~試用期間中の解雇と満了時の本採用拒否,判断基準はどう違う?三菱樹脂事件等の裁判例から解説~
試用期間中の労働者もすでに労働契約を締結しているため,試用期間中の解雇及び試用期間満了時の本採用拒否(本採用見送り)は,いずれも法的には留保された解約権の行使であり,実質的に解雇に当たります(最高裁判所大法廷1973年(昭和48年)12月12日判決(三菱樹脂事件))。留保解約権の行使は,採用決定後の調査又は試用期間中の勤務状態等により,採用時には知ることができず,かつ知ることも期待できなかった事実が判明し,その事実に照らして継続雇用を不適当とする判断が,解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に相当であると認められる場合に限り認められます。さらに,労働契約法第16条により,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と是認されることも必要です。試用期間満了時の本採用拒否は,通常の解雇より広い範囲で認められる余地がある一方,試用期間の「途中」での解雇は,満了時まで様子を見るべきとして,より厳格に判断される傾向があります。
※最高裁判所大法廷1973年(昭和48年)12月12日判決(三菱樹脂事件)
東京地方裁判所2012年(平成24年)8月23日判決(ライトスタッフ事件)
東京地方裁判所2021年(令和3年)11月12日判決(日本オラクル事件)
東京地方裁判所2020年(令和2年)9月28日判決(明治機械事件)
東京地方裁判所2024年(令和6年)9月18日判決(ダイトク事件)
- 試用期間中の解雇・満了時の本採用拒否は,いずれも法的には解雇であり,「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」と認められない限り無効です(労働契約法第16条,三菱樹脂事件)。
- 満了時の本採用拒否は,採用時に知ることができず知ることも期待できなかった事実に基づく場合には,通常の解雇より広い範囲で認められる余地がありますが,無制限ではありません。
- 試用期間の「途中」での解雇は,満了時まで観察すべきという原則があるため,満了時の本採用拒否よりも厳格に判断される傾向があります。ただし,改善の見込みがないことが明らかな場合や,危険性の高い業務でのミスが繰り返された場合など,特段の事情があれば有効とされた裁判例もあります(ダイトク事件)。
- 労働基準法第21条第4号により,試用期間中の者は解雇予告の適用除外とされていますが,同条ただし書により,雇入れ後14日(暦日)を超えて引き続き使用された場合は,30日前の解雇予告又は解雇予告手当の支払いが必要です。
- 「能力不足」「協調性がない」といった抽象的な評価だけでは本採用拒否の理由として不十分です。具体的な問題事実,指導内容,改善機会及びその後の状況を記録しておくことが,有効性を裏付ける最重要のポイントです。
この記事はこんな方におすすめです
- 試用期間中の従業員の本採用可否を近く判断する必要がある経営者の方や人事・法務の担当者の方
- 試用期間中の問題社員への対応方法や記録の残し方を確認したい人事・労務の担当者の方
- 本採用拒否(解雇)を通知した後に無効を主張されるリスクを事前に把握しておきたい方
- 試用期間の延長や解雇予告の手続について,条文に即して正確に確認したい方
主要用語の定義
本採用拒否(本採用見送り)とは,試用期間中又は試用期間満了時に,使用者が留保していた解約権を行使し,労働契約を終了させることをいいます。法的には解雇の一類型です。
解約権留保付労働契約とは,採用決定当初には労働者の資質・性格・能力その他の適格性に関する判断資料を十分に収集できないことから,後日の調査・観察に基づく最終的な決定を留保する趣旨で試用期間を設けた労働契約をいいます(三菱樹脂事件)。
留保解約権とは,解約権留保付労働契約において使用者に留保された,労働契約を解約する権利をいいます。その行使には,労働契約法第16条の解雇権濫用法理の枠組みが及びます。
- 1.試用期間とは
- 2.本採用拒否が有効となるための法的判断基準
- 3.本採用拒否が認められやすい類型・認められにくい類型
- 4.重要判例に見る判断のポイント
- 5.解雇予告制度との関係(労働基準法第20条・第21条)
- 6.本採用拒否を検討する際の実務対応ステップ
- 7.トラブルを防ぐための制度設計と運用の実務
- 8.弁護士に相談するメリットと当事務所のサポート内容
- 9.よくある質問(FAQ)
- 10.まとめ
1.試用期間とは
📌 この章の結論
試用期間中の労働者もすでに労働契約を締結しているため,本採用拒否(本採用見送り)は法的には解雇に当たります。試用期間を設けること自体は適法ですが,その運用が有効要件を満たすかどうかが問題となります。
1-1.試用期間の法的性質
試用期間とは,企業が採用した従業員について,能力,勤務態度,適格性等を実際の勤務を通じて確認し,本採用に適するかを判断するための期間をいいます。期間の長さは3か月又は6か月とされる例が多く,就業規則や労働契約書に定められます。
試用期間中の従業員も単なる採用候補者ではなく,すでに労働契約は成立しています。最高裁判所大法廷1973年(昭和48年)12月12日判決(三菱樹脂事件)は,試用期間を設けた労働契約を,採用決定当初には労働者の資質・性格・能力その他の適格性に関する判断資料を十分に収集できないため,後日の調査・観察に基づく最終的な決定を留保する趣旨の「解約権留保付労働契約」と解釈しました。したがって,試用期間中だからといって企業が自由に本採用を拒否できるわけではありません。
1-2.試用期間と通常の雇用との違い
試用期間には,採用選考時には十分に把握できなかった労働者の能力や適格性を,実際の勤務を通じて確認するという目的があります。そのため,採用後の調査や勤務状況から新たに判明した事情に基づく場合には,通常の解雇より広い範囲で本採用拒否が認められる余地があります。もっとも,どのような理由でも認められるわけではなく,客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要です(詳細は「2.」で説明します。)。
形式上は試用期間制度を導入していても,(1)問題事実の記録が不十分,(2)抽象的な評価のみで判断,(3)十分な指導・改善機会を与えていない,(4)就業規則や雇用契約書に本採用拒否の事由が明記されていない,といった理由で無効と判断される例が増えています。近年は,退職代行サービスの普及や労働審判の利用増加を背景に,本採用拒否をめぐる紛争が顕在化しやすくなっている点にも留意が必要です。
2.本採用拒否が有効となるための法的判断基準
📌 この章の結論
本採用拒否(留保解約権の行使)は,解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められる場合に限り有効です。加えて,試用期間「途中」の解雇と「満了時」の本採用拒否とでは,求められる厳格さが異なります。
2-1.三菱樹脂事件が示した二段階の基準
最高裁判所大法廷1973年(昭和48年)12月12日判決(三菱樹脂事件)は,留保解約権の行使について,次の二つの要件を満たす場合に限り許されるとしました。第一に,採用決定後の調査又は試用期間中の勤務状態等により,使用者が採用時には知ることができず,かつ知ることも期待できなかった事実を知るに至ったこと。第二に,その事実に照らして労働者を引き続き雇用することが不適当であるとの判断が,解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に相当であると認められることです。この程度に至らない場合には,留保解約権を行使することはできません。
2-2.労働契約法第16条との関係
労働契約法第16条は,解雇について,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,権利を濫用したものとして無効とすると定めています。留保解約権の行使にも,この解雇権濫用法理の基本的な枠組みが及びます(東京地方裁判所2012年(平成24年)8月23日判決(ライトスタッフ事件))。したがって,本採用拒否を検討する際の基準は,「客観的かつ合理的な理由」の有無にとどまらず,「解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当として是認される場合に限り認められる」と整理するのが正確です。
2-3.試用期間「途中」の解雇と満了時の本採用拒否の違い【重要】
試用期間は,本来,満了までの観察・評価を通じて適格性を判断するために設けられた期間です。そのため,試用期間の途中で解雇する場合は,満了時まで様子を見た上で判断すべきであるとして,満了時の本採用拒否よりも厳格に判断される傾向があります。東京高等裁判所2009年(平成21年)9月15日判決(ニュース証券事件)は,わずかな期間の実績のみでは適格性の有無を判断できないとして,試用期間途中の解約を無効としました。
もっとも,必要な指導や改善機会を与えても改善の見込みがないことが明らかな場合や,満了を待たずに適格性の欠如を把握できる特段の事情がある場合には,途中解雇が有効とされる余地があります。東京地方裁判所2024年(令和6年)9月18日判決(ダイトク事件)は,実働10日という短期間の解雇であっても,危険性の高い機械作業で繰り返しミスがあり,指導を重ねても改善が見られなかったという具体的事情の下で,解雇を有効と判断しました(詳細は「4.」で解説します。)。
2-4.有期労働契約に試用期間を設けた場合
試用期間を有期労働契約の形式で設けている場合,期間途中の解雇には,上記の判断基準に加えて,労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」が必要とされた裁判例があります(東京高等裁判所2023年(令和5年)4月5日判決)。同判決は,試用期間の趣旨を踏まえ「やむを得ない事由」の有無をやや緩やかに判断するのが相当とした一方,通常の無期契約の途中解雇よりも高い水準の理由を求めています。有期契約形式の試用期間を採用している場合の法的評価は,契約書の記載内容によって異なり得るため,個別の事案については専門家にご確認ください。
3.本採用拒否が認められやすい類型・認められにくい類型
📌 この章の結論
本採用拒否の可否は,問題の内容・程度,職種,採用時に求められた能力,指導・改善機会の有無等を総合的に考慮して個別に判断されます。以下の類型は固定的な要件ではなく,判断の際に重視される考慮要素として理解してください。
3-1.経歴詐称・重要事項の不申告
採用選考の過程で重要な事実について虚偽の申告や不申告があった場合,本採用拒否の理由となり得ます。東京地方裁判所2009年(平成21年)8月31日判決(アクサ生命保険ほか事件)は,以前の勤務先での就労及び解雇の事実を明らかにしなかったことについて,採否の判断に関わる重要な事実への手掛かりを意図的に隠したものと評価し,経歴詐称に当たるとして本採用拒否を有効と判断した例として紹介されています。もっとも,単なる記載の誤りでは足りず,採用決定時に知ることができず,かつ知ることも期待できなかった事実であり,その事実に照らして継続雇用が不適当といえるかを個別に検討する必要があります。
3-2.能力・適格性の不足
職務に必要な能力や適格性が著しく不足している場合も,本採用拒否の理由となり得ます。ただし,「仕事が遅い」「ミスが多い」といった抽象的評価のみでは不十分であり,求められる職務水準,具体的な問題事実,指導内容,改善機会及びその後の改善状況を確認する必要があります。特に,中途採用の即戦力人材については,新卒採用者と同様の改善機会を与える必要はないとされた例があります(東京地方裁判所2021年(令和3年)11月12日判決(日本オラクル事件))。他方,新卒採用者や,勤務実績がごく短期間にとどまる場合は,改善機会の付与や十分な評価期間の確保がより重視される傾向があります。
3-3.勤務態度・協調性の問題
業務上必要な指示に繰り返し従わない,取引先や同僚を困惑させる具体的な言動があるなど,業務又は信頼関係への影響が認められ,注意・指導後も改善が見られない場合には,本採用拒否の理由となり得ます。ただし,「協調性がない」という抽象的な評価だけでは足りず,具体的な言動の内容,業務への影響及び指導内容の記録が重要です。
3-4.遅刻・欠勤等を繰り返す場合
正当な理由なく遅刻・無断欠勤を繰り返し,注意・指導後も改善しない場合も本採用拒否の理由となり得ます。もっとも,遅刻・欠勤の程度がごく軽微なものにとどまる場合には,本採用拒否が無効と判断されるおそれがあるため,回数・期間,業務への影響及び改善状況を個別に確認する必要があります。
3-5.本採用拒否が無効となりやすいケース
十分な指導を行わず,曖昧な評価基準や特定の担当者の主観のみに基づいて判断した場合や,勤務期間がごく短く適格性の有無を判断する材料が乏しい場合は,無効と判断されるリスクが高くなります。東京地方裁判所2012年(平成24年)8月23日判決(ライトスタッフ事件)は,営業日数がわずか13日であったことなどを踏まえ,能力不足等を理由とする解約を無効と判断しました。本採用拒否を検討する際は,「客観的資料によって理由を説明できるか」という視点を常に持つことが重要です。
3-6.比較表:本採用拒否の有効性チェックポイント
| 項目 | 有効と判断されやすい例 | 無効と判断されやすいリスク要因 |
|---|---|---|
| 問題事実の把握 | 具体的な日時・業務・指示内容・結果を記録 | 「能力不足」「協調性がない」等の抽象的評価のみ |
| 指導・改善機会 | 書面等により具体的な改善事項を伝達し記録 | 指導を行わない,又は口頭のみで記録がない |
| 採用時の期待水準 | 職種・採用類型に応じた水準で評価 | 新卒者と即戦力人材を同一基準で評価 |
| 解雇のタイミング | 満了時までの勤務状況を踏まえて判断 | 満了を待たず,ごく短期間の実績のみで判断 |
| 就業規則・契約書の記載 | 本採用拒否事由,試用期間の長さ等を明記 | 本採用拒否の根拠となる規定がない |
4.重要判例に見る判断のポイント
📌 この章の結論
本採用拒否の有効性は,契約書の文言だけでなく,実際の労働実態や指導・改善の経過まで含めて総合的に判断されます。以下の裁判例は,いずれも具体的な事実関係に基づく判断であり,一般化して評価することはできません。
4-1.基本的な判断枠組みを示した判例
【事案の概要】大学卒業の管理職要員として採用された労働者について,採用試験の際に学生運動への関与等を秘匿したことなどを理由に,試用期間満了時に本採用が拒否された事案です。
【判断】最高裁判所は,試用期間付労働契約を解約権留保付労働契約と位置付け,留保解約権の行使は,解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当として是認される場合にのみ許されるとしました。もっとも,本件では秘匿等が合理的理由といえるかについて審理が尽くされていないとして原審に差し戻され,その後和解により終結しています。
【事案の概要】営業職として採用された労働者について,勤務開始からわずか13日で,能力不足等を理由に試用期間中の解雇(留保解約権の行使)が行われた事案です。
【判断】東京地方裁判所は,試用労働者はすでに労働契約関係に組み込まれているため留保解約権の行使にも解雇権濫用法理が及ぶとした上で,適格性判断は使用者の恣意が働くおそれがある抽象的な要素に基づくことを踏まえ,通常の解雇より広い範囲で認められる余地があるとしても,その範囲は大きくないとしました。営業日数がわずか13日にとどまることなどから,解約は無効と判断されています。
4-2.能力不足を理由とする解雇が有効とされた判例
【事案の概要】高年俸で即戦力人材として中途採用された労働者について,コミュニケーション能力が求められる水準に達しないこと等を理由に,試用期間満了時の本採用が拒否された事案です。
【判断】東京地方裁判所は,職務経験を生かした高度な業務遂行が期待され,それに見合う待遇を受ける即戦力人材については,新卒採用者と同様の改善機会を与える必要はないとして,本採用拒否を有効と判断しました。採用類型によって求められる指導・改善機会の程度が異なり得ることを示す裁判例です。
【事案の概要】NC旋盤による機械加工の経験を理由に採用された労働者が,実働10日の間に寸法計測ミスや加工ミスを繰り返し,試用期間の途中で解雇された事案です。
【判断】東京地方裁判所は,会社が寸法計測の重要性やNC旋盤の危険性を具体的に説明・指導していたにもかかわらず,労働者が繰り返し指導を受けてもミスを改善できなかったこと,作業自体は単純で改善困難な事情がなかったことなどを踏まえ,実働10日という短期間の途中解雇であっても,業務上の資質・適格性を欠くとして,解雇を有効と判断しました。安全に関わる具体的なミスの反復という事情の下での判断であり,「実働10日でも一般に解雇できる」と一般化すべきではありません。
4-3.試用期間の延長と解雇がいずれも無効とされた判例
【事案の概要】試用期間付きで採用された労働者について,会社が職務適格性等に問題があるとして試用期間を延長した上で,延長後の期間中に本採用を拒否した事案です。労働者は,延長及び解雇の無効に加え,違法な退職勧奨による損害賠償も請求しました。
【判断】東京地方裁判所は,就業規則等に試用期間延長の根拠となる規定がなく,かつ延長すべきやむを得ない事情も認められないとして,延長を無効と判断しました。その結果,当初の試用期間満了日をもって解約権留保のない労働契約に移行したと認められるため,その後の解雇についても客観的合理性・社会的相当性を欠くとして無効とされました。また,会社側の退職勧奨の言動についても,人格権を侵害する違法な行為に当たるとして,損害賠償請求の一部が認められています。就業規則に根拠のない試用期間の延長は認められない場合があること,及び執拗な退職勧奨は不法行為となり得ることを示す裁判例です。
4-4.裁判例から見える実務上のポイント
上記の裁判例からは,問題が生じても直ちに本採用拒否を決めるのではなく,具体的な問題事実を記録し,必要な指導と改善の機会を与え,改善状況まで確認するプロセスが,有効性の判断において重視されていることが分かります。特に能力不足を理由とする場合は,業務上のミスの内容,指導の日時・方法・内容,本人の対応及び改善の有無を記録し,紛争になった際にも「なぜ継続雇用が困難だったのか」を客観的資料により説明できる状態にしておくことが重要です。また,採用類型(新卒か中途か,即戦力人材か否か)によって求められる指導・改善機会の程度が異なり得る点,及び試用期間の延長には就業規則上の根拠又はやむを得ない事情が必要である点にも留意してください。
4-5.裁判例比較表
| 裁判例 | 解雇の時期 | 結論 | 重視された事情 |
|---|---|---|---|
| 最大判昭48.12.12(三菱樹脂事件) | 満了時 | 差戻し(後に和解) | 秘匿事実の合理的理由該当性は未確定 |
| 東京地判平24.8.23(ライトスタッフ事件) | 途中(13日) | 解雇無効 | 勤務実績が極めて短期間 |
| 東京地判令3.11.12(日本オラクル事件) | 満了時 | 本採用拒否有効 | 即戦力人材に新卒同様の改善機会は不要 |
| 東京地判令2.9.28(明治機械事件) | 延長後の途中 | 延長・解雇いずれも無効 | 延長の根拠規定なし,やむを得ない事情もなし |
| 東京地判令6.9.18(ダイトク事件) | 途中(実働10日) | 解雇有効 | 危険業務での反復ミス,具体的指導の存在 |
5.解雇予告制度との関係(労働基準法第20条・第21条)
📌 この章の結論
試用期間中の者は,原則として労働基準法第20条の解雇予告制度の適用が除外されますが,雇入れ後14日(暦日)を超えて引き続き使用された場合は,同条の適用があります。解雇予告の手続と,本採用拒否自体の実体的な有効性とは別問題である点にも注意が必要です。
5-1.原則:30日前の予告又は予告手当
労働基準法第20条第1項は,使用者が労働者を解雇しようとする場合,少なくとも30日前に予告しなければならず,30日前に予告しない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないと定めています。予告日数が30日に満たない場合は,不足する日数分以上の平均賃金を支払うことで,予告期間を短縮できます。
5-2.試用期間中の適用除外と「14日」の基準
労働基準法第21条第4号は,「試の使用期間中の者」について,同法第20条の解雇予告の規定を適用しないと定めています。もっとも,同条ただし書により,試用期間中の者が「十四日を超えて引き続き使用されるに至った場合」には,この適用除外は及ばず,第20条の解雇予告制度が適用されます。したがって,雇入れの日から起算して14日を超えて引き続き使用された場合は,就業規則上の試用期間の長さにかかわらず,原則として30日前の解雇予告又は解雇予告手当の支払いが必要です。
5-3.解雇予告手続と本採用拒否の実体的有効性は別問題
労働基準法第20条・第21条は,解雇の予告又は予告手当という手続に関する規定です。これに対し,労働契約法第16条は,解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当と認められることを求める,解雇の実体的有効性に関する規定です。したがって,解雇予告手当を支払ったとしても,本採用拒否の理由に客観的合理性・社会的相当性がなければ,解雇自体は無効となり得ます。手続の履践と実体的有効性は別の問題として,いずれも確認する必要があります。
6.本採用拒否を検討する際の実務対応ステップ
📌 この章の結論
試用期間中に問題が生じても,直ちに本採用拒否を通知することは避け,問題事実の記録,指導・改善機会の付与,改善状況の確認という順序を踏むことが,無効リスクを抑える鍵となります。
- 就業規則・雇用契約書を確認する:試用期間の長さ,本採用拒否(解雇)の事由,試用期間延長の可否及びその要件を確認します。延長規定がない場合,安易な延長はそれ自体が無効と判断されるおそれがあります(明治機械事件参照)。
- 問題行動・能力不足を具体的に記録する:「能力不足」「勤務態度が悪い」といった抽象的な評価にとどめず,いつ,どの業務で,どのような問題が生じたかを,メール,業務日報,面談記録,注意指導書等の客観的資料として残します。
- 指導と改善の機会を設ける:改善可能な問題については,本人に具体的な改善事項を書面等で伝え,「期限を守る」「同じミスを繰り返さない」など求める内容を明確にし,指導内容と本人の対応を記録します。
- 本採用拒否の可否を検討する:改善が見られない場合は,問題の重大性,改善可能性,指導回数,試用期間の残存期間等を総合的に検討します。結論を先に決めて理由を後付けすることは避け,試用期間途中の解雇か満了時の本採用拒否かによって求められる合理性の程度が異なる点(「2-3.」参照)を踏まえて判断してください。通知前に弁護士へ相談し,証拠の十分性を確認しておくことも有効です。
- 解雇予告等の手続を行う:雇入れ後14日を超えて使用している場合は,原則として30日前の解雇予告又は解雇予告手当の支払いが必要です(「5.」参照)。手続を履践しても,理由の合理性・相当性は別途必要です。
7.トラブルを防ぐための制度設計と運用の実務
📌 この章の結論
本採用拒否をめぐるトラブルの多くは,制度設計段階での書面整備不足と,運用段階での記録・指導の不足に起因します。設計と運用の両面から,自社の制度を点検してください。
7-1.制度設計のポイント
- 就業規則・雇用契約書に,試用期間の長さ,本採用拒否の事由及び延長の可否・要件を具体的に明記する。
- 試用期間を延長する場合の根拠規定を就業規則に設け,延長の目的・期間及び労働者への告知の要否を明確にする。
- 採用選考の段階から,職種に応じて求める能力水準を具体的に整理し,採用時の資料として残しておく。
7-2.運用面のポイント
- 業務上の指示内容,履行状況及び問題行動を,日時・内容が特定できる形で記録する。
- 問題が生じた場合は,早期に書面等で本人に伝え,改善のための具体的な指示と期限を示す。
- 試用期間の中盤で一度評価面談を実施し,改善状況を確認するとともに記録を残す。
- 退職勧奨を行う場合は,回数・頻度・態様が社会通念上相当な範囲にとどまるよう留意する。執拗な退職勧奨は人格権侵害として損害賠償の対象となり得ます(明治機械事件参照)。
8.弁護士に相談するメリットと当事務所のサポート内容
📌 この章の結論
本採用拒否は,制度設計・記録化・通知のいずれの局面でも法的判断を要する場面が多く,初動対応を誤ると,解雇無効の主張や労働審判・訴訟に発展しやすい分野です。早期に弁護士へ相談することで,紛争の予防と拡大防止の双方に対応できます。
- 本採用拒否の有効性についての法的診断(試用期間途中か満了時か,指導・改善機会の十分性等の観点からの点検)
- 就業規則・雇用契約書・試用期間延長規定の見直しと整備
- 問題行動・能力不足の証拠化,指導内容の記録方法についての助言
- 本採用拒否通知書の作成及び通知の進め方についての助言
- 本採用拒否後に紛争が生じた場合の交渉・労働審判・訴訟対応
日本橋法律特許事務所では,試用期間制度の設計・見直しから,本採用拒否を検討する際の証拠化・通知対応,紛争が生じた場合の交渉・労働審判・訴訟対応まで,企業側の立場から一貫してサポートいたします。
9.よくある質問(FAQ)
実務チェックリスト
- 就業規則・雇用契約書に,試用期間の長さと本採用拒否の事由を明記しているか
- 試用期間延長の根拠規定を就業規則に設けているか
- 問題行動・能力不足について,日時・内容を特定した記録を残しているか
- 問題事実を本人に書面等で伝え,具体的な改善指示を行っているか
- 改善指導後の状況を記録し,改善の有無を確認しているか
- 試用期間途中の解雇か,満了時の本採用拒否かを区別して検討しているか
- 雇入れ後14日を超えているかを確認し,解雇予告の要否を判断しているか
- 本採用拒否の理由を,客観的資料によって説明できる状態にあるか
- 退職勧奨を行う場合,回数・態様が社会通念上相当な範囲にとどまっているか
- 通知前に弁護士へ相談し,証拠の十分性を確認しているか
10.まとめ
試用期間中の解雇及び試用期間満了時の本採用拒否は,いずれも法的には解雇に当たり,客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性を欠く場合は無効となります。試用期間満了時の本採用拒否は通常の解雇より広い範囲で認められる余地がある一方,試用期間途中の解雇はより厳格に判断される傾向がある点を区別して理解することが重要です。
実務上は,問題が生じた段階から,具体的な事実の記録,指導・改善機会の付与及び改善状況の確認を積み重ねることが,本採用拒否の有効性を裏付ける最も確実な方法です。就業規則・雇用契約書の整備状況や,個別の事案への当てはめについて判断に迷う場合は,通知前の段階で当事務所へご相談ください。
試用期間中の従業員対応・本採用拒否でお困りですか
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