- 2.労働時間管理の基本構造と客観的把握義務
- 3.管理監督者制度の要件と運用上の落とし穴
- 4.36協定と時間外労働の上限規制
- 5.裁量労働制・事業場外みなし労働時間制の適用要件
- 6.固定残業代制度との関係
- 7.重要判例に見る判断のポイント
- 8.未払残業代請求を受けた場合の対応ステップ
- 9.トラブルを未然に防ぐための制度設計と運用
- 10.弁護士に相談するメリットと当事務所のサポート内容
- 11.よくある質問(FAQ)
- 12.まとめ
1.労働時間トラブルが企業に生じさせる法的リスク
📌 この章の結論
労働時間管理の不備は,未払残業代の遡及請求,労働基準法違反による罰則,安全配慮義務違反による損害賠償という3種類の法的リスクに直結します。
働き方改革関連法の施行以降,労働時間の適正な管理は企業規模を問わず求められる責務となりました。にもかかわらず,労働時間をめぐるトラブルは依然として多く発生しています。主なリスクは次の3点です。
第一に,未払残業代の支払請求です。実労働時間が把握できていない場合,労働者側の主張する時間数を否定する客観的証拠がなく,企業が不利な立場に置かれやすくなります。賃金請求権の消滅時効は,労働基準法第115条により原則5年ですが,同法附則第143条第3項の経過措置により,2020年(令和2年)4月1日以後に支払期日が到来する賃金については,当面の間「3年」です。
第二に,労働基準法違反に伴う罰則及び行政上の措置です。36協定の上限規制違反(労働基準法第36条第6項)は同法第119条第1号により6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の対象となり,是正勧告に従わない場合は書類送検に至ることもあります。
第三に,安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づく損害賠償責任です。長時間労働が続き,労働者が精神障害を発症したり過労死に至ったりした場合,使用者は民事上の損害賠償責任を問われる可能性があります(大阪地方裁判所2015年(平成27年)3月20日判決,福岡高等裁判所2007年(平成19年)10月25日判決(山田製作所事件)等)。
2.労働時間管理の基本構造と客観的把握義務
📌 この章の結論
労働基準法上の労働時間規制と,労働安全衛生法上の労働時間状況把握義務は,目的も対象者の範囲も異なる別個の制度です。両方を正確に理解しないと,管理監督者や裁量労働制の適用者について把握義務が及ばないという誤解が生じます。
2-1.労働基準法第32条の労働時間規制
労働基準法第32条は,使用者が労働者に,休憩時間を除き1週間について40時間,1日について8時間を超えて労働させてはならないと定めています。これを超えて労働させるには,同法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結及び労働基準監督署への届出が必要です。また,午後10時から午前5時までの深夜労働には,同法第37条第4項により25%以上の割増賃金の支払いが必要です。
「労働時間」に該当するか否かは,労働契約や就業規則の定めではなく,労働者が使用者の指揮命令下に置かれていたかによって客観的に判断されます(最高裁判所第一小法廷2000年(平成12年)3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件))。同判決は,始業前の作業服・保護具の装着や副資材の受出し等,実作業に付随する準備行為であっても,事業所内で行うことを使用者から義務付けられ又は余儀なくされていた場合には,特段の事情がない限り労働時間に該当すると判断しました。したがって,始業前の朝礼や準備作業,終業後の後片付けや業務連絡への対応であっても,実態として義務付けられている場合は労働時間に算入する必要があります。
2-2.労働安全衛生法上の客観的把握義務
労働安全衛生法第66条の8の3は,長時間労働者に対する医師の面接指導を確実に実施するため,使用者に対し,厚生労働省令で定める方法により労働者の労働時間の状況を把握する義務を課しています。厚生労働省令(労働安全衛生規則第52条の7の3)が定める方法は,タイムカードによる記録,パソコン等の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録その他の客観的な方法とされています。
この把握義務の対象者は,高度プロフェッショナル制度の適用者を除く全ての労働者であり,管理監督者や裁量労働制の適用者も含まれます。労働基準法上の割増賃金支払義務の有無(管理監督者性や裁量労働制の該当性)とは目的が異なる別個の規制であるため,「管理監督者だから労働時間を把握しなくてよい」という理解は誤りです。
3.管理監督者制度の要件と運用上の落とし穴
📌 この章の結論
管理監督者に該当するかどうかは役職名ではなく実態で判断されます。該当する場合でも,深夜割増賃金の支払義務は残ります。
3-1.管理監督者の判断基準
労働基準法第41条第2号は,管理監督者について,同法第4章(労働時間),第6章(休憩・休日等の一部)及び第6章の2(年少者の一部)で定める労働時間,休憩及び休日に関する規定の適用を除外しています。もっとも,これは役職の名称ではなく実態に基づいて判断されるべきものです。
東京地方裁判所2008年(平成20年)1月28日判決(日本マクドナルド事件)は,店長の管理監督者該当性が争われた事案において,(1)職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか,(2)勤務態様が労働時間等の規制になじまないものであるか否か,(3)基本給や役付手当,賞与等について,管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か,という3つの観点から実質的に判断すべきであるとし,店長の管理監督者性を否定しました。
この判決を契機として,厚生労働省は2008年(平成20年)9月9日付け通達(基発第0909001号)で,多店舗展開する小売業・飲食業等の店舗責任者について,管理監督者性を否定する重要な要素(採用・解雇・人事考課等の権限がないこと,遅刻・欠勤等について制裁を受ける立場にあること,賃金面で管理監督者にふさわしい処遇がないこと等)を整理しています。
3-2.管理監督者であっても免除されない義務
管理監督者に該当する場合,時間外労働・休日労働の割増賃金の支払義務は生じません。しかし,次の2点は免除されない点に注意が必要です。
第一に,深夜割増賃金です。最高裁判所第二小法廷2009年(平成21年)12月18日判決(ことぶき事件)は,労働基準法第41条が適用除外とするのは労働時間,休憩及び休日に関する規定に限られ,深夜業に関する規定(同法第37条第4項)は,労働が1日のうちどの時間帯に行われるかに着目した規制であって労働時間規制とは趣旨目的を異にするから,管理監督者であっても深夜割増賃金を請求できると判断しました。
第二に,年次有給休暇の付与義務です。労働基準法第39条は同法第41条の適用除外の対象になっておらず,管理監督者にも年次有給休暇を付与する必要があります。
また,前記2-2のとおり,労働安全衛生法上の労働時間状況の客観的把握義務も,管理監督者について免除されません。
3-3.裁量労働制・みなし労働時間制との混同に注意
管理監督者は,労働時間規制そのものの適用が除外される制度である一方,裁量労働制(労働基準法第38条の3,第38条の4)や事業場外みなし労働時間制(同法第38条の2)は,実労働時間にかかわらず一定時間労働したものと「みなす」,労働時間の算定方法に関する制度です。両者は法的根拠及び要件が異なる別個の制度であり,管理監督者に該当する従業員に対して裁量労働制やみなし制を重ねて適用する必要はありません。就業規則や雇用契約書において両制度を混同した記載をすると,管理監督者性の判断において不利な事情として扱われるおそれがあります。
4.36協定と時間外労働の上限規制
📌 この章の結論
36協定を締結していても,時間外労働と休日労働の合計には絶対的な上限があり,これを超えると協定の有無にかかわらず刑事罰の対象となります。
4-1.36協定の締結と限度時間
労働者に法定労働時間を超える労働又は法定休日労働をさせるには,労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)を締結し,労働基準監督署に届け出る必要があります。36協定における時間外労働の限度時間は,原則として月45時間・年360時間です(1年単位の変形労働時間制の対象者は月42時間・年320時間)。臨時的で特別な事情がある場合に限り,特別条項を付すことで限度時間を超える協定を締結できますが,年6回までという回数制限があります。
4-2.特別条項を付しても超えられない絶対的上限
労働基準法第36条第6項は,特別条項を付した場合であっても,(1)時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満であること,(2)時間外労働と休日労働の合計について,2か月から6か月までの各期間を平均していずれも1か月当たり80時間を超えないこと,(3)時間外労働が年720時間以内であることを義務付けています。これらの上限は,労使が合意した36協定の内容にかかわらず遵守しなければならない絶対的な上限であり,これに違反した場合は,同法第119条第1号により6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金の対象となります。
4-3.上限規制違反以外の行政・民事リスク
時間外労働が月80時間を超える状態(いわゆる過労死ライン)が続くと,労働者からの申出により医師の面接指導の対象となるほか(労働安全衛生法第66条の8第1項),精神障害等の労災認定リスクが高まります。労災認定に至った場合,使用者は労働契約法第5条に基づく安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を受けるおそれがあります(大阪地方裁判所2015年(平成27年)3月20日判決,福岡高等裁判所2007年(平成19年)10月25日判決(山田製作所事件),長崎地方裁判所大村支部2019年(令和元年)9月26日判決(狩野ジャパン事件)等)。
5.裁量労働制・事業場外みなし労働時間制の適用要件
📌 この章の結論
裁量労働制は業務遂行の裁量が実質的に労働者にあることが前提であり,2024年4月以降は専門業務型でも本人同意が必須です。事業場外みなし制は,業務日報の存在だけで適用の可否が決まるものではありません。
5-1.専門業務型裁量労働制の2024年改正
専門業務型裁量労働制は,対象業務の性質上,業務遂行の方法や時間配分の決定を労働者の裁量に委ねる必要があるため,法令及び告示で定められた対象業務について,労使協定で定めた時間労働したものとみなす制度です。2024年(令和6年)4月1日以降,新規に導入する場合及び既存の労使協定を更新して制度を継続する場合には,(1)対象労働者本人の同意を得ること,(2)同意しなかった場合に不利益取扱いをしないこと,(3)同意の撤回手続を定めることが労使協定の必須記載事項とされました。同意及びその撤回に関する記録の保存も必要です。
5-2.事業場外みなし労働時間制の判断枠組み
事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2第1項)は,労働者が事業場外で業務に従事し,「労働時間を算定し難いとき」に,原則として所定労働時間労働したものとみなす制度です。最高裁判所第二小法廷2014年(平成26年)1月24日判決(阪急トラベルサポート事件)は,(1)業務の性質,内容及びその遂行の態様・状況等,(2)業務に関する指示及び報告の方法,内容及びその実施の態様・状況等を考慮して,使用者が労働者の勤務状況を具体的に把握することが困難であったといえるかを判断すべきであるとの枠組みを示しました。
この枠組みは,最高裁判所第三小法廷2024年(令和6年)4月16日判決(協同組合グローブ事件)にも引き継がれています。同事件は,技能実習制度における監理団体の指導員が,実習実施者への訪問指導や技能実習生の送迎,生活指導等の業務に従事し,自ら具体的なスケジュールを管理し,直行直帰も認められていた事案です。原審(福岡高等裁判所)は,労働者が業務日報を提出していたことを理由に「労働時間を算定し難いとき」に当たらないと判断しましたが,最高裁判所は,業務日報が存在するだけでは足りず,その正確性が客観的に担保されていたといえるかについての具体的な検討が不足しているとして,原審の判断を破棄し,福岡高等裁判所に差し戻しました。
この判決は,事業場外みなし制の適用可否が「業務日報の有無」という形式的な事情のみでは決まらず,業務日報の正確性を使用者が確認できる体制になっていたかという実質的な事情まで検討する必要があることを示した点で,テレワークや直行直帰型の営業職を多く抱える企業にとって重要な判例です。参考として,東京高等裁判所2022年(令和4年)11月16日判決(セルトリオン・ヘルスケア・ジャパン事件)は,スマートフォンによる打刻システム等を導入した後の状況について,直行直帰の医薬情報担当者(MR)であっても「労働時間を算定し難いとき」には当たらないと判断しています。
6.固定残業代制度との関係
📌 この章の結論
固定残業代(定額残業代)は,対価性と明確区分性の2要件をいずれも満たさない限り無効と判断され,通常の賃金とみなされます。管理監督者や裁量労働制とは異なる制度であることに注意が必要です。
固定残業代とは,実際の時間外労働等の時間数にかかわらず,あらかじめ一定時間分の割増賃金を定額で支払う賃金制度をいいます。固定残業代が労働基準法第37条の割増賃金の支払いとして有効と認められるためには,通常の賃金部分と割増賃金部分とを判別できること(明確区分性)と,支払われる手当が実質的に時間外労働等の対価として支払われていること(対価性)の2要件をいずれも満たす必要があります(最高裁判所第一小法廷2018年(平成30年)7月19日判決(日本ケミカル事件))。
近年は,賃金体系全体から見た規範的な判断も求められています。最高裁判所第二小法廷2023年(令和5年)3月10日判決(熊本総合運輸事件)は,賃金総額から基本給等を控除した残額を割増賃金として支給する給与体系について,通常の賃金部分と割増賃金部分とを判別することができないとして,割増賃金の支払いがあったとは認められないと判断しました。歩合給・出来高給と割増賃金を組み合わせる賃金体系を採る運送業,タクシー業等にとって特に留意すべき判例です。
固定残業代の対象時間数についても留意が必要です。東京高等裁判所2018年(平成30年)10月4日判決(イクヌーザ事件)は,月80時間程度の時間外労働を前提とする固定残業代の定めについて,労働者の健康確保の観点から公序良俗(民法第90条)に違反し無効であると判断しました。実務上は,月45時間以内を目安に設定することが安全です。固定残業代制度の詳細な有効要件及び実務対応については,関連記事「固定残業代が無効になるのはどのような場合か」で解説しています。
7.重要判例に見る判断のポイント
📌 この章の結論
労働時間トラブルの判断は,契約書の文言だけでなく実際の業務実態に基づいて行われます。次の裁判例は,いずれも実務対応に直結する視点を示しています。
8.未払残業代請求を受けた場合の対応ステップ
📌 この章の結論
請求を受けた際は,即座に金額を支払うのではなく,事実確認→リスク整理→対応方針の検討という順序を踏むことが,過大な支払いや紛争の長期化を防ぐ鍵となります。
- 請求内容の把握:請求対象期間,主張されている労働時間数と実際の記録との整合性を確認します。
- 社内記録の確認:雇用契約書,就業規則,賃金規程,タイムカード・PCログ等の客観的記録,36協定,給与支払実績を突き合わせます。
- 適用制度の法的評価:管理監督者性,裁量労働制・みなし制の適用要件,固定残業代の有効性を個別に検討します。
- リスクの整理:一部支払いによる和解の余地があるか,全額支払義務が生じるリスクがあるかを区別します。
- 合意書・示談書の作成:清算条項を含む法的に有効な書面を取り交わします。
- 証拠保全:労働審判・訴訟に備え,勤怠記録やメール・チャット履歴を改ざんのない形で保存します。
9.トラブルを未然に防ぐための制度設計と運用
📌 この章の結論
労働時間トラブルの多くは,制度設計段階での書面整備不足と,運用段階での実態との乖離の放置に起因します。
9-1.制度設計のポイント
- 管理監督者として扱う従業員の職務内容・権限・待遇が,実態として要件を満たしているかを個別に精査する。
- 裁量労働制を適用する場合は,2024年4月以降の本人同意・不利益取扱い禁止・同意撤回手続を労使協定に明記する。
- 固定残業代を導入する場合は,対象時間数と金額を雇用契約書・求人票に明示し,月45時間以内を目安に設定する。
- 36協定は,特別条項を含め年1回,現場の実態に即した内容に更新する。
9-2.運用面のポイント
- タイムカード,ICカード,PCログ等の客観的方法により,管理監督者や裁量労働制の適用者を含む全労働者の労働時間の状況を把握する(労働安全衛生法第66条の8の3)。
- 始業前の準備作業や終業後の業務連絡についても,実態として義務付けている場合は労働時間として扱う。
- 月80時間を超える時間外・休日労働が発生した労働者に対し,医師の面接指導を実施する。
- 半年から1年ごとに,制度設計と実際の労働時間管理との整合性を点検する。
10.弁護士に相談するメリットと当事務所のサポート内容
📌 この章の結論
労働時間トラブルは,制度設計・請求対応のいずれの局面でも法的判断を要する場面が多く,初動対応を誤ると損害額が拡大しやすい分野です。
- 管理監督者性,裁量労働制,固定残業代の有効性についての法的診断
- 就業規則,雇用契約書,36協定,労使協定の見直しと整備
- 未払残業代請求を受けた際の初動対応・事実確認の支援
- 労働審判・訴訟対応
- 再発防止のための勤怠管理体制・社内研修の構築支援
日本橋法律特許事務所では,労働時間管理体制の点検から,未払残業代請求を受けた際の初動対応,労働審判・訴訟対応まで,企業法務に精通した弁護士が一貫してサポートいたします。
実務チェックリスト
- 管理監督者として扱う従業員の職務内容・権限・待遇を,実態に基づき定期的に点検しているか
- 管理監督者に対しても深夜割増賃金を支払っているか
- 専門業務型裁量労働制について,2024年4月以降の本人同意・不利益取扱い禁止・撤回手続を労使協定に定めているか
- 事業場外みなし労働時間制の適用者について,業務日報以外の方法でも労働時間の実態を確認できる体制があるか
- 固定残業代の対象時間数・金額を雇用契約書・求人票に明示しているか
- 36協定の内容が現場の実態に即しているか,特別条項の上限(単月100時間未満,複数月平均80時間以内,年720時間以内)を遵守しているか
- タイムカード・ICカード・PCログ等の客観的方法により全労働者の労働時間の状況を把握しているか
- 始業前・終業後の準備作業や業務連絡を労働時間として扱っているか
- 月80時間を超える時間外・休日労働が発生した労働者への面接指導を実施しているか
- 未払残業代請求を受けた際の初動対応フローを社内で共有しているか
11.よくある質問(FAQ)
12.まとめ
労働時間トラブルの多くは,(1)客観的な記録による労働時間の把握,(2)管理監督者・裁量労働制・固定残業代といった適用除外制度の適法な運用,(3)36協定の上限規制の遵守という3つの基本を徹底することで予防できます。特に,管理監督者であっても深夜割増賃金の支払義務は残ること,裁量労働制の適用者であっても客観的な労働時間把握義務は免除されないことは,見落とされやすい実務上の要点です。制度の新規導入・見直しの場面であっても,未払残業代請求を受けた場面であっても,客観的証拠に基づく検証と,段階を踏んだ対応が,企業を守る最も確実な方法です。


