カスハラ防止措置の義務化とは|2026年10月施行・対象事業者と4つの措置

カスハラ防止措置の義務化とは|2026年10月施行・対象事業者と4つの措置

~対象事業者・4つの措置義務・抑止措置を整理/実務対応は②実務編へ~

カスタマーハラスメント(カスハラ)防止措置は,2026年(令和8年)10月1日施行の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)により,労働者を1人でも雇用するすべての事業主に義務付けられます。厚生労働省の指針では,大きく4つの枠組み(計10項目)の措置に加え,対応の実効性を確保するための「抑止のための措置」を講じることが義務付けられています。具体的には,①方針の明確化・周知,②相談体制の整備,③事後の迅速かつ適切な対応,④併せて講ずべき措置(プライバシー保護・不利益取扱いの禁止)という4つの枠組みを柱とし,これにカスハラ特有の⑤「抑止のための措置」が加わります(厚生労働省指針・令和8年厚生労働省告示第51号)。罰則はありませんが,行政指導・企業名公表や,安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づく損害賠償責任のリスクは現実的です。東京都内で事業を行う場合は,2025年(令和7年)4月施行の東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(努力義務)も併せて適用されます。

※労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号,2025年(令和7年)6月11日公布,2026年(令和8年)10月1日施行。以下,改正後の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律を「改正法」といいます。)

厚生労働省指針(令和8年厚生労働省告示第51号,以下「指針」といいます。)

労働契約法第5条(安全配慮義務)

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和6年東京都条例第140号,2025年(令和7年)4月1日施行)

【この記事の結論】
  • 2026年(令和8年)10月1日から,労働者を1人でも雇用するすべての事業主にカスハラ防止措置が義務付けられます。
  • 法的根拠は改正法及び厚生労働省指針(令和8年厚生労働省告示第51号)です。
  • 事業主が講ずべき措置は,①方針明確化②相談体制整備③事後対応④不利益取扱い禁止の4つに,悪質顧客への抑止措置を加えたものです。
  • 罰則はありませんが,助言・指導・勧告及び企業名公表や安全配慮義務違反(労働契約法第5条)による損害賠償のリスクは現実的です。
  • 東京都内で事業を行う場合は,東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(努力義務)も併せて適用されます。具体的な準備の進め方は②実務編で解説します。

この記事はこんな方におすすめです

  • カスハラ防止措置制度をこれから導入しようとしている経営者の方や法務・人事の担当者の方
  • 自社が対象事業者に当たるか,何をいつまでに準備すべきか把握したい経営者の方や総務担当者の方
  • 東京都など先行する条例と改正法との関係を整理したい経営者の方や法務担当者の方
  • 措置義務に違反した場合の行政上・民事上のリスクを具体的に把握したい経営者の方や人事担当者の方

主要用語の定義

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは,顧客等の言動であって,業務の性質等に照らし社会通念上許容される範囲を超え,労働者の就業環境を害するものをいいます。

安全配慮義務とは,労働契約法第5条に基づき,使用者が労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働できるよう配慮する義務をいいます。

抑止措置とは,悪質な顧客等に対する警告・契約解除・出入り禁止・警察通報等,被害の継続や拡大を防ぐための対処をいいます。

努力義務とは,実施が望ましいとされるが法的強制力を伴わない義務をいい,法的義務とは,法律上の履行が求められ,違反した場合に行政指導等の対象となりうる義務をいいます。

1.カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

📌 この章の結論

カスハラは,①顧客等(利害関係者)による言動,②社会通念上許容される範囲を超えること,③就業環境が害されることの3要素をすべて満たす場合に成立します。ここでいう「顧客等」には,商品を購入する顧客や取引先だけでなく,施設利用者やSNS上の不特定多数も含まれます。また,守られるべき対象には自社の労働者だけでなく,インターンシップ生や求職者も含まれる点に注意が必要です。

カスタマーハラスメントとは,顧客,取引先,施設利用者その他の利害関係者が行う言動であって,業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超え,労働者の就業環境を害するものをいいます。次の3要素をすべて満たす場合に成立します。

  • 顧客・取引先・施設利用者等(SNS上の投稿者を含む。)による言動であること
商品・サービスを利用する者だけでなく,取引先や,SNSで接触する不特定多数も「顧客等」に含まれます。
  • 業務の性質等に照らし,社会通念上許容される範囲を超えていること
正当なクレームや,業務上想定される範囲内の苦情は,社会通念上相当な範囲にとどまる限りカスハラに該当しません。
  • 労働者の就業環境が害される(就業上看過できない支障が生じる)こと

自社の労働者に加え,派遣労働者,インターンシップ生,ボランティア等についても,雇用労働者と同様の保護措置を講じることが望ましいとされています。

特に「SNSの投稿者」など,業務の性質上,接触を避けることが困難な相手による言動も,企業が対策を講ずべき「カスハラ」に該当し得ます。正当なクレームとの境界は事案ごとの評価によるため,現場の従業員が一人で抱え込まないよう,判断基準をあらかじめ社内で明文化しておくことが実務上重要です。

1-1.典型的にカスハラに該当しうる例

  • 商品・サービスに明らかな欠陥がないにもかかわらず,交換や返金を強要する
  • 土下座など,社会通念上相当性を欠く謝罪方法を要求する
  • 長時間にわたり従業員を拘束し,威圧的な言動を繰り返す
  • SNS等への投稿をほのめかして従業員を威嚇する

1-2.カスハラに該当しにくい例

  • 商品・サービスの不備を具体的に指摘したうえで,相当な範囲の対応を求める
  • 声を荒げず,業務の性質上想定される範囲でクレームを伝える

両者の境界は事案ごとの評価によるため,判断基準を社内で明文化し,現場の従業員が独自に判断しなくてよい体制を整えることが重要です。

2.法改正の経緯と全体像

📌 この章の結論

改正法は2025年(令和7年)6月11日に公布され,2026年(令和8年)10月1日に施行されます。企業規模による適用除外はなく,労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象です。

改正法は2025年(令和7年)6月4日に成立し,同年6月11日に公布されました。義務化の施行日は2026年(令和8年)10月1日です。企業規模による適用除外はなく,労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象です。背景には顧客等からの迷惑行為の相談件数増加と自治体条例の先行制定があり,従来の自主的取組みが法的義務へ格上げされました。

2-1.これまでの経緯(時系列)

時期できごと
2019年労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律の改正によりパワハラ防止措置が新設(2020年施行,中小企業は2022年施行)
2022年2月厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」公表
2023年〜2024年東京都でカスハラ防止条例の検討が進行
2024年10月東京都カスタマー・ハラスメント防止条例が制定
2025年4月東京都条例施行(努力義務)
2025年6月11日改正法公布
2026年10月1日改正法施行,カスハラ防止措置が全事業主の法的義務に

3.東京都カスタマー・ハラスメント防止条例との関係

📌 この章の結論

東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(努力義務)は改正法(法的義務)と排他の関係になく,都内で事業を行う企業には双方が適用されます。

東京都では,2024年(令和6年)10月4日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(令和6年東京都条例第140号)が制定され,2025年(令和7年)4月1日から施行されています。業種を限定せずカスハラを正面から規律する条例としては全国初であり,同時期に北海道・群馬県でも同様の条例が施行されています。

条例は,①何人もカスハラを行ってはならないとする禁止規定(条例第4条),②都・顧客等・就業者・事業者の責務,③防止指針(ガイドライン)の策定という3つの柱で構成されます。事業者に対しては,相談体制の整備,被害を受けた就業者への配慮,防止のための手引の作成等を求めていますが,条例第14条の文言は「講ずるよう努めなければならない」という努力義務にとどまり,罰則規定もありません。

これに対し,2026年(令和8年)10月1日施行の改正法は,全国一律ですべての事業主に雇用管理上の措置を講じることを法的義務として課します。両者は優劣・排他の関係ではなく,東京都内で事業を行う企業には条例と法律の双方が適用されます。条例(先行施行・努力義務)を土台に,法改正(全国一律・法的義務)でより強い規範が上乗せされた,と理解するのが実務的です。実務上は,条例に基づき都が公表した指針や「カスタマーハラスメント対策マニュアル(ひな形)」の内容が,法改正後の具体的な措置内容を検討するうえでも参考になります。

【要確認】 東京都以外にも同種の条例を施行する自治体(北海道,群馬県等)があり,今後拡大する可能性があります。自社の事業所所在地における条例の有無は,各自治体の公表資料で個別に確認していただくほか,当事務所の弁護士等の専門家にご相談ください。

4.事業主に課される4つの措置義務と抑止措置

📌 この章の結論

改正法は,①方針明確化②相談体制整備③事後対応④不利益取扱い禁止の4つの措置義務に加え,カスハラ特有の「抑止のための措置」を課しています。

改正法は,①方針の明確化・周知,②相談体制の整備,③事後の迅速な対応,④プライバシー保護・不利益取扱いの禁止という4つの措置義務を課しています。加えて,パワハラ対策にはない「抑止のための措置」(悪質な顧客への警告文発出・契約解除・出入り禁止・警察通報等の事前策定)も新設されました。自社の労働者が他社の労働者にカスハラを行った場合に協力を求められたら応じる努力義務もあり,派遣先事業主やフリーランスとの関係にも別途対応が必要です。

4-1.①方針の明確化・周知

就業規則や服務規律に,顧客等からの不当な言動に対して会社が組織的に対応する旨の方針を明記し,社内掲示・研修等を通じて全従業員に周知することが求められます。方針が不明確なままでは,現場の従業員が独自の判断で対応せざるを得なくなり,対応のばらつきや二次被害を招くおそれがあります。

4-2.②相談体制の整備

相談窓口をあらかじめ定め,労働者に周知するとともに,窓口担当者が内容や状況に応じて適切に対応できる体制(関係部門との連携,マニュアル整備等)を構築する必要があります。詳細な設計方法は②実務編3章で解説します。

4-3.③事後の迅速かつ適切な対応

事実関係を迅速かつ正確に確認し,被害を受けた労働者への配慮(メンタルヘルスケア,配置転換等)を行うとともに,同種事案の再発防止策を講じることが求められます。

4-4.④プライバシー保護・不利益取扱いの禁止

相談者・行為者等のプライバシーを保護するための措置を講じて周知するとともに,相談や事実確認への協力を理由とした不利益な取扱いを禁止し,その旨を周知・啓発することが求められます。

4-5.抑止のための措置(カスハラ対策特有の規定)

過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられる言動への対処方針をあらかじめ定め,労働者に周知し,実施できる体制を整備する必要があります。告示に示された具体的な抑止措置には,以下の5項目が含まれます。

  1. 警察への通報(暴行,傷害,脅迫等の犯罪該当性が疑われる場合)
  2. 行為者に対する警告文の発出
  3. 商品の販売・サービスの提供停止(法令の制限内において)
  4. 店舗・施設等への出入り禁止
  5. 民事保全法に基づく仮処分命令の申立て

抑止措置の発動フローの詳細は「カスハラ防止措置の実務対応|相談窓口・就業規則の設計手順」3章を,警告文の文例は「カスハラ対応文例集|警告書・契約解除通知・示談書・就業規則のひな形」3章をご覧ください。

4-6.比較表:措置義務の整理

区分措置の名称主な内容実務対応例根拠
法的義務①方針明確化カスハラに毅然と対応する方針の明確化・周知就業規則への明記,社内掲示,管理職・従業員研修の実施改正法第33条第1項
法的義務②相談体制相談窓口の設置と適切に対応できる体制の整備窓口担当者の選任,対応マニュアル(一次・二次)の整備改正法第33条第1項,指針51号
法的義務③事後対応事実関係の迅速な確認と被害者への配慮配置転換,メンタルヘルスケア,再発防止策の策定改正法第33条第1項,指針51号
法的義務④不利益禁止等プライバシー保護と相談を理由とする不利益取扱いの禁止相談者情報の秘匿,不利益取扱い禁止規定の周知改正法第33条第2項
法的義務⑤抑止措置特に悪質な言動への対処方針策定・体制整備警告文,サービス提供停止,出入り禁止,警察通報,仮処分申立て改正法第33条第1項,指針51号
努力義務他社との協力他社の労働者へのカスハラに関する協力依頼への対応事実確認への協力,自社労働者への指導,加害時の懲戒検討改正法第33条第3項

4-7.他社からの協力依頼への対応(努力義務)

自社の労働者が他社の労働者に対してカスハラを行った疑いがある場合,相手方の事業主から事実確認等の協力を求められたときは,これに応じるよう努めなければなりません(改正法第33条第3項)。これは,取引先企業との健全な関係維持や,社会全体でのカスハラ防止を目的としています。

5.行政指導・企業名公表のプロセス

📌 この章の結論

措置義務違反に対しては,報告徴収→助言・指導→勧告→企業名公表という段階的な行政対応が想定されます。いきなり公表される制度ではありません。

措置義務に違反した事業主に対しては,既存のパワハラ・セクハラ防止規定と同様の構造で,行政による助言・指導・勧告,及び勧告に従わない場合の企業名公表という段階的な手続が想定されます。

  1. 報告徴収:都道府県労働局が,事業主に対し措置の実施状況について報告を求めることができる。
  2. 助言・指導:報告内容や相談状況を踏まえ,労働局が是正のための助言・指導を行う。
  3. 勧告:指導によっても改善が見られない場合,労働局長が是正を勧告する。
  4. 企業名公表:勧告に従わない場合,その旨が公表される可能性がある。

カスハラ防止措置に関する行政指導・公表の具体的な運用(公表の基準,実施頻度等)は,施行後の運用実績が乏しく,既存のパワハラ防止規定における運用実績からの類推にとどまります。

6.損害賠償責任の考え方

📌 この章の結論

措置義務違反そのものを理由とする損害賠償請求権が労働者に直接認められるわけではありませんが,措置を怠った結果として労働者に損害が生じた場合は,安全配慮義務違反等に基づく損害賠償請求のリスクが生じます。

措置義務違反そのものを理由とする損害賠償請求権が労働者に直接認められるわけではありませんが,措置を怠った結果として労働者に損害が生じた場合には,安全配慮義務違反(労働契約法第5条,民法第415条)や不法行為(民法第709条,第715条)に基づく損害賠償請求のリスクが生じます。

カスハラの損害賠償額には,交通事故のような一律の算定基準が存在しません。認定される金額は,単なる精神的苦痛に対する慰謝料(一般的な傾向としては数万〜数十万円程度)から,カスハラを主因としてうつ病等の精神疾患を発症した場合の数千万円規模の賠償まで,被害の深刻さと企業の過失(安全配慮義務違反の程度)によって極端に異なります。また,実務上は「紛争の早期解決」や「レピュテーションリスクの回避」を目的として,法的な適正額に一定の調整額を上乗せして解決を図ることも多く,対外的な「相場」として示すことは困難です。

したがって,企業としては「いくら払えば済むか」という視点ではなく,紛争化自体を防ぐための体制整備に注力すべきです。

7.指針(告示)の構成

📌 この章の結論

厚生労働省指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は,趣旨,カスハラの内容,事業主が講ずべき措置,望ましい取組の4部構成です。原文は必ず官報又は厚生労働省ウェブサイトで確認してください。

指針は,事業主が講ずべき措置の内容を具体化するものであり,大要,次のような構成となっています。

構成項目概要
第1趣旨指針の目的,策定の背景
第2カスタマーハラスメントの内容定義,3要素(顧客等,社会通念,就業環境),該当性の判断基準,該当例・非該当例
第3事業主が雇用管理上講ずべき措置の内容方針の明確化,相談体制の整備,事後の迅速・適切な対応(再発防止含む)
第4実効性を確保するための抑止措置悪質事案への対処方針(警告・サービス停止・出禁・警察通報等)の策定義務
第5併せて講ずべき措置プライバシー保護,不利益取扱いの禁止の徹底
第6職場における顧客等の言動に関し行うことが望ましい取組他社との協力,フリーランス・就職活動生への配慮,研修の実施(努力義務)

8.よくある誤解

📌 この章の結論

「接客業だけが対象」「罰則がないので後回しでよい」といった誤解は,行政指導・損害賠償のリスクを見落とすものであり,是正が必要です。

8-1.誤解1:対応が必要なのは接客業だけである

改正法は業種を問わず,労働者を1人でも雇用するすべての事業主に適用されます。BtoB取引先からの過度な要求も対象となりえます(③業種別対応編6章参照)。

8-2.誤解2:悪質なクレームには何をしてもよい

抑止措置は法令の範囲内で行う必要があります。過剰な対応(名誉毀損,威力業務妨害の逆主張を招く対応等)はかえって紛争を拡大させるおそれがあるため,判断基準の明文化と法務部門・弁護士への相談体制が重要です。

8-3.誤解3:罰則がないので対応を後回しにしてよい

直接の罰則(刑罰)はないものの,措置を怠った場合は厚生労働大臣(労働局)による助言・指導・勧告の対象となります。勧告に従わない場合には企業名が公表される仕組みとなっており,さらに安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任のリスクも現実的です(5章参照)。

9.自己点検チェックリスト

  • 施行日(2026年(令和8年)10月1日)と自社が対象事業者であることを認識しているか
  • カスハラの定義(3要素)と4つの措置義務・抑止措置の内容を把握しているか
  • 東京都内(又は同種条例を施行する自治体)に事業所がある場合,条例上の努力義務の内容も確認しているか
  • 派遣労働者・フリーランスとの取引がある場合の追加的な義務を確認しているか
  • 「悪質なクレームには何をしてもよい」といった誤解が社内に生じていないか確認しているか

10.よくある質問(FAQ)

Q1.カスハラ対策はいつから義務化されますか。
A.2026年(令和8年)10月1日です。改正法(令和7年法律第63号,2025年(令和7年)6月11日公布)に基づきます。
Q2.従業員が少ない中小企業も対象ですか。
A.対象です。企業規模による適用除外はなく,労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象です。
Q3.対応を怠るとどうなりますか。
A.直接の罰則はありませんが,行政の勧告・企業名公表や,安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任のリスクがあります。
Q4.東京都カスハラ防止条例と改正法はどちらに従えばよいですか。
A.東京都内で事業を行う場合は両方の適用を受けます。法律は法的義務ですが,東京都条例第14条に基づく措置は「努力義務」にとどまります。実務上は,法律の基準(5つの措置)を整備することで,条例の要請も概ね満たすことができますが,条例独自のガイドラインも併せて確認することが推奨されます。
Q5.就業規則は必ず改定しなければなりませんか。
A.法律上,就業規則の改定そのものが直接義務付けられているわけではありませんが,事業主の方針(毅然とした対応等)を周知する義務を果たすため,就業規則等への明記が最も有効かつ推奨される手段です。規定例は④文例集をご覧ください。
Q6.抑止措置とは具体的に何をすればよいですか。
A.悪質な顧客への警告文発出,契約解除,出入り禁止,警察通報等の対応方針をあらかじめ定め,実施できる体制を整えることです。発動フローの詳細は②実務編4章をご覧ください。
Q7.施行日前から対応を始めるべきですか。
A.就業規則の改定や相談窓口の設計には一定の準備期間を要するため,施行日を待たず早期に着手することをお勧めします。進め方は②実務編2章をご覧ください。
Q8.措置義務に違反すると,いきなり企業名が公表されますか。
A.原則として,助言・指導を経て,改善が見られない場合の「勧告」に従わなかったときに,その旨が公表される段階的な手続となります(改正法第33条,5章参照)。
Q9.海外に本社がある日本子会社も対象になりますか。
A.日本国内で労働者を雇用し,その指揮命令の下で就業させている事業主である限り,本社の所在地にかかわらず日本の労働法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)が適用されます。
Q10.指針の全文はどこで確認できますか。
A.厚生労働省が官報告示(令和8年厚生労働省告示第51号)及び特設ウェブページで指針を公表しています。最新の内容は厚生労働省のウェブサイトでご確認ください。

11.弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング

📌 この章の結論

条文番号や指針の細目が未確定な現段階では,就業規則・規程の文言確定,抑止措置の発動基準の設計,東京都条例との適用関係の整理といった場面で,早期の専門家関与が有効です。

制度の内容そのものは本記事及び厚生労働省の公表資料で把握できますが,次のような場面では弁護士への相談を検討することをお勧めします。

  • 就業規則・雇用契約書に反映する具体的な文言を確定させたい場面
  • 抑止措置(警告・契約解除・出入り禁止等)の発動基準を自社の業種・実情に即して設計したい場面
  • 東京都など条例先行地域における条例と改正法の適用関係を整理したい場面
  • 派遣労働者・インターンシップ生・ボランティア等に対する,雇用労働者と同等の保護措置の実施(義務的側面)
  • フリーランス(特定受託事業者)や他社の労働者に対するカスハラ防止のための「望ましい取組(努力義務)」の設計
  • 自社労働者が他社でカスハラを行った際の,他社からの事実確認依頼への協力体制の構築

具体的な実務対応の進め方は「カスハラ防止措置の実務対応|相談窓口・就業規則の設計手順」で,業種別の当てはめ例は「業種別カスハラ対応マニュアル|小売・医療・コールセンター等の実務ポイント」で,就業規則の規定例・警告文の文例は「カスハラ対応文例集|警告書・契約解除通知・示談書・就業規則のひな形」で説明しています。

12.まとめ

カスハラ防止措置は,2026年(令和8年)10月1日の施行に向け,①方針の明確化(就業規則等),②相談体制の整備,③事後対応フローの構築,④不利益取扱いの禁止,⑤抑止措置(警告・出禁等)という5つの義務を優先的に整備することが求められます。罰則がない制度であっても,行政指導(助言・指導・勧告)や企業名公表,さらには安全配慮義務違反による損害賠償のリスクは現実的です。早期の着手は,これらの法的リスクを抑えるだけでなく,従業員の離職防止や生産性向上,企業としてのレピュテーション(評判)維持にもつながります。

労働者を1人でも雇用するすべての事業主が義務化の対象となるため,まずは自社の現状を点検し,②実務編の実務対応ステップに沿って準備を進めることをお勧めします。特に東京都などの条例先行地域に事業所がある場合は,2026年(令和8年)10月の法律施行に先立ち,条例上の努力義務への対応も併せて確認が必要です。

免責事項

本記事は,掲載時点の法令,指針,裁判例等に基づき,一般的な法的情報を提供することを目的として作成しています。個別の事案では,事実関係や証拠等によって結論が異なるため,本記事は法的助言を目的とするものではありません。また,法令の改正,裁判例の変更等により,掲載内容が変更される場合があります。具体的な事案については,当事務所の弁護士へお気軽にご相談ください。

執筆・監修

日本橋法律特許事務所 代表弁護士 中山泰章(第二東京弁護士会所属)

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