懲戒処分の手続で企業が注意すべきポイント|裁判例と就業規則を踏まえて

~弁明の機会・減給制限・証拠管理など懲戒処分を行う場合の企業側の実務対応を解説~

 無断欠勤,情報漏えい,職務怠慢,ハラスメント行為等が発生した場合,企業としては,企業秩序を維持するために懲戒処分を検討する必要があります。しかし,懲戒処分は,問題行為があったというだけで自由に行えるものではありません。就業規則上の根拠,懲戒事由に該当する事実,処分の相当性に加え,事実調査,事情聴取,弁明の機会の付与,処分理由の特定等について適切な手続を踏むことが重要です。特に懲戒解雇等の重大な処分では,手続や証拠に問題があると,処分が無効と判断される可能性があります。本記事では,裁判例を踏まえ,企業が懲戒処分を行う場合の実務上の注意点を解説します。

【この記事の結論】
  • 懲戒処分を行うためには,就業規則上の懲戒事由・処分の根拠を確認するとともに,その就業規則が従業員に周知されていることを確認する必要があります。
  • 懲戒処分は,労働契約法15条により,「客観的に合理的な理由」を欠き,又は「社会通念上相当」でない場合には,懲戒権の濫用として無効となります。
  • 問題行為が疑われた場合には,処分を先に決めるのではなく,メール,チャット,録音,勤怠記録,関係者の供述等の証拠を保全し,客観的に事実関係を調査することが重要です。
  • 懲戒処分を行う前には,原則として対象従業員に具体的な問題行為を示し,実質的な弁明の機会を与えて,その内容を記録しておくことが重要です。
  • 懲戒処分後に別の事実を発見しても,それを後から処分理由として追加できるとは限りません。処分前に懲戒事由を特定し,処分通知書に明確に記載することが重要です。

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主要用語の定義

懲戒処分とは,従業員の企業秩序違反等に対して,使用者が就業規則等に基づいて行う制裁措置をいいます。戒告・譴責,減給,出勤停止,降格,諭旨解雇,懲戒解雇等があります。

懲戒権の濫用とは,懲戒処分について客観的に合理的な理由を欠き,又は社会通念上相当でないため,労働契約法15条により無効となる場合をいいます。

弁明の機会とは,懲戒処分を決定する前に,対象従業員に問題とされている事実を示し,その事実関係や処分について説明・反論する機会を与えることをいいます。

1.懲戒処分とは

📌 この章の結論

 懲戒処分は,企業秩序を維持するために認められる措置ですが,使用者が自由に行えるものではありません。就業規則上の根拠,懲戒事由に該当する事実,処分の相当性及び適正な手続を確認する必要があります。

1-1.懲戒処分が問題となる典型的な場面

 無断欠勤,情報漏えい,職務怠慢,ハラスメント,業務命令違反,経歴詐称,横領等が発覚した場合,企業として懲戒処分を検討することがあります。

 もっとも,「問題行為があった」という事実だけで,当然に懲戒処分が有効になるわけではありません。就業規則上の根拠や処分の相当性等を確認する必要があります。

1-2.懲戒処分が無効になると企業に大きな影響が生じる

 特に懲戒解雇が無効と判断された場合には,従業員としての地位が存続していることを前提として,解雇後の賃金の支払いを求められる場合があります。

 また,懲戒権の行使が不法行為と評価された場合には,損害賠償責任が問題となることもあります。そのため,懲戒処分は処分決定前の段階から慎重に進めることが重要です。

2.懲戒処分の種類と法的有効要件

📌 この章の結論

 懲戒処分には戒告・譴責から懲戒解雇まで複数の種類があります。処分が重くなるほど,懲戒事由の重大性,証拠の確実性及び処分の相当性について慎重な検討が必要になります。

2-1.懲戒処分の種類

  1. 戒告・譴責(けん責):比較的軽い処分であり,将来を戒め,始末書等の提出を求める場合があります。
  2. 減給:賃金から一定額を減額する処分です。労働基準法91条による制限に注意する必要があります。
  3. 出勤停止:一定期間の出勤を禁止する処分です。出勤停止期間が長くなるほど処分の相当性が問題となります。
  4. 降格:役職・職位等を引き下げる処分です。賃金の低下を伴う場合には,就業規則上の根拠等を慎重に確認する必要があります。
  5. 懲戒解雇:最も重い懲戒処分です。従業員の地位を失わせる重大な効果を伴うため,特に慎重な判断が求められます。

2-2.懲戒権の根拠と有効性

 労働契約法15条は,懲戒について,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合には,権利を濫用したものとして無効としています。

  • 就業規則上の根拠:懲戒の種類と懲戒事由があらかじめ定められているか
  • 懲戒事由該当性:問題行為が就業規則の懲戒事由に実際に該当するか
  • 処分の相当性:問題行為の内容・程度と処分の重さが均衡しているか
  • 公平性:同種事案について過去の処分例と著しく異なる取扱いとなっていないか

2-3.就業規則の周知

 就業規則に懲戒規程が記載されているだけでなく,その就業規則が従業員に周知されていることも重要です。フジ興産事件最高裁判決は,就業規則が法的規範として拘束力を生ずるためには,その内容を適用対象となる事業場の労働者に周知させる手続が採られていることが必要であるとしています。

【減給処分の上限に注意】
労働基準法91条では,減給の制裁について,1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え,総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならないとされています。

3.懲戒処分を行う場合の初動対応

📌 この章の結論

 問題行為が発覚した場合に重要なのは,直ちに処分内容を決めることではなく,証拠を保全し,関係者から事情を聴取して,客観的な事実関係を確定することです。

3-1.関係資料・証拠を保全する

 メール,社内チャット,勤怠記録,防犯カメラ映像,録音,業務日報,報告書等,問題行為に関係する資料を速やかに保全します。

3-2.関係者から事情聴取を行う

 被害申告者,目撃者,上司その他の関係者から事情を聴取し,できる限り客観的な資料と供述を照合します。事情聴取の内容については,後日の紛争に備えて記録を残すことが重要です。

3-3.対象従業員からも事情を確認する

 処分対象者についても,一方的に事実を決めつけるのではなく,本人の認識や反論を確認します。対象従業員の説明によって新たな証拠や関係者が判明する場合もあります。

4.企業が陥りやすい手続上のリスク

📌 この章の結論

 懲戒処分では,事実調査の不足,弁明機会の不付与,処分理由の後付け等が大きなリスクとなります。処分内容だけでなく,処分に至るプロセスそのものを適正に設計することが重要です。

4-1.事実調査が不十分なまま処分する

 懲戒事由に該当する事実について十分な証拠がないまま処分すると,後日の労働審判・訴訟で懲戒事由の存在を立証できない可能性があります。

4-2.弁明の機会を与えない

 就業規則に弁明手続が定められている場合には,原則としてその手続に従う必要があります。また,規定がない場合でも,対象従業員に実質的な弁明の機会を与えることが重要です。

4-3.処分後に理由を追加する

 処分後に新たな問題行為が判明したからといって,それを当然に既に行った懲戒処分の理由として追加できるわけではありません。処分決定前に懲戒事由を整理・特定することが重要です。

4-4.問題行為に比べて重すぎる処分を選択する

 問題行為が認められても,その程度に比べて処分が重すぎれば,社会通念上の相当性を欠くとして無効となる可能性があります。行為の内容,結果,故意・過失,反復性,過去の処分歴,反省の有無等を総合的に検討します。

5.裁判例に学ぶ懲戒処分の有効・無効の分岐点

📌 この章の結論

 裁判例では,問題行為の有無だけでなく,その重大性,処分との均衡,事実調査及び弁明手続等が総合的に審査されています。

5-1.懲戒解雇が有効とされた裁判例

東京地方裁判所2015年(平成27年)11月11日判決(内部告発・懲戒解雇事案)
ガソリン販売に関する会社の不正を告発した従業員が懲戒解雇された事案です。裁判所は,内部告発の正当性について,告発内容の真実相当性,目的の公益性,手段の相当性等を検討し,本件では懲戒解雇を有効と判断しました。
東京地方裁判所2019年(令和元年)5月29日判決(大学准教授・減給処分事案)
准教授による女子学生への言動等を理由として減給処分が行われた事案です。裁判所は,学生への影響,大学のハラスメント防止方針,本人の態度等を考慮し,減給処分を有効と判断しました。

5-2.懲戒処分が無効とされた裁判例

徳島地方裁判所2021年(令和3年)9月15日判決(上司の監督義務違反・戒告処分事案)
部下の飲酒運転ひき逃げ事故について,上司が監督義務違反を理由に戒告処分を受けた事案です。裁判所は,上司が当時病気休暇中であったこと等から監督義務違反を否定し,戒告処分を無効と判断しました。
東京地方裁判所2021年(令和3年)9月7日判決(弁明機会不付与・譴責処分事案)
従業員に対する譴責処分について,弁明の機会が与えられていなかったこと等が問題となった事案です。裁判所は,手続上の問題を重視し,譴責処分を懲戒権の濫用として無効と判断しました。
【形式だけの事情聴取では不十分】
弁明の機会を設ける場合には,単に面談を行ったという形式だけでなく,対象従業員に問題とされている事実を理解させ,実質的に説明・反論できる機会を確保することが重要です。

6.懲戒処分を行う場合の実務対応ステップ

📌 この章の結論

 懲戒処分は,証拠保全→事実調査→就業規則の確認→本人への事情聴取・弁明→処分内容の検討→処分通知,という順序で進めると整理しやすくなります。

  1. 関係資料を保全する:メール,チャット,録音,勤怠記録,報告書等を保全します。
  2. 関係者から事情聴取する:被害申告者,目撃者,上司その他の関係者から事情を確認します。
  3. 就業規則を確認する:問題行為がどの懲戒事由に該当するか,どの処分を選択できるかを確認します。
  4. 対象従業員に弁明の機会を与える:問題となっている事実を示した上で,本人の説明・反論を確認し,記録を残します。
  5. 処分の相当性を検討する:問題行為の重大性,結果,故意・過失,過去の処分例等を踏まえて処分内容を決定します。
  6. 処分通知書を交付する:懲戒事由,根拠となる就業規則の条項及び処分内容等を明確にします。

7.懲戒手続・就業規則を見直すポイント

📌 この章の結論

 懲戒トラブルを防止するためには,個別事案への対応だけでなく,就業規則上の懲戒事由,社内調査,弁明手続,処分決定及び記録保存までを一連の社内フローとして整備することが重要です。

7-1.就業規則・懲戒規程を見直す

  • 懲戒の種類が明確に定められているか
  • 懲戒事由が具体的に定められているか
  • ハラスメント,情報漏えい,SNS上の問題行為等に対応できる内容となっているか
  • 減給処分の内容が労働基準法91条に適合しているか
  • 就業規則が全従業員に適切に周知されているか

7-2.懲戒手続を明文化する

  • 問題発覚時の報告先が決まっているか
  • 証拠保全の方法が決まっているか
  • 事情聴取を誰が担当するか決まっているか
  • 対象従業員への弁明手続が整備されているか
  • 懲戒委員会等による処分決定の手続が明確になっているか
  • 処分通知書や事情聴取記録の保存方法が決まっているか

8.弁護士に相談するメリットと当事務所のサポート内容

📌 この章の結論

 懲戒処分では,事実認定,証拠評価,就業規則の解釈,懲戒事由該当性,処分の相当性及び手続の適法性について複数の法的判断が必要です。処分決定前から弁護士に相談することで,無効リスクを抑えながら適切な対応を進めることができます。

  • 懲戒事案発生時の初動対応・事実調査の方針策定
  • メール・チャット・録音・勤怠記録等の証拠整理
  • 関係者・対象従業員への事情聴取方法についての助言
  • 弁明手続への同席と記録作成の支援
  • 懲戒事由該当性及び処分の相当性についての法的検討
  • 戒告・譴責,減給,出勤停止,降格,懲戒解雇等の処分選択についての助言
  • 処分通知書,始末書その他の関係書面の作成・確認
  • 就業規則・懲戒規程の点検・改訂
  • 労働審判・訴訟を申し立てられた場合の代理対応

 日本橋法律特許事務所では,問題行為が発覚した段階の初動対応から,証拠保全,事実調査,事情聴取,弁明手続,懲戒処分の選択,処分通知書の作成,さらに労働審判・訴訟への対応及び再発防止のための就業規則・懲戒規程の見直しまで,企業側の立場から一貫してサポートいたします。

9.よくある質問(FAQ)

Q.従業員が問題行為を認めていれば,すぐに懲戒処分をしてもよいですか。
A.問題行為を認めている場合でも,就業規則上の懲戒事由に該当するか,処分の重さが相当か等を確認する必要があります。また,後日の紛争に備えて,本人の説明内容や関係資料を記録・保全しておくことが重要です。
Q.就業規則に書かれていない行為でも懲戒処分できますか。
A.懲戒処分には就業規則上の根拠が必要となるため,問題となる行為が既存の懲戒事由に該当するかを慎重に検討する必要があります。
Q.懲戒処分の前には必ず弁明の機会を与える必要がありますか。
A.特に就業規則等に弁明手続が定められている場合には,その手続を遵守することが重要です。規定がない場合でも,事実認定の正確性と手続の適正性を確保する観点から,対象従業員に実質的な説明・反論の機会を与えることが望まれます。
Q.減給処分では会社が自由に減給額を決められますか。
A.いいえ。減給の制裁には労働基準法91条による上限があります。就業規則の規定だけでなく,実際に行う減給額が法定上限を超えていないか確認する必要があります。
Q.懲戒処分を通知した後に別の問題行為が発覚した場合,処分理由として追加できますか。
A.後から判明した事実を,既に行った懲戒処分の理由として当然に追加できるとは限りません。そのため,処分前に十分な調査を行い,処分理由となる事実を特定しておくことが重要です。
Q.懲戒解雇を検討している段階でも弁護士に相談できますか。
A.はい。むしろ懲戒解雇を決定・通知する前の段階で相談することが重要です。証拠,懲戒事由該当性,処分の相当性,弁明手続等を確認した上で,懲戒解雇以外の処分を含めて対応方針を検討できます。

実務チェックリスト

  • 問題行為に関するメール・チャット・録音・勤怠記録等を保全したか
  • 被害申告者・目撃者その他の関係者から事情を聴取したか
  • 事情聴取の内容を記録として残したか
  • 対象従業員本人から事情を確認したか
  • 就業規則上の懲戒事由に該当するか確認したか
  • 就業規則が従業員に周知されているか確認したか
  • 対象従業員に実質的な弁明の機会を与えたか
  • 同種事案について過去の処分例を確認したか
  • 問題行為と処分の重さが均衡しているか検討したか
  • 処分理由となる事実を処分前に特定したか
  • 処分通知書に懲戒事由・根拠条文・処分内容を明記したか
  • 懲戒解雇等の重大な処分を決定する前に弁護士へ相談したか

10.まとめ

 懲戒処分は,企業秩序を維持するために必要な措置ですが,問題行為が存在するというだけで当然に有効となるものではありません。就業規則上の根拠を確認し,客観的な証拠に基づいて事実関係を確定した上で,問題行為と処分の重さが均衡しているかを慎重に検討する必要があります。

 また,対象従業員への事情聴取・弁明の機会の付与,処分理由の特定,処分通知書の作成等の手続も重要です。特に懲戒解雇等の重大な処分では,処分後に問題を修正することが困難な場合があります。個別の懲戒事案への対応だけでなく,就業規則・懲戒規程及び社内の調査・処分手続を平時から整備しておくことが,紛争予防につながります。

免責事項

 本記事は,掲載時点の法令,指針,裁判例等に基づき,一般的な法的情報を提供することを目的として作成しています。個別の事案では,事実関係や証拠等によって結論が異なるため,本記事は法的助言を目的とするものではありません。また,法令の改正,裁判例の変更等により,掲載内容が変更される場合があります。具体的な事案については,当事務所の弁護士へお気軽にご相談ください。

執筆・監修

日本橋法律特許事務所 代表弁護士 中山泰章(第二東京弁護士会所属)

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