~差止め・損害賠償・刑事罰まで整理/専用権侵害とみなし侵害の区別を中心に~
商標権侵害の成否は,商標法第25条(商標権の効力)及び第37条(侵害とみなす行為)を根拠に,登録商標,指定商品又は指定役務,具体的な使用態様,商標の類否を個別に検討して判断されます。商標法第4条第1項第15号は出願段階の登録拒絶事由であり,既に登録された商標について侵害の成否を直接根拠づける規定ではありません。先に使用していた名称であっても,商標法第32条の先使用権(周知性等の要件を満たす場合)が認められることがあります。侵害が疑われる場合,商標権者は同法第36条に基づく差止請求,同法第38条に基づく損害賠償請求を行うことができ,故意による侵害には同法第78条及び第78条の2の刑事罰(両罰規定として同法第82条)が科される可能性があります。真正商品の並行輸入については,最高裁判所第一小法廷平成15年2月27日判決(フレッドペリー事件)が示した3要件を満たす場合に,実質的違法性を欠くとされています。
※商標法(昭和34年法律第127号)第4条第1項第15号,第25条,第26条,第32条,第36条,第37条,第38条,第78条,第78条の2,第82条
最高裁判所第一小法廷平成15年2月27日判決(フレッドペリー事件)
最高裁判所第三小法廷平成9年3月11日判決(小僧寿し事件)
東京地方裁判所令和4年3月18日判決(令和元年(ワ)第34096号,商標権侵害行為差止等請求事件,いわゆる「ぼてぢゅう」事件)
知的財産高等裁判所令和6年10月30日判決(令和6年(ネ)第10031号,いわゆる「すしざんまい」事件)
- 商標権侵害の成否は,商標法第25条(専用権侵害)と第37条(侵害とみなす行為)を区別したうえで,登録商標・指定商品又は指定役務・使用態様・類否を個別に検討して判断します。
- 法的根拠は商標法第25条・第37条であり,第4条第1項第15号は出願段階の登録拒絶事由にとどまります。
- 先使用権(商標法第32条)は,他人の出願前からの使用,不正競争の目的がないこと,出願時の周知性,継続使用という要件を満たして初めて認められます。
- 警告書を受け取った場合は,即時の謝罪・使用中止も,感情的な反論も避け,権利関係の確認と,必要に応じた回答期限の延長申入れを行うことが重要です。
- 差止請求(商標法第36条),損害賠償請求(同法第38条)に加え,故意による侵害には刑事罰(同法第78条・第78条の2,両罰規定として同法第82条)が科され得ます。
この記事はこんな方におすすめです
- 取引先や他社から商標権侵害の警告書(内容証明郵便等)を受け取った企業の経営者の方や法務担当者の方
- 新商品・新サービスのブランド名やロゴの採用を検討している企業の担当者の方
- ECサイトの商品説明やSNS投稿における商標の使用について,リスクの有無を確認したい担当者の方
- 自社の商標が模倣・類似使用されている疑いがあり,対応方針を検討している経営者の方や知財担当者の方
主要用語の定義
専用権侵害とは,登録商標と同一の商標を,指定商品又は指定役務について使用する行為をいいます(商標法第25条)。
侵害とみなす行為(みなし侵害)とは,登録商標に類似する商標の使用等,商標法第37条各号が定める行為をいい,専用権の範囲を超えて商標権の効力が及ぶ範囲を画するものです。
先使用権とは,他人の商標登録出願前から,不正競争の目的なく商標を使用し,出願時に需要者の間で広く認識されていた場合に,継続使用が認められる権利をいいます(商標法第32条)。
並行輸入とは,真正商品を,国内の商標権者の許諾なく輸入・販売する行為をいい,一定の要件を満たす場合には商標権侵害としての実質的違法性を欠くとされています。
- 1 商標権侵害とは
- 2 商標権侵害の典型的なパターン
- 3 商標権侵害が問題となった裁判例
- 4 商標権侵害が疑われた場合の初動対応
- 5 差止請求・損害賠償請求・刑事罰
- 6 弁護士に依頼するメリット
- 7 よくある誤解
- 8 自己点検チェックリスト
- 9 よくある質問(FAQ)
- 10 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
- 11 まとめ
1 商標権侵害とは
📌 この章の結論
商標権侵害の判断は,①商標法第25条(専用権侵害),②同法第37条(侵害とみなす行為),③同法第26条(商標権の効力が及ばない範囲)を区別し,登録商標,指定商品又は指定役務,使用態様,類否を個別に検討して行います。同法第4条第1項第15号は登録拒絶事由であり,侵害の直接根拠ではありません。
商標は,企業の信用とブランド価値を象徴する経営資産です。商標法は登録主義を採用しており,権利の発生・効力の範囲は登録の内容に即して判断されます。もっとも,登録が先であれば当然に侵害となるわけではなく,先使用権(商標法第32条)等の例外があり,その成否は要件ごとに個別の確認が必要です。
商標権者は,指定商品又は指定役務について登録商標を独占的に使用できます(商標法第25条,専用権)。第三者が同一の商標を同一の指定商品・役務に無断使用すれば,専用権の直接侵害となります。これに対し,指定商品・指定役務についての登録商標に類似する商標の使用,又は指定商品・指定役務に類似する商品・役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用は,「侵害とみなす行為」として同法第37条第1号に位置づけられます。
なお,商標法第4条第1項第15号は,他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標について「商標登録を受けることができない」と定める,出願段階の登録拒絶事由(及び無効理由)です。既に登録された商標の使用が侵害となるかどうかを直接根拠づける規定ではなく,侵害の成否は商標法第25条・第37条その他の規定に基づいて判断します。
| 条文 | 規定内容 | 機能する場面 |
|---|---|---|
| 商標法第4条第1項第15号 | 他人の業務に係る商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標は登録を受けられない | 出願審査段階の登録拒絶事由・無効理由 |
| 商標法第25条 | 商標権者は指定商品・指定役務について登録商標を独占的に使用できる | 同一商標・同一商品等の専用権侵害の根拠 |
| 商標法第37条第1号 | 類似する商標の使用等を侵害とみなす | 類似の範囲に及ぶみなし侵害の根拠 |
| 商標法第26条 | 一定の態様の使用等には商標権の効力が及ばない | 侵害の成否を否定する抗弁事由 |
2 商標権侵害の典型的なパターン
📌 この章の結論
商標権侵害は悪意ある模倣行為に限られません。同一商標の無断使用,類似商標による混同,ECサイト・SNS上の表示,並行輸入という4つの場面ごとに,商標法上の位置づけが異なります。
2-1 同一商標・同一商品等の無断使用(専用権侵害)
他社が登録している商標と同一の名称・ロゴを,指定商品・役務と同一の商品・役務に使用する行為は,商標法第25条の専用権侵害に該当します。たとえば,他社登録商標「A」をそのまま自社商品名に用いた場合が典型です。
2-2 類似商標の使用と出所混同のおそれ(みなし侵害)
商標法の保護範囲は完全一致の場合に限られません。登録商標に類似する商標を指定商品・役務に使用する行為等は,商標法第37条第1号により侵害とみなされます。もっとも,類否の判断は,外観・称呼・観念の一つが似ているというだけで機械的に決まるものではありません。最高裁判所は,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは,両商標の外観・観念・称呼等によって取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等を総合し,かつ,その商品・役務に係る取引の実情を踏まえて全体的に考察すべきであるとの判断枠組みを示しています(最高裁判所昭和43年2月27日判決,いわゆる氷山印事件)。
2-3 ECサイト・SNS上での表示
ECサイトの商品説明欄やSNS投稿での商標の表示についても,商標法上の「商標」の使用(同法第2条第3項各号)に該当し,かつ,需要者が何人かの業務に係る商品・役務であることを認識できる態様(出所表示機能を果たす態様)で使用されている場合には,侵害となり得ます。もっとも,商標権の効力が及ばない範囲を定める商標法第26条第1項第6号は,そのような態様で使用されていない商標には商標権の効力が及ばないとしています。比較表現,説明的な表示,商品写真への写り込み,ハッシュタグの使用等について,「広告的な使用であれば一律に侵害となる」と一般化することは適切ではなく,表示の内容・場所・目的,商品・役務との関係,需要者の認識を具体的に検討する必要があります。
2-4 輸入販売と並行輸入
海外メーカーの商品を輸入・販売する場合,国内の登録商標と同一・類似の表示が付された商品を輸入する行為は,原則として商標権侵害の問題を生じさせます。もっとも,最高裁判所は,真正商品の並行輸入について,一定の要件を満たす場合には商標権侵害としての実質的違法性を欠くとの判断を示しています(最高裁判所第一小法廷平成15年2月27日判決,いわゆるフレッドペリー事件)。同判決が示した3要件は次のとおりです。
- 当該商標が外国における商標権者又はその使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること
- 当該外国における商標権者と国内の商標権者とが同一人又は法律上・経済上同一人と同視し得る関係にあること
- 国内の商標権者が当該商品の品質管理を直接的又は間接的に行い得る立場にあり,登録商標が保証する品質と実質的な差異がないと評価されること
個別の輸入取引がこの3要件を満たすかどうかは,商品の真正性,出所の同一性,品質管理の実態を具体的に確認して判断する必要があります。
3 商標権侵害が問題となった裁判例
📌 この章の結論
裁判所ウェブサイトで事件番号・裁判年月日・結論を確認できる裁判例として,標章の類否が争われた「ぼてぢゅう」事件と,ウェブサイト上の表示の国内使用該当性が争われた「すしざんまい」事件を取り上げます。いずれも商標権侵害は否定されています。
3-1 結合標章の類否判断―「ぼてぢゅう」事件(東京地方裁判所令和4年3月18日判決)
事件番号は令和元年(ワ)第34096号,事件名は商標権侵害行為差止等請求事件です。「ぼてぢゅう」ブランドを展開する原告が,被告の商品パッケージに表示された暖簾風の図案と文字を組み合わせた標章の使用について,自社の登録商標「ぼてぢゅう」の商標権侵害を主張し,使用差止め等を求めました。
裁判所は,被告標章を暖簾風の図案と文字とを組み合わせた結合標章として認定したうえで,標章全体の構成,識別力の有無,取引の実情を踏まえて原告商標との類否を検討しました。その結果,被告標章は原告の登録商標と外観・称呼・観念において区別できるとして類似性を否定し,商標権侵害の成立を否定しました(原告の請求は棄却されました)。
3-2 ウェブサイト上の表示と国内における商標的使用―「すしざんまい」事件(知的財産高等裁判所令和6年10月30日判決)
事件番号は令和6年(ネ)第10031号です。原告が,日本語ウェブサイトに「寿司三昧/Sushi Zanmai」等の表示を掲載していた被告に対し,商標権侵害等に基づく差止めや損害賠償を求めました。被告は,海外のグループ飲食店に食材を輸出しており,その紹介を掲載していたという事案です。
知的財産高等裁判所は,被告のウェブページが「役務に関する広告」に当たるとは認められないため,当該表示を掲載する行為が商標法第2条第3項第8号の「使用」に該当するとはいえないとしたうえで,被告の表示は日本国内における役務の提供について使用されているものではないから,原告の商標権を侵害するものではないと判断し,請求を棄却しました。
3-3 参考裁判例
上記のほか,実務上参考になる裁判例として,真正商品の並行輸入の要件を示した最高裁判所第一小法廷平成15年2月27日判決(フレッドペリー事件,前述),著名なフランチャイズ名称の類否判断と損害不発生の抗弁について判示した最高裁判所第三小法廷平成9年3月11日判決(いわゆる小僧寿し事件)があります。小僧寿し事件では,著名な略称として需要者に広く認識されている標章は,その一部分だけを分離して出所識別の呼称・観念を生じさせるとは限らないこと,また,商標法第38条第2項に基づく損害賠償請求に対しては,侵害者が損害の発生し得ないことを抗弁として主張立証することにより責任を免れ得ることが示されています。
4 商標権侵害が疑われた場合の初動対応
📌 この章の結論
警告書を受け取った場合は,即時の謝罪・使用中止も,感情的な反論も避け,①権利関係の確認,②使用態様の確認とリスク評価,③回答方針の決定,④社内体制の整備という順序で,冷静に対応することが重要です。
4-1 事実関係と権利関係の確認
警告書には通常,登録番号,指定商品・役務,商標の態様が記載されています。特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)等で登録状況を確認し,自社の使用する商標が本当に同一又は類似かを検討します。あわせて,自社がその商標を使用してきた経緯(命名理由,使用開始時期,地域,広告実績等)を整理し,先使用権(商標法第32条)の主張が可能かを検討します。先使用権の成立には,他人の出願前からの使用,不正競争の目的がないこと,出願時に需要者の間で広く認識されていたこと(周知性),継続使用という要件を満たす必要があり,単に先に使用していたという事実だけでは足りません。
4-2 使用態様の確認とリスク評価
同じ名称であっても,商品パッケージへの表示,広告文言,SNS投稿など,使用態様によって侵害の成否は異なります。商品の出所を示す態様ではなく,単なる説明的な使用(例:自社製品と他社製品を比較する記述)にとどまる場合には,商標法第26条第1項の適用により侵害に当たらない可能性もあります。この段階で法務部門や弁護士と連携し,侵害リスクを整理して対応方針を検討することが実務上有効です。
4-3 警告書への回答方針の決定
法的評価を踏まえ,相手方への回答方針を検討します。調査が回答期限内に終わらない場合は,期限の延長を申し入れることも可能です。侵害の可能性が相応にあると判断される場合は,使用中止や在庫・広告の見直しを進めつつ,交渉による解決やライセンス契約の締結を検討します。他方,権利の範囲や侵害の成否に疑義がある場合には,弁護士を通じて反論の書面を送付し,相手方の主張の根拠を確認することが重要です。
4-4 社内体制の整備と再発防止
商標を巡るトラブルの多くは,ブランド選定,広告制作,商品企画等の部門間で商標調査の情報が共有されていないことに起因します。再発防止の観点から,新商品・新サービスの命名時に商標調査を行う社内フローの導入や,ブランド使用ルールに関する社内教育の実施が有効です。
5 差止請求・損害賠償請求・刑事罰
📌 この章の結論
商標権侵害には,差止請求(商標法第36条),損害賠償請求(同法第38条の推定規定)に加え,故意による侵害には刑事罰(同法第78条・第78条の2)が科され得ます。法人には両罰規定(同法第82条)により3億円以下の罰金が科される可能性があります。
5-1 差止請求の法的根拠
商標権者又は専用使用権者は,自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し,その侵害の停止又は予防を請求することができます(商標法第36条第1項)。あわせて,侵害の行為を組成した物の廃棄,侵害の行為に供した設備の除却その他侵害の予防に必要な行為を請求することができます(同条第2項)。対象商品の販売停止や在庫の廃棄請求は条文上の根拠がありますが,ECサイト上の表示削除等が個別にどこまで請求の対象となるかは,具体的な行為態様に応じた検討が必要です。
5-2 損害賠償請求とその算定方法
商標法第38条は,損害額の立証負担を軽減するため,損害額の推定規定を置いています。主な算定要素は次のとおりです。
| 根拠 | 算定の考え方 | 留意点 |
|---|---|---|
| 商標法第38条第1項 | 権利者の単位数量あたりの利益額×侵害者の譲渡数量等を基礎とする額 | 権利者の販売能力等が前提 |
| 商標法第38条第2項 | 侵害者が侵害行為によって得た利益の額を権利者の損害額と推定 | 損害不発生の抗弁の対象となり得る |
| 商標法第38条第3項 | 登録商標の使用に対し受けるべき金銭に相当する額(使用料相当額) | 最低限の損害額として機能 |
各号は要件・適用関係が異なるため,事案に応じていずれの算定方法によるかを検討します。なお,判例は,商標法第38条第2項について損害額の推定規定であるとしつつ,権利者が自ら登録商標を業として使用し,現に営業上の損害を被ったことを前提とする規定であるとの理解を示しており,侵害者側から損害の発生があり得ないことを抗弁として主張立証することにより,賠償責任を免れ得るとされています(前掲最高裁判所平成9年3月11日判決)。
5-3 刑事罰のリスク
商標権侵害は,故意犯として刑事罰の対象にもなります。商標法第78条は,商標権又は専用使用権を侵害した者(同法第37条又は第67条の規定によりみなし侵害を行った者を除く。)について,10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し,又はこれを併科すると定めています。他方,みなし侵害(第37条・第67条)を行った者については,同法第78条の2により,5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処し,又はこれを併科するとされ,直接侵害とみなし侵害とで法定刑が区別されています。また,法人の代表者や従業者が業務に関して侵害行為を行った場合には,両罰規定(同法第82条第1項第1号)により,行為者本人の処罰に加えて,法人に対して3億円以下の罰金が科され得ます。
6 弁護士に依頼するメリット
📌 この章の結論
商標権侵害対応は,法的評価,証拠整理,相手方対応,ブランド戦略という複数の課題が絡み合う分野であり,警告書対応から訴訟対応,予防的な商標調査まで一貫して弁護士に相談する意義があります。
6-1 法的評価と証拠整理の精度向上
侵害の成否の判断には,商標法上の類否判断に加え,実際の市場での混同可能性や,登録商標の効力範囲の検討が必要です。弁護士の関与により,どの事実が法的に認定され得るか,相手方の主張に法的根拠があるか,先使用権等の抗弁事由に該当するかを整理し,対応方針を検討することができます。
6-2 警告書対応から訴訟までの一貫した対応
内容証明郵便による警告,交渉,仮処分,訴訟といった各段階の対応が一貫していない場合,企業側の主張の信用性が損なわれるおそれがあります。弁護士が代理人として関与することで,主張・証拠を体系的に整理し,一貫した対応を維持することができます。
6-3 ブランド戦略と再発防止策の構築
紛争を一時的な対応にとどめず,今後のブランド保護に活かすことも重要です。新ブランド立ち上げ時の商標調査・出願支援,ECサイトやSNSでの商標使用に関する社内ルールの整備,社内研修の設計等,予防法務の体制構築を弁護士とともに進めることができます。
6-4 相談のタイミング
警告書を受け取った後だけでなく,新商品・新サービスを企画した段階で弁護士に相談することが望ましいと考えられます。事前の商標調査により,後の販売停止や訴訟リスクを軽減できる可能性があります。
7 よくある誤解
📌 この章の結論
「似ていなければ絶対に安全」「社内だけで判断して回答すればよい」「海外向けの表示なら常に安全」といった理解は,いずれも不正確であり,個別の事実関係に即した確認が必要です。
7-1 誤解1:外観・称呼・観念のいずれかが違えば,絶対に類似しない
外観・観念・称呼の一部が異なっていても,取引の実情や需要者の認識によっては類似と判断される場合があります。類否は個別要素の単純な比較ではなく,総合的な考察によって判断されます(2-2参照)。
7-2 誤解2:警告書には社内だけで判断して回答すればよい
事実関係の確認が不十分なまま回答すると,後の交渉や訴訟で不利な評価を受けるおそれがあります。回答期限に余裕がない場合は,延長を申し入れたうえで,法務部門や弁護士と連携して回答方針を検討することが重要です(4章参照)。
7-3 誤解3:海外向けのウェブサイト表示であれば,常に商標権侵害にならない
「すしざんまい」事件(3-2参照)は,海外向けの紹介にとどまり国内の需要者に向けた広告に当たらないという具体的な事実関係のもとで侵害を否定したものです。表示内容や対象読者によっては,国内向けの広告と評価され,侵害が成立する可能性もあります。
8 自己点検チェックリスト
- 警告書を受け取った際,登録番号・指定商品又は役務・商標の態様を確認しているか
- J-PlatPat等で相手方の商標登録の内容(存続期間,指定商品・役務,権利者)を確認しているか
- 自社の使用開始時期・使用態様・広告実績等,先使用権の主張材料となる資料を保管しているか
- 自社の使用が出所表示機能を果たす態様か,単なる説明的使用にとどまるかを整理しているか
- 回答期限に間に合わない場合の延長申入れを検討しているか
- 謝罪・使用中止の即答や,逆に感情的な反論を避け,事実確認を先行させているか
- 侵害リスクを高・中・低に分類し,対応方針を法務部門・顧問弁護士と共有しているか
- 新商品・新サービスの命名時に商標調査を行う社内フローがあるか
- ECサイト・SNSでの商標使用に関する社内ルールを整備しているか
- 並行輸入を行う場合,真正商品性・出所の同一性・品質管理の実態を確認しているか
9 よくある質問(FAQ)
10 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
📌 この章の結論
警告書を受け取ったとき,自社商標が模倣されている疑いがあるとき,新商品・新サービスの商標調査を行いたいとき,並行輸入の適法性を確認したいときには,早期の専門家関与が有効です。
- 取引先や他社から商標権侵害の警告書を受け取ったとき
- 自社の商標が第三者に模倣・類似使用されている疑いがあるとき
- 新商品・新サービスの名称やロゴを決定する前の商標調査を行いたいとき
- ECサイトやSNSでの表示について,商標リスクの有無を確認したいとき
- 並行輸入を行うにあたり,真正商品性や品質管理の要件を確認したいとき
弁護士に相談することで,法的評価,証拠整理,相手方対応,行政・警察対応,訴訟対応まで,具体的な業務との関係で支援を受けることができます。
11 まとめ
商標権侵害対応は,権利者側・使用者側のいずれの立場であっても,事実関係と権利関係を正確に把握したうえで,商標法の条文(第25条・第26条・第32条・第36条・第37条・第38条・第78条等)に即して個別に検討することが出発点となります。警告書を受け取った場合は,感情的な対応を避け,登録内容の確認と冷静な初動対応を行うことが重要です。自社での判断が難しい場合には,早期に弁護士へ相談し,法的評価と対応方針の検討を進めることをお勧めします。