日本郵便にフリーランス法違反で勧告|2026年に相次ぐ勧告事例と企業の対応ポイント

〜KADOKAWA・京都放送等の事例から見る,取引条件明示・報酬支払の実務リスク〜

2026年(令和8年)9月2日,日本郵便株式会社は,フリーランス法に基づき公正取引委員会の勧告を受けました。本記事は,この勧告と,2025年(令和7年)から2026年(令和8年)にかけて公表された他社の勧告事例を手掛かりに,企業の発注・支払実務でどのような違反が生じ得るのかを整理するものです。各事例の事実関係,3つの違反類型,社内での点検方法の順に解説します。

【この記事の結論】
  • 取引条件の明示は,契約書の有無ではなく,業務委託時に法定事項を直ちに書面又は電磁的方法で伝えているかが重要です(フリーランス法第3条第1項)。
  • 報酬の支払期日は,給付受領日・役務提供日を基準に法定のルールに従って設定し,請求書の提出状況に左右されない管理が必要です(同法第4条第1項,第5項)。
  • 振込手数料等の控除は,適用される法令と委託時期を確認し,過去の合意だけに依拠せず見直す必要があります(同法第5条第1項第2号)。
  • 企業は,発注担当・法務・経理が共通の記録を確認できるようにし,発注から支払までを一体として点検すべきです。
  • 各違反類型の内容は3項で,自社の状況は4項のチェックリストで確認できます。

目次

根拠法令・参照資料

※特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」といいます。)第3条,第4条,第5条

公正取引委員会「日本郵便株式会社に対する勧告について」2026年(令和8年)9月2日(別添勧告書を含む)

公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法勧告一覧」

公正取引委員会の各勧告の発表資料:ジェイトップ(2026年(令和8年)8月26日),エフエム京都(同年7月31日),エス・ピー・シー(同年6月18日),KADOKAWA(同年6月11日),ヘリテージ(同日),京都放送(同年3月31日),光文社・小学館(2025年(令和7年)6月17日)

上記は,2026年(令和8年)10月30日時点で確認した内容に基づきます。

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主要用語の定義

フリーランス法とは,「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」をいい,フリーランスに業務委託を行う事業者に対し,取引条件の明示,報酬の期日支払等を義務付けるとともに,一定の業務委託について報酬減額等の行為を禁止する法律です。

特定受託事業者とは,業務委託の相手方である事業者のうち,従業員を使用しない個人又は代表者以外に他の役員がおらず,かつ従業員を使用しない法人をいいます。

取引条件の明示義務とは,特定受託事業者に業務委託をした場合に,給付内容,報酬額,支払期日等の法定事項を直ちに書面又は電磁的方法により明示する義務をいいます。

1 日本郵便への勧告の内容(2026年9月2日)

この項の結論

日本郵便は,取引条件を直ちに明示しなかったことと,法定の支払期日までに報酬を支払わなかったことの両方について,公正取引委員会から勧告を受けました。

公正取引委員会の公表資料によれば,日本郵便株式会社(本店:東京都千代田区大手町二丁目3番1号,資本金7,000億円)は,研修の実施,郵便物等の配達等の業務を特定受託事業者に委託していました(以下「本件業務委託」)。2024年(令和6年)11月1日から2025年(令和7年)6月30日までの間,次の行為が認定されています。

  • 特定受託事業者167名に対し本件業務委託をした際,直ちに,明示事項の全部又は一部を書面又は電磁的方法により明示しなかった。
  • 特定受託事業者140名に対し本件業務委託をした際,報酬の支払期日を定めておらず,当該事業者の給付を受領した日又は役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかった。

これらの行為は,フリーランス法第3条第1項(取引条件の明示義務)及び第4条第5項(期日における報酬支払義務)に違反すると認定されました。公正取引委員会は,今後の業務委託において明示事項を直ちに明示すること,及び法第4条第1項の規定により定められた支払期日までに報酬を支払うことなどを勧告しました。

契約書の有無にかかわらず,特定受託事業者に業務委託をした場合には,法定事項を直ちに書面又は電磁的方法により明示する必要があります。契約書を作成していない場合でも,発注書やメール等によって必要な事項を明示できているかを確認することが重要です。

取引条件の明示義務や報酬の支払期日の制度そのものは,「フリーランス法とは|取引条件明示・支払期日・禁止行為・解除予告をわかりやすく解説」で解説しています。

【同種・類似の取引についても調査・是正を勧告】

公正取引委員会は,日本郵便に対し,2024年(令和6年)11月1日から2026年(令和8年)9月2日までに行った,本件と同種又は類似の業務委託について,取引条件の明示及び報酬の期日支払の観点から問題が生じていなかったかを調査し,問題が認められた場合には,取引の適正化のために必要な措置を講ずるよう勧告しました。また,これらの措置を含む勧告に基づいて採った措置について,速やかに同委員会へ報告することも求めています。

出典:公正取引委員会「日本郵便株式会社に対する勧告について」(2026年(令和8年)9月2日),別添勧告書・主文1⑵及び主文4

2 フリーランス法に基づく勧告の状況(主な事例一覧)

この項の結論

2025年(令和7年)6月以降の主な勧告では,取引条件の明示,報酬の支払期日,振込手数料等の控除という,発注から支払までの異なる段階で違反が認定されています。

公正取引委員会が公表した主な勧告事例は,次のとおりです(出所:公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法勧告一覧」及び各勧告の発表資料)。

事業者勧告日主な違反行為(対象人数等)
株式会社光文社・株式会社小学館2025年(令和7年)6月17日明示義務違反・支払義務違反(光文社31名,小学館191名)。報道では,フリーランス法に基づく初の勧告とされています。
株式会社京都放送2026年(令和8年)3月31日明示義務違反132名,支払義務違反110名,振込手数料の差引き67名
株式会社KADOKAWA2026年(令和8年)6月11日明示義務違反・支払義務違反(いずれも113名)
株式会社ヘリテージ2026年(令和8年)6月11日明示義務違反・支払義務違反(いずれも82名)
株式会社エス・ピー・シー2026年(令和8年)6月18日明示義務違反84名,支払遅延31名,振込手数料の差引き36名(計55,770円)
株式会社エフエム京都2026年(令和8年)7月31日明示義務違反39名,支払義務違反29名,60日超過の支払期日設定3名
株式会社ジェイトップ2026年(令和8年)8月26日実費を超える振込手数料の差引き138名(計481,031円)
日本郵便株式会社2026年(令和8年)9月2日明示義務違反167名,支払義務違反140名

各社の勧告内容をみると,発注時の情報提供,支払期日の設定・遵守,報酬からの控除という異なる段階で問題が生じています。次の3項では,この3つを違反類型として整理し,根拠条文と問題となる実務を比較します。

3 勧告事例に共通する3つの違反類型

この項の結論

違反類型は,取引条件の明示,報酬の支払期日,振込手数料等の控除の3つに分けられます。類型ごとに根拠条文と問題となる実務が異なるため,区別して点検してください。

違反類型主な根拠条文典型的な問題勧告で認定された事業者
取引条件の明示義務違反フリーランス法第3条第1項発注時に給付内容・報酬額・支払期日等の必要事項を直ちに明示しない。日本郵便,京都放送,KADOKAWA,ヘリテージ,エス・ピー・シー,エフエム京都,光文社,小学館
報酬の支払義務違反同法第4条第1項・第5項①法定の期間内に支払期日を定めない。②定められた支払期日(期日を定めなかった場合は法令上の支払期日)までに報酬を支払わない。日本郵便,京都放送,KADOKAWA,ヘリテージ,エス・ピー・シー,エフエム京都,光文社,小学館
振込手数料等の控除による報酬減額同法第5条第1項第2号(適用要件を満たす業務委託)振込手数料等を報酬から差し引き,法が禁止する報酬減額を行う。京都放送,エス・ピー・シー,ジェイトップ

表の各類型は,4項のチェックリストの項目に対応しています(3-1は4-1,3-2と3-3は4-2)。以下では,表で整理した内容に加え,事例ごとの特徴と実務上の留意点を説明します。

3-1 取引条件の明示を怠る

明示義務違反は,勧告事例のうちジェイトップを除く全ての事業者に認定された類型です。発注部門で作成する書類やメールが,実際に必要事項を備えているか,運用面の点検が重要です。委託していた業務は,事業者によって異なります。

  • KADOKAWA自ら出版する月刊誌等に関する原稿・写真データ・イラスト等の作成,ヘアメイク・スタイリングの実施等の業務委託が対象でした。
  • ヘリテージ原稿の作成等の業務委託が対象でした。
  • 京都放送放送番組等の制作に係る構成台本の作成,出演,ヘアメイク,スタイリング等の委託が対象でした。
  • エフエム京都放送番組等の制作に係る音源の制作,出演等の委託が対象でした。

3-2 報酬の支払期日を守らない

支払期日をめぐる違反では,請求書の提出状況や自社の事務処理が理由とされた場合でも,違反が認められています。エス・ピー・シーの事例では,フリーランスからの請求書提出の遅れや自社の事務処理の遅れを理由とする支払遅延も,法第4条第5項違反として認定されています。支払管理を請求書の受領だけに依存しないことが重要です。

支払期日の設定そのものも問題となります。エフエム京都の事例では,給付の受領日から60日を超える支払期日を定め,その期間内に報酬を支払わなかった3名も,支払義務違反に含まれています。

【支払管理のポイント】 フリーランスから請求書が提出されていないことや,社内の経理処理が完了していないことは,当然に支払遅延を正当化する理由にはなりません。発注部門と経理部門をまたいで,給付受領日・役務提供日と支払期日を管理できる仕組みが必要です。

3-3 振込手数料等の差引きによる報酬減額

京都放送,エス・ピー・シー,ジェイトップの各事例で,振込手数料の差引きが問題となりました。支払システムで控除が自動設定されていないか,過去の合意に依拠した運用が残っていないかを確認する必要があります。

なお,報酬の減額を禁止する同法第5条の規律は,従業員を使用する事業者等の「特定業務委託事業者」が,政令で定める期間(1箇月)以上の業務委託(契約の更新により1箇月以上継続する場合を含みます。)を行う場合に適用されます。自社が特定業務委託事業者に当たるか,個々の委託がこの期間要件を満たすかを,委託ごとに確認してください。

ジェイトップの事例は,手数料を事業者の負担とする旨を書面又は電磁的方法で合意していた場合でも,実際に金融機関へ支払う手数料を超える額を差し引いたことが違反とされた点で参考になります。なお,公正取引委員会の発表には,2026年(令和8年)1月1日以降に行われた1箇月以上の業務委託では,特定受託事業者との合意の有無にかかわらず,振込手数料を報酬から差し引くことが報酬の減額に当たる旨の注記があります。

4 企業が確認すべき実務チェックリスト

この項の結論

次の12項目のうち,「はい」と答えられない事項は,未整備のおそれがあります。発注時,給付受領・支払時,社内体制・是正対応の3段階で確認してください。

4-1 発注時の確認(3-1に対応)

  • 個人事業主・一人会社を含め,フリーランス法上の対象となり得る委託先を把握しているか
  • 業務委託時に,給付内容・報酬額・支払期日等を直ちに書面又は電磁的方法で明示しているか
  • 口頭で先行発注し,契約書・発注書等による明示を後回しにする運用が残っていないか
  • 報酬額と支払期日を明確に定め,発注情報として記録・共有しているか

4-2 給付受領・支払時の確認(3-2,3-3に対応)

  • 給付受領日又は役務提供日を記録し,支払期限の起算を管理しているか
  • 支払期日が法定の期限内となるよう設定・管理されているか
  • 請求書の未提出や自社の経理処理の遅れを理由として,支払を遅らせていないか
  • 2026年(令和8年)1月1日以降に発注した業務委託(報酬減額の禁止が適用されるもの)について,事前の合意があっても振込手数料を報酬額から差し引いていないか

4-3 社内体制・是正対応の確認

  • 発注担当者がフリーランス法の基本ルールを理解し,必要な教育・周知を受けているか
  • 経理部門がフリーランス取引を識別でき,発注・法務・経理の各部門で必要な情報を共有しているか
  • 過去の取引について,明示・支払・控除等に違反がないか点検しているか
  • 違反判明時の社内報告,是正,行政対応の検討に関する手順を定めているか

5 弁護士による支援が必要となる場面

この項の結論

チェックリストの確認は自社で行えますが,適用対象の判断,過去の取引の評価,違反発覚後の是正と行政対応は,早い段階で弁護士に相談することが有効です。

次の場面では,弁護士への相談を検討してください。

  • 適用対象の判断と契約・発注書類の整備委託先の該当性,契約書・発注書・取引条件通知書の内容を確認する場面です。
  • 業務フローの監査と証拠整理発注・契約・検収・請求・支払の各記録を確認し,違反の有無を調査する場面です。
  • 違反発覚後の是正未払報酬や不適切な控除の是正方法,自発的申出の要否・方法を検討する場面です。
  • 行政対応と再発防止公正取引委員会等の照会・調査への対応,社内マニュアル・研修・管理体制を整備する場面です。

日本橋法律特許事務所では,契約書のリーガルチェックにとどまらず,企業の実際の発注・契約・検収・請求・支払フローを踏まえたフリーランス法対応についてご相談をお受けしています。弁護士が関与しても,行政の判断や結果を保証するものではありません。

6 まとめ

日本郵便をはじめとする勧告事例は,フリーランス法の遵守状況を契約書だけで判断できないことを示しています。発注時の条件明示,給付受領日・支払期日の記録,振込手数料等の控除設定を,担当部門をまたいで確認することが重要です。

まず,4項のチェックリストで,自社の未整備事項を洗い出してください。次に,発注書類の様式,支払日の管理,控除設定の順に見直し,過去の取引にも同様の問題がないかを点検します。判断に迷う場合は,専門家に相談してください。

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  • 発注書,契約書,メール等,業務委託時に明示している内容がわかる書類・様式
  • 報酬額,支払期日,給付受領日・役務提供日,実際の支払日がわかる管理表・支払データ
  • 振込手数料の控除設定(支払システム上の設定,契約書の条項)がわかる資料
  • 委託先の人数と契約形態(個人事業主・一人会社の別)がわかる一覧
  • 過去の取引の点検結果,及び行政機関からの連絡があった場合はその記録
免責事項

本記事は,掲載時点の法令,指針,裁判例等に基づき,一般的な法的情報を提供することを目的として作成しています。個別の事案では,事実関係や証拠等によって結論が異なるため,本記事は法的助言を目的とするものではありません。また,法令の改正,裁判例の変更等により,掲載内容が変更される場合があります。具体的な事案については,当事務所の弁護士へお気軽にご相談ください。

執筆・監修

日本橋法律特許事務所 代表弁護士 中山泰章(第二東京弁護士会所属)

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