〜2026年4月施行の改正医療法に対応した,実施条件と届出・導入手続き〜
病院・診療所は,医療法が定める基準と国の指針に従う限り,オンライン診療を実施できます。2026年(令和8年)4月1日に,オンライン診療を医療法上の制度として位置づける改正が施行され,実施の前提として,基準への適合と開設者による届出の確認が必要になりました。本記事は,実施の可否,初診と処方の制限,導入の手続き,医療法上と診療報酬上の届出の違い,医療機関が負う法的リスクを整理します。病院・クリニックに共通する法務の全体像は,病院・クリニックの法務のページで整理しています。
- 病院・診療所は,医療法第14条の3に基づく基準と,国の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に従う限り,オンライン診療を実施できます。前提は映像と音声のリアルタイムの送受信であり,電話のみ,メール・チャットのみの診療は,医療法上のオンライン診療に当たりません(医療法第2条の2第1項)。
- 初診からのオンライン診療も可能ですが,原則として「かかりつけの医師」が行い,かかりつけの医師以外が行う場合は事前に診療前相談を行います。初診など,その症状等について対面診療を経ていない場合は,麻薬及び向精神薬を処方できず,基礎疾患等の情報を把握できていない患者には,特に安全上の管理が必要な医薬品の処方と,8日分以上の処方も行えません(医療法施行規則第9条の6の13第3項)。
- 2026年(令和8年)4月1日以降,オンライン診療を行う病院・診療所の開設者は,その旨を届け出る必要があります(医療法施行規則第3条第1項第5号)。同日時点で既に実施している場合は,2027年(令和9年)3月31日まで,この事項の変更届が不要です(改正省令附則第3条)。
- 保険診療として実施する場合は,医療法上の届出とは別に,診療報酬の施設基準を満たして地方厚生(支)局へ届け出る必要があります。2026年(令和8年)6月1日適用の施設基準では,ウェブサイトへの掲示などが求められます。
- 管理者には,医師への指導,基準に適合している旨のウェブサイト等での公表,受診施設の基準適合の確認など,オンライン診療を基準に適合させる措置を講じる義務があります(医療法第14条の4)。患者の同意書を得ても,医師や医療機関の注意義務が代替されるわけではないと当事務所は考えます。
- 導入の手順は4項,医療法上と診療報酬上の届出の違いは5項,導入前の自己点検は9項で確認できます。
目次
- 1 オンライン診療を実施できる根拠と条件
- 2 初診からのオンライン診療
- 3 オンライン診療での処方の制限
- 4 オンライン診療を始めるための手続き
- 5 医療法上の届出と診療報酬上の届出の違い
- 6 オンライン診療受診施設の制度
- 7 医療機関が注意すべき法的リスク
- 8 よくあるNG対応
- 9 導入前のチェックリスト
- 10 よくある質問(FAQ)
- 11 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
- 12 まとめ
根拠法令・参照資料
※医療法(昭和23年法律第205号)。2025年(令和7年)12月12日に公布された「医療法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第87号。以下「改正法」といいます。)による改正後の規定を指します。オンライン診療に関する部分は,2026年(令和8年)4月1日に施行されました。
医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)及び,医療法施行規則等の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第46号,2026年(令和8年)3月27日。以下「改正省令」といいます。)
令和8年3月27日付け医政発0327第5号「医療法等の一部を改正する法律の一部の施行等について(オンライン診療関係)」(以下「施行通知」といいます。)
「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(平成30年3月策定,令和8年4月改訂。令和8年4月2日付け医政発0402第3号。以下「指針」といいます。)
令和8年3月5日付け保医発0305第7号「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」(以下「施設基準通知」といいます。)及び同日付け保医発0305第6号「診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について」(以下「留意事項通知」といいます。)
令和8年3月27日付け事務連絡「医療法等の一部を改正する法律の一部の施行等について」(厚生労働省医政局総務課。以下「事務連絡」といいます。)
医師法(昭和23年法律第201号)第20条,麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年法律第14号)第2条第1項第1号・第6号,個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条第3項
上記は,2026年(令和8年)10月12日時点で確認した内容に基づきます。個別の診療報酬項目の点数,届出様式及び自治体ごとの提出方法は,実施時点の通知等で確認してください。
この記事はこんな方におすすめです
- オンライン診療の導入を検討している,病院・クリニックの開設者,院長,事務長の方
- 初診や処方の制限を踏まえ,自院で実施できる範囲を確認したい,医師や管理者の方
- 医療法上の届出と診療報酬上の届出の違いを整理したい,事務部門や法務の担当者の方
- システム事業者や受診施設との契約,広告表示の適法性を確認したい,経営層の方
主要用語の定義
オンライン診療とは,医師又は歯科医師の使用する電子計算機と患者の使用する電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用し,映像及び音声の送受信により,医師又は歯科医師と遠隔の地にある患者が,相手の状態を相互に認識しながら通話することが可能な方法による診療をいいます(医療法第2条の2第1項)。
オンライン診療受診施設(受診施設)とは,施設の設置者が,業として,オンライン診療を行う医師又は歯科医師の勤務する病院,診療所,介護老人保健施設又は介護医療院に対し,そのオンライン診療を患者が受ける場所として提供する施設をいいます(医療法第2条の2第2項)。
かかりつけの医師とは,日頃より直接の対面診療を重ねている等,患者と直接的な関係が既に存在する医師をいいます(指針)。
診療前相談とは,かかりつけの医師以外の医師が初診からオンライン診療を行う前に,映像を用いたリアルタイムのやり取りで,患者の症状と医学的情報を確認する行為をいいます。診断や処方などの診療行為は含みません(指針)。
初診とは,診察の中で,医師又は歯科医師が,患者の新たな症状等(既に診断されている疾患から予測された症状等を除きます。)について診察を行うことをいいます(医療法施行規則第9条の6の4第2項)。
診療計画とは,オンライン診療を行う前に,医師又は歯科医師が,対面診療による医学的評価に基づいて定め,2年間保存する,診療内容や対面診療との組み合わせ等を記載した計画をいいます(医療法施行規則第9条の6の4第1項)。
施設基準とは,保険医療機関が診療報酬を算定するために満たすべき基準をいいます。算定しようとする項目ごとに,基準の充足と届出が必要です。
法令上の義務と指針上の事項について,本記事は,法令に基づく義務,指針が求める事項,当事務所が望ましいと考える対応を区別して記載します。
1 オンライン診療を実施できる根拠と条件
この項の結論
病院・診療所は,医療法第14条の3に基づく基準と指針に従う限り,オンライン診療を実施できます。前提は映像と音声のリアルタイムの送受信であり,電話のみ,メール・チャットのみの診療は,医療法上のオンライン診療に当たりません。
1-1 医療法上の定義と基準
2026年(令和8年)4月1日に施行された改正法により,医療法第2条の2第1項に,オンライン診療の定義が設けられました。同項は,医師又は歯科医師の使用する電子計算機と患者の使用する電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織を使用し,映像及び音声の送受信により,医師又は歯科医師と遠隔の地にある患者が相手の状態を相互に認識しながら通話することが可能な方法による診療を,オンライン診療としています。
オンライン診療は,定義に当てはまるだけでは足りず,基準に従って行わなければなりません。厚生労働大臣は,オンライン診療の適切な実施に関する基準を厚生労働省令で定めるものとされ(医療法第14条の3第1項),オンライン診療は,この基準に従って行われなければなりません(同条第3項)。基準は,医療法施行規則第9条の6の2(基準の定義)に基づき,同規則第9条の6の3から第9条の6の19までに定められています。一方,指針は,医師が最低限遵守すべき事項を具体的に示しています。実務では,省令の基準と指針の双方を確認する必要があります。
1-2 医師法第20条との関係
医師法第20条は,医師が自ら診察しないで治療をし,又は診断書若しくは処方箋を交付することなどを禁止しています。医師と患者が同じ場所にいないことだけを理由に,直ちに同条に違反するわけではありません。指針は,最低限遵守すべき事項を遵守してオンライン診療を行う場合には,医師法第20条に抵触するものではないとしています。
したがって,医師法第20条との関係で重要なのは,通信機器を導入したか否かではなく,指針の最低限遵守事項を満たして診療しているか否かです。医師は,オンライン診療を行うことが適切でないと判断した場合には,速やかにオンライン診療を中止し,対面診療への移行に必要な措置を講じなければなりません(医療法施行規則第9条の6の7第2項)。
広島高等裁判所2024年(令和6年)10月22日判決(医師法違反被告事件)は,医師法第20条の「診察」について,原則として医師が患者と直接対面して行う必要があるとしました。そのうえで,医師が患者と直接対面しない場合は,これに代替し得る程度に患者の心身の状況に関する有用な情報が得られるときに限り,例外的に無診察に当たらないと解するのが相当であるとしました。同判決は,この解釈を,厚生労働省の通達にも示されている一般的な解釈と位置づけています。また,無診察で処方箋を交付した罪は,患者を異にする処方箋の交付については別個の罪を構成するとしています。
オンライン診療では,映像と音声から得られる情報が,対面での診察に代替し得る程度に達しているかが問われると当事務所は考えます。指針の最低限遵守事項を満たしているかは,その判断の重要な目安になります。ただし,指針は厚生労働省医政局長の通知であり,個別の事案では裁判所が上記の基準を当てはめて判断するため,指針を遵守していれば責任を問われないと断定することはできません。
古い裁判例では,広島高等裁判所1952年(昭和27年)5月17日判決(医師法違反被告事件)が,医師が自ら診察しないで診断書を交付したといえるのは,診察したことがない場合のほか,前に診察したことがあっても相当の日時が経過し,当時の健康状態から推して判断の正確性を期し得ない場合を含むとしました。一方で,前の診察の結果から変化が予想されない場合は,その都度診察しなくても,診断書を交付することは違法でないとしました。同判決は診断書に関する判断であり,処方箋の交付に同じ基準が当てはまるかは,同判決からは確認できません。
さらに古い大審院の裁判例が,当時の医師法第5条(現行第20条に相当する内容の規定)について判断を示しています。大審院1918年(大正7年)8月12日判決(医師法違反事件)は,医師が自ら診察しないで診断書や処方箋を交付し,治療をすることなどの禁止は,本人に限らず,第三者に対しても及ぶとしました。大審院1916年(大正5年)1月27日判決及び大審院1939年(昭和14年)3月30日判決は,自ら診察しないで診断書を交付する行為自体が禁止の対象であり,内容に虚偽があるか否かは問わないとしました。患者本人ではなく,家族等の第三者からの申告だけで診断や処方を行ってよいかを考える際の,沿革上の参考になります。ただし,いずれも現行の医師法第20条の下での判断ではなく,オンライン診療を扱ったものでもありません。
1-3 電話・メール・チャットだけの診療
電話による音声のみの診療や,メール・チャットのみのやり取りは,映像の送受信を欠くため,医療法第2条の2第1項のオンライン診療に当たりません。指針も,オンライン診療を,文字,写真及び録画動画のみのやり取りで完結させてはならないとしています。
ただし,医療法上のオンライン診療に当たらないことと,医師法上許容される診療行為であるか否かは,別の問題です。電話のみの診療が直ちに違法になると断定することはできず,個別の事案ごとに,医師法第20条の「診察」に当たるかを検討する必要があります。また,予約や連絡事項の伝達など,病状の変化に直接関わらない連絡のために,チャット機能を補助的に使うことまでは,指針も禁止していません。
医療機関のウェブサイトで「オンライン診療対応」と表示する場合は,実際に提供するサービスが,医療法上のオンライン診療に該当するかを確認してください。
1-4 オンライン受診勧奨,遠隔健康医療相談との違い
指針は,オンライン診療と区別して,オンライン受診勧奨と遠隔健康医療相談を定義しています。省令も,診察を行って受診の勧奨のみを行う場合(具体的な疾患名や治療方針の伝達,一般用医薬品の使用の指示や処方を行う場合を除きます。)を,診療計画などの規定の適用除外としています(医療法施行規則第9条の6の19)。
| 区分 | 内容 | 診断・処方 |
|---|---|---|
| オンライン診療 | 医療法第2条の2第1項の定義に当たる診療。基準と指針の対象となります。 | 医師の医学的判断により,診断や処方を行います。 |
| オンライン受診勧奨 | 医療機関への受診勧奨をリアルタイムで行う行為。個別の心身の状態に応じた,最低限の医学的判断を伴います。 | 具体的な疾患名の伝達,診断,処方は行えません。これらを行えば,オンライン診療に分類されます。 |
| 遠隔健康医療相談 | 一般的な医学的情報の提供や,一般的な受診勧奨にとどまる行為。 | 相談者の個別的な状態を踏まえた,疾患の罹患可能性の提示や診断等の医学的判断を伴いません。 |
患者の症状を聞き取って受診先を案内する行為と,医師が疾病を診断して治療方針を決定する行為とでは,求められる対応が異なります。提供するサービスがオンライン診療に当たる場合は,基準と指針に従う必要があります。
2 初診からのオンライン診療
この項の結論
初診からのオンライン診療は,一律には禁止されていません。ただし,初診は原則として「かかりつけの医師」が行い,かかりつけの医師以外が行う場合は,事前に診療前相談を行います。急病急変の患者には,原則として直接の対面診療を行います。
2-1 初診は原則として「かかりつけの医師」が行う
指針は,初診からのオンライン診療について,原則として「かかりつけの医師」が行うものとしています。視覚と聴覚に限られた情報の中で,見落としや誤診を避け,患者との信頼関係を確保する必要があるためです。
かかりつけの医師が初診を行う場合は,既往歴や服薬歴などを,過去の診療録,お薬手帳,PHR(個人が自分の健康・医療情報を管理する仕組み)などから把握でき,医師が実施可能と判断したときに実施できます。事前に得た情報は,診療録に記載します。
2-2 かかりつけの医師以外が初診を行う場合
かかりつけの医師以外の医師が初診からオンライン診療を行う場合には,診療前相談を行います。診療前相談は,映像を用いたリアルタイムのやり取りで,患者の症状と医学的情報を確認する行為であり,診断や処方などの診療行為は含みません。
省令も,初診でオンライン診療を行おうとする医師に対し,既往歴,服薬歴,アレルギー歴その他の必要な医学的情報を把握できていない場合は,オンラインで患者の症状及び医学的情報を確認することを求めています(医療法施行規則第9条の6の9第1項)。確認で得た情報は,診療録に記載します(同条第3項)。
診療前相談の結果,対面受診が必要となった場合には,必要に応じて他の医療機関に情報提供を行います(医療法施行規則第9条の6の9第4項)。診療前相談の結果オンライン診療を行えない場合があること及び診療前相談に係る費用等は,医師が勤務する病院・診療所のウェブサイト等で示すなど,あらかじめ患者に周知します(同条第5項)。
2-3 オンライン診療に適さない場合は対面診療に切り替える
オンライン診療は,対面診療と適切に組み合わせて行うことが基本であり,医師は,実施の都度,医学的観点から適否を判断します。指針は,「オンライン診療の初診に適さない症状」などを踏まえて判断すること,緊急性が高い症状の場合は速やかに対面受診を促すこと,急病急変患者には原則として直接の対面診療を行うことを求めています。省令も,オンライン診療を行うことが適切でない場合(患者が急病の場合又は病状が急変した場合を含みます。)には,速やかにオンライン診療を中止して対面診療に移行する措置を講じることを求め,症状が緊急的な対応を要するときは対面診療を促すこととしています(医療法施行規則第9条の6の7第2項,第3項)。
例えば,高血圧や脂質異常症で継続的に通院している患者には,対面診療とオンライン診療の組み合わせが考えられます。一方,突然の激しい胸痛,強い呼吸困難,意識障害など,緊急性が疑われる症状は,オンライン診療で完結させず,救急医療につなぐ必要があります。以上の2つの例は,当事務所の例示であり,指針に記載された例ではありません。
重要なのは,医療機関が一律に対象患者を決めるのではなく,医師が患者の状態を確認して適否を判断することです。そのうえで,対象とする患者,対象外とする症状,対面診療に切り替える基準は,あらかじめ文書に整理しておくことが望ましいと考えます。
2-4 患者の合意と本人確認
オンライン診療は,医師と患者の双方の合意に基づいて行います。医師は,患者がオンライン診療を希望する旨を明示的に確認し,実施の都度,実施の可否を判断します。合意を得る前に,オンライン診療で得られる情報の限界,対面診療との組み合わせ,診療計画の内容などを説明します(医療法施行規則第9条の6の6)。
本人確認は,原則として,医師と患者の双方が,相互に身分を確認するために必要な書類を用いて行います(医療法施行規則第9条の6の5第1項)。初診の患者については,顔写真付きの身分証明書などで確認します。医師は,顔写真付きの身分証明書(HPKIカード,マイナンバーカード等)で氏名を示し,患者が医師の資格を確認できるよう,医籍登録年を伝えるなどの環境を整えます。ただし,やむを得ない事情がある場合や,社会通念上当然に互いに本人であることを認識できる場合は,この限りでありません(同項ただし書)。
3 オンライン診療での処方の制限
この項の結論
初診など,その症状等について対面診療を経ていない場合は,麻薬及び向精神薬を処方できません。基礎疾患等の情報を把握できていない患者には,特に安全上の管理が必要な医薬品の処方と,8日分以上の処方も行えません。これらは省令の基準であり,診療報酬上の要件とは別に確認します。
3-1 初診での処方の制限
医療法施行規則第9条の6の13第3項は,オンライン診療を行う場合において,初診でない場合であってその症状等について対面診療を経ている場合を除き,次の処方を行ってはならないと定めています。指針も,初診のオンライン診療について,同じ内容を示しています。
- 麻薬及び向精神薬の処方(麻薬及び向精神薬取締法第2条第1項第1号の麻薬,同項第6号の向精神薬)
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する,特に安全上の管理が必要な医薬品(指針は,薬剤管理指導料「1」の対象となる薬剤としています。)の処方
- 基礎疾患等の情報が把握できていない患者に対する,8日分以上の処方
ここでいう初診は,診察の中で,患者の新たな症状等(既に診断されている疾患から予測された症状等を除きます。)について診察を行うことをいいます(同規則第9条の6の4第2項)。「特に安全上の管理が必要な医薬品」の具体的な範囲は,診療報酬の告示及び通知で確認する必要があります。個別の薬剤が該当するか否かは,処方の都度,最新の資料で確認してください。
処方の可否は,診察で得た情報に基づく医師の判断です。「オンライン診療なら,患者が希望する薬をそのまま処方できる」という理解は誤りです。医師は,処方の必要性と安全性を判断し,患者が現に服用している医薬品も確認しなければなりません(同規則第9条の6の13第1項)。
3-2 処方制限と診療報酬の要件は別に確認する
省令の処方制限は,医療法第14条の3第3項により,オンライン診療を行う医師が従うべき基準です。診療報酬の算定要件や施設基準は,保険診療で請求するための別のルールであり,両者は別に確認する必要があります。例えば,2026年(令和8年)6月1日適用の施設基準では,向精神薬を処方する場合に,電子処方箋管理サービスの重複投薬等チェック機能を用いることが求められます(4-5)。
4 オンライン診療を始めるための手続き
この項の結論
導入は,対象患者の整理,医師の研修,システム選定,医療法上の届出,診療報酬上の届出,患者への説明体制,ウェブサイト等の整備の順に進めると,確認漏れを防げます。医療法上の届出義務を負うのは,管理者ではなく開設者です。
導入の流れと,各段階の担当,判断事項,残すべき記録は,次のとおりです。
| 手順 | 主な担当 | 判断事項 | 残すべき記録 |
|---|---|---|---|
| STEP1 対象患者と切替基準の決定 | 管理者,担当医師 | 対象とする診療科・疾患,対象外の症状,対面診療への切替基準,緊急時対応 | 運用基準書,検討の議事録 |
| STEP2 医師の研修と体制整備 | 管理者 | 担当医師の研修受講,指導の方法 | 受講の記録,指導の記録 |
| STEP3 システムの選定と契約 | 開設者,管理者,システム担当 | 本人確認,セキュリティ,障害時対応,責任分担 | 契約書,仕様書,セキュリティの確認資料 |
| STEP4 医療法上の届出 | 開設者 | 届出の要否,時期,様式 | 届出書の控え |
| STEP5 診療報酬上の届出 | 開設者,事務長 | 施設基準の充足,届出の時期 | 届出書の控え,基準を満たす根拠資料 |
| STEP6 患者への説明と同意 | 担当医師 | 説明事項,合意の取り方,診療計画の内容 | 同意書,診療計画(2年間保存),診療録 |
| STEP7 ウェブサイト等の掲示 | 管理者,広報担当 | 公表事項,掲示事項,広告規制への適合 | 掲載内容の保存版 |
4-1 対象患者と対面診療への切替基準を決める(STEP1)
最初に,どのような患者にオンライン診療を提供するかを検討します。内科クリニックであれば,高血圧や脂質異常症などの慢性疾患について,継続的な診療の一部をオンライン診療に切り替える運用が考えられます。皮膚科,精神科,小児科などでも活用が想定されますが,診療科だけで適否が決まるわけではありません。医師が必要な診察を行えるか,検査や処置が必要になったときにどう対応するかを踏まえて,対象患者を検討します。
対象とする患者,対象外とする症状,対面診療に切り替える基準,急変時の連絡体制は,文書に整理しておくことが望ましいと考えます。ただし,基準は,医師が個別の患者の適否を判断する際の目安であり,医師の判断に代わるものではありません。
4-2 担当医師の研修と管理者の措置(STEP2)
オンライン診療に責任を有する医師は,厚生労働省が定める研修を受講し,必要な知識を習得する必要があります(指針)。さらに,管理者は,医療法第14条の4に基づき,オンライン診療を基準に適合させるために必要な措置を講じなければなりません。その具体的な内容として,医師又は歯科医師に必要な知識及び技能を習得させるための指導等を行うことが定められています(医療法施行規則第9条の6の20)。
施行通知は,管理者の措置として,オンライン診療を行う医師に,厚生労働省が定める研修(「オンライン診療を行う医師向けの研修」等)を受講させることが想定されるとしています。
医療機関は,担当医師の研修受講状況を確認し,受講の記録を保管することが適切です。
4-3 オンライン診療システムを選定する(STEP3)
システムは,機能が豊富であることだけで,法令上の要件を満たすわけではありません。少なくとも,次の事項を確認します。
- 医師と患者が,映像と音声でリアルタイムに診療できること
- 患者の本人確認を適切に行えること
- 通信の暗号化やアクセス権限の管理など,情報漏えいや不正アクセスを防止する仕組みがあること
- システム障害時の連絡方法と代替手段が確保されていること
- 医療機関とシステム提供事業者の責任分担が明確であること
指針は,オンライン診療システムが医療情報システムに影響を及ぼす可能性がある場合には,「医療情報安全管理関連ガイドライン」に沿った対策を併せて実施することを求めています。医療機関は,患者にセキュリティ上のリスクを説明し,合意の内容を診療録に記載します。多要素認証の利用が望ましいとされ,通信の暗号化は,TLS1.3以上(やむを得ずTLS1.2を用いる場合は,十分な暗号強度とすること)が示されています。
外部事業者のシステムを利用する場合は,契約内容を確認します。患者情報の管理主体,障害発生時の対応,データの保存場所,契約終了時のデータの返還・削除,損害賠償責任などは,法令が一律に必須としている事項ではなく,委託契約やサービス品質保証(SLA)で合意しておくべき事項です。管理者は,サイバーセキュリティを確保するために必要な措置を講じなければならず(医療法施行規則第14条第2項),事業者に委託しても,医療機関自身の安全管理責任がなくなるわけではありません。
4-4 医療法上の届出を行う(STEP4)
2026年(令和8年)4月1日から,病院又は診療所の開設者は,勤務する医師又は歯科医師がオンライン診療を行う場合に,その旨を届け出る必要があります(医療法施行規則第3条第1項第5号)。届出の義務を負うのは,管理者ではなく,開設の許可を受けた者(開設者)です(医療法施行規則第3条第1項,施行通知)。提出先は,都道府県知事等(保健所を設置する市及び特別区では,市長又は区長)です。
届出の方法は,開設の時期によって異なります。例えば,群馬県は,新たに診療所を開設する個人には診療所開設届(別記様式第10号)の提出時に,病院と法人立の診療所には開設後届(別記様式第9号)の提出時に,併せて届け出ることとし,既存の医療機関には開設届出事項等一部変更届を求めています。様式や提出先は自治体ごとに案内されるため,所轄の窓口の案内を確認してください。
既存の医療機関が新たにオンライン診療を始める場合は,届出事項に変更が生じたことになり,10日以内に届け出る必要があります(医療法施行令第4条の2第2項,医療法施行規則第3条第2項)。ただし,2026年(令和8年)4月1日時点で現にオンライン診療を行っている開設者は,2027年(令和9年)3月31日までの間,この事項の変更届が不要です(改正省令附則第3条。変更の届出を定める医療法施行規則第3条第2項の適用除外です。)。施行通知は,毎年1月1日から3月31日までの間に都道府県が定める期間に行う,医療機能情報提供制度の定期報告(G-MIS)と同時期に届け出ることが考えられるとしています。
4-5 診療報酬上の届出を行う(STEP5)
保険診療として情報通信機器を用いた診療を行う場合は,診療報酬の施設基準を満たし,地方厚生(支)局へ届け出る必要があります。医療法上の届出とは別の手続きです(5項)。
2026年(令和8年)6月1日適用の施設基準通知(保医発0305第7号)は,情報通信機器を用いた診療に係る施設基準として,次の事項などを定めています。
- 医療機関のウェブサイトに,初診において向精神薬の処方を行わない旨を掲示すること
- 当該医療機関での対応状況を記入した,指針の遵守確認用チェックリストを,ウェブサイトに掲示すること
- 医療広告ガイドラインを遵守すること(ウェブサイトの作成に当たっては,「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書」を参考にすること。)
- 向精神薬を処方する場合に,電子処方箋管理サービスの重複投薬等チェック機能を用いること
- 指針に沿って診療を行う体制を有すること
- 対面診療を提供できる体制を有すること,及び,患者の状況によって当該医療機関で対面診療を提供することが困難な場合に,他の保険医療機関と連携して対応できること
- 保険医療機関の外で診療を実施することがあらかじめ想定される場合は,実施場所が指針に該当しており,事後的に確認が可能であること
電子処方箋を導入していない場合に限り,2028年(令和10年)5月31日までの間は,オンライン資格確認等システム又は医療機関間で電子的に医療情報を共有するネットワークを用いて,薬剤情報を確認する方法が認められます(経過措置)。
届出は,別添7の様式1を用いて,地方厚生(支)局長に提出します。地方厚生(支)局による要件の審査は,原則として2週間以内が標準とされ,遅くとも,提出者の補正に要する期間を除いて,概ね1か月以内とされています(施設基準通知第2の3)。
既に情報通信機器を用いた診療の届出をしている医療機関は,施設基準の改正を理由とする新たな届出が,不要となる場合があります。施設基準通知は,施設基準が改正された項目のうち,届出を必要としないものを表3に掲げ,その中に「情報通信機器を用いた診療」を挙げています。また,2026年(令和8年)5月31日現在で算定している保険医療機関が,引き続き算定する場合は,新たな届出を要しないとしています(同通知第4の1)。ただし,同年6月以降の実績により,届出内容と異なる事情が生じた場合は,変更の届出が必要です。
算定に当たっては,留意事項通知(保医発0305第6号)も確認します。個々の診療報酬項目の点数,算定要件及び届出様式は,改定や疑義解釈により変わるため,算定しようとする項目ごとに,実施時点の通知で確認してください。
4-6 患者への説明,同意及び診療計画を整える(STEP6)
医療機関は,オンライン診療の開始に当たり,患者に必要な説明を行い,合意を得る運用を整える必要があります。説明の内容は医療法施行規則第9条の6の6が定めており,実務では,次の内容を説明事項として整理することが考えられます。
- オンライン診療の方法,及び対面診療との違い
- オンライン診療で得られる情報の限界
- 対面診療との組み合わせの必要性,及び必要に応じて対面診療に切り替えること
- 急変時や通信障害時の対応
- 診療情報の取扱い及びプライバシーの保護
- 診療費,システム利用料その他の費用
- 処方箋の交付方法及び医薬品の受取方法
- 診療計画の内容
診療計画は,オンライン診療を行う前に,医師が対面診療による医学的評価に基づいて定め,2年間保存するものとされています(医療法施行規則第9条の6の4第1項)。記載事項は,オンライン診療で行う具体的な診療内容,対面診療や検査との組み合わせ,診療時間,オンライン診療を行わないと判断する条件,急病・急変時の対応方針,サイバーセキュリティに関する責任分界点など,9項目です。初診からオンライン診療を行う場合は,診察の後に,次回の診察の日時や方法,症状が増悪した場合の対面診療の受診先などを説明し,オンライン診療を継続する見込みがあるときは,可及的速やかに診療計画を定めます(同条第2項)。
録音や録画にも注意が必要です。オンライン診療に係る映像や音声等の情報を保存する場合は,オンライン診療を行う前に,保存に係る取り決めを明確にし,患者と合意しておく必要があります(医療法施行規則第9条の6の6第4項)。指針は,患者側,医師側ともに,同意なしに録音,録画及び撮影を行うことがないよう確認することも求めています。
説明書や同意書を用意することは,説明事項の漏れを防ぐうえで,実務上有効です。ただし,同意書を取得しても,医師や医療機関が負う,適切な診療を行う義務に代わるものではないと当事務所は考えます。指針が医師に医学的判断と適切な診療を求めていることが理由であり,オンライン診療の同意書の効力を直接判断した裁判例は,当事務所が確認した範囲では見当たりません。
患者への説明について,裁判例は,医師の説明を,患者が自らの身に行われようとする医療措置の利害得失を理解したうえで,これを受けるか否かを熟慮し,決断することを助けるために行われるものと位置づけています。東京地方裁判所2008年(平成20年)5月9日判決(損害賠償請求事件)は,麻酔方法の選択・施行について,危険性,代替手段の存在,実施予定の方法と代替手段との利害得失及び患者の不安に応じた説明を怠ったとして,説明義務違反を認め,自己決定権侵害の限度で病院側の責任を認めました。高松高等裁判所2005年(平成17年)6月30日判決(損害賠償請求控訴事件)は,乳がんの手術について,他に選択が可能で,当時の医療水準として確立されていた療法の説明が不十分であったとして,説明義務違反を認めました。
両判決は,手術や麻酔に関する事案であり,オンライン診療を扱ったものではありません。もっとも,オンライン診療では,対面診療という他の選択肢があるため,オンライン診療で得られる情報の限界や,対面診療との違いについての説明が,説明義務の問題になり得ると当事務所は考えます。上記の説明事項を整理して,説明した内容を記録に残す運用は,この点でも有用です。
4-7 ウェブサイト等の掲示と公表を整える(STEP7)
オンライン診療実施病院等の管理者は,その医師又は歯科医師が行うオンライン診療が基準に適合して行われている旨を,ウェブサイト又は院内の掲示等により公表するものとされています(医療法施行規則第9条の6の15第1項)。また,オンライン診療に用いる電子情報処理組織について,情報セキュリティの確保,患者への説明その他の適切な措置を講じる必要があります(同条第2項)。
保険診療では,ウェブサイトへの掲示が施設基準にも組み込まれています(4-5)。掲示や広告の内容は,広告規制の対象になります(7-3)。
5 医療法上の届出と診療報酬上の届出の違い
この項の結論
医療法上の届出と,診療報酬上の施設基準の届出は,根拠,提出する者,提出先が異なる別の手続きです。一方を済ませても,他方が済んだことにはなりません。
| 項目 | 医療法上の届出 | 診療報酬上の届出 |
|---|---|---|
| 根拠 | 医療法施行規則第3条第1項第5号(開設届出事項) | 施設基準通知(保医発0305第7号) |
| 届出の内容 | 勤務する医師又は歯科医師がオンライン診療を行う旨 | 情報通信機器を用いた診療に係る施設基準を満たす旨 |
| 提出する者 | 開設者 | 保険医療機関(届出は原則として保険医療機関単位) |
| 提出先 | 都道府県知事等 | 地方厚生(支)局 |
| 期限・時期 | 新規開設後10日以内(医療法施行令第4条の2第1項)。届出事項に変更が生じた場合は10日以内(同条第2項) | 算定しようとする項目ごとに,施設基準通知で確認 |
| 経過措置 | 2026年(令和8年)4月1日時点で実施中の場合は,2027年(令和9年)3月31日まで変更届が不要 | 2026年(令和8年)5月31日現在で算定中の場合は,新たな届出が不要(実績が届出内容と異なる場合は変更届)。電子処方箋を導入していない場合は,2028年(令和10年)5月31日まで薬剤情報の確認方法に特例 |
自由診療だけでオンライン診療を行う場合は,診療報酬上の届出が不要となることがあります。もっとも,医療法上の届出や基準の遵守は,保険診療か自由診療かにかかわらず必要になると当事務所は考えます。届出の窓口や様式は,自治体や地方厚生(支)局ごとに異なり,更新されることがあるため,提出の都度確認してください。
6 オンライン診療受診施設の制度
この項の結論
受診施設は,2026年(令和8年)4月1日に新設された,患者がオンライン診療を受ける場所を提供する施設です。施設自体は医療を提供せず,診療は医師の勤務する医療機関の責任で行われます。設置者は設置後10日以内に届け出る必要があり,提携する医療機関の管理者には,基準適合の確認義務があります。
6-1 制度の概要
受診施設は,医療提供施設ではなく,診療所の定義からも除かれています(医療法第1条の5第2項)。設置者に,医師や医療法人であることなどの要件はなく,個人又は法人が設置できます(事務連絡)。へき地などで,住民に身近な郵便局や公民館を活用して設置されることが期待されています。患者の居宅や特別養護老人ホームでのオンライン診療は,従来どおり可能です。
業としてオンライン診療を行う場所は,少なくとも受診施設としての設置届出が必要とされています。受診施設以外の場所で特定多数の人に対してオンライン診療を提供する場合は,診療所の届出が必要です(巡回診療等の例外があります。)。また,受診施設でないものが,受診施設に紛らわしい名称を付けることは禁止されています(医療法第3条第4項)。違反した者は,20万円以下の罰金の対象となります(医療法第89条第1号,施行通知)。
受診施設は,健康増進法上の第一種施設として,敷地内禁煙の対象とされています(健康増進法施行令第3条第10号,施行通知)。
6-2 設置者の届出,チェックリスト及び公表
受診施設の設置者は,設置後10日以内に,所在地の都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合は,市長又は区長)に届け出なければなりません(医療法第8条第2項)。届出事項は,設置者の住所及び氏名(法人は名称及び主たる事務所の所在地),名称,設置の場所,敷地の面積及び平面図,建物の構造の概要及び平面図,設置の年月日などです(医療法施行規則第5条の2)。届出事項に変更を生じたときも,10日以内に届け出ます(医療法施行令第4条第4項,施行通知)。
施行通知によれば,受診施設の設置者は,正当な理由がないのに受診施設を1年を超えて休止してはならず,休止又は再開したときは,10日以内に届け出なければなりません(医療法第8条の2第1項・第2項)。受診施設を廃止したときも,10日以内に届け出ます(同法第9条第1項)。設置者が死亡し,又は失踪の宣告を受けたときは,戸籍法の規定による死亡又は失踪の届出義務者が,10日以内に届け出ます(同条第2項)。これらの届出に違反した者は,20万円以下の罰金の対象となります(同法第89条第1号)。設置,休止・再開,廃止,設置者の死亡・失踪の各届出の標準様式は,施行通知の別添2に示されています。
受診施設の設置者は,医療連携体制の構築のために必要な協力をするよう努めるものとされ(医療法第30条の7),都道府県は,医療計画に基づく事業の実施のために必要があると認めるときは,受診施設の設置者に情報の提供を求めることができます(同法第30条の5)。
受診施設は,患者が清潔で安全な環境で,かつプライバシーが保たれるよう物理的に外部から隔離された空間で,オンライン診療を受けられる場所でなければなりません。設置者は,情報セキュリティの確保などの措置を講じ,法人の場合は,管理・運営の責任者を置きます(医療法施行規則第9条の6の16,第9条の6の17)。設置者は,施設が患者の受診する場所に関する基準に適合する旨などを,ウェブサイト等で公表する義務も負います(医療法第14条の5,医療法施行規則第9条の6の21)。施行通知は,設置後1箇月を目途に,所定のチェックリストを都道府県知事等に提出するよう求めています。
6-3 医療機関の管理者の義務と提携契約
オンライン診療を行う病院・診療所の管理者は,医師等が受診施設で患者を診療する場合に,その施設が基準に適合していることを確認しなければなりません。適合を確認できないときは,オンライン診療を中止するなど,適切な措置を講じる必要があります(医療法第14条の4,医療法施行規則第9条の6の20)。確認の対象は,設置者が公表する,場所の基準への適合や情報セキュリティの措置の内容です(同規則第9条の6の21第2項)。
オンライン診療を行う医師は,患者の所在場所が,医療機関と協定・契約を結んだ受診施設であることを確認すれば足りるとされています。施行通知は,その施設を診療録に記録するなど,適切な方法で記録することが望ましいとしています。
外部の受診施設と提携する場合は,契約の中で,医療機関と設置者の役割を明確にしておくことが重要です。契約で定めておく事項として,当事務所は次の項目を考えます。
- 基準適合の確認方法(チェックリストの写しの受領,公表内容の定期的な確認)と,不適合のときの診療中止の手順
- 患者が施設の利用中に急変した場合の連絡体制と役割分担
- システム障害時の責任分担と,通信環境の維持
- 患者情報の管理(施設側での診療情報の保存の有無,施設職員の守秘義務)
- 施設の衛生管理とプライバシーの確保の方法
- 契約の解除事由と費用負担(施設の利用料と診療費の区分を含みます。)
なお,受診施設で行うオンライン診療に係る医療関連業務については,労働者派遣事業を行うことが禁止されています(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令第2条第1項,第4条第1項,施行通知)。受診施設の運営や診療の補助に,派遣労働者を受け入れる場合は,この規制に触れないかを,契約の前に確認してください。
7 医療機関が注意すべき法的リスク
この項の結論
医療機関が優先して管理すべきリスクは,診療上の過失,個人情報・医療情報の漏えい,医療広告規制違反,行政上の措置の4つです。オンライン診療であることを理由に,医師の注意義務が軽減されると考えることはできません。
7-1 診療上の過失と対面診療への切替え
オンライン診療で最も注意すべき問題の一つが,診断の遅れや見落としによる医療事故です。医師は患者に直接触れて診察できず,検査にも制約があります。対面診療であれば把握できた症状や異常を,オンライン診療では十分に確認できない場合があります。
オンライン診療の過失を直接判断した裁判例は,当事務所が確認した範囲では見当たりません。従来の医療過誤の事案と同様に,診察を通じて患者の状態を十分に把握する注意義務や,必要に応じて対面診療や他の医療機関での診療につなぐ義務が問題になると考えられます。参考になる実在の裁判例として,対面診療等の事案の次の2件があります。
| 裁判例 | 事案 | 判断 | 実務上の示唆 |
|---|---|---|---|
| 東京地方裁判所1997年(平成9年)3月24日判決 損害賠償請求事件 |
2歳の男児が,発熱,嘔吐及び全身けいれんで当直医の診察を受けた。医師は熱性けいれんと診断し,腰椎穿刺による髄液検査(ルンバール検査)などをせずに帰宅させた。男児は翌日,化膿性髄膜炎により死亡した。再来院時には,別の医師が,十分な診察をしないままCT検査を指示した。 | 初診の医師について,髄膜炎が強く疑われる状態であり,直ちにルンバール検査を行うか,入院させて入念に経過観察すべきであったとして,過失を認めた。臨床上の基準が確立していないことは,過失を否定する事由にならないとした。再来院時の医師にも,十分な診察を怠った過失を認めた。原告である両親それぞれに,21,818,112円及び遅延損害金の支払を命じた。 | オンライン診療では得られる情報が限られるため,重大な疾患の可能性を念頭に置いた判断と,対面診療や検査への切替えの検討が,一層重要になると当事務所は考えます。本件は,オンライン診療の事案ではありません。 |
| 大阪地方裁判所1975年(昭和50年)3月26日判決 損害賠償請求事件 |
高熱の夫について,妻が医院を訪れて往診を求めた。医師は,患者を診察せず,年齢,性別及び症状も聞かないまま,使用人に解熱剤(アセトアミノフェン)を調剤させて,服用を指示した。患者は,服用の約9時間後に死亡した。 | 医師法第20条の無診察治療の禁止との関係で「いささか問題がないわけではない」としつつ,同条に違反しても直ちに過失が認められるわけではなく,一般的な注意義務を考える際の判断基準の一つにすぎないとした。診察していても同じ解熱剤を投与したはずであるとして,過失と,無診察と死亡との相当因果関係をいずれも否定し,請求を棄却した。 | 無診察でも責任が否定された例ですが,投与した薬が当時の医療水準に沿い,診察しても結論が変わらないとされた事案です。1975年の地方裁判所の判決であり,診察を省略してよい根拠にはならないと当事務所は考えます。 |
上記2件は,いずれもオンライン診療を扱った判決ではありません。事案や時期が異なるため,オンライン診療に直ちに当てはまるとは限りません。
医療機関は,対面診療への切替基準を整備し,診療の内容,判断の根拠,対面診療に切り替えた経緯及び患者への説明を,診療録に適切に記録することが重要です。
7-2 個人情報・医療情報の漏えい
オンライン診療では,患者の氏名,病歴,診断内容,処方情報など,機微性の高い個人情報を取り扱います。病歴は,個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当します(個人情報の保護に関する法律第2条第3項)。
医療機関は,利用するシステムの安全性を確認するとともに,情報へのアクセス権限,職員による情報の取扱い,外部委託先の監督などについて,適切な措置を講じる必要があります。オンライン診療を録画する場合は,録画の必要性,利用目的,患者への説明,保存方法を検討します。システムの運用を外部事業者に委託しても,医療機関が負う個人情報保護上の責任が消滅するわけではありません。
7-3 医療広告規制への対応
オンライン診療を導入すると,ウェブサイトや予約ページなどで,患者にサービスを案内するのが一般的です。オンライン診療に関する表示にも,医療法の広告規制が適用されます。虚偽の広告は禁止され(医療法第6条の5第1項),他の病院・診療所と比較して優良である旨の広告や誇大な広告も禁止されています(同条第2項)。広告できる事項は同条第3項に列挙されており,2026年(令和8年)4月1日の施行により,その勤務する医師又は歯科医師が受診施設を利用してオンライン診療を行う病院・診療所について,オンライン診療を行う旨及びその内容に関する事項が加えられました(同項第15号)。受診施設を利用しない場合のオンライン診療の表示の取扱いは,医療広告ガイドライン等で確認する必要があります。
例えば,「必ず治る」「誰でも薬を処方してもらえる」といった表現は,医学的な根拠や広告規制との関係で問題となるおそれがあります(誇大な広告の禁止。医療法第6条の5第2項第2号)。診療の条件や費用について,患者が誤認するおそれのある表示も避ける必要があります。保険診療では,医療広告ガイドラインの遵守が施設基準にも組み込まれています(4-5)。
受診施設は,医療を提供するものではない旨を患者が理解できる方法で明示したうえで,一定の事項を広告できます(医療法第6条の7の2)。提携する医療機関は,受診施設を自院の一部であるかのように患者が誤解する表示をしないよう,注意してください。規制に違反する広告には,都道府県知事等が中止や是正を命じることができます(医療法第6条の8第2項)。この命令に違反した者は,6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金の対象となります(医療法第87条第3号)。
7-4 自由診療の場合
オンライン診療を自由診療として実施する場合も,医療法の基準や指針に従う必要があります。診療報酬上の届出が不要となる場合でも,オンライン診療に関する法令上の義務がなくなるわけではありません。
自由診療では,診療費用,医薬品の取扱い,広告の内容,患者への説明などが問題になりやすい傾向があります。保険診療と自由診療を併用する医療機関は,費用の区分や,保険外併用療養費制度との関係(いわゆる混合診療の禁止)を整理する必要があります。
7-5 行政上の措置
都道府県知事,保健所を設置する市の市長又は特別区の区長は,必要があると認めるときは,病院・診療所の開設者若しくは管理者又は受診施設の設置者に対し,必要な報告を命じ,立入検査を行わせることができます(医療法第25条第1項)。業務が法令に違反している疑いなどがあるときは,診療録,帳簿書類その他の物件の提出を命じることもできます(同条第2項)。さらに,都道府県知事は,業務が法令若しくは法令に基づく処分に違反し,又は運営が著しく適正を欠くと認めるときは,開設者又は設置者に対し,期限を定めて必要な措置を命ずることができ(医療法第24条の2第1項),命令に従わない場合は,業務の全部又は一部の停止を命ずることができます(同条第2項)。この停止命令に違反した場合は,開設許可の取消し又は閉鎖命令の対象となり得ます(医療法第29条第1項第4号)。
施行通知は,受診施設に対する立入検査を,随時実施することが想定されるとしています。また,オンライン診療を行う医療機関と,受診施設や患者の所在地の都道府県が異なる場合は,都道府県等の間で連携する必要が生じ得るとしています。受診施設に問題がある疑いがあるときは,その施設を利用してオンライン診療を行う医療機関の所在地の都道府県等が,当該医療機関に情報提供や立入検査等を行うことも想定されています。立入検査では,医療機関や受診施設が記入したチェックリストを活用して,基準の遵守状況を確認するよう求めています。
保険診療では,施設基準を満たさなくなった場合の届出や,算定の適否が問題となり,地方厚生(支)局による指導・監査の対象となるおそれがあります。行政から報告や資料の提出を求められた場合は,記録(診療録,同意書,研修の記録,契約書,システムの設定資料)を速やかに提示できるよう備えておくことが重要です。
8 よくあるNG対応
この項の結論
実務で多いNG対応は,システムの導入だけで足りると考えること,患者の希望どおりに処方すること,提携先の受診施設の基準適合を確認しないことの3つです。
| NG対応 | 問題点 | リスク | 改善策 |
|---|---|---|---|
| システムを導入すれば足りると考え,届出と施設基準を確認しない | 医療法上の届出(開設者)と,診療報酬上の施設基準の届出が別の手続きであることを見落としている。 | 届出の漏れ。保険診療の算定要件を欠くおそれ。 | 4項のSTEP表で手順を確認し,医療法上の届出と施設基準を別々に管理する。 |
| 患者の希望どおりに処方する | 省令が定める処方制限(麻薬及び向精神薬,特に安全上の管理が必要な医薬品,8日分以上の処方)を踏まえていない。 | 省令の基準に反する診療となり,医療事故や行政上の措置の原因になるおそれ。 | 処方の判断基準を院内で文書化し,初診の処方制限をシステムや運用で確認できるようにする。 |
| 受診施設の基準適合を確認しない | 管理者の確認義務(医療法第14条の4)を果たしていない。 | 不適合な施設での診療が続き,改善命令等の対象となるおそれ。 | 提携契約に確認方法と診療中止の手順を定め,定期的に公表内容とチェックリストを確認する。 |
9 導入前のチェックリスト
この項の結論
病院・クリニックがオンライン診療を始める前に,次の12項目で自院の未整備事項を確認できます。
- オンライン診療の対象とする診療科,患者,対象外の症状を文書で整理した
- 対面診療への切替基準と緊急時の対応を定めた
- 担当医師が,厚生労働省が定める研修を受講し,記録を保管している
- 管理者が医師に対して必要な指導等を行う体制を整えた(医療法第14条の4)
- システムの本人確認とセキュリティの機能,及び委託契約の責任分担を確認した
- 医療法上の届出(開設者によるオンライン診療を行う旨の届出)の要否と期限を確認した
- 保険診療を行う場合は,施設基準の充足と,地方厚生(支)局への届出を確認した
- 患者向けの説明書,同意書及び診療計画の様式を整備した
- 初診の処方制限(省令の基準)を院内のルールに反映した
- オンライン診療が基準に適合している旨を,ウェブサイト又は院内の掲示等で公表した(医療法施行規則第9条の6の15第1項)
- 施設基準が求めるウェブサイトの掲示(向精神薬を処方しない旨,チェックリスト)と,医療広告ガイドラインへの適合を点検した
- 受診施設と提携する場合は,基準適合の確認方法と契約内容を整備した
各項目を確認したうえで,厚生労働省が示すチェックリスト(施行通知の別添3)を用いて,基準への適合状況を点検することが重要です。
10 よくある質問(FAQ)
11 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
この項の結論
届出の要否や施設基準の充足を判断できないとき,システム事業者や受診施設との契約を整備するとき,患者から苦情や請求を受けたときは,弁護士への相談を検討する場面です。
次のような場面では,導入前や運用の開始前の段階で,弁護士に相談する実益があります。
- 医療法上の届出の要否,時期及び様式や,保険診療の施設基準の充足を判断できないとき
- システム提供事業者との利用契約や委託契約の条項を確認したいとき
- 受診施設と提携する契約を整備したいとき
- 患者向けの説明書,同意書及び診療計画の様式を整備したいとき
- ウェブサイトなどの表示が,医療広告規制に適合しているか不安があるとき
- オンライン診療後に,患者から苦情や損害賠償の請求を受けたとき,又は行政から報告の求めや立入検査を受けたとき
弁護士が関与できる業務は,テーマに即して,次のように整理できます。届出の要否や基準適合の法的評価,システム契約や受診施設との提携契約の検討,説明書・同意書・院内規程の整備,広告表示の確認,患者対応と紛争対応,行政の報告徴収や立入検査への対応です。
契約書の確認のように範囲が明確な検討は,単発の相談が適することがあります。運用の開始後に,患者対応や行政対応,契約の見直しが継続して生じる場合は,継続的な相談の体制が適することがあります。どちらが適するかは,医療機関の規模と運用の実情によって異なります。
12 まとめ
病院・診療所は,医療法の基準と指針に従う限り,オンライン診療を実施できます。初診からの実施も可能ですが,原則としてかかりつけの医師が行い,初診では処方にも制限があります。電話のみ,メール・チャットのみの診療は,医療法上のオンライン診療に当たりません。
導入に当たっては,開設者による医療法上の届出と,保険診療の場合の施設基準の届出を,別々に確認する必要があります。既に実施している医療機関も,2027年(令和9年)3月31日までに届出の対応を整理するとともに,改正後の基準と施設基準への適合を確認してください。まず4項のSTEP表で自院の進捗を確認し,9項のチェックリストで未整備事項を洗い出すことをお勧めします。
届出の要否,契約書の条項,広告表示の適法性は,事案ごとの判断が必要です。必要に応じて,専門家に相談してください。
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- 医療広告規制への対応(病院・クリニック向け)
オンライン診療の案内表示を含め,ウェブサイトや広告物の表示が医療広告規制に適合するかを確認できます。 - 医療データ漏えいへの対応(病院・クリニック向け)
診療情報が漏えいした場合の対応と,平時の安全管理体制の整備を確認できます。 - 医療機関に対する行政指導・監査への対応
報告徴収,立入検査,指導・監査を受けた場合の対応を確認できます。 - 患者対応・医療紛争への対応
診療に関する苦情や損害賠償の請求を受けた場合の対応を確認できます。
オンライン診療のご相談の前に整理しておくとよい資料
オンライン診療の導入や,個別の事案への対応について,専門家への相談を検討される場合は,次の資料を手元にご用意いただくと,相談を円滑に進められます。
- 医療機関の概要(病院・診療所の別,診療科,開設者,管理者)がわかる資料
- 開設の届出や許可を示す書類の写し,及び保険医療機関としての届出状況がわかる資料
- オンライン診療の対象とする診療科・疾患,患者像,実施体制の案
- 検討中のシステム提供事業者との契約書案,利用規約,仕様書
- 患者向けの説明書,同意書,問診票の案
- ウェブサイトや広告物の表示案
- 受診施設と提携する場合は,施設の概要と契約書案
- 苦情や紛争が生じている場合は,診療録の写しと経緯のメモ(個人情報に配慮したもの)
オンライン診療のご検討・見直しの際は,まずはご相談ください
届出の要否,契約書の条項,広告表示の適法性など,自院の状況に応じた確認が必要な点について,随時ご相談を受け付けております。
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