フリーランス法とは|取引条件明示・支払期日・禁止行為・解除予告のポイント

~発注事業者が押さえるべき義務と実務対応を,公正取引委員会の資料に基づき整理~

 フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は,フリーランスへ業務委託を行う事業者に,取引条件の明示,報酬の支払期日の遵守,受領拒否・報酬減額等の禁止,ハラスメント対策,契約解除時の30日前予告等を義務付けています。本記事では,発注事業者が押さえるべき義務の内容と実務上の対応ポイントを,条文と公正取引委員会の公表資料に基づき整理します。

【この記事の結論】
  •  フリーランス法上の発注事業者の義務は,①取引条件の明示(法第3条第1項),②報酬の支払期日の設定・遵守(法第4条),③1箇月以上の業務委託における禁止行為(法第5条),④ハラスメント対策(法第14条),⑤6か月以上の業務委託の解除・不更新時の30日前予告(法第16条)に整理できます。
  •  取引条件の明示は,業務委託時に直ちに書面又は電磁的方法で行う必要があります。基本契約書があるだけでは,個々の発注時の明示義務を果たしたことにはなりません。
  •  報酬の支払期日は,給付受領日又は役務提供日から60日以内かつできる限り短い期間内に定める必要があります。請求書の提出遅延は支払を遅らせる理由になりません。
  •  2026年(令和8年)1月1日以降の業務委託(1箇月以上行うもの)については,振込手数料を報酬額から差し引くことは,事前の合意があっても報酬の減額に該当します。
  •  業務委託契約であっても,実態として労働基準法上の労働者と判断される場合があり,この判断はフリーランス法上の特定受託事業者該当性とは別の論点です。

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主要用語の定義

 フリーランス法とは,正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(2023年(令和5年)法律第25号)といい,2023年(令和5年)4月28日に成立,同年5月12日に公布され,2024年(令和6年)11月1日に施行された法律をいいます。

 特定受託事業者とは,業務委託の相手方である事業者であって,①個人であって従業員を使用しないもの,又は②法人であって一の代表者以外に他の役員がなく,かつ従業員を使用しないもの,をいいます(法第2条第1項)。「従業員を使用」とは,労働基準法第9条に規定する労働者(週の所定労働時間が20時間以上,かつ31日以上の雇用が見込まれる者)を雇用することをいい,同居の親族のみを使用する場合は含まれません。この該当性は,個々の業務委託ごとではなく,受注者である個人又は法人を単位として判断されます。

 業務委託事業者・特定業務委託事業者とは,業務委託事業者は特定受託事業者に業務委託をする事業者をいい(法第2条第5項),取引条件の明示義務(法第3条第1項)を負います。特定業務委託事業者は,業務委託事業者のうち従業員を使用する事業者等,法定の要件を満たすものをいい(法第2条第6項),報酬支払義務(法第4条),禁止行為(法第5条),就業環境整備に関する義務(法第12条から第16条まで)等を負います。

1.フリーランス法の対象となる「特定受託事業者」とは

📌 この章の結論

契約書の名称が「業務委託」「フリーランス」等となっているかではなく,個人か法人か,従業員を使用しているか,法人の場合は役員構成という法定の要件で判断します。判断単位は,個々の業務委託ごとではなく,受注者である個人又は法人単位です。

 特定受託事業者とは,業務委託の相手方である事業者であって,①個人で従業員を使用しないもの,又は②法人であって一の代表者以外に他の役員がなく,かつ従業員を使用しないもの,をいいます(法第2条第1項)。したがって,株式会社・合同会社等の法人格を有する委託先であっても,代表者以外に役員がなく従業員を使用しない場合には,特定受託事業者に該当し得ます。「法人だから対象外」と機械的に判断することはできません。

「従業員を使用」の該当性は,複数の事業を営む委託先について,事業ごとではなく,当該個人又は法人を単位として判断されます。したがって,ある事業で従業員を使用している者は,他の事業で従業員を使用していなくても,原則として特定受託事業者には該当しません。また,形式的に業務委託契約を締結していても,実質的に労働基準法上の労働者と判断される場合には,フリーランス法ではなく労働関係法令が適用され,フリーランス法は適用されません(本記事8章参照)。

【要確認】 個々の委託先が特定受託事業者に該当するかは,従業員の使用状況・役員構成等の個別事情によって判断が分かれます。継続的な取引先については,契約開始時点の情報のみで判断を固定せず,定期的な確認を検討してください。

2.取引条件の明示義務(法第3条第1項)

📌 この章の結論

業務委託をした場合,直ちに,給付の内容・報酬額・支払期日その他の事項を,書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。口頭のみの発注は方法の要件を満たしません。

フリーランス法第3条第1項は,業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託をした場合,直ちに,給付の内容,報酬の額,支払期日その他の公正取引委員会規則で定める事項を,書面又は電磁的方法により明示することを求めています。明示義務は特定業務委託事業者に限られず,業務委託事業者に広く課される点に注意が必要です。

正当な理由により委託時点で内容を定められない事項がある場合は,その時点での明示を要しないとする定めがあります(法第3条第1項ただし書)。もっとも,未定事項の理由や明示方法の細目は,公正取引委員会規則及びQ&A等の一次資料を個別に確認した上で運用する必要があります。電子メールやチャットツール等の電磁的方法による明示も認められていますが,基本契約書を締結していることのみをもって,個々の業務委託についての明示義務を果たしたことにはなりません。基本契約書に個別業務の内容・報酬額・納期等が明記されていない場合は,個別の業務委託ごとに法定事項を明示する必要があります。

3.報酬の支払期日(法第4条)

📌 この章の結論

報酬の支払期日は,給付を受領した日又は役務の提供を受けた日から起算して60日以内,かつできる限り短い期間内に定め,その期日までに支払う必要があります。「60日以内であれば足りる」わけではありません。

フリーランス法第4条第1項は,特定業務委託事業者に対し,給付を受領した日又は役務の提供を受けた日から起算して60日以内,かつ,できる限り短い期間内に,報酬の支払期日を定めることを求めています。同条第5項は,定めた支払期日までに報酬を支払うことを義務付けています。支払期日を定めなかった場合は給付受領日(役務提供日)が支払期日とみなされ,60日を超える支払期日を定めた場合は,給付を受領した日から起算して60日を経過する日が支払期日とみなされます(法第4条第2項)。

請求書の提出がないこと,又は提出が遅れたことは,支払を遅らせる正当な理由にはなりません。エス・ピー・シーに対する2026年(令和8年)6月18日付勧告では,特定受託事業者31名について,「当該事業者からの請求書の提出が遅れたこと又は自社の事務処理が遅れたことを理由として」支払期日までに報酬を支払わなかったことが,法第4条第5項違反として認定されています。請求書待ち・社内処理待ちを理由に支払を後ろ倒しにする運用は,違反となり得ます。

【振込手数料の取扱い】 振込手数料を報酬から差し引くことについて,公正取引委員会は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」の改正(2025年(令和7年)10月1日改正)により,2026年(令和8年)1月1日以降になされた業務委託(1か月以上行うものに限る。)については,特定受託事業者との合意の有無にかかわらず,振込手数料を報酬の額から差し引くことは報酬の減額(法第5条第1項第2号)に該当するとしています(公正取引委員会・ジェイトップに対する2026年(令和8年)8月26日付勧告の注記等)。これより前の業務委託分についても,書面又は電磁的方法による事前合意なく差し引いた場合は,エス・ピー・シー及び京都放送の各事例のとおり違反として認定されています。

再委託については例外があります。元委託者から業務委託を受けた特定業務委託事業者が,その業務の全部又は一部を特定受託事業者に再委託する場合,再委託である旨,元委託者の名称,元委託業務の対価の支払期日その他所定の事項を明示したときに限り,元委託支払期日から起算して30日以内,かつできる限り短い期間内に支払期日を定めることができます(法第4条第3項)。単に元請・再委託の構造があるというだけでは,この例外を利用できません。

4.継続的業務委託(1か月以上)で禁止される行為(法第5条)

📌 この章の結論

政令で定める期間(1か月)以上の業務委託については,特定受託事業者に責任がないのに,受領拒否・報酬の減額等7つの行為を行うことが禁止されています(法第5条第1項・第2項)。

4-1.受領拒否・返品(法第5条第1項第1号・第3号)

特定受託事業者に責任がないのに,給付の受領を拒否し,又は受領後に返品する行為です。物品の製造委託・情報成果物作成委託が対象であり,役務提供委託は対象外です。

4-2.報酬の減額(法第5条第1項第2号)

特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに,報酬の額を減ずる行為です。振込手数料の差引きが典型例で,3章のとおり2026年(令和8年)1月1日以降は合意の有無を問いません。

4-3.買いたたき(法第5条第1項第4号)

給付の内容と同種又は類似の給付に通常支払われる対価に比べ,著しく低い報酬額を不当に定める行為です。フリーランスが形式的に合意していても,直ちに適法になるわけではありません。

4-4.購入・利用強制(法第5条第1項第5号)

正当な理由なく,指定する物品の購入又は役務の利用を強制する行為です。

4-5.不当な経済上の利益の提供要請・不当な変更ややり直し(法第5条第2項)

自己のために金銭・役務その他の経済上の利益を提供させ,又は責任がないのに給付内容を変更させ若しくは受領後にやり直させ,特定受託事業者の利益を不当に害する行為です。「利益を不当に害する」という要件を伴う点で,第1項各号の直接禁止とは規定の構造が異なります。

5.ハラスメント対策(法第14条)

📌 この章の結論

特定業務委託事業者は,フリーランスに対するハラスメントによって就業環境が害されることのないよう,相談体制の整備その他必要な措置を講じる義務を負います。

フリーランス法第14条第1項は,業務委託に関して行われる性的な言動,妊娠・出産等に関する言動又は優越的な関係を背景とする言動により,特定受託業務従事者の就業環境が害されることのないよう,相談に応じ適切に対応するための体制の整備その他の措置を講じることを求めています。同条第2項は,相談を行ったこと,又は相談対応への協力に際して事実を述べたことを理由として,契約解除その他の不利益な取扱いをすることを禁止しています。相談窓口の具体的な運用方法(既存の従業員向け窓口の活用可否等)は,厚生労働省の関係省令・指針を個別に確認してください。

6.契約終了時の30日前予告(法第16条)

📌 この章の結論

6か月以上(施行令第3条・法第13条第1項)継続する業務委託(更新により6箇月以上継続する場合を含む)の解除又は不更新については,原則として30日前までの予告が必要です。1か月以上を対象とする法第5条の禁止行為とは,対象期間の要件が異なります。

フリーランス法第16条第1項は,特定業務委託事業者が,継続的業務委託(6箇月以上継続する業務委託)に係る契約を解除し,又は契約期間満了後に更新しない場合には,原則として,解除日又は満了日の少なくとも30日前までに,厚生労働省令で定めるところにより予告しなければならないと定めています。予告は書面,ファクシミリ又は電子メール等の方法で行います。「契約の解除」は特定業務委託事業者からの一方的な意思表示による解除をいい,特定受託事業者からの解除は対象に含まれません。

災害その他やむを得ない事由がある場合,再委託元の契約解除等により再委託業務の大部分が不要となった場合,契約期間30日以下の一定の業務委託を解除する場合,特定受託事業者の責めに帰すべき事由により直ちに解除が必要な場合,基本契約に基づく場合であってフリーランスの事情によりおおむね6箇月以上業務委託をしていない場合等,一定の例外があります(法第16条第1項ただし書,厚生労働省関係施行規則第4条)。予告後,契約満了までの間に理由の開示を求められた場合,原則として遅滞なく開示しなければなりません(法第16条第2項)。

6-1.予告義務違反と民事上の解除の効力の関係

公正取引委員会・厚生労働省のQ&A(問108)は,法第16条第1項について,解除等の効力は本法に基づいて判断されるものではなく,民事上の争いとして司法の判断等によって解決されるべきものである旨の考え方を示しているとされています。すなわち,予告義務は行政上の規律であり,これに違反したことから直ちに民事上の解除が無効になる,又は30日間契約が当然に存続するという結論を同法自体から導くことはできません。

もっとも,この民事上の効力について確立した判例は現時点では見当たらず,実務書・解説では複数の見解が併存していると整理されています。①第16条第1項に私法的効力を認めず,契約上の解除権に基づく解除である限り予告義務違反があっても解除自体は有効とする見解,②第16条第1項に私法的効力を認め,予告を欠く即時解除を無効とする見解,③私法的効力を認めつつ,労働基準法上の解雇予告に関する最高裁判所の判例(後掲)を参考に,発注者が即時解除に固執する趣旨でない限り予告から30日の経過をもって解除の効力が生じるとする見解,が主に議論されています。

最高裁判所1960年(昭和35年)3月11日第二小法廷判決(労働判例:細谷服装事件)

【事案】使用者が,労働基準法第20条所定の30日前の解雇予告をせず,かつ解雇予告手当も支払わないまま,労働者を即時に解雇した事案です。

【争点】解雇予告義務又は解雇予告手当の支払義務に違反してされた解雇の私法上の効力が争われました。

【判断】最高裁判所は,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,解雇の通知後,労働基準法第20条所定の30日の期間を経過するか,又は同条所定の予告手当の支払をした時のいずれか早い時点で解雇の効力を生ずると判断しました。

【射程】本判決は労働基準法第20条の解雇予告に関する判断であり,フリーランス法第16条の予告義務違反の効力について直接判断したものではありません。学説上,この判断枠組みをフリーランス法第16条に類推できるかについては見解が分かれています(見解③)。

【要確認】 見解③が参考とする細谷服装事件(前掲)は労働基準法第20条(解雇予告)に関する最高裁判例であり,フリーランス法第16条について同様の判断を示した確定的な裁判例は,本記事作成時点で確認できていません。①~③のいずれの見解が妥当するかは,契約の性質(準委任か請負か等),解除条項の内容,例外事由の該当性等の個別事情によって異なり得ます。予告義務違反による解除であっても,その不当性が強い場合には,不法行為(民法第709条)や債務不履行に基づく損害賠償請求が可能となる余地があるとの指摘もありますが,これも事案ごとの個別判断です。

7.業務委託契約書の見直しポイント

📌 この章の結論

契約書の存在自体よりも,個々の業務委託について法定事項が業務委託時に確認できる設計になっているかが重要です。

  •  基本契約書に加え,個別発注書・発注システム等を組み合わせ,個々の委託について明示事項が確認できるようにする。
  •  報酬・支払期日は,具体的な日又は「毎月末日」等,支払日を一義的に特定できる方法で定める。給付の受領日又は役務提供日から原則60日以内とし,再委託に該当する場合は30日ルールの適用可否を確認する。
  •  振込手数料等を報酬から差し引く場合は,2026年(令和8年)1月1日以降の業務委託(1箇月以上行うもの)については,事前の合意があっても報酬の減額に該当し得ることを前提に,原則として発注者側で負担する運用を検討する。
  •  追加業務・仕様変更が生じた場合は,新たな業務委託又は給付内容の変更として,改めて明示事項を確認できる設計とする。
  •  6か月以上継続する業務委託については,解除・不更新の予告方法(書面・FAX・電子メール等)をあらかじめ契約書に明記する。

本項の記載は一般的な留意点の例示であり,個々の契約書の具体的な条文設計(知的財産権の帰属,秘密保持,生成AIの利用等)は,各企業の実情に応じて別途検討する必要があります。

8.「業務委託」のはずが労働者と判断される場合

📌 この章の結論

業務委託契約書を締結していても,契約の名称にかかわらず,実態として労働基準法上の労働者と判断される場合があります。この判断は,フリーランス法上の特定受託事業者該当性とは別の論点です。

労働基準法第9条は,労働者を「事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者」と定義しています。フリーランスが業務委託契約や準委任契約を締結していても,契約の名称ではなく,労務提供の実態から判断されます。判断の中心は,他人の指揮監督下で労務を提供しているか,及び報酬がその労務提供の対価として支払われているかという使用従属性であり,仕事の依頼・業務従事の指示に対する諾否の自由の有無,業務遂行上の指揮監督の有無,時間的・場所的拘束性,代替性の有無等が考慮要素とされます。

最高裁判所1996年(平成8年)11月28日判決(労働判例:横浜南労基署長〔旭紙業〕事件)

【事案】自己所有のトラックを持ち込み,特定の会社の製品の運送業務に従事していた傭車運転手が,業務中の事故を理由に労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付等を請求したところ,労働基準監督署長がこれを支給しない処分をしたため,その取消しを求めた事案です。

【争点】業務委託契約(運送委託契約)に基づき稼働する傭車運転手が,労働基準法及び労働者災害補償保険法上の「労働者」に該当するかが争われました。

【判断】最高裁判所は,当該運転手が自己の危険と計算の下で業務に従事し,会社から運送物品・運送先・納入時刻の指示を受けていた以外には業務遂行上特段の指揮監督を受けておらず,時間的・場所的拘束の程度も一般の従業員に比べて緩やかであった等の事実関係の下では,労働基準法及び労働者災害補償保険法上の労働者に当たらないと判断しました。

【射程】本判決は,当該事案の具体的事実関係を踏まえた個別判断であり,業務委託契約一般について労働者性を否定する趣旨を述べたものではありません。指揮監督の程度や報酬の性質等の事情が異なれば,結論も異なり得ます。

最高裁判所2011年(平成23年)4月12日第三小法廷判決(労働判例:INAXメンテナンス事件)

【事案】住宅設備機器の修理・保守補修等を業とする会社との間で業務委託契約を締結し,会社が指定する担当地域内で修理補修業務に従事していたカスタマーエンジニアが労働組合を通じて団体交渉を申し入れたところ,会社がこれに応じなかったため,労働委員会に救済命令を求めた事案です。

【争点】業務委託契約を締結して稼働するカスタマーエンジニアが,労働組合法上の「労働者」に該当するかが争われました。

【判断】最高裁判所第三小法廷は,会社がカスタマーエンジニアの業務内容・遂行方法を具体的に決定し,稼働日や時間についても一定の拘束があったこと等の事実関係の下では,当該カスタマーエンジニアは会社との関係において労働組合法上の労働者に当たると判断しました。

【射程】本判決は労働組合法上の労働者性に関する判断であり,労働基準法上の労働者性やフリーランス法上の特定受託事業者該当性を直接判断したものではありません。労働組合法上の「労働者」は,団体交渉による保護の必要性の観点から,労働基準法上の労働者よりも広く解されているとされています。

形式的に業務委託として扱っている委託先について,指揮監督や時間的・場所的拘束等の事情が積み重なる場合には,労働者性の観点から実態を確認する必要があります。労働者と判断された場合,当該発注事業者との関係ではフリーランス法は適用されず,労働基準法等の個別的労働関係法令が,各法令の要件を満たす限度で適用され得ます。

9.社内調査で違反が見つかった場合の対応と自発的申出制度

📌 この章の結論

違反が判明した場合は,対象取引の把握,記録の保全,法的評価,是正,再発防止という順序で対応することが実務上重要です。これは法令が定める手続ではなく,実務上の一般的な整理です。

  •  対象取引の把握:本社だけでなく,支店・営業所・店舗等を含め,フリーランスへの業務委託の状況を洗い出す。
  •  記録の確認・保全:契約書,発注書,メール・チャットの記録,請求書,支払データ等を確認し,調査中に失われないよう保全する。
  •  法的評価:明示義務・支払義務・禁止行為・ハラスメント対策・解除予告のいずれについて,どの範囲で違反の可能性があるかを整理する。
  •  是正:未払報酬等が判明した場合は,速やかに支払等の是正を検討する。
  •  再発防止:発注フロー・契約書・支払管理の運用を見直し,担当者への周知・研修を行う。

9-1.自発的申出制度

公正取引委員会は,業務委託事業者の自発的な改善措置が特定受託事業者の不利益の早期回復に資することを踏まえ,法第8条に基づく勧告の対象となる違反行為について自発的な申出がなされ,かつ次の事由がいずれも認められる場合には,勧告するまでの必要はないものとしています(公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法違反行為を自発的に申し出た業務委託事業者の取扱いについて」)。

  •  公正取引委員会が当該違反行為に係る調査に着手する前に,当該違反行為を自発的に申し出ていること。
  •  当該違反行為を既に取りやめていること。
  •  当該違反行為によって特定受託事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じていること。
  •  当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講ずることとしていること。
  •  当該違反行為について公正取引委員会が行う調査及び指導に全面的に協力していること。

自発的申出は義務ではなく,事業者の判断に委ねられています。申出書の記載事項,添付資料,具体的な提出方法等の詳細は,公正取引委員会の最新の公表資料で確認してください。なお,この制度は,2026年(令和8年)1月1日施行の中小受託取引適正化法(取適法,旧・下請代金支払遅延等防止法)における自発的申出制度とは別の制度であり,根拠・提出先窓口を混同しないよう注意してください。

10.実務チェックリスト

  •  個人事業主・一人会社を含め,フリーランスへの委託先を一覧化しているか
  •  本社だけでなく支店・営業所等の発注状況も確認しているか
  •  業務委託時に,給付内容・報酬額・支払期日等を書面又は電磁的方法で直ちに明示しているか
  •  基本契約書と個別発注書を組み合わせ,個々の委託について明示事項を確認できる設計になっているか
  •  支払期日を,具体的な日を特定できる方法で定めているか
  •  給付受領日・役務提供日から60日を超えていないか
  •  請求書未提出又は自社の事務処理の遅れを理由に支払を遅らせていないか
  •  振込手数料等の控除について,2026年(令和8年)1月1日以降の業務委託分は合意があっても差し引かない運用になっているか
  •  6か月以上継続する業務委託の解除・不更新について,30日前予告の手続を確認しているか
  •  フリーランスが利用できるハラスメント相談体制を整備しているか

11.よくある質問(FAQ)

Q.フリーランス法の対象になるのは,個人事業主だけですか。
A.いいえ。個人だけでなく,代表者以外に役員がなく,かつ従業員を使用しない法人(いわゆる一人会社)も,特定受託事業者に該当し得ます。
Q.基本契約書を締結していれば,個々の発注時の明示は不要ですか。
A.いいえ。基本契約書に個別業務の内容等が明記されていない場合,個々の業務委託ごとに法定事項を明示する必要があります。
Q.請求書が届かない場合,支払期日を延ばしてよいですか。
A.いいえ。支払期日は給付受領日・役務提供日を起算点として定めるものであり,請求書の提出がないこと又は自社の事務処理の遅れは,支払を遅らせる正当な理由になりません。エス・ピー・シーに対する2026年(令和8年)6月18日付勧告では,この理由による支払遅延31名分が法第4条第5項違反として認定されています。
Q.振込手数料をフリーランス負担とすることは問題になりますか。
A.2026年(令和8年)1月1日以降になされた業務委託(1か月以上行うもの)については,特定受託事業者との事前の合意の有無にかかわらず,振込手数料を報酬額から差し引くことは報酬の減額(法第5条第1項第2号)に該当します。それ以前の業務委託分についても,書面又は電磁的方法による事前合意なく差し引く行為は,同様に問題となります。
Q.6か月未満の業務委託であれば,契約終了時に予告は不要ですか。
A.法第16条の30日前予告義務は,6か月以上の業務委託(更新により6か月以上継続する場合を含む)が対象です。予告義務違反があった場合に契約解除自体の民事上の効力がどうなるかは,公正取引委員会・厚生労働省のQ&Aによれば同法自体では判断されず,民法・契約内容に基づく別問題として司法判断に委ねられるとされています(本記事6-1参照)。
Q.社内調査で違反が見つかった場合,行政に申し出るべきですか。
A.公正取引委員会の調査着手前に,違反の取りやめ・不利益回復措置・再発防止策の実施・調査への全面協力という要件を満たして自発的に申し出た場合,勧告を行わない取扱いとされています(本記事9章参照)。もっとも,申出の要否・タイミングは事案の内容・規模によって判断が異なるため,専門家に相談することをおすすめします。
Q.フリーランスとの契約は,労働契約と判断されることがありますか。
A.はい。契約の名称にかかわらず,指揮監督の有無や報酬の性質等の実態から,労働基準法上の労働者と判断される場合があります。
Q.フリーランス法違反が発覚すると,社名が公表されますか。
A.命令をした場合は,その旨を公表することができます(法第9条)。勧告の段階での公表の取扱いについては,事案ごとに公正取引委員会の最新の公表資料で確認してください。

12.弁護士へ相談すべき場面

📌 この章の結論

フリーランス法対応は,契約書の作成・修正だけでは完結しません。発注・検収・支払の実際のフローまで踏み込んだ点検が必要です。

  •  自社の委託先がフリーランス法上の特定受託事業者に該当するかの確認
  •  業務委託契約書・発注書・発注システムのリーガルチェック
  •  取引条件の明示・報酬支払フローの見直し
  •  社内調査による違反状況の把握と証拠の整理
  •  未払報酬等が判明した場合の是正方法の検討
  •  公正取引委員会等への対応(自発的申出の要否を含む)

日本橋法律特許事務所では,契約書のリーガルチェックにとどまらず,企業の実際の発注・契約・検収・支払フローを踏まえたフリーランス法対応についてご相談をお受けしています。

13.まとめ

フリーランス法対応の要点は,①業務委託時に取引条件を直ちに明示すること,②報酬を60日以内かつ期日どおりに支払うこと,③1か月以上の業務委託では禁止行為(受領拒否,報酬の減額,買いたたき等)を行わないこと,④6か月以上の業務委託の解除・不更新には30日前予告を行うこと,の4点に整理できます。自社の発注フローを点検し,必要に応じて社内調査を行うことが,将来の勧告・指導のリスクを避ける確実な方法です。実際の運用がフリーランス法に対応しているかを確認したい場合は,早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

免責事項

 本記事は,掲載時点の法令,指針,裁判例等に基づき,一般的な法的情報を提供することを目的として作成しています。個別の事案では,事実関係や証拠等によって結論が異なるため,本記事は法的助言を目的とするものではありません。また,法令の改正,裁判例の変更等により,掲載内容が変更される場合があります。具体的な事案については,当事務所の弁護士へお気軽にご相談ください。

執筆・監修

日本橋法律特許事務所 代表弁護士 中山泰章(第二東京弁護士会所属)

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