カスハラ対応文例集|警告書・契約解除通知・示談書・就業規則のひな形

〜就業規則の規定例から警告書,契約解除通知,示談書・念書まで/使用前は弁護士レビューが必須です〜

カスハラ防止措置は,2026年(令和8年)10月1日に施行され,現在は,労働者を雇用する全ての事業主の法的義務です。この文例集は,就業規則の規定例,相談受付票,警告書(初回・最終),契約解除・出入り禁止通知,示談書・念書の文例と,記載時の留意点をまとめたものです。いずれも一般的なひな形であり,契約関係や事案の内容によって適切な文言は異なります。警告書や契約解除通知は,事実の記録,契約条項や法令上の根拠,表現の相当性を確認したうえで,弁護士のレビューを受けてから使用してください。

【この記事の結論】
  • 法第33条の措置義務は,2026年(令和8年)10月1日の施行により,すでに課されています。この文例集は,方針の明確化,相談体制,抑止措置を文書にするための一般例です。
  • 警告書・契約解除通知・示談書は,「事実の記録」「契約条項や法令上の根拠」「表現の相当性」の3点がそろって初めて機能します。文例の空欄を埋める前に,この3点を確認してください。
  • 警告書を初回・最終の2段階で用いる運用は,当事務所の設計例です。暴力,脅迫等の緊急時は,警告を待たずに,安全の確保と警察への通報を優先します(初回警告が,法定の前提ではありません。)。
  • 契約解除と出入り禁止は,契約条項,適用される法令,相手方の不利益を確認したうえで,必要かつ相当な範囲で行います。宿泊業では,旅館業法の定めにも留意が必要です。
  • 示談書・念書は,相手方の任意の合意が前提です。強要にわたる取得は,別の法的問題を生じさせるおそれがあります。示談書の清算条項は,会社側の請求権を放棄する結果にならないよう設計します。
  • 全ての文例は一般的なひな形です。使用前に,弁護士のレビューを受けてください。
  • 制度の対象範囲と4つの措置の全体像は,「カスハラ防止措置の義務化とは|2026年10月施行・対象事業者と4つの措置」をご覧ください。

目次

根拠法令・参照資料

※労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号,2025年(令和7年)6月11日公布,2026年(令和8年)10月1日施行。以下「改正法」といいます。)による改正後の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「法」といいます。)のうち,カスハラ防止措置に関する規定(法第33条・第34条)

事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号,2026年(令和8年)2月26日告示,同年10月1日適用。以下「指針」といいます。)

厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年(令和8年)4月24日公表。以下「解釈事項」といいます。)

労働契約法第5条,労働基準法第89条・第90条・第106条,民法第97条・第541条・第542条・第709条・第710条・第723条,民事保全法第23条,刑法第130条前段・第223条,旅館業法第5条及び同法の改正に係る附則,旅館業法施行規則,医師法第19条第1項,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律

個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます。)第17条・第21条〜第23条

判例データベース掲載の判決文(決定書):東京高等裁判所2008年(平成20年)7月1日決定,東京地方裁判所2015年(平成27年)12月17日判決,大阪地方裁判所1951年(昭和26年)6月12日判決,大阪高等裁判所2023年(令和5年)4月27日判決,最高裁判所2024年(令和6年)4月17日決定,大阪地方裁判所2022年(令和4年)6月23日判決,東京地方裁判所1977年(昭和52年)12月19日判決,名古屋地方裁判所2017年(平成29年)3月24日判決,東京地方裁判所2004年(平成16年)3月15日判決,京都地方裁判所2020年(令和2年)12月17日判決,大阪高等裁判所2021年(令和3年)12月13日判決,最高裁判所2023年(令和5年)9月11日判決,大阪高等裁判所2025年(令和7年)4月17日判決

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(2024年(令和6年)条例第140号。2025年(令和7年)4月1日施行)の条文

本記事では,上記のとおり,「改正法」「法」「指針」「解釈事項」「個人情報保護法」の略称を用います。「法」は,労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律を指します。

上記は,2026年(令和8年)10月6日時点で確認した内容に基づきます。

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主要用語の定義

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは,顧客,取引の相手方,施設の利用者その他の事業主の行う事業に関係を有する者(以下「顧客等」といいます。)の言動であって,その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより,労働者の就業環境が害されるものをいいます(法第33条第1項,指針2⑴)。

警告書とは,顧客等による問題のある言動に対し,確認した事実を示して当該言動をやめるよう求め,改善がない場合の対応方針を通知する文書をいいます。

契約解除・出入り禁止通知とは,警告後も改善が見られない場合等に,契約の解除又は施設への立入りの制限を通知する文書をいいます。

示談書・念書とは,当事者間の解決を図るために取り交わす示談書,又は相手方に今後の言動の自制を誓約させる念書をいいます。

清算条項とは,示談書等において,当事者間に当該書面に定めるもののほか債権債務がないことを確認する条項をいいます。

1 文例の全体像と使い方

この項の結論

この文例集は,就業規則の規定例,相談受付票,警告書,契約解除・出入り禁止通知,示談書・念書の5種類を,事案の深刻度が上がる順に並べています。いずれも一般的なひな形です。使用前に,事実の記録,契約条項や法令上の根拠,表現の相当性の3点を確認し,弁護士のレビューを受けてください。

1-1 5種類の文書と使う場面

法第33条第1項は,事業主に対し,労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備,顧客等の言動への対応の実効性を確保するために必要な抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを求めています。指針は,特に悪質と考えられるものへの対処の例として,警察への通報,警告文の発出,法令の制限内での商品の販売・サービスの提供等の停止,店舗・施設等への出入り禁止,民事保全法に基づく仮処分命令の申立てを挙げています(指針4⑷)。

契約の解除は,指針に明記された例ではありません。当事務所は,サービス提供の停止の延長として検討し得る措置と整理しますが,契約条項,約款及び法令の確認が前提です。

次の表は,この文例集の5種類の文書を整理したものです。

文書目的使う場面主な前提・留意点
就業規則の規定例方針,相談体制,不利益取扱いの禁止及び抑止措置の根拠を社内に示す規程を整備・見直すとき既存の服務規律・懲戒規定との整合を確認する。改定する場合は,労働基準法上の手続が必要
相談受付票相談内容を,一貫した様式で記録する相談窓口が相談を受け付けるとき個人情報を含むため,アクセス制限と保存のルールを定める
警告書確認した事実を示し,同様の言動をやめるよう求める口頭の注意で改善しないとき,又は悪質性が高いとき事実と評価を分けて記載する。緊急時は,警告を待たない
契約解除・出入り禁止通知契約関係の終了又は施設への立入りの制限を通知する警告後も改善が見られず,契約上の根拠があるとき契約条項,業法,相手方の不利益を確認する。無条件に解除できるわけではない
示談書・念書当事者間の解決,又は今後の言動の自制を文書にする相手方が任意に応じる意向を示したとき相手方の任意の合意が前提。清算条項の範囲に注意する

1-2 使用前に確認する3点

文例の空欄を埋める前に,次の3点を確認してください。

  1. 事実の記録発言の内容,日時,場所,対応時間,物的損害の有無等を,録音,メモ,防犯カメラ映像等の客観的な記録に基づいて整理します。記録がない事実や,推測を含む事実は,文書に記載しないでください。
  2. 契約条項や法令上の根拠契約解除や出入り禁止ができるか否かは,契約条項,利用規約,業法,民法の解除の規定等に照らして決まります。根拠が確認できない措置は,文書に記載しないでください。
  3. 表現の相当性確認した事実と,会社の判断(言動が許容範囲を超えるか等)を分けて記載します。「カスハラに該当する」と断定せず,確認した言動と,従業員の就業環境に生じた支障を具体的に記載します。

1-3 カスハラに当たるかの判断と文書の関係

職場におけるカスハラは,①顧客等の言動,②社会通念上許容される範囲を超えたもの,③労働者の就業環境が害されるもの,の三つの要素を全て満たすものをいいます(指針2⑴)。顧客等からの苦情の全てがカスハラに当たるわけではありません。

許容範囲を超えるか否かは,契約内容からして相当性を欠くか,手段や態様が相当でないかによって判断され,言動の目的,経緯や状況,業種・業態,業務の内容・性質,態様・頻度・継続性等が総合的に考慮されます(指針2⑸)。就業環境が害されるとは,身体的又は精神的に苦痛を与えられ,就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます(指針2⑹)。

警告書等では,この三つの要素に対応する事実(具体的な言動,許容範囲を超えると判断する理由,従業員に生じた支障)を,それぞれ記載できるようにしておくことが重要です。該当性の判断に至っていない段階では,「カスハラに該当する」と断定せず,「当社のカスタマーハラスメント対策の対象となり得る言動」と記載する構成が,客観的な記載の要請に適しています。

東京都内で事業を行う事業者には,東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(2025年(令和7年)4月1日施行)も関係します。同条例は,顧客等から就業者に対し,その業務に関して行われる著しい迷惑行為で,就業環境を害するものをカスタマー・ハラスメントと定義し(第2条第5号),何人もこれを行ってはならないと定めています(第4条)。事業者に対しては,就業者の安全を確保し,行為者に中止の申入れ等の必要かつ適切な措置を講ずるよう努める責務(第9条第2項)と,指針に基づく体制の整備,手引の作成等の措置を講ずるよう努める責務(第14条第1項)を定めています。いずれも努力義務であり,条文上,罰則の定めは確認できません。同条例は,適用に当たって顧客等の権利を不当に侵害しないよう留意すべきことも定めています(第5条)。警告書や解除通知の文面を整える際は,この点にも留意してください。

2 就業規則の規定例

この項の結論

就業規則等には,方針,カスハラの定義,相談窓口,不利益取扱いの禁止,抑止措置の5点を定めます。解釈事項(問18)は,自社の労働者が取引先等にカスハラを行った場合の懲戒について,既存の懲戒規定等で必要な措置を講じられるときは,独自の規定の新設は必要ないとしています。他方,方針の明確化・周知等の措置は,規定の有無にかかわらず必要です。

2-1 規定を設ける前に確認すること

解釈事項(問18)は,自社の労働者が取引先等に対してカスタマーハラスメントを行った場合に,信用失墜行為や服務規律違反に対する懲戒規定等の既存の規定に基づき必要な措置を講ずることが可能なときは,必ずしも就業規則等を改正して,カスタマーハラスメント独自の規定を新設する必要はないとしています。この問答は,自社の労働者が加害者となる場合の懲戒を対象としたもので,顧客等からカスハラを受ける労働者への対応や,顧客等への抑止措置の規定についても同様に新設が不要である,と述べたものではありません。方針の明確化・周知,相談窓口の周知,相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の周知は,改定の有無にかかわらず講じなければなりません(指針4)。

規定を置く場所は,就業規則の本則,服務規律を定めた文書,顧客対応マニュアルのいずれも考えられます。方針の宣言と不利益取扱いの禁止は,就業規則等の規程に置くことを当事務所は推奨します。現場の初動対応や措置の発動基準は,改定の頻度が高いため,マニュアルに置く設計が運用しやすいです。

就業規則を変更する場合は,常時10人以上の労働者を使用する事業場で,過半数組合又は過半数代表者の意見聴取(労働基準法第90条)と,行政官庁(所轄労働基準監督署長)への届出(同法第89条)が必要です。変更後は,労働者への周知(同法第106条第1項)も行います。懲戒を定める場合は,その種類及び程度を就業規則に記載する必要があります(同法第89条第9号)。就業規則等の設計手順は,「カスハラ防止措置の実務対応|相談窓口・就業規則の設計手順」で整理しています。

2-2 方針明確化・相談体制に関する規定例

次の規定例は,方針,カスハラの定義,相談,事実確認,不利益取扱いの禁止及びプライバシー保護を定める一般例です。本例は一般例です。実際には企業ごとの実情に応じた調整が必要です。

(顧客等による著しい迷惑行為への対応)

第○条 会社は,労働契約法第5条に基づく安全配慮義務を履行し,従業員の心身の安全と健康を確保するため,本条から第○条までの措置を講ずる。

2 会社は,顧客,取引先,施設の利用者その他会社の事業に関係を有する者(以下「顧客等」という。)の言動であって,従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより,従業員の就業環境が害されることのないよう,必要な措置を講ずる。

3 従業員は,顧客等の言動により前項の就業環境が害されたとき,又は害されるおそれがあるときは,会社が定める相談窓口に相談することができる。会社は,相談しやすい環境の整備に努める。

4 従業員は,業務上,事故,暴力,破損その他の安全の確保又は事実関係の確認に必要な事態が生じたときは,その必要な範囲で,発生した事実を上長又は相談窓口に報告するものとする。

5 会社は,第3項の相談を受けたときは,事実関係を迅速かつ正確に確認し,必要に応じて,被害を受けた従業員への配慮,顧客等への対応及び再発防止のための措置を講ずる。

6 会社は,従業員が第3項の相談をしたこと,又は会社による相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として,当該従業員に対し,解雇その他不利益な取扱いをしない。

7 会社は,第3項の相談及びこれに対する会社の対応に関して知り得た情報について,相談者,行為者その他の関係者のプライバシーの保護に必要な措置を講ずる。

2-3 抑止措置に関する規定例

(悪質な言動に対する措置)

第○条 会社は,顧客等の言動が前条第2項に定める言動に該当し,かつ,特に悪質と認められる場合には,言動の内容,手段及び態様,反復性,危険性,従業員の就業環境への支障,契約関係その他の事情を確認したうえで,必要かつ相当な範囲で,警告,対応者の変更,対応の打切り,取引又はサービス提供の停止,施設への出入り禁止,契約上の措置,警察その他の関係機関への相談又は通報その他の措置を講ずることができる。

2 前項の措置の要否及び内容は,会社が定める判断基準に基づき,法務部門その他会社が指定する部門が決定する。ただし,従業員の生命又は身体の安全を確保するために緊急の必要があるときは,現場の責任者が,警察への通報その他の必要な措置を直ちに講ずることができる。

3 会社は,前2項の措置を講ずるに当たり,消費者の権利,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律に定める不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供,並びにサービスの提供義務を定める法令に留意する。

2-4 規定例の修正ポイント

規定例には,次の5点の工夫を加えています。自社の規程に組み込む際にも,同じ点を確認してください。

  • 条文の参照関係「第3項」「前条第2項」等の参照先は,条番号を入れ替えると誤りになります。条番号を確定させた後に,参照先が,相談を定める項や,言動の定義を定める項を指しているかを必ず再確認してください。
  • 相談は任意とし,報告は必要な範囲に限る相談窓口の利用は,従業員の権利として定めます。報告を求める事項は,安全の確保や事実確認に必要な範囲に分けて定めます。報告をしなかったことが,不利益な取扱いにつながらないようにするための設計です(当事務所の考え方です。)。
  • カスハラの定義を条文に置く措置の対象を,指針の定義に沿った3つの要素で特定します。苦情の全てが対象になるわけではないことを,社内で共有しやすくなります。
  • 「特に悪質」「必要な措置」の判断要素を示す措置の要否は,言動の内容,手段・態様,反復性,危険性,就業環境への支障及び契約関係を確認して判断することを明記します。判断者を法務部門等に限るだけでは,判断の基準が見えません。
  • 緊急時の例外と法令への留意暴力や脅迫等の緊急時には,警告を経ずに安全確保と警察への通報ができるようにします。あわせて,消費者の権利や障害者への合理的配慮に留意する旨を置きます(指針4)。
【補足】 指針は,相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の周知について,就業規則その他の服務規律を定めた文書に規定する方法を例として挙げています(指針4⑸)。

3 相談受付票の文例

この項の結論

相談受付票は,日時,場所,事案の概要,証拠の有無等を,評価を交えずに記載する様式です。個人情報や要配慮個人情報を含むおそれがあるため,利用目的の特定,アクセス制限及び保存のルールを併せて整備してください。

相談窓口が一次対応で使用する受付票の記載項目例です。事案の経過を後日確認できるよう,対応した時間,業務への支障及び二次窓口への引継ぎの有無も記載します。「カスハラ防止措置の実務対応」の6項に掲載した相談記録票の例と併せて使用できます。

3-1 相談受付票の文例

項目記載欄
受付日時・受付担当者○○○○年(令和○年)○月○日 ○時○分/受付担当者:
相談者所属:     氏名:     連絡先:
発生日時・発生場所○○○○年(令和○年)○月○日 ○時頃/場所:
相手方(顧客等)の情報(氏名・連絡先が判明している場合のみ記載)
事案の概要(発言内容・行為の態様を,評価を交えず客観的に記載)
対応した時間・継続の有無対応時間:約○分 / 同様の言動の継続:□有 □無
暴力・物の破損・脅迫の有無□有(内容:     ) □無
証拠の有無□録音 □メモ □防犯カメラ映像 □その他(     )
第三者の目撃情報有の場合:所属・氏名:
相談者の心身の状況(体調不良の訴え等があれば記載)
業務への支障(他の業務への影響,対応を要した人数等)
一次対応の内容
二次窓口へのエスカレーション□要 □不要 (要の場合,引継日:○○○○年(令和○年)○月○日)

3-2 個人情報の取扱い

受付票には,相談者や相手方の氏名,連絡先,心身の状況等が含まれます。個人情報に当たる情報を取得するときは,利用目的をできる限り特定し,あらかじめ公表している場合を除き,取得後速やかに本人に通知又は公表する必要があります(個人情報保護法第17条第1項,第21条第1項。取得の状況からみて利用目的が明らかな場合等の例外は,同条第4項に定められています。)。取得した情報を事案の事実関係の確認に使用する場合があることも,利用目的として特定し,通知又は公表する必要があります(解釈事項問9)。

録音・録画は,その場で伝える義務までは含まれていません。ただし,本人が取得を容易に認識できない場合は,認識できるようにする措置(掲示等)を講じる必要があります(解釈事項問10)。

  • 保管者とアクセス権限二次窓口(法務・コンプライアンス部門等)が一元的に保管し,アクセス権限を必要最小限の担当者に限定する運用が望ましいと,当事務所は考えます。安全管理措置は,個人情報保護法第23条に基づき,自社の取扱いに応じて講じます。
  • 保存期間受付票や録音データの保存期間について,法定の基準は確認できません。利用する必要がなくなった個人データは,遅滞なく消去する努力義務があります(個人情報保護法第22条)。保存期間は,紛争や請求の可能性を考慮して,社内規程で明確に定めてください。
【ご注意】 受付票には,相談者の心身の状況等の要配慮個人情報が含まれ得ます。個人情報の保護に関する法律,各種ガイドライン及び社内規程に基づき,アクセス制限や保存期間の設定等,適切な管理体制を整備してください。

4 警告書の文例

この項の結論

警告書は,確認した客観的事実と,会社の対応方針を記載する文書です。初回・最終の2段階は当事務所の設計例であり,法定の前提ではありません。暴力,脅迫,わいせつな言動等の緊急時は,警告書を待たずに,安全の確保と警察への通報を優先します。

4-1 警告書に記載する5つの要素

警告書の発出は,指針が挙げる対処の例の一つです(指針4⑷)。次の5つの要素で構成すると,後日の紛争に備えやすくなります。

  1. 日時・場所・対応者言動があった日時,場所,対応した従業員の人数等を特定します。
  2. 具体的な言動発言の内容,動作,継続した時間,物の破損の有無等を,記録に基づいて記載します。「異常な」「悪質な」等の評価的な表現は,事実の記載に用いません。
  3. 許容範囲を超えると判断する理由要求の内容が契約内容からして相当性を欠くのか,手段や態様が相当でないのかを示します。
  4. 従業員に生じた支障対応した従業員の苦痛,業務への支障,対応に要した時間等,確認できた事実を記載します。
  5. 今後の対応措置の予告は,契約条項や法令に基づく範囲で記載します。連絡窓口も併せて示します。

4-2 初回警告書の文例

次の文例は,事実関係を自社で保全した記録に基づいて記載することが前提です。本例は一般例です。実際には企業ごとの実情に応じた調整が必要です。

○○○○年(令和○年)○月○日

○○○○ 様

株式会社○○○○

代表取締役 ○○ ○○

警 告 書

当社は,貴殿による下記の言動を確認しました。

記

1 日時:○○○○年(令和○年)○月○日 ○時頃から○時頃まで(約○分間)

2 場所:○○店舗の入口付近(又は電話対応中)

3 対応した当社従業員:○名

4 言動の内容:【確認できた事実を,発言内容や動作に即して具体的に記載します。評価的な表現(「異常な」「悪質な」等)は用いません。】

記載例:○時○分から約○分間にわたり,店舗入口付近において,対応した当社従業員に対し,「○○○」との発言を○回繰り返し,退去の求めに応じませんでした。また,備付けのカウンターを手で3回叩き,カウンターに破損が生じたことを確認しています。

5 当社が許容範囲を超えると判断した理由:上記の言動は,○○(要求の内容が契約内容からして相当性を欠く/手段や態様が相当でない)と,当社は判断しました。

6 従業員に生じた支障:対応した当社従業員に,○○(身体的又は精神的な苦痛,対応に要した時間○分,他の業務への支障等)が生じています。

当社は,上記の言動が,当社のカスタマーハラスメント対策(就業規則第○条)の対象となり得るものであり,当社従業員の就業環境に影響を及ぼすものと判断しています。つきましては,本書をもって,今後,同様の言動を行わないよう求めます。

なお,当社は,貴殿のご意見やご要望を伺うことを拒むものではありません。ご連絡は,○○(窓口の名称・連絡先)宛てにお願いします。

本書発出後も同様の言動が継続する場合には,当社は,契約の内容,適用される法令並びに言動の内容及び程度を踏まえ,必要かつ相当な範囲で,取引又はサービス提供の停止,施設への出入りの制限,警察等の関係機関への相談又は通報その他の措置を講ずることがあります。

以上

4-3 最終警告書の文例

初回警告後も同様の言動が継続した場合に用いる文例です。「事前の通知なく」契約を解除する旨の記載は,契約条項や法令の確認が済んでいない段階では避けます。契約解除の可否は,契約条項,債務不履行の内容及び程度,催告の要否,相手方の不利益等を確認して判断する必要があるためです(5項参照)。

○○○○年(令和○年)○月○日

○○○○ 様

株式会社○○○○

代表取締役 ○○ ○○

最 終 警 告 書

当社は,○○○○年(令和○年)○月○日付の警告書(以下「前回警告書」といいます。)により,貴殿に対し,同様の言動を行わないよう求めました。しかし,その後も,下記のとおり,当社従業員に対する言動があったことを,当社の記録により確認しました。

記

1 日時:○○○○年(令和○年)○月○日 ○時頃

2 場所:○○

3 言動の内容:【前回警告書と同様に,確認できた事実を具体的に記載します。】

本書をもって,重ねて,同様の言動を行わないよう求めます。本書発出後もなお同様の言動が継続し,又は従業員の安全若しくは就業環境を害する新たな言動が確認された場合には,当社は,契約の内容,適用される法令並びに言動の内容及び程度を踏まえ,必要かつ相当な範囲で,取引又はサービス提供の停止,施設への出入りの制限,契約上の措置,警察等の関係機関への相談又は通報その他の措置を講ずることがあります。

以上

4-4 初回警告書と最終警告書の使い分け

項目初回警告書最終警告書
発出のタイミング口頭の注意等で改善が見られない場合,又は悪質性の高い言動が確認された場合初回警告後も,同様の言動が継続している場合
記載内容の主眼確認した事実の指摘と,同様の言動を行わないことの要請継続した事実の指摘と,重ねての要請
以後の対応の予告契約・法令の範囲内で,取引停止・出入りの制限・関係機関への相談又は通報等の可能性を予告する同様に予告する。契約解除を予告する場合は,契約条項と催告の要否を確認する
警告を経ない対応暴力・脅迫等の緊急時は,警告書を待たず,安全確保と警察への通報を行う同左

4-5 警告書を作成・送付するときの留意点

  • 断定を避け,事実と判断を分ける確認した事実を先に記載し,そのうえで,会社の判断(許容範囲を超えると判断した理由)を記載します。事実の確認が十分でない段階での発出は避けてください。
  • 相手方の申出に応じる窓口を示す警告書とあわせて,相手方の意見や要望を受け付ける窓口を示します。会社が応答自体を拒絶しているのではないことが,文書上も明らかになります(7項の東京高等裁判所2008年(平成20年)7月1日決定参照)。
  • 送付と保存配達証明付き郵便等,送付の事実を客観的に証明できる方法を用います。発出した文書と送付の記録は,後日の紛争に備えて保存します。
  • 第三者への共有は必要な範囲に限る警告書の内容や相手方の氏名を,社内外に広く掲示したり,共有したりすることは避けます(8項参照)。

5 契約解除・出入り禁止通知の文例

この項の結論

契約解除や出入り禁止は,契約条項,適用される法令,相手方の不利益を確認したうえで,必要かつ相当な範囲で行います。文例は,解除事由に当たる具体的事実と契約上の根拠を記載する形にしています。業種によっては法令上の制約があるため,発出前に弁護士へ相談してください。

5-1 解除・出入り禁止を判断するときの考え方

契約の解除は,契約に定める解除事由,又は民法の定めによって認められます。債務不履行を理由とする解除は,原則として,相当の期間を定めた催告をしたうえで行います(民法第541条)。催告をせずに解除できるのは,同法第542条に定める場合に限られます。契約書に,予告期間を置く解除と,催告をしない解除(無催告解除)を区別する条項がある場合は,その条文を確認します。解除の意思表示は,相手方に到達した時から効力を生じます(同法第97条第1項)。

出入り禁止は,施設の管理者が,その管理権に基づいて立入りの可否を決める措置です。出入り禁止の通知後に,管理者の意思に反して立ち入った場合には,刑法第130条前段の罪(建造物侵入罪等)が問題となり得ます。ただし,その成否は,通告の内容,立入りの態様,施設の性質等を踏まえた個別の判断です(7項の大阪地方裁判所1951年(昭和26年)6月12日判決参照)。

出入り禁止に従わない場合の法的手段として,指針は,民事保全法に基づく仮処分命令の申立てを挙げています(指針4⑷)。仮の地位を定める仮処分命令は,争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要があるときに発することができ(民事保全法第23条第2項),原則として,口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経る必要があります(同条第4項)。申立てが認められるか否かは事案によるため,弁護士へ相談してください。

指針は,対処を「法令の制限内」で行うことを前提とし,各業法等でサービスの提供義務が定められている場合や,サービスが途絶すると顧客等の生命や心身の健康に重大な影響が及ぶ場合に留意することを求めています(指針4)。障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律上の,不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供にも留意が必要です。

5-2 契約解除・出入り禁止通知の文例

次の文例は,解除事由に当たる具体的事実と契約上の根拠を特定する形にしています。本例は一般例です。実際には企業ごとの実情に応じた調整が必要です。

○○○○年(令和○年)○月○日

○○○○ 様

株式会社○○○○

代表取締役 ○○ ○○

契約解除及び出入り禁止のご通知

当社は,○○○○年(令和○年)○月○日付の警告書により,貴殿に対し,同様の言動を行わないよう求めました。しかし,その後も,下記のとおり,当社従業員に対する言動があったことを,当社の記録その他の資料により確認しました。

記

1 ○○○○年(令和○年)○月○日 ○時頃,○○において,当社従業員に対し,「○○○」との発言を行い,約○分間退去しませんでした。

2 ○○○○年(令和○年)○月○日 ○時頃,【同様に,確認できた事実を具体的に記載します。】

上記の言動は,貴殿と当社との間の○○契約(以下「本契約」といいます。)第○条第○号に定める解除事由に該当すると,当社は判断しました。

そこで,当社は,本契約第○条第○項に基づき,○○○○年(令和○年)○月○日をもって,本契約を解除します。なお,同条項に基づき,解除に先立つ催告を要しないものと判断しています。

【催告が必要な場合は,前段落に代えて,次の文言を用います。】「本書面の到達後○日以内に,上記の言動をやめ,今後同様の言動を行わないよう求めます。この期間内に改善がない場合には,本契約を解除する旨を,あらかじめ通知します。」

また,当社は,当社の施設管理権に基づき,貴殿による当社施設(敷地,店舗,事業所等を含みます。)への立入りをお断りします。本書到達後に,当社の承諾なく当社施設へ立ち入られた場合には,警察への通報その他の必要な措置を講ずることがあります。

本件に関するご連絡及びご質問は,下記の窓口宛てにお願いします。当社従業員や店舗への直接のご連絡・ご来訪は,お控えください。

【窓口】所属法律事務所:○○法律事務所/担当弁護士:弁護士 ○○ ○○/所在地:〒○○○-○○○○ ○○/電話番号:○○-○○○○-○○○○

【代理人弁護士に委任していない場合は,当社の窓口部署の名称・連絡先を記載します。】

以上

5-3 記載するときの留意点

  • 解除事由と契約条項の特定具体的な日時,場所,発言や行為,対象者,証拠を特定し,契約のどの条項のどの解除事由に当たるかを示します。「同様の言動が継続している」とだけ記載する通知は,裏付けが不足します。
  • 催告の要否契約書に催告を要しない解除の条項がある場合も,その条項の適用が相当かを確認します。継続的に提供されるサービスでは,解除によって相手方の日常生活に生じる不利益も確認します。
  • 出入り禁止の範囲と期間出入りを禁止する施設の範囲と期間は,必要な限度で定めます。全ての店舗・施設とするか,特定の店舗とするかは,事案ごとに判断します。
  • 連絡窓口の一本化解除後の連絡を代理人弁護士に集約する場合は,弁護士の氏名,事務所,連絡先を記載します。連絡先が空欄の通知は使用できません。
  • 送付方法解除の通知は,口頭でも足りるとする説明がありますが,後日の紛争を避けるため,書面で行い,配達証明付きの内容証明郵便等,到達を証明できる方法を選択肢とします。

業種ごとの当てはめは,「業種別カスハラ対応マニュアル|小売・医療・コールセンター等の実務ポイント」をご覧ください。

5-4 宿泊業の場合(旅館業法)

宿泊業では,営業者は,旅館業法第5条第1項各号に該当する場合を除き,宿泊を拒んではならないとされています。2023年(令和5年)12月13日施行の改正により,同項第3号として,営業者に対し,その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したときが,宿泊拒否の事由に加わっています。

厚生労働省令(旅館業法施行規則第5条の6)は,要求の内容として,宿泊料の減額その他その内容の実現が容易でない事項の要求と,粗野又は乱暴な言動その他の従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であって,当該要求をした者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるものを定めています。いずれも,他の宿泊者に対するサービスの提供を著しく阻害するおそれのあるものに限られます。障害者差別解消法に基づく社会的障壁の除去を求める場合(第1号),及び営業者の不当な差別的取扱いに起因する言動その他これに準ずる合理的な理由があるもの(第2号)は,対象から除かれています。

宿泊を拒んだ場合の記録の保存は,旅館業法の改正法(令和5年法律第52号)附則第3条第2項及び旅館業法施行規則の附則に基づき,第5条第1項第1号(特定感染症の患者等)又は第3号(過重な要求の繰り返し)に該当することを理由に宿泊を拒んだ場合に,その理由等を書面又は電磁的記録に記載し,作成した日から3年間保存する必要があるとされています。全ての宿泊拒否に一律に義務付けられているわけではありません。客観的な事実に基づかない拒否は,損害賠償の責任を生じさせるおそれがあります。発出前に,弁護士等の専門家へ相談してください。

【ご注意】 医療機関では,医師法第19条第1項(正当な事由のない診察・治療の拒否の禁止)にも留意が必要です。業種ごとの法令上の制約は,契約解除や出入り禁止の可否に直接影響します。

6 示談書・念書の文例

この項の結論

示談書は当事者間の解決を文書にするもの,念書は相手方が今後の言動の自制を誓約するものです。いずれも相手方の任意の合意が前提であり,強要にわたる取得は別の法的問題を生じさせるおそれがあります。物的損害がある場合は,損害賠償の条項を置き,清算条項が会社の請求権を放棄する結果にならないよう設計してください。

6-1 示談書の骨子例

次の骨子例は,物的損害がある場合の条項を含めています。本例は一般例です。実際には企業ごとの実情に応じた調整が必要です。事案の内容によっては,公正証書の作成の要否も検討してください。

示 談 書

株式会社○○○○(以下「甲」という。)と○○○○(以下「乙」という。)は,○○○○年(令和○年)○月○日に発生した事案(以下「本件」という。)に関し,次のとおり示談する。

第1条(事実の確認及び誓約)乙は,本件における乙の言動(別紙記載のとおり)が,甲の従業員の就業環境を害するものであったことを認め,甲及び甲の従業員に対し,今後同様の言動を行わないことを誓約する。

第2条(損害賠償金の支払)【物的損害,治療費等がある場合】乙は,甲に対し,甲の○○(施設,備品等)の破損に伴う修繕費用相当額として,金○○○円の支払義務があることを認め,これを○○○○年(令和○年)○月○日までに,甲が指定する銀行口座に振り込んで支払う。振込手数料は,乙の負担とする。

第3条(清算条項)乙が前条の支払を完了したときは,甲及び乙は,本件に関し,本示談書に定めるもののほか,相互に何らの債権債務がないことを確認する。

第4条(違反時の措置)乙が本示談書に定める誓約事項に違反した場合,甲は,契約及び法令に基づく範囲で,必要かつ相当な措置(取引又はサービス提供の停止,施設への出入りの制限,警察への通報等)を講ずることができる。

第5条(反社会的勢力の排除)甲及び乙は,自らが反社会的勢力(暴力団,暴力団員,暴力団関係企業その他これらに準ずる者をいう。)に該当しないこと,及び反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していないことを相互に表明し,将来にわたっても該当しないことを確約する。

本示談の成立を証するため,本書2通を作成し,甲乙各1通を保有する。

○○○○年(令和○年)○月○日

甲:(住所)   (名称・代表者)       印

乙:(住所)   (氏名)           印

6-2 示談書を作成するときの留意点

  • 事実の特定本件の言動は,別紙で日時,場所,内容を特定します。「本件言動」の内容が不明確なままでは,誓約や違反時の措置の対象が定まりません。
  • 損害賠償条項と清算条項の関係警告書に例示したような物の破損や,治療費等が生じている事案で,包括的な清算条項だけを置くと,会社が相手方に対して有する損害賠償請求権まで消滅させるおそれがあります。損害賠償の支払義務を明記し,清算条項の効力が支払の完了に係る形にしておくことを,当事務所は推奨します。
  • 反社会的勢力排除条項は双方向とする表明・確約を相手方だけに課す片務的な条項よりも,双方が相互に表明・確約する条項が,実務上はなじみやすいです。
  • 違反時の措置は,契約と法令の範囲内にとどめる違反時に講ずる措置を,示談書だけを根拠に広く認める記載は避けます。契約条項と法令に基づく範囲であることを明記します。

6-3 念書の文例

念書は,相手方が自らの言動を認め,今後の自制を一方的に誓約する文書です。会社の請求権の放棄は含まれません。

念 書

私は,○○○○年(令和○年)○月○日,貴社の従業員に対して行った言動について,貴社従業員の就業環境を害するものであったことを認めます。

今後,貴社従業員に対し,暴言,威圧的な言動その他就業環境を害する言動を行わないことを誓約します。

本誓約に違反した場合に,貴社が,契約及び法令に基づく範囲で,取引の停止,施設への出入りの制限,警察への通報その他の措置を講ずることに,異存ありません。

○○○○年(令和○年)○月○日

氏名         印

【ご注意】 示談書・念書の取得は,相手方の任意の合意を前提とします。脅迫又は暴行を用いて,人に義務のないことを行わせ,又は権利の行使を妨害する行為は,強要罪(刑法第223条)に当たり得ます。退去を認めずに署名を迫る,威圧的な言動で署名を求める等,任意性を疑われる方法での取得は避けてください。取得の方法・タイミングについては,当事務所の弁護士等の専門家に必ずご相談ください。

7 文例の使用場面に関連する裁判例

この項の結論

この項の裁判例は,文例の使用場面に関連する参考事例です。カスハラを直接の争点とした裁判例は限られ,射程は事案ごとに異なります。弁護士を窓口に指定した後の執拗な架電,施設の出入り禁止,継続的契約の解除及び第三者への公表について,判断の分かれ目になる点を確認してください。

7-1 執拗な架電等に対する差止め・損害賠償

判決事案・判断
東京高等裁判所2008年(平成20年)7月1日決定(面談禁止等仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件。平成20年(ラ)第181号)損害保険会社が,保険契約者(顧客)の保険金請求の交渉をめぐり,業務妨害の禁止を求めて仮処分を申し立てた事案です。会社が交渉を弁護士に委任した後も,顧客は,会社の複数の部門へ多数回,長時間の電話を繰り返しました(多い日で1日19回,長いときで1回約90分)。原審は被保全権利の疎明を欠くとして申立てを却下しましたが,東京高裁は原決定を取り消し,仮処分を認めました。決定は,①行為が権利行使としての相当性を超え,②法人の資産の本来予定された利用を著しく害し,かつ従業員に受忍限度を超える困惑・不快を与え,③業務に及ぼす支障の程度が著しく,事後的な損害賠償では回復の困難な重大な損害が発生すると認められる場合は,「業務遂行権」に対する違法な妨害行為として,差止めを請求できるとしました。そのうえで,弁護士を介さずに,営業所(コールセンター等を含む。)へ架電するなどの方法で,従業員に電話の応対又は面談を強要してはならないと命じました。会社が,申出への応答自体を拒絶したり権利行使を制限したりせず,交渉の方途(弁護士を窓口とすること)を明確にしていた点が,判断で考慮されています。顧客対応の窓口を弁護士に集約する場合の参考になりますが,保険金請求をめぐる事案であり,全ての顧客対応に当てはまるわけではありません(当事務所の整理)。
東京地方裁判所2015年(平成27年)12月17日判決(損害賠償請求事件。平成26年(ワ)第15709号)警備会社を中心とする3社(原告)が,管理を受託するマンションの隣地に居住する者(被告)から,多数回・長時間の電話や面会要求等で業務を妨害され,信用を毀損されたとして,不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。被告は,2013年(平成25年)7月10日午後8時6分から翌日午前1時27分までの間に,原告の1社のお客様サービスセンターへ合計47回電話をかけたほか,本社に来訪して役職者との面会を求め続け,警察官が臨場する事態に至りました。判決は,被告の要求ないしクレームのうち,遅くとも,原告らが初めて弁護士に対応を依頼し,弁護士を通じて警告を発した2001年(平成13年)ころ以降のものは,社会的な受忍限度を超え,一連の不法行為を構成するとしました。損害として,信用毀損による200万円,従業員が対応せざるを得なかった時間に係る損害及び弁護士費用が認められ,認容額は,原告ごとに2,331,635円,33,562円,115,801円です。顧客ではなく近隣住民の事案であり,結論は事案の経緯に依存します。警告等の記録が,受忍限度を超える時期の判断の手掛かりになり得ることを示す例です(当事務所の整理)。

7-2 出入り禁止と施設管理権

判決事案・判断
大阪地方裁判所1951年(昭和26年)6月12日判決(建造物侵入被告事件)会社が,退職勧告に応じなかった工員2名に対し,勧告後は会社施設への立入りを禁止する旨を通告し,その後,両名が守衛の制止にもかかわらず会社構内へ立ち入った事案です。判決は,立入禁止の通告は会社施設の管理者としての権限に基づく意思表示であり,解雇の有効性を終局的に判断する必要はないとして,施設管理者の意思に反する構内への立入りは建造物侵入罪を構成するとしました(各懲役4月,2年間執行猶予)。昭和26年の下級審の刑事判決であり,事案は,会社と従業員との間の退職勧告・解雇をめぐるものです。顧客に対する出入り禁止を直接判断したものではなく,顧客については,契約関係,施設の性質及び業法上の制約を確認する必要があります(当事務所の整理)。

7-3 契約解除・警告書の送付・第三者への公表に関する参考例

判決事案・判断
大阪地方裁判所2022年(令和4年)6月23日判決(東大阪セブン-イレブン事件・第一審)
大阪高等裁判所2023年(令和5年)4月27日判決(同事件・控訴審)
最高裁判所2024年(令和6年)4月17日決定(同事件・上告不受理)
コンビニエンスストアのフランチャイズ本部が,加盟店主に対し,顧客への異常な対応及びツイッター(現X)での誹謗中傷を理由に,催告(期間10日間)のうえ契約を解除した事案です。顧客に対する契約解除の事案ではありません。第一審(令和2年(ワ)第341号等)は,この解除を有効と認め,時短営業を拒絶する目的の解除ではなく,優越的地位の濫用にも当たらないとしました。控訴審は,本部のお客様相談室等に寄せられた苦情が約326件(重複等を除いても200数十件)に及ぶことや,内部連絡票が当時の記録として信用できることを前提に,加盟店主の対応を解除事由(セブン-イレブン・イメージの信用を低下させる行為の禁止)に当たると認め,解除を有効としました。「毅然とした態度」をとることと,暴言や有形力の行使等で顧客を二度と来させないようにすることとは同義ではなく,「カスタマーハラスメントに対し毅然とした態度をとることが推奨されている」という一般論で,加盟店主の言動を正当化することはできないとも述べています。また,投稿の内容は,不法行為の成否にかかわらず,信頼関係の破壊を判断する要素になるとしました。最高裁は,上告を受理しない決定をしています(令和5年(受)第1542号)。本判決は,事業者間の継続的契約関係における信頼関係の破壊が問題となった事案であり,消費者である顧客に対する契約解除の可否を直接示すものではありません。他方で,注意や拒絶の仕方(言葉遣い,有形力の行使)が相当でなければ,対応する側の行為が問題とされ得ることを示す例です(当事務所の整理)。
東京地方裁判所1977年(昭和52年)12月19日判決(泉屋東京店事件(謝罪広告請求事件))会社が,懲戒解雇した従業員3名について,解雇の事実と理由を記載した文書を,全従業員に配布し,社内に掲示した事案です。判決は,公表された解雇理由の事実はほぼ真実に合致し,解雇が違法とはいえない場合であっても,公表の方法と内容が社会的に相当と認められる限度を逸脱していれば,名誉毀損に当たるとし,慰謝料として各30万円の支払を命じました(謝罪広告は認めていません)。判決は,解雇の事実と理由の公表が許されるのは,公表する側に必要やむを得ない事情があり,必要最小限の表現を用い,被解雇者の名誉や信用を可能な限り尊重した方法で事実をありのままに公表した場合に限られるとし,この判断は,解雇の有効・無効や解雇理由の存否に左右されないと述べています。労働事件であり,顧客本人に非公開で警告書を送付する行為が名誉毀損となることを示すものではありません。相手方の氏名や言動を第三者へ公表・共有する場面で,公表の必要性,表現,方法に注意が必要であることを示す例です(当事務所の整理)。
名古屋地方裁判所2017年(平成29年)3月24日判決(損害賠償請求事件)引越業の会社が,会社と対立していた労働組合の支部長(元従業員)について,マルチ商法への勧誘等を非難する内容の張り紙を,グループ会社を含む全店舗に掲示した事案です。判決は,張り紙という表現方法では,読み手が集団内の秘密と認識しないことから,不特定多数人に伝播する可能性があるとして公然性を認めました。また,掲示の主たる動機は,組合への加入の抑止等にあったとして公益目的を認めず,記載の一部は真実性も欠くとして,違法性の阻却を認めませんでした(元従業員への慰謝料30万円)。さらに,この掲示は組合への支配介入に当たるとして,組合にも20万円の賠償を認めています。労働事件であり,顧客に対する通知の事案ではありません。社内や店舗内の掲示であっても公然性が認められ得ること,及び公表の目的と内容の真実性が問われることを示す例です(当事務所の整理)。
東京地方裁判所2004年(平成16年)3月15日判決(損害賠償請求事件)ある会社が,競争関係にある会社の装置について,特許権の侵害に当たる趣旨の内容証明郵便の通知書を,その取引先30社に送付した事案です。判決は,通知書は,装置の使用が特許権の侵害に当たると警告する書面と受け取られるものであり,別件訴訟で非侵害が確認されている以上,その記載は虚偽であるとしました。そして,他人の行為が自己の特許権を侵害しているとの警告書を送るには,あらかじめ十分な事実調査を尽くし,侵害の確証を得たうえで発する注意義務があり,これを尽くさずに事実誤認等を含む警告書を送付すれば過失があるとして,不正競争防止法に基づき,差止めと5,920万5,000円の賠償(営業上の信用の毀損に係る1,000万円を含む。)を認めました。特許権の警告をめぐる事案であり,顧客に対する警告書の事案ではありません。警告書は,事実を調査・確認し,記録に基づいて記載したうえで発する必要があることを示す例です(当事務所の整理)。

7-4 要求の手段と強要罪に関する参考例

示談書・念書の取得は,相手方の任意の合意を前提とします。次の裁判例は,労働組合員が会社の役員に対し,就労証明書の作成を繰り返し要求した事案で,要求する側の手段が脅迫に当たるかが争われました。顧客対応の事案ではなく,射程は限定的です(当事務所の整理)。

判決事案・判断
京都地方裁判所2020年(令和2年)12月17日判決(強要未遂被告事件・第一審)
大阪高等裁判所2021年(令和3年)12月13日判決(同事件・控訴審)
最高裁判所2023年(令和5年)9月11日判決(同事件・上告審)
大阪高等裁判所2025年(令和7年)4月17日判決(同事件・差戻審)
労働組合の組合員2名が,生コン会社の取締役に対し,組合員である日雇運転手の子の保育所の継続利用のため,就労証明書の作成を繰り返し要求した事案です。第一審は,取締役が体調を崩して救急搬送される状況になった後も要求を続けたこと,ほぼ連日の訪問,多人数による事務所周辺での監視等を,社会的に相当な限度を逸脱した脅迫と認め,強要未遂罪の成立を認めました(懲役1年と懲役8月,いずれも執行猶予付き)。控訴審は,第一審を破棄し,一方を脅迫罪(罰金30万円),他方を無罪としましたが,最高裁は,控訴審が第一審の事実認定の不合理性を十分に示していないとして,これを破棄して差し戻しました。最高裁は,会社には,労働契約に付随する信義則上の義務として,就労証明書を作成する義務があったと認めたうえで,人に義務の履行を求める場合であっても,その手段として脅迫が用いられ,その脅迫が社会通念上受忍すべき限度を超えるときは,強要罪が成立し得るとしました。差戻審は,脅迫に当たる行為を限定したうえで,一方に強要未遂罪の成立を認め(懲役6月,執行猶予3年),他方は共謀が認められないとして無罪としました。差戻審判決の後の上告の有無,及び同判決が確定したかどうかは,不明です(2026年(令和8年)10月6日時点で確認できた資料の範囲)。労働組合と使用者との間の事案であり,顧客と事業者との間の事案ではありません。要求の内容に理由がある場合であっても,手段が社会通念上相当な範囲を超えれば責任を問われ得る点は,示談書・念書の取得,及びカスハラの判断(1-3)の双方で参考になります(当事務所の整理)。
【裁判例の参照について】 上記の裁判例は,文例の使用場面に関連する参考事例です。法・指針の措置義務の施行後に,文書の内容や措置の実施状況が裁判所の判断にどう影響するかは,裁判例の蓄積を待つ必要があり,現時点では不明です。自社への当てはめは,当事務所の弁護士等の専門家にご相談ください。

8 文例利用上の注意

この項の結論

文例は一般的なひな形です。事実は客観的な記録に基づいて記載し,評価的な表現を避け,相手方以外の第三者への公表や共有は必要な範囲に限ってください。送付は,送付の事実を証明できる方法を用い,発出した文書と送付の記録を保存してください。

  • 一般的なひな形であることこの文例は,特定の事案や企業を想定したものではありません。契約関係,業種,個別の事案の内容によって,適切な文言は異なります。
  • 客観的な記録に基づく事実の記載録音の反訳,メモ,防犯カメラ映像等の記録に基づいて記載します。関係者から複数回事情を聴取して,記載する事実を検証することが望ましいです。事実関係が十分に把握できていない段階での通知は避けてください。
  • 評価的な表現の抑制「異常な」「悪質な」等の評価的な表現を多用すると,相手方から,人格権の侵害や名誉毀損(民法第709条,第710条,第723条)の反論を受けるおそれがあります。確認した事実と,会社の判断を分けて記載してください。
  • 第三者への公表・共有解除や出入り禁止の通知,相手方の氏名,顔写真,詳細な言動を,社内外に広く掲示したり共有したりすることは,必要性,範囲,表現,目的を慎重に検討します(7項の泉屋東京店事件参照)。
  • 送付方法配達証明付き郵便等,送付の事実を客観的に証明できる方法を推奨します。
  • 業種特有の制約医療・介護・宿泊等,業種特有の法令上の制約がある場合は,業種別の対応も併せて確認してください(5項参照)。
  • 反社会的勢力への対応相手方が反社会的勢力に該当するおそれがある場合は,通常のカスハラ対応とは異なる判断が必要になる場合が多く,通常の警告書のひな形をそのまま用いることは推奨しません。

9 弁護士に依頼するメリット

この項の結論

文例の使用前のレビュー,契約条項や業法の確認,相手方への対応,仮処分等の手続は,弁護士の関与が有用となる場面です。相談のタイミングは,文例を使う前,特に,契約解除,出入り禁止,示談書・念書の取得の前が目安です。

文書ごとに整理すると,次のとおりです。

文書自社で進めやすいこと弁護士への相談が有効になりやすいこと
就業規則の規定例・相談受付票現行の規程や様式と照らして,文例を自社の用語や組織に合わせる。既存の懲戒規定等で足りるかを確認し,規程のどこに何を置くかを検討する。
警告書・契約解除・出入り禁止通知録音,メモ,防犯カメラ映像等の記録を整理し,事実経過をまとめる。記載する事実と証拠,契約上の根拠,表現の相当性を確認する。送付の可否と時期,催告の要否を判断する。必要に応じて,仮処分の申立ても検討する。
示談書・念書相手方が求めている内容を整理する。清算条項を設計する。強要にわたらない取得の方法を検討する。

右欄は,弁護士にしか行えない作業を示すものではありません。

相談のタイミングは,文例を自社用に調整するとき,警告書を発出する前,契約解除や出入り禁止の通知を出す前,示談書・念書を取得する前,労災請求や訴訟の兆候があるときが目安です。

人員が限られる事業主は,スポット相談で個別の文書のレビューを受ける方法と,顧問契約で平時から相談できる体制を整える方法を比較して選べます。人事労務の課題に弁護士が関与する支援の内容は,「人事労務対応コンサルティング」で,労務体制の整備を継続的に支援するプランは,「労務体制を整備し,企業を強くするためのサポートプラン」で確認できます。

10 自己点検チェックリスト

この項の結論

次の項目のうち,「はい」と答えられない事項は,未整備のおそれがあります。

  • 就業規則等に,方針,カスハラの定義,相談窓口,不利益取扱いの禁止,抑止措置に関する規定を設けているか(又は,マニュアル等で周知しているか)
  • 規定例の条番号と参照先(「第3項」「前条第2項」等)が,自社の条文構成に合っているか
  • 相談は任意とし,報告を求める事項を,安全の確保と事実確認に必要な範囲に限定しているか
  • 相談受付票の様式を整え,保管者,アクセス権限及び保存期間を定めているか
  • 録音・録画を行う場合に,利用目的を特定し,通知又は公表しているか
  • 警告書に,日時,場所,具体的な言動,許容範囲を超えると判断する理由,従業員に生じた支障を記載する様式を用意しているか
  • 暴力・脅迫等の緊急時に,警告を経ずに安全確保と警察への通報を行う基準を定めているか
  • 契約解除・出入り禁止について,自社の契約条項,利用規約及び業法上の制約を確認し,根拠条項を特定できるか
  • 示談書の清算条項が,会社側の損害賠償請求権を放棄する結果にならないか確認しているか
  • 文例を使用する前に,弁護士のレビューを受ける体制を確保しているか

「いいえ」と答えた項目のうち,自社で進められるものと,弁護士への相談が有効なものの分け方は,9項で整理しています。

11 よくある質問(FAQ)

この項の結論

FAQでは,制度の対象と開始時期,警告書の発出時期と送付方法,契約解除の可否,就業規則の変更手続,示談書・念書の取得など,文例の使用前によく生じる疑問を整理します。

カスハラ対策は,全ての企業の義務ですか。いつから対応が必要ですか。
2026年(令和8年)10月1日から,法第33条第1項に基づき,労働者を雇用する全ての事業主が,相談体制の整備や抑止のための措置等の雇用管理上必要な措置を講じなければなりません。すでに施行されているため,未整備の場合は速やかに着手してください。なお,東京都は,2025年(令和7年)4月に施行されたカスタマー・ハラスメント防止条例を設けています。
警告書は,どのタイミングで発出すればよいですか。
口頭の注意や現場対応で改善が見られない場合や,悪質性の高い言動が確認された場合に,発出を検討します。もっとも,暴力,脅迫,わいせつな言動等の緊急時は,警告書を待たずに,安全の確保と警察への通報を優先します。判断の基準は,「カスハラ防止措置の実務対応」の発動フローが参考になります。
就業規則の変更には,従業員代表の意見聴取が必要ですか。
常時10人以上の労働者を使用する事業場で就業規則を変更する場合は,過半数組合又は過半数代表者の意見聴取(労働基準法第90条)と,行政官庁(所轄労働基準監督署長)への届出(同法第89条)が必要です。なお,既存の懲戒規定等で必要な措置を講じられる場合は,カスハラに関する規定の新設は一律には義務付けられていません(解釈事項問18)。
文例をそのまま使っても問題ありませんか。
推奨しません。契約関係や事案の内容によって適切な文言は異なるため,自社の状況に合わせて調整し,使用前に,当事務所の弁護士等の専門家のレビューを受けてください。
初回警告と最終警告は,どのくらいの間隔を空けるべきですか。
法律上の定めはありません。改善に必要な相当な期間を考慮して,事案ごとに定めます。暴力,脅迫等の緊急時は,間隔を置かずに,安全の確保と警察への通報を優先します。
警告書は,内容証明郵便で送るべきですか。
必須ではありません。送付の事実と内容を客観的に証明できる点で,内容証明郵便や配達証明付き郵便の利用が考えられます。緊急性が高い場合は,書面を手交し,後日改めて郵送する方法もあります。
契約書に解除の条項がない場合でも,顧客との契約を解除できますか。
解除の可否は,契約の内容と,問題の言動が契約上の義務の違反に当たるかによって決まります。債務不履行を理由とする解除は,原則として催告が必要であり(民法第541条),催告によらない解除は,同法第542条に定める場合に限られます。相手方の不利益や信頼関係の破壊の程度等によって結論が異なるため,個別に弁護士へご相談ください。
顧客等が反社会的勢力に該当するおそれがある場合,通常の警告書で対応してよいですか。
推奨しません。反社会的勢力への対応は,通常のカスハラ対応とは異なる専門的な判断(警察や暴力追放運動推進センター等との連携)を要する場合が多いためです。専門部署又は弁護士に,速やかにご相談ください。
警告書の中で「カスタマーハラスメント」という語を使ってよいですか。
使用は可能ですが,該当性を断定的に記載すると,事実誤認があった場合に,名誉毀損等の反論を招くおそれがあります。該当性の判断に至っていない段階では,「就業環境を害する言動」「当社のカスタマーハラスメント対策の対象となり得る言動」等,確認した事実に即した表現にとどめることをお勧めします。
示談書や念書は,どのような場合に取得を検討すべきですか。
当事者間で一定の解決に至った場合や,相手方が今後の言動の自制を誓約する意向を示した場合に有効です。ただし,相手方の任意の合意が前提です。強要にわたらないよう,取得の方法・タイミングは弁護士にご相談ください(6項参照)。物的損害がある場合は,清算条項の設計にも注意が必要です。

12 まとめ

カスハラ防止措置は,2026年(令和8年)10月1日に施行されています。就業規則等の規定,相談受付票,警告書,契約解除・出入り禁止通知,示談書・念書は,事実の記録,契約条項や法令上の根拠,表現の相当性の3点を確認して使うことが重要です。警告書の2段階運用は,当事務所の設計例であり,指針が求める構成ではありません。

文例は一般的なひな形であり,使用前に,弁護士のレビューを受けてください。次の一歩として,10項のチェックリストで自社の整備状況を点検し,まず規定例の参照関係と記録の様式から確認することをお勧めします。

ハラスメント全般への対応は,「ハラスメントに関する取扱分野」でも整理しています。

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カスハラ文例の使用・個別対応の前に整理しておくとよい資料

文例の調整や,個別の事案への対応について,専門家への相談を検討される場合は,次の資料を手元にご用意いただくと,状況の整理が進めやすくなります。

  • 現行の就業規則,服務規律を定めた文書,顧客対応マニュアル,相談受付票の様式
  • 相手方との契約書,利用規約,約款(解除や出入り禁止に関する条項がわかる部分)
  • 問題の言動の記録(録音,メモ,防犯カメラ映像,相談受付票。個人情報に配慮したもの)
  • これまでに送付した警告書等の文書と,送付の記録
  • 事業の内容(業種),契約の種類,施設の所在地,労働者数
免責事項

本記事は,掲載時点の法令,指針,裁判例等に基づき,一般的な法的情報を提供することを目的として作成しています。個別の事案では,事実関係や証拠等によって結論が異なるため,本記事は法的助言を目的とするものではありません。また,法令の改正,裁判例の変更等により,掲載内容が変更される場合があります。具体的な事案については,当事務所の弁護士へお気軽にご相談ください。

執筆・監修

日本橋法律特許事務所 代表弁護士 中山泰章(第二東京弁護士会所属)

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警告書や契約解除通知の送付前の確認や,文例の自社向けの調整について,随時ご相談を受け付けております。書面の確認など具体的な対応が必要な場合は,対応範囲及び弁護士報酬を事前にご案内いたします。

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