〜全ての事業主が対象となる改正法の内容,指針が求める4つの措置,行政指導・公表と損害賠償のリスクを整理〜
カスハラ防止措置の義務化とは,顧客等による著しい迷惑行為から労働者を守るため,事業主に対し,相談体制の整備などの雇用管理上の措置を講じることを法律で義務付ける制度をいいます。2026年(令和8年)10月1日に改正法が施行され,労働者を1人でも雇用する全ての事業主が対象となりました。本記事は,制度の全体像と,措置を講じない場合の行政上・民事上のリスクを整理するものです。規程の設計や運用の手順は,関連記事で扱います。
- 2026年(令和8年)10月1日から,労働者を1人でも雇用する全ての事業主に,カスハラ防止措置を講じる法的義務が課されています(改正法第33条第1項)。企業規模による適用除外はありません。
- 講ずべき措置は,指針が定める①方針の明確化・周知,②相談体制の整備,③事後の迅速かつ適切な対応,④抑止のための措置の4つと,これらと併せて講ずべき措置(プライバシー保護,相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨の周知)です。
- 措置義務違反そのものに対する罰則はありません。もっとも,厚生労働大臣又は都道府県労働局長による助言・指導・勧告の対象となり(改正法第42条第1項),勧告に従わない場合は公表され得ます(同条第2項)。報告の請求に対する報告拒否・虚偽報告は,200,000円以下の過料の対象です(改正法第45条第1項,第51条)。
- 措置義務違反それ自体を理由とする損害賠償請求権を定めた規定は確認できません。もっとも,カスハラ被害への対応が不十分な場合は,安全配慮義務違反(労働契約法第5条)等に基づく責任が問題となり得ます。
- 東京都内で事業を行う場合は,努力義務を定める東京都カスタマー・ハラスメント防止条例も関係します。
- 各措置の内容は4項で,自社の状況は9項のチェックリストで確認できます。
目次
- 1 カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
- 2 法改正の経緯と全体像
- 3 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例との関係
- 4 事業主が講ずべき措置
- 5 行政指導・企業名公表のプロセス
- 6 損害賠償責任の考え方
- 7 指針(告示)の構成
- 8 よくある誤解
- 9 自己点検チェックリスト
- 10 よくある質問(FAQ)
- 11 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
- 12 まとめ
根拠法令・参照資料
※労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「労働施策総合推進法」といいます。)
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号。2025年(令和7年)6月4日成立,同月11日公布,2026年(令和8年)10月1日施行)。同法による改正後の労働施策総合推進法を,以下「改正法」といいます。
事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号,2026年(令和8年)2月26日告示。以下「指針」といいます。)
令和8年4月24日付け雇均発0424第2号「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第10章の規定等の運用について」(以下「施行通達」といいます。)
労働契約法第5条,民法第415条,第709条,第715条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第47条の4
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和6年東京都条例第140号,2025年(令和7年)4月1日施行)
上記は,2026年(令和8年)10月3日時点で確認した内容に基づきます。
この記事はこんな方におすすめです
- カスハラ防止措置への対応をこれから始める,経営者や法務・人事の担当者の方
- 自社が対象に当たるか,何を整備すべきかを確認したい,経営者や総務担当者の方
- 東京都条例と改正法の関係を整理したい,経営者や法務担当者の方
- 措置を怠った場合の行政上・民事上のリスクを把握したい,経営者や人事担当者の方
主要用語の定義
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは,職場において行われる顧客等の言動であって,その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより,労働者の就業環境が害されるものをいいます(指針2⑴)。
顧客等とは,顧客,取引の相手方,施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者をいいます。
雇用管理上の措置とは,カスハラから労働者を守るために事業主が講ずべき,方針の明確化,相談体制の整備,事後対応,抑止のための措置等をいいます。
抑止措置とは,過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられる言動への対処の方針をあらかじめ定め,労働者に周知し,その対処を行うことができる体制を整備することをいいます(指針4⑷)。
安全配慮義務とは,労働契約法第5条に基づき,使用者が労働者の生命,身体等の安全を確保しつつ労働できるよう,必要な配慮をする義務をいいます。
法的義務とは,法令上「講じなければならない」とされる義務をいい,努力義務とは,法令上「努めなければならない」とされる義務をいいます。両者は区別されます。
望ましい取組とは,指針が,措置義務に加えて行うことが望ましいとする取組をいい,法的義務ではありません。
1 カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
この項の結論
カスハラは,顧客等の言動であって,業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超え,労働者の就業環境が害されるものをいい,次の3つの要素を全て満たす場合に該当します。
指針は,職場におけるカスタマーハラスメントを,次の3つの要素を全て満たすものと整理しています(指針2⑴)。
- 顧客等の言動であること顧客に限らず,取引の相手方,施設の利用者その他の事業に関係を有する者の言動が対象です。
- 社会通念上許容される範囲を超えること言動の内容(要求の相当性)又は手段・態様のいずれか一方のみが許容範囲を超える場合でも,該当し得ます(指針2⑸)。
- 労働者の就業環境が害されること当該言動により,労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。「平均的な労働者の感じ方」が基準とされ,強い苦痛を与える言動は,1回でも該当し得ます(指針2⑹)。
「顧客等」は広く捉えられます。今後商品を購入する可能性のある潜在的な顧客や,今後取引する可能性のある者も含まれます。指針は,取引先の担当者,企業間の契約交渉の担当者,施設・サービスの利用者及びその家族,施設の近隣住民等を例に挙げています(指針2⑷)。
カスハラは,店舗や施設での対面に限られません。電話やSNS等のインターネット上の言動も含まれ,SNS等は当該事業主が運営するものに限られません(指針2⑴,施行通達)。「職場」は,労働者が業務を遂行する場所を指し,取引先の事務所や顧客の自宅も含まれます(指針2⑵)。
1-1 対象となる「労働者」の範囲
措置義務の対象となる「労働者」は,正規雇用労働者に限らず,パートタイム労働者,契約社員等の非正規雇用労働者を含む,事業主が雇用する労働者の全てです(指針2⑶)。
派遣労働者については,労働者派遣法第47条の4により,派遣先も派遣労働者を雇用する事業主とみなされ,改正法第33条第1項等が適用されます。派遣先は,派遣労働者についても,自社の労働者と同様に,指針が定める配慮及び措置を講ずる必要があります(指針2⑶)。
個人事業主(フリーランス)や,他の事業主が雇用する労働者は,改正法第33条第1項の措置の対象ではありません。もっとも,指針7は,これらの者に対する顧客等の言動についても,同様の方針を併せて示すことが望ましいとしています。フリーランスに業務を委託する事業者が負うハラスメント対策の義務は,「フリーランス法とは」の記事で整理しています。
1-2 カスハラに該当しない言動
客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われた苦情は,正当な申入れであり,カスハラには当たりません(指針2⑴)。商品・サービスの不備を具体的に指摘した上で,相当な範囲の対応を求めることは,その典型です。
障害のある人が,障害を理由とする不当な差別的取扱いをしないよう求めることや,社会的障壁の除去を必要とする旨の意思を表明することそれ自体も,カスハラには当たりません。この場合は,障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律に基づく,合理的配慮の提供が問題となります(指針2⑴)。
また,判断に当たっては,事業主や労働者の側の不適切な対応が,言動の原因や背景となっている場合もあることに留意が必要です(指針2⑸)。
1-3 指針が挙げる典型例
指針は,社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型例を,言動の内容と手段・態様に分けて示しています(指針2⑸)。限定列挙ではなく,個別の事案の状況によって判断が異なる場合もあります。
| 区分 | 類型 | 指針が挙げる例 |
|---|---|---|
| 言動の内容 | 要求に理由がない,又は商品・サービスと無関係な要求 | 性的な要求,労働者のプライバシーに関わる要求 |
| 言動の内容 | 契約等で想定するサービスを著しく超える要求 | 契約内容を著しく超えたサービスの提供の要求 |
| 言動の内容 | 対応が著しく困難な,又は対応が不可能な要求 | 契約金額の著しい減額の要求 |
| 言動の内容 | 不当な損害賠償要求 | 商品・サービスの内容と無関係な損害賠償の要求 |
| 手段・態様 | 身体的な攻撃 | 殴る,蹴る,叩く,物を投げつける,つばを吐きかける等の暴行 |
| 手段・態様 | 精神的な攻撃 | 脅迫,中傷,名誉毀損,侮辱,暴言,土下座の強要,悪評の投稿をほのめかす発言,労働者のプライバシーに係る情報の投稿等 |
| 手段・態様 | 威圧的な言動 | 大きな声で労働者や周囲を威圧すること,反社会的な言動 |
| 手段・態様 | 継続的,執拗な言動 | 同様の質問や電子メール等の執拗な繰り返し,揚げ足取り,執拗な責め立て |
| 手段・態様 | 拘束的な言動 | 長時間の居座りや電話による拘束,不退去,監禁 |
正当なクレームとの境界は,事案ごとの評価によります。現場の労働者が1人で抱え込まないよう,判断の目安と報告先をあらかじめ明文化しておくことが,実務上重要です。
業種ごとの当てはめは,「業種別カスハラ対応マニュアル|小売・医療・コールセンター等の実務ポイント」をご覧ください。
2 法改正の経緯と全体像
この項の結論
改正法は2025年(令和7年)6月11日に公布され,2026年(令和8年)10月1日に施行されました。企業規模による適用除外はなく,労働者を1人でも雇用する全ての事業主が対象です。
改正法(令和7年法律第63号)は,2025年(令和7年)6月4日に成立し,同月11日に公布されました。カスハラについては,改正後の労働施策総合推進法に,次の規定が置かれています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 改正法第33条第1項 | 事業主に,労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備,抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付ける |
| 改正法第33条第2項 | 労働者が相談したこと等を理由とする,事業主による解雇その他不利益な取扱いを禁止する |
| 改正法第33条第3項 | 他の事業主から協力を求められた場合に,これに応じる努力義務を定める |
| 改正法第33条第4項 | 事業主が講ずべき措置等の具体的な内容を,厚生労働大臣が指針で定めることとする |
| 改正法第34条 | 国,事業主,労働者及び顧客等の責務を定める |
適用に,企業規模による除外はありません。ただし,一般職の国家公務員(行政執行法人の職員を除きます。),裁判所職員,国会職員及び自衛隊員には,改正法第31条から第34条までの規定が適用されません(改正法第48条)。また,国家公務員及び地方公務員には,紛争解決の援助・調停(第35条から第39条まで),行政による助言・指導・勧告・公表(第42条)及び報告の請求(第45条第1項)の規定が適用されません(同法第48条)。
カスハラは,労働者の尊厳を傷つけるだけでなく,労働者の意欲の低下による職場環境の悪化,職場全体の生産性の低下,健康状態の悪化,休職や退職につながり得る問題です(施行通達,指針3⑴)。自治体の条例が先行して整備される中で,国の法律による義務化に至りました。
2-1 これまでの経緯
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2019年(令和元年) | 労働施策総合推進法の改正により,パワーハラスメント防止措置が法制化(2020年(令和2年)に施行,中小企業は2022年(令和4年)に施行) |
| 2022年(令和4年)2月 | 厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表 |
| 2023年(令和5年)10月 | 東京都が,カスハラの防止対策に関する検討部会を設置 |
| 2024年(令和6年)10月4日 | 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が成立(同月11日公布) |
| 2024年(令和6年)11月26日 | 北海道カスタマーハラスメント防止条例が制定 |
| 2025年(令和7年)3月27日 | 群馬県カスタマーハラスメント防止条例が公布 |
| 2025年(令和7年)4月1日 | 東京都,北海道及び群馬県の条例が施行 |
| 2025年(令和7年)6月11日 | 改正法が公布(同月4日に成立) |
| 2026年(令和8年)2月26日 | 指針が告示(令和8年厚生労働省告示第51号) |
| 2026年(令和8年)4月24日 | 施行通達が発出 |
| 2026年(令和8年)10月1日 | 改正法が施行され,カスハラ防止措置が全事業主の法的義務に |
措置の枠組みは,パワーハラスメント防止措置と共通する部分が多くあります。相談窓口は,他のハラスメントの窓口と一体的に設置することも考えられます(指針4⑵イ)。パワーハラスメント防止措置との関係は,「パワーハラスメント(パワハラ)対策|企業が講ずべき10の措置と実務対応」をご覧ください。
3 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例との関係
この項の結論
東京都条例(努力義務)と改正法(法的義務)は排他の関係になく,都内で事業を行う企業には,双方が関係します。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和6年東京都条例第140号)は,2024年(令和6年)10月4日に成立し,同月11日に公布され,2025年(令和7年)4月1日に施行されました。都は,カスハラの防止を目的とする条例の制定は全国初としています。北海道と群馬県でも,同日に同種の条例が施行されています。
条例は,何人もあらゆる場においてカスハラを行ってはならないとする禁止規定(条例第4条)を置き,都,顧客等,就業者及び事業者の責務を定めています。事業者の措置については,条例第14条が,指針に基づき,必要な体制の整備,被害を受けた就業者への配慮,防止のための手引の作成その他の措置を「講ずるよう努めなければならない」と定めています。罰則はありません。
| 項目 | 改正法 | 東京都条例 |
|---|---|---|
| 性格 | 全国一律の法律 | 都の条例(罰則のない理念型) |
| 事業者の措置 | 雇用管理上必要な措置を講じなければならない(改正法第33条第1項) | 体制の整備,被害を受けた就業者への配慮,手引の作成等を講ずるよう努める(条例第14条) |
| カスハラの禁止 | 顧客等の責務として規定(顧客等は必要な注意を払うよう努める。改正法第34条第5項) | 何人もカスハラを行ってはならない(条例第4条) |
| 違反への対応 | 助言・指導・勧告,勧告に従わない場合の公表,報告の請求,報告拒否等に対する過料 | 罰則なし |
| 施行日 | 2026年(令和8年)10月1日 | 2025年(令和7年)4月1日 |
条例を土台に,改正法が全国一律の法的義務を上乗せした,と整理できます。都が公表している指針(ガイドライン)や「各団体共通マニュアル」は,改正法の措置の内容を検討する際にも参考になります。
ただし,カスハラの定義の文言は,条例と改正法で同一ではありません。条例独自の指針も併せて確認してください。
4 事業主が講ずべき措置
この項の結論
指針は,事業主が講ずべき措置として,①方針の明確化・周知,②相談体制の整備,③事後の迅速かつ適切な対応,④抑止のための措置の4つと,これらと併せて講ずべき措置を定めています。
改正法第33条第1項は,雇用管理上必要な措置の具体的内容を,指針に委ねています(同条第4項)。指針4は,事業主が講じなければならない措置を定め,施行通達は,これを10項目としています。指針4の項目を数えると,内訳は,方針の明確化・周知が2,相談体制の整備が2,事後対応が3,抑止措置が1,併せて講ずべき措置が2です。これらは,企業の規模や職場の状況を問わず講じなければならないものとされています(施行通達)。
措置の方法は,企業の規模や職場の状況に応じて選択でき,指針が挙げる例は限定列挙ではありません(施行通達)。また,措置を講ずる際には,次の点に留意する必要があります(指針4)。
- 消費者法制により定められた,消費者の権利
- 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律における,不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供義務
- 各業法等によるサービス提供の義務や,サービスの途絶が顧客等の生命や心身の健康に重大な影響を及ぼす場合(施行通達は,医師法第19条第1項等に留意することが考えられるとしています。)
4-1 ①方針の明確化・周知
事業主は,カスハラには毅然とした態度で対応し,労働者を保護する旨の方針を明確にし,管理監督者を含む労働者に周知・啓発しなければなりません。併せて,カスハラの内容と,あらかじめ定めた対処の内容を,周知する必要があります(指針4⑴)。
指針が挙げる周知の例は,社内報,パンフレット,社内ホームページ等への方針の記載,トップメッセージとしての発信,研修・講習の実施,対応マニュアルへの記載です。就業規則への明記は,指針4⑴の例には含まれていません。もっとも,方針を継続的かつ確実に周知する手段として,就業規則その他の服務規律を定めた文書への記載は有効です(実務上の推奨対応)。規定例は,関連記事の文例集で紹介しています。
対処の内容の例として,指針は次を挙げています(限定列挙ではありません。)。
- 労働者から管理監督者等に直ちに報告し,その場の対応方針について指示を仰ぐこと
- 可能な限り労働者を1人で対応させず,必要に応じて管理監督者等が代わって対応すること
- 顧客等とのやり取りを録音・録画すること(個人情報の保護に関する法律等を遵守します。)
- 十分な説明の後も繰り返しの要求が続く場合に,一定の時間の経過をもって退店を求め,又は電話を切ること
- 暴行,傷害,脅迫などの犯罪に該当し得る言動について,警察へ通報すること
- 現場対応が困難な場合に,本社・本部等へ情報を共有し,指示を仰ぐこと
- 法的な手続が必要な場合に,法務部門等と連携し,弁護士へ相談すること
指針は,カスハラの発生の原因や背景に,商品・サービス・接客等の問題や,顧客等とのコミュニケーションの不足があり得ることにも留意するよう求めています(指針4⑴)。
4-2 ②相談体制の整備
事業主は,相談(苦情を含みます。)に応じ,その内容や状況に応じて適切かつ柔軟に対応するための体制を整備しなければなりません(指針4⑵)。具体的には,次の2点です。
- 相談窓口をあらかじめ定め,労働者に周知すること担当者の指定,相談対応のための制度の整備,外部機関への委託が例として挙げられています。他のハラスメントの窓口と一体的に設置することも考えられます。
- 窓口の担当者が,内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることカスハラが現実に生じている場合だけでなく,発生のおそれがある場合や,該当するか微妙な場合も,広く相談に対応します。
適切に対応できるようにしている例として,指針は,関係部門との連携の仕組み,留意点を記載したマニュアルに基づく対応,担当者への研修を挙げています。施行通達は,窓口を形式的に設けるだけでは足りず,実質的な対応が可能な窓口が必要であるとしています。相談の担当者に労働者の上司に当たる管理監督者等を定める場合は,その管理監督者等が相談できる窓口を別に設けることも考えられます(施行通達)。
窓口の設計手順は,「カスハラ防止措置の実務対応|相談窓口・就業規則の設計手順」で解説しています。
4-3 ③事後の迅速かつ適切な対応
相談の申出があった場合,事業主は,事実関係の確認,被害者への配慮,再発防止の措置を講じなければなりません(指針4⑶)。
- 事実関係の確認事案の事実関係を迅速かつ正確に確認します。管理監督者等によるその場での確認,窓口の担当者や関係部門による相談者からの聴取,周囲の労働者からの聴取,録音・録画等の客観的な証拠の確認,必要かつ可能な場合の行為者からの聴取が例として挙げられています。確認が困難な場合は,調停の申請その他,中立な第三者機関に紛争処理を委ねることも例に含まれます。
- 被害者への配慮カスハラの事実が確認できた場合,速やかに配慮の措置を行います。管理監督者等が被害者に代わって対応すること,被害者と行為者を引き離すこと,担当者の変更や複数人での対応,配置転換,メンタルヘルス不調への相談対応が例です。犯罪に該当し得る言動は警察へ通報し,法的な手続が必要な場合は弁護士へ相談することも考えられます。
- 再発防止方針を改めて周知・啓発し,必要に応じて,原因や背景となった商品・サービス・接客等の問題の改善を図ります。カスハラの事実が確認できなかった場合も,同様の措置を講じます。
施行通達は,被害者への配慮に,継続就業が困難にならない環境の整備や,休業を余儀なくされた労働者が希望するときの原職又は原職相当職への復帰の支援も含まれるとしています。指針の例は例示であり,どの措置を選ぶかは,事案の内容や状況によります。
4-4 ④抑止のための措置(カスハラ特有の措置)
事業主は,過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられる言動への対処の方針をあらかじめ定め,管理監督者を含む労働者に周知するとともに,その方針に定めた対処を行うことができる体制を整備しなければなりません(指針4⑷)。パワーハラスメント防止措置にはない,カスハラ特有の措置です。
指針が挙げる,特に悪質と考えられる言動への対処の例は,次の5つです。
- 警察への通報暴行,傷害,脅迫などの犯罪に該当し得る言動について行います。
- 警告文の発出行為者に対して行います。
- 商品の販売,サービスの提供等をしないこと法令の制限内において行います。
- 出入りの禁止店舗及び施設等への出入りを禁止します。
- 仮処分命令の申立て民事保全法に基づき申し立てます。
これらは例示です。実際に特に悪質なカスハラが生じたときは,整備した体制の下で,事案の状況に応じて,取るべき対処を判断します(施行通達)。施行通達は,体制の整備を,人事部門,カスタマーサービス部門,法務部門等が適切かつ迅速に連携できる体制を設けることなどと説明しています。
対処の内容は,業種・業態によって異なります。各業法等に定めがある場合(施行通達の例:旅館業法に基づく宿泊拒否事由,航空法に基づく安全阻害行為等の禁止),サービス提供の義務がある場合,及びサービスの途絶が顧客等の生命や心身の健康に重大な影響を及ぼす場合には,特に留意が必要です。
警告文の文例は,「カスハラ対応文例集|警告書・契約解除通知・示談書・就業規則のひな形」をご覧ください。
4-5 併せて講ずべき措置
指針4⑸は,4-1から4-4までの措置に併せて,次の2つの措置を講じなければならないとしています。
- プライバシーの保護相談者等の情報は,相談者等のプライバシーに属します。相談対応や事後対応に当たり,プライバシーを保護するために必要な措置を講じ,その旨を労働者に周知します。性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれます。施行通達は,顧客等の個人情報も,個人情報保護法等に基づき適切に取り扱う必要があるとしています。
- 不利益取扱いをしない旨の周知労働者が,カスハラの相談をしたこと,事実関係の確認に協力したこと,都道府県労働局に対して相談,紛争解決の援助の求め若しくは調停の申請を行ったこと等を理由として,解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め,周知・啓発します。就業規則その他の服務規律を定めた文書への規定が,その例です。
相談等を理由とする解雇その他不利益な取扱いは,法律上も禁止されています(改正法第33条第2項,第36条第2項,第37条第2項)。派遣労働者も対象に含まれ,派遣先が,相談を理由に労働者派遣の役務の提供を拒むことも許されません(指針2⑶)。
4-6 他の事業主からの協力依頼への対応(努力義務)
他の事業主から,その事業主が講ずる措置の実施に関し必要な協力を求められた場合は,これに応ずるよう努めなければなりません(改正法第33条第3項)。努力義務であり,法的義務とは区別されます。指針5は,協力を求められる場面として,自社の労働者又は自社(法人の場合は役員)が,他の事業主の労働者に対してカスハラを行った場合を想定しています。
指針5は,次の対応が望ましいとしています。
- 協力を求められたことを理由として,協力を求めた事業主との契約を解除する等の不利益な取扱いを行わないこと
- 協力した労働者に対して,解雇その他不利益な取扱いを行わない旨を定め,周知・啓発すること
- カスハラの事実が確認できた場合に,就業規則その他の服務規律を定めた文書の規定等に基づき,行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること
施行通達によれば,信用失墜行為や服務規律違反に関する既存の懲戒規定に基づいて必要な措置を講ずることができる場合は,カスハラに関する規定を新設する必要は必ずしもありません。また,行為者が私的な場面で行った言動にまで協力を求めることは,想定されていません。自社の労働者が行為者と確認された場合の懲戒処分については,「懲戒処分」のページもご覧ください。
4-7 措置の整理と着手の順序
| 区分 | 措置 | 主な内容 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 法的義務 | ①方針の明確化・周知 | カスハラに毅然と対応し労働者を保護する方針の明確化,カスハラの内容と対処の周知 | 改正法第33条第1項,指針4⑴ |
| 法的義務 | ②相談体制の整備 | 相談窓口の設置・周知,担当者が適切に対応できる体制 | 改正法第33条第1項,指針4⑵ |
| 法的義務 | ③事後の迅速かつ適切な対応 | 事実関係の確認,被害者への配慮,再発防止 | 改正法第33条第1項,指針4⑶ |
| 法的義務 | ④抑止のための措置 | 特に悪質な言動への対処方針の策定・周知,実施体制の整備 | 改正法第33条第1項,指針4⑷ |
| 法的義務 | 併せて講ずべき措置 | プライバシーの保護,不利益取扱いをしない旨の周知 | 改正法第33条第1項,指針4⑸ |
| 法律上の禁止 | 不利益取扱いの禁止 | 相談等を理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止 | 改正法第33条第2項 |
| 努力義務 | 他の事業主への協力 | 事実確認等の協力の求めに応じること | 改正法第33条第3項,指針5 |
| 望ましい取組 | 研修,運用の見直し等 | 対応力向上のための研修,顧客等への理解を深める取組,運用状況の把握・見直し,業種・業態に応じた取組,労働者以外の者への方針の明示 | 指針6,指針7 |
着手の順序に,法定のものはありません。実務上は,次の順序で進めると,未整備の部分を把握しやすくなります(実務上の推奨対応)。各段階の詳細は,関連記事で扱います。
| 手順 | 主な担当 | 主な判断事項 | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| STEP1 方針を明確にして周知する | 経営層,人事・総務 | 方針の表現,周知の方法 | 方針文書,周知の日時・方法 |
| STEP2 相談窓口を定めて周知する | 人事・総務,法務 | 担当者の指定,外部委託の要否,他の窓口との一体設置 | 窓口の指定,周知の記録 |
| STEP3 対処の内容と事後対応の手順を定める | 管理職,人事,法務 | 現場での初動,報告ルート,事実確認の方法 | 対応マニュアル,相談記録の様式 |
| STEP4 特に悪質な言動への対処方針と連携体制を整える | 経営層,法務,現場責任者 | 発動の判断者と基準,業法等による制約 | 対処方針,連携体制図 |
| STEP5 規程の整備,研修,運用状況の見直しを行う | 人事,法務,衛生委員会等 | 就業規則等への反映,研修の対象,見直しの時期 | 研修の記録,見直しの記録 |
5 行政指導・企業名公表のプロセス
この項の結論
措置義務違反そのものを処罰する規定はなく,行政による助言・指導・勧告と,勧告に従わない場合の公表という段階的な対応が定められています。いきなり公表される制度ではありません。
行政の権限は,次のとおり定められています。
| 手続 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 報告の請求 | 厚生労働大臣(権限は都道府県労働局長に委任されています。)が,改正法第33条第1項及び第2項等の施行に関し必要があると認めるときに,事業主に報告を求めます。報告をせず,又は虚偽の報告をした場合は,200,000円以下の過料に処されます。 | 改正法第45条第1項,第51条,施行通達 |
| 助言・指導・勧告 | 厚生労働大臣が,改正法の施行に関し必要があると認めるときに,事業主に対して助言,指導又は勧告をします。この権限は,都道府県労働局長に委任されています。 | 改正法第42条第1項,施行通達 |
| 公表 | 厚生労働大臣が,改正法第33条第1項及び第2項等に違反している事業主に自ら勧告をした場合に,その勧告に従わなかったときは,その旨を公表できます。 | 改正法第42条第2項,施行通達 |
権限の行使は,労働者からの申立て,第三者からの情報,職権等,端緒を問わず,必要に応じて行われます(施行通達)。都道府県労働局長が勧告を行ったにもかかわらず是正されない事案は,厚生労働大臣が自らその権限を行う事案に当たるとされています(施行通達)。過料は,非訟事件手続法に基づき,管轄の地方裁判所が裁判で決定します(施行通達)。
5-1 労働者による紛争解決の援助・調停の申請
改正法は,カスハラへの措置等に関する労働者と事業主との個別の紛争について,都道府県労働局長による紛争解決の援助(改正法第36条第1項)と,紛争調整委員会による調停(同第37条,第38条)の制度を設けています。この紛争には,個別労働紛争解決促進法の一部の規定は適用されません(改正法第35条)。
援助や調停は,当事者に従うことを強制するものではありません。もっとも,労働者が援助を求め,又は調停を申請したことを理由とする解雇その他不利益な取扱いは,禁止されています(改正法第36条第2項,第37条第2項)。措置を整備していない事業主は,行政指導に加えて,この手続を通じても対応を求められ得ます。
公表の基準や実施頻度等,運用の詳細は,施行直後であり,現時点で公表された資料からは確認できていません。既存のハラスメント防止措置の運用を参考にしつつ,今後の公表資料を確認する必要があります。
6 損害賠償責任の考え方
この項の結論
措置義務違反それ自体を理由とする損害賠償請求権を定めた規定は確認できませんが,カスハラ被害への対応が不十分な場合は,安全配慮義務違反等に基づく損害賠償責任が問題となり得ます。責任の有無は,個別の事情によって判断されます。
民事上の責任の根拠となり得るのは,次の規定です。
- 労働契約法第5条(安全配慮義務)
- 民法第415条(債務不履行による損害賠償)
- 民法第709条(不法行為による損害賠償),第715条(使用者責任)
改正法第33条第1項は,雇用管理上の措置を事業主に義務付ける規定です。同項の違反だけを理由として,労働者の損害賠償請求権が発生すると定めた規定は,確認できません。もっとも,措置の整備状況や事後対応の内容は,安全配慮義務違反の成否を判断する際の事情として考慮され得ます。改正法の施行後の裁判例は,現時点で確認できておらず,措置義務の不履行と民事責任の関係は,今後の裁判例の蓄積を待つ論点です。
損害額には,一律の算定基準がありません。被害の内容,企業の過失の程度,因果関係等によって異なるため,「相場」を示すことは困難です。確認できる個別の事案の認容額は,次項の表のとおりです。
6-1 関連する裁判例
顧客等の言動や外部者による暴力について,使用者の安全配慮義務が争われた主な裁判例は,次のとおりです。いずれも改正法の施行前の事案です。結論は個別の事実関係によります。
| 判決 | 事案 | 判断 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|
| 東京地方裁判所2013年(平成25年)2月19日判決(医療法人社団こうかん会(日本鋼管病院)事件) | 看護師が,不穏な状態の入院患者から暴行を受けて負傷し,病院の安全配慮義務違反を主張した。 | 暴行による負傷(第1事故)について,病院の安全配慮義務違反を認め,19,312,120円の支払を命じた(一部認容)。当時,患者の暴力への対応マニュアル等は整備されておらず,ナースコールが鳴った際に,看護師が暴力を受けている可能性も念頭に直ちに応援に駆けつけることを周知徹底する義務を怠ったとした。その後の適応障害(第2事故)については,精神障害の発症を予見できたとはいえず,心理的負荷も重度とは認め難いとして,義務違反を否定した。 | 患者による暴力の事案だが,顧客等の暴力に備える組織的な応援体制の周知徹底が問われた例。判決は,暴力を完全に根絶することは不可能でも,最善を尽くす義務があるとした。精神障害の発症までが当然に予見可能とされたわけではない。 |
| 東京地方裁判所2018年(平成30年)11月2日判決(まいばすけっと事件) | スーパーのレジ担当の従業員が,客から暴言等を受けたとして,客と会社に損害賠償を請求した。 | 請求棄却(客に対する請求,会社に対する請求とも)。客の言動により原告が精神的な傷害を被ったとは認められないとした。会社の安全配慮義務についても,①正社員の配置,②深夜に正社員が急行する体制,③早期の入店拒否措置のいずれも,義務とは認めなかった。会社は,対応マニュアルの配付,サポートデスク等への連絡体制,緊急連絡先の掲示,緊急通報ボタンの設置,深夜の2名以上の配置を行い,穏便な措置から順に実施して効果を上げていたとされた。 | 相談・連絡体制,通報手段,複数名の配置が整っていれば,入店拒否のような厳しい措置を早期に選ぶ義務までは認められにくい。判決は,原告自身の接客態度もトラブルの背景として認定しており,労働者側の対応も判断に影響した。 |
| 長崎地方裁判所2021年(令和3年)1月19日判決(社会福祉法人むつみ福祉会事件) | 保育園の保護者らが虐待を訴えて威圧的な言動に及んだ騒動の後,うつ病を発症して自殺した保育士の相続人が,安全配慮義務違反を主張した。 | 損害賠償責任を肯定した。騒動後に行った,カウンセリング,個人面談,業務量の削減,担当クラスの希望の受入れは,いずれも十分な措置とはいえないとし,3割の過失相殺を認めた。 | 措置を講じるだけでは足りず,心理的負荷を軽減する目的を達しているかが問われた例。判決は,保護者の言動がカスハラに当たるかを認定したものではない。 |
| 横浜地方裁判所川崎支部2021年(令和3年)11月30日判決(NHKサービスセンター事件・第一審) 東京高等裁判所2022年(令和4年)11月22日判決(同事件・控訴審) 最高裁判所第一小法廷2023年(令和5年)5月10日決定(同事件・上告不受理) | コールセンターで視聴者対応に従事していた労働者が,要注意視聴者に対する刑事上又は民事上の法的措置を採ること等により,わいせつ発言や暴言等に触れさせないようにする義務を会社が怠ったとして,損害賠償を請求した。 | 第一審は請求を棄却し,控訴審も控訴を棄却して,安全配慮義務違反を認めなかった。最高裁も,上告を受理しなかった。会社が,わいせつ電話を直ちに上司に転送できるルールを作成・周知し,担当者が通話をモニタリングする体制を設け,2回目以降のわいせつ電話の即切断も認めていたこと,メンタルヘルス相談やストレスチェックを整備していたこと等を考慮した。刑事告発や損害賠償請求等の強硬な法的措置を採る義務までは認めなかった。 | ルールの整備・周知と,その実際の運用が評価された例。法的措置を採る必要が具体的に認められない限り,その義務までは認められにくい。 |
| 東京地方裁判所2024年(令和6年)7月22日判決(地位確認等請求事件) | 駐輪場の管理員が,利用客とのトラブルについて,①上司の不法行為(使用者責任),②利用客から執拗なクレーム等を受けたのは会社の安全配慮義務違反によるとして,損害賠償を請求した。 | 請求をいずれも棄却。トラブルの発端が原告の言動にあった可能性は否定できないとし,原告が主張する被害自体を認めなかった。仮に被害があったとしても,会社は管理運営マニュアルを配付し,緊急連絡網を備え置いており,ポスター掲示等の追加措置を講ずべきだったとは認められないとした。 | マニュアルの整備と緊急連絡網があれば,追加措置まで当然に求められるわけではない。顧客の言動がカスハラに当たるかは,トラブルの経緯を含めて個別に判断される。 |
5件の裁判例では,会社側の体制整備(マニュアル,相談・連絡体制,通報手段,応援体制,事後対応)の有無と内容が,義務違反の判断に影響しています。改正法により措置が法的義務となった以上,同種の事案でも,整備状況がこれまで以上に問われる可能性があります。ただし,これは推測であり,施行後の裁判例は確認できていません。
7 指針(告示)の構成
この項の結論
指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は,1から7までの7つの区分で構成されています。原文は,官報又は厚生労働省のウェブサイトで確認してください。
指針は,事業主が講ずべき措置の内容を具体化するものです。構成は,次のとおりです。原文は「厚生労働省指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」で確認できます。
| 区分 | 項目 | 概要 |
|---|---|---|
| 1 | はじめに | 趣旨,根拠条文(改正法第33条第1項から第3項まで,第4項) |
| 2 | 職場におけるカスタマーハラスメントの内容 | 定義,3つの要素,「職場」「労働者」「顧客等」「就業環境が害される」の意義,典型例 |
| 3 | 事業主等の責務 | 事業主及び労働者の責務(改正法第34条) |
| 4 | 事業主が雇用管理上講ずべき措置の内容 | ⑴方針の明確化・周知・啓発,⑵相談体制の整備,⑶事後の迅速かつ適切な対応(再発防止を含む。),⑷抑止のための措置,⑸併せて講ずべき措置。消費者の権利,障害者差別解消法,各業法等への留意 |
| 5 | 他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力 | 協力を求められた場合の対応(努力義務。改正法第33条第3項) |
| 6 | 事業主が行うことが望ましい取組の内容 | 対応力向上のための研修,顧客等への理解を深める取組,運用状況の把握・見直し,業種・業態に応じた取組,他の事業主の労働者に対する言動を行わない旨の方針 |
| 7 | 自らの雇用する労働者以外の者に対する顧客等の言動に関し行うことが望ましい取組の内容 | 他の事業主の労働者や個人事業主等に対する顧客等の言動についても,同様の方針を示すこと,これらの者からの相談への対応 |
8 よくある誤解
この項の結論
「接客業だけが対象」「罰則がないので後回しでよい」といった理解は,行政指導と損害賠償のリスクを見落とすものです。
8-1 誤解1:対応が必要なのは接客業だけである
改正法は,業種を問わず,労働者を1人でも雇用する全ての事業主に適用されます。取引先の担当者や,企業間の契約交渉の担当者も「顧客等」に含まれるため,BtoB取引における過度な要求も,要件を満たせば対象となります(指針2⑷)。
8-2 誤解2:悪質なクレームには何をしてもよい
対処は,法令の範囲内で行う必要があります。指針は,消費者の権利,障害者差別解消法上の義務,各業法等によるサービス提供の義務に留意するよう求めています(指針4)。過剰な対応は,かえって紛争を拡大させたり,顧客等から違法を主張されたりするおそれがあります。判断の基準を明文化し,法務部門や弁護士に相談できる体制を整えることが重要です。
8-3 誤解3:罰則がないので対応を後回しにしてよい
措置義務違反そのものに対する罰則はありません。しかし,措置を怠れば,助言・指導・勧告の対象となり,勧告に従わなければ公表され得ます(5項)。労働者が,労働局による紛争解決の援助や調停を求めることもできます(5-1)。安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任も問題となり得ます(6項)。
9 自己点検チェックリスト
この項の結論
次の11項目のうち,「はい」と答えられない事項は,未整備のおそれがあります。
- 2026年(令和8年)10月1日に改正法が施行されたこと,及び自社が(業種・規模を問わず)対象の事業主であることを,経営層と管理職が認識しているか
- カスハラの定義(3つの要素)と,正当な申入れとの違いを,社内で説明できるか
- カスハラには毅然とした態度で対応し,労働者を保護する旨の方針を明確にし,管理監督者を含む労働者に周知・啓発しているか
- カスハラの内容と,あらかじめ定めた対処の内容を,管理監督者を含む労働者に周知しているか
- 相談窓口(担当者の指定,外部委託等)を定め,労働者に周知しているか。発生のおそれがある段階や,該当するか微妙な場合の相談も受け付けているか
- 窓口の担当者が適切に対応できるよう,関係部門との連携の仕組み,マニュアル,研修等を整えているか
- 事実関係の確認,被害者への配慮,再発防止の手順を定めているか
- 特に悪質な言動への対処方針(警察への通報,警告文の発出,サービス提供の停止,出入りの禁止,仮処分命令の申立て等)と,実施できる体制を整えているか。各業法や障害者差別解消法等に留意しているか
- 相談者等のプライバシーを保護する措置と,相談等を理由とする不利益取扱いをしない旨を,周知しているか
- 派遣労働者を受け入れている場合や,フリーランス・取引先との関係(望ましい取組,他の事業主からの協力の求め)を確認しているか
- 東京都など条例を施行する自治体に事業所がある場合,条例の内容を確認しているか
「いいえ」と答えた項目のうち,自社で進められるものと,弁護士への相談が有効なものの分け方は,11項で整理しています。
10 よくある質問(FAQ)
この項の結論
FAQでは,義務化の時期,対象,違反時の扱い,条例との関係,就業規則の改定の要否を整理します。
11 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
この項の結論
制度の内容の把握と未整備事項の洗い出しは,自社で進められます。規程の法令適合性の確認,抑止措置の発動の可否,個別の事案への対応は,事案ごとの判断が必要なため,弁護士への相談が有効です。
場面ごとに整理すると,次のとおりです。
| 場面 | 自社で進めやすいこと | 弁護士への相談が有効になりやすいこと |
|---|---|---|
| 規程・マニュアル | 未整備の項目を洗い出し,公表されているひな形を参考に原案を作る。 | 就業規則等の法令適合性や文言の妥当性を確認する。業種や契約関係に応じて,抑止措置の発動基準を検討する。 |
| 悪質な顧客への対応 | 言動の日時・内容を記録し,録音等を保全する。 | 警告書の発出,サービス提供の停止,出入りの禁止の可否と文面を,契約条項や関係法令に照らして判断する。必要に応じて,仮処分の申立てなどの法的措置も検討する。 |
| 従業員からの相談・被害申告 | 窓口で相談を受け付け,事実関係の確認と被害者への配慮を行う。 | 事案が難しい場合に,事実調査と証拠保全の進め方を決め,対応の相当性を評価する。他社から事実確認への協力を求められた場合の対応も,事案に応じて検討する。 |
右欄は,弁護士にしか行えない作業を示すものではありません。自社だけでは判断が難しい部分を示しています。
自社での判断が難しい場合は,個別の法律相談をご利用いただけます。カスハラ対策の運用や個別の事案への対応について継続的な助言が必要な場合は,顧問契約も選択肢となります。労務体制全般の整備については,「労務体制を整備し,企業を強くするためのサポートプラン」もご覧ください。
12 まとめ
2026年(令和8年)10月1日から,カスハラ防止措置は,労働者を1人でも雇用する全ての事業主の法的義務となっています。まず,9項のチェックリストで,自社の未整備事項を洗い出してください。次に,方針の明確化・周知と,相談窓口の設置・周知から着手し,事後対応の手順と,特に悪質な言動への対処方針を整えます。
措置義務違反そのものに対する罰則はありませんが,助言・指導・勧告,公表,労働局による紛争解決の援助や調停,安全配慮義務違反に基づく責任のリスクがあります。東京都など条例を施行する地域に事業所がある場合は,条例の内容も確認してください。
規程の法令適合性の確認や,個別の事案への対応は,事案ごとの判断が必要です。必要に応じて,専門家に相談してください。ハラスメント全般への対応は,「ハラスメントに関する取扱分野」でも整理しています。
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