弁護士によるEAPの導入|従業員向け法律相談の費用・注意点・手順

〜採用・人材定着への活用,秘密保持と利益相反の設計,導入後の運用まで整理〜

弁護士による従業員支援プログラム(Employee Assistance Program:EAP)は,従業員やその家族が,相続・介護,離婚,借金などの私生活上の法律問題を,企業が契約した弁護士に相談できるようにする福利厚生です。採用活動での説明材料,人材定着の施策,人事担当者の負担軽減に役立つ可能性がある一方,応募者数の増加や離職率の低下を保証する制度ではありません。導入にあたっては,対象者,年間の相談枠,費用負担,相談内容の秘密保持,企業と従業員の利益が対立する相談の扱いを,契約と社内規程で明確にしておくことが重要です。EAPは従業員の私生活上の相談を対象とするため,会社自身が負うハラスメント防止措置や安全配慮義務を代替するものではありません。

【この記事の結論】
  • 弁護士によるEAPは,従業員(契約で定めた場合は家族を含みます。)が私生活上の法律問題を弁護士に相談できる環境を,企業が福利厚生として整える仕組みです。カウンセリング型EAPとは役割が異なり,優劣の関係にはありません。
  • 採用活動での説明材料,人材定着の支援,人事・管理職の負担軽減といった活用が考えられます。ただし,応募者数や定着率の改善を保証する制度ではなく,求人票等には実際の提供内容を正確に記載する必要があります。
  • 会社が費用を負担しても,従業員の個別の相談内容を当然に知り得るわけではありません。弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務を負うため(弁護士法第23条),会社への報告は個人を特定しない集計情報にとどめる設計が基本です。
  • 会社を相手方とする相談(未払残業代の請求,解雇の争い等)は,利益相反のため取り扱えない場合があります(弁護士法第25条,弁護士職務基本規程第27条・第28条)。対象外の相談と案内先を,契約と社内案内であらかじめ定めておく必要があります。
  • 費用は,対象者の範囲,年間の相談枠,追加相談の費用負担によって決まります。具体的な料金は,EAPサービスの料金をご覧ください。
  • EAPを導入しても,会社自身が負う安全配慮義務やハラスメント防止措置義務を履行したことにはなりません。会社に対応義務のある問題は,EAPとは別に社内で対応します。

目次

根拠法令・参照資料

※弁護士法(昭和24年法律第205号)第23条・第25条,弁護士職務基本規程(2004年(平成16年)11月10日会規第70号。2021年(令和3年)6月11日改正後のもの)第23条・第27条・第28条

個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」といいます。)第2条第3項・第20条第2項・第23条・第27条第1項

民法(明治29年法律第89号)第915条第1項,労働契約法(平成19年法律第128号)第5条,労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条第10号

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号。以下「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)第8条,職業安定法(昭和22年法律第141号)第5条の4

上記は,2026年(令和8年)10月18日時点で確認した内容に基づきます。条文は,条文本文と照合しています。当事務所の既存記事(カスハラ防止措置の義務化に関する記事)の記載も参照しています。

この記事はこんな方におすすめです
主要用語の定義

EAPとは,Employee Assistance Programの略で,従業員が抱える仕事上又は私生活上の問題について,専門家の支援を受けられる仕組みをいいます。

弁護士によるEAP(法律相談型EAP)とは,従業員(契約で定めた場合は家族を含みます。)の私生活上の法律問題について,企業が契約した弁護士に相談できる福利厚生をいいます。

利益相反とは,弁護士が引き受ける事件において,依頼者の利益が他の依頼者その他の者の利益と対立する状態をいいます(弁護士法第25条,弁護士職務基本規程第27条・第28条)。

要配慮個人情報とは,本人の人種,信条,社会的身分,病歴,犯罪の経歴,犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別,偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいいます(個人情報保護法第2条第3項)。

1 弁護士による従業員支援プログラム(Employee Assistance Program:EAP)とは

この項の結論

EAPとは,従業員が抱える仕事上又は私生活上の問題について,専門家の支援を受けられる仕組みをいいます。弁護士によるEAPは,そのうち私生活上の法律問題への相談環境を企業が福利厚生として整える制度であり,カウンセリング型EAPとは役割が異なります。

EAPとは,従業員支援プログラム(Employee Assistance Program)の略で,一般的には,メンタルヘルス相談や心理カウンセリングを中心に提供される制度です。一方,離婚,遺産分割,借金などの問題では,法律上の権利義務や手続,期限についての助言が必要になります。弁護士によるEAPは,こうした私生活上の法律問題について,企業が契約した弁護士に相談できる環境を整える仕組みです。

比較項目カウンセリング型法律相談型
主な対象ストレス,不安,心理的な悩み相続,離婚,借金など
相談先心理職等弁護士
主な支援心理的支援,気持ちの整理権利義務,手続,選択肢の説明

両者は役割が異なり,優劣を単純に比較するものではありません。従業員の悩みが心理面にあるのか,権利義務や手続の整理を要するのかに応じて,相互に案内する仕組みを設けることが重要です。

なお,顧問弁護士契約は,会社自身の法律問題について助言を受ける契約です。従業員個人の私生活上の問題を対象とするEAPとは,相談者も対象事項も異なります。

2 弁護士によるEAPで相談できる内容

この項の結論

相談の中心は,従業員本人(契約で定めた場合は家族)の私生活上の法律問題です。実際の相談対象は,契約条件と利益相反の有無により異なります。

分野相談の例
相続・遺言遺産分割,相続放棄,遺言書,親族間の争い
介護・家族親の財産管理,成年後見,介護に伴う家族間の問題
離婚・男女問題離婚,財産分与,養育費,親権,婚姻費用
借金・債務整理多重債務,任意整理,個人再生,自己破産
近隣・住まい騒音,境界,賃貸借契約,敷金返還
事故・賠償交通事故,損害賠償,保険会社との交渉

【想定事例】 従業員の親が亡くなり,きょうだい間で遺産分割協議がまとまらない場合を考えます。相続放棄は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内にする必要があり(民法第915条第1項),この期間は,利害関係人又は検察官の請求により,家庭裁判所において伸長できます(同項但書)。期限が迫る前に弁護士へ相談できれば,放棄を選ぶか,遺産分割協議を進めるかを検討しやすくなります。

法律相談で直ちに問題が解決するとは限りません。もっとも,適切な専門家に早期にアクセスできること自体が,制度の価値です。

【ご注意】 実際の相談対象は,契約条件と利益相反の有無等により異なります。会社を相手方とする相談の扱いは,6-3で説明します。

3 企業がEAPを導入するメリットと限界

この項の結論

主なメリットは,採用での説明材料,人材定着の支援,実生活で使える福利厚生の提供,人事・管理職の負担軽減,法的選択肢の整理,規模や予算に合わせた設計の6点です。いずれも効果を保証するものではなく,制度の周知と運用が前提となります。

3-1 採用活動での説明材料になる

採用競争に直面する企業では,給与や勤務条件だけでなく,福利厚生の内容も求職者に伝える必要があります。弁護士によるEAPを導入すると,「外部の弁護士に私生活の法律問題を相談できる」という具体的な制度を示せます。

大企業と同じ規模の福利厚生を備えることが難しい中小企業でも,従業員やその家族への配慮を形にできる点が特徴です。家族を対象に含む契約であれば,そのことも紹介できます。

もっとも,EAPだけで応募者数や採用率が必ず上昇するわけではありません。労働者の募集を行う者は,求人に関する情報について,虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示をしてはならず(職業安定法第5条の4第1項),正確かつ最新の内容に保たなければなりません(同条第2項)。利用条件(対象者,年間の相談枠,対象外の相談)は,実際の契約内容と一致させて記載してください。

【参考】求人票・採用サイトへの記載例 「福利厚生として,外部弁護士による法律相談制度(EAP)を導入しています。相続・介護,離婚,借金などの私生活上の法律問題について,専門家に相談できます(利用条件あり)。」本例は一般例です。実際には企業ごとの実情に応じた調整が必要です。

3-2 人材定着と働きやすい環境づくりを支える

従業員の働きやすさは,職場内の事情だけで決まりません。相続をめぐる争い,親の介護,離婚,借金などの問題が長期化すると,業務との両立が難しくなる場合があります。

会社が個人の問題を解決する必要はありませんが,専門家に相談できる機会を設けることはできます。法律上の選択肢や必要な手続を知ることで,本人が対応を検討しやすくなります。

離職率の低下を保証する制度ではありません。従業員が安心して働き続けられる環境を支える施策の一つとして位置づけるのが適切です。

3-3 実生活で使える福利厚生になる

福利厚生には,娯楽施設の割引や健康増進制度など,様々な種類があります。弁護士によるEAPは,従業員が実際に法律問題に直面したときに使える点が特徴です。例えば,相続放棄の期限,離婚に伴う養育費や財産分与,債務整理の方法などを弁護士に相談できます。

全員が毎年利用するものではありませんが,必要なときに専門家へアクセスできること自体が,福利厚生としての価値になります。利用が少ない場合は,制度の周知が十分かを点検してください。

3-4 人事担当者・管理職の負担を軽減する

「離婚することになったが,養育費はどうなるのか」「親の相続でもめている」と従業員から相談されても,人事担当者や管理職が法律的に正確な助言をすることは容易ではありません。

EAPがあれば,「利用できる法律相談制度があります」と案内できます。会社が私生活に過度に介入することを避けながら,相談の機会を提供できる点に意味があります。

ただし,職場でのハラスメントなど,会社自身に対応義務がある問題を,EAPへの案内だけで済ませることはできません(6-5)。

3-5 法的な選択肢を具体的に整理できる

カウンセリング型EAPは,心理的な支援に役割があります。他方,弁護士によるEAPでは,相続放棄や遺産分割,財産分与,債務整理などについて,法律上の問題点,手続及び期限を整理できます。

相談だけで解決が確約されるわけではありませんが,何を確認し,どの手続を取るべきかを判断するための材料を得られます。交渉や訴訟が必要になった場合は,利益相反等の問題がないことを確認した上で,別途の委任契約を検討することになります。EAPの相談枠を超えた場合の費用負担は,契約条件によります。

3-6 企業規模や予算に合わせて設計できる

弁護士によるEAPは,外部の法律事務所との契約で導入できるため,社内に専用の法律相談部署を設ける必要がありません。

本人のみを対象とする場合と,家族までを対象とする場合では,利用対象が変わります。年間料金,相談枠,追加相談の費用を比較し,企業の予算に合う条件を検討します。料金の安さだけでなく,実際にどの程度利用できる制度なのかを確認することが重要です。

4 EAP導入前後の比較

この項の結論

導入によって期待できる変化は,採用での説明,従業員の相談先,人事の対応,福利厚生の内容の4点に整理できます。実際の効果は,制度の利用状況や社内周知の方法によって異なります。

項目導入前導入後に期待できる変化
採用活動福利厚生の特徴を説明しにくい外部弁護士による相談制度を紹介できる
従業員の相談先自分で弁護士を探す必要がある利用条件に従い,所定の窓口を利用できる
人事の対応個人の法律問題への対応に困る専門家への相談を案内できる
福利厚生既存制度に限られる実生活に役立つ相談制度を追加できる

5 費用の考え方と料金方式

この項の結論

費用は,対象者の範囲,年間の相談枠,追加相談の費用負担によって決まります。年間料金の安さだけでなく,実際に誰が何回利用できるのかを確認することが重要です。

料金方式としては,対象従業員数に応じて算定する方式,一定の相談件数を基本料金に含める方式,利用実績に応じて追加料金が生じる方式などが考えられます。導入企業は,年間の負担額だけでなく,誰が何回利用できるのかを確認する必要があります。

比較項目本人限定型家族対応型
対象者役員・従業員本人本人と,契約で定めた家族
特徴費用と利用範囲を限定しやすい家族の生活上の問題まで支援できる
確認事項相談時間・年間枠家族の範囲・年間枠・追加費用

契約前には,次の事項を確認してください。

  • 対象者の範囲(役員,短時間・有期雇用の従業員,休職中の従業員,家族,退職者を含むか)
  • 年間の相談枠(1回あたりの時間,年間の回数,利用者ごとか全社で一括か)
  • 枠を超えた場合の費用負担者(会社か,従業員本人か)
  • 相談方法(来所,オンライン,電話)と予約の流れ
  • 契約期間,更新及び解約の条件

会社が従業員の私生活上の法律相談の費用を負担する場合の税務上・会計上の取扱いは,制度の設計(対象者の範囲や相談枠の定め方等)によって異なる可能性があります。導入前に,税理士等へ確認してください。

具体的な料金は,EAPサービスの料金をご覧ください。

6 導入・運用における法律上の注意点

この項の結論

契約と社内規程で明確にすべき点は,秘密保持,個人情報の取扱い,利益相反,対象者・規程の設計の4点です。会社が費用を負担していても,相談者は従業員であり,相談内容は原則として会社に開示されません。

6-1 相談内容の秘密保持

弁護士又は弁護士であった者は,その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し,義務を負います(弁護士法第23条)。弁護士職務基本規程も,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならないと定めています(同規程第23条)。弁護士によるEAPでは,相談する従業員が依頼者であり,会社は費用を負担する立場です。

したがって,会社が費用を負担しているからといって,従業員の個別の相談内容を当然に把握できるわけではありません。会社への報告は,利用件数や分野別の件数など,個人を特定しない集計情報にとどめる設計が基本です。少人数の部署では,集計情報からも利用者を推知できるおそれがあるため,報告の単位に配慮してください。

利用したこと自体を知られたくない従業員もいます。そのため,利用者名の報告を求めない設計とし,個別の情報を会社と共有する場合は,本人の同意を得る手続を契約で定めておきます。

6-2 個人情報の取扱い

相談では,家族関係,経済状況,健康状態などを取り扱う場合があります。病歴や,犯罪により害を被った事実などが含まれる個人情報は,要配慮個人情報に当たり,取得には原則として本人の同意が必要です(個人情報保護法第20条第2項)。もっとも,全ての相談内容が当然に要配慮個人情報に該当するわけではありません。情報の性質に応じて,利用目的,保存方法,アクセス権限等を管理します(同法第23条)。

会社が相談者の氏名や相談の概要を受け取る設計は,原則として避けてください。受け取る場合は,本人の同意がなければ第三者提供に当たるおそれがあります(同法第27条第1項)。従業員が会社を介さずに事務所へ直接申し込む受付方法は,当事務所が望ましいと考える設計の一つです。

6-3 利益相反への対応

勤務先に対する未払残業代の請求や解雇の争いなど,企業と従業員の利益が対立する問題では,企業側の事件を扱う弁護士や,企業に継続的な法律事務の提供を約している弁護士は,従業員の側に立って職務を行うことができない場合があります(弁護士法第25条,弁護士職務基本規程第27条・第28条)。

同意があれば例外的に取り扱える場合もありますが,実務上は,EAPの契約で対象外とする相談の範囲と,その場合の案内先(弁護士会の法律相談窓口や法テラス等)をあらかじめ定めておくのが現実的です。従業員にも,対象外の相談があることを事前に周知します。

6-4 対象者・規程の設計

対象者の範囲(正社員のみか,短時間・有期雇用の従業員,役員,休職中の従業員,退職者を含むか)は,導入前に決めます。雇用形態を理由に対象外とする場合は,通常の労働者との待遇差が不合理と評価されないか,パートタイム・有期雇用労働法第8条を踏まえて検討してください。

常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成する義務を負います。EAPの利用条件を事業場の全ての労働者に適用する定めとして置く場合は,就業規則に記載すべき事項に当たるかも検討します(労働基準法第89条第10号)。あわせて,利用規程や社内案内を整備し,対象者,利用方法,対象外の相談及び秘密保持の扱いを明記します。

6-5 企業側の労務相談との違い

弁護士によるEAPは,従業員の私生活上の法律問題を対象とする福利厚生です。会社が行うハラスメントの調査,懲戒処分,解雇などへの法的対応とは,役割が異なります。

EAPを導入しただけでは,使用者が負う安全配慮義務(労働契約法第5条)や,ハラスメント防止措置義務を履行したことにはなりません。2026年(令和8年)10月1日には,カスタマーハラスメントの防止措置も事業主の義務となっています。詳細は,「カスハラ防止措置の義務化とは|2026年10月施行・対象事業者と4つの措置」をご覧ください。ハラスメント全般の整理は,「ハラスメントに関する取扱分野」でも行っています。

7 EAP導入の5ステップ

この項の結論

導入は,目的の整理,対象者と費用の検討,契約・受付・秘密保持のルール整備,社内周知,利用状況の点検の5段階で進めます。制度を設けるだけでなく,従業員が実際に利用できる運用まで整えることが重要です。

  1. 導入目的を整理する採用時の説明材料,人材定着,人事負担の軽減など,主な目的を明確にします。担当は経営層と人事部門で,目的と見直しの時期を社内文書に残します。
  2. 対象者と費用負担を検討する本人限定か家族対応か,年間料金,相談枠,追加相談の費用負担を確認します。対象者の範囲は,雇用形態や休職中の扱いも含めて決め,税務・会計上の取扱いは税理士等に確認します。
  3. 契約・受付・秘密保持のルールを整備する資格確認の方法,申込みの方法,会社への報告範囲(集計情報のみとする等),対象外の相談と案内先を,契約書と利用規程に定めます。この段階で,弁護士による契約内容の確認を受けると,抜けや食い違いを減らせます。
  4. 社内に周知する社内ポータル,入社時説明,福利厚生の案内で,対象者,申込方法,対象外の相談及び秘密保持の扱いを伝えます。求人票や採用サイトの記載も,実際の契約内容に合わせます。
  5. 利用状況を点検し,見直す個人情報に配慮した集計を用いて,利用件数や分野の傾向を把握します。周知方法や契約条件は,必要に応じて見直します。

8 よくある失敗・NG対応

この項の結論

失敗しやすいのは,相談内容の報告を会社が求めること,対象外の相談や利用条件を決めないまま導入すること,周知せず会社の対応義務のある問題の案内先とすることの3点です。

NG対応問題点とリスク改善の方向
会社が相談内容や利用者名の報告を求める弁護士は秘密を保持する義務を負うため応じられません。従業員が利用をためらい,制度が機能しなくなるおそれがあります。報告は集計情報にとどめます。個別の共有は本人の同意を得た場合に限ります。
対象外の相談や利用条件を決めずに導入する利益相反により相談を受けられない場合があり,従業員の期待や求人票の記載との食い違いが生じるおそれがあります。対象・対象外・案内先を契約と社内案内に明記し,求人票の記載を実際の内容に合わせます。
周知せず,会社に対応義務のある問題の案内先とする利用されないまま形骸化するおそれがあります。ハラスメント等への対応を,EAPの案内だけで済ませたと評価されるおそれもあります。周知計画を作り,社内の相談窓口と役割を分担します。

9 自己点検チェックリスト

この項の結論

次の項目のうち,「はい」と答えられない事項は,未整備のおそれがあります。

  • 導入の目的(採用,定着,人事負担の軽減等)を整理しているか
  • 対象者の範囲(雇用形態,家族,休職中の従業員等)を決めているか
  • 年間の相談枠と,枠を超えた場合の費用負担者を契約で定めているか
  • 会社への報告を,個人を特定しない集計情報にとどめているか
  • 個別の情報を会社と共有する場合に,本人の同意を得る手続を定めているか
  • 会社を相手方とする相談など,対象外の相談と案内先を定めているか
  • 利用規程や社内案内に,対象者・利用方法・対象外の相談を明記しているか
  • 求人票や採用サイトの記載が,実際の契約内容と一致しているか
  • ハラスメント等,会社に対応義務のある問題の社内窓口を別に整備しているか
  • 利用状況を集計し,周知方法や契約条件を見直す体制があるか

10 弁護士に依頼するメリットと相談のタイミング

この項の結論

EAPの導入は,目的の整理や見積りの比較など,自社で進められる部分が多くあります。契約内容の確認,会社への報告範囲の設計,求人票の記載の確認など,法的な判断を要する部分では,弁護士への相談が有用です。

検討課題自社で進めやすい範囲弁護士に相談できる事項の例相談の目安
導入の可否と契約条件目的の整理,予算の検討,見積りの比較契約条件(対象者,相談枠,対象外の相談,秘密保持,費用)の確認,利用規程・社内案内の確認契約を締結する前
秘密保持と個人情報会社に報告する集計項目の検討会社への報告範囲の設計,本人同意の取得方法の整理,個人情報保護法上の確認報告様式を決めるとき
求人票・採用サイトでの紹介記載案の作成実際の提供内容と表示の整合の確認情報を公開する前
会社に対応義務のある問題一次受付と事実の記録事実調査,規程整備,懲戒・紛争対応(EAPとは別の業務)申出を受けた初動のとき

導入時の契約確認はスポット相談で足りる場合があります。一方,導入後も規程の見直しや個別の運用相談を継続的に受けたい場合は,顧問契約で平時から相談できる体制を整える方法があります。両者を比較して選べます。労務体制の整備については,「労務体制を整備し,企業を強くするためのサポートプラン」をご覧ください。

上記は,弁護士の関与が有用となる一般的な事項の例です。個別の対応可否や費用は,ご相談の際にご案内します。

11 よくある質問(FAQ)

この項の結論

FAQでは,小規模企業での導入,顧問契約との関係,家族の利用,会社への報告,対象外の相談,費用に関する実務上の疑問を整理します。

EAPは小規模企業でも導入できますか。
導入は可能です。ただし,最低利用料金,対象人数の条件,対応範囲はサービスごとに異なります。契約前に,年間の相談枠と追加費用を確認してください(5項)。
顧問弁護士契約がなくても利用できますか。
弁護士によるEAPは,企業の顧問契約とは独立したサービスとして設計できます。もっとも,顧問契約を結んでいる弁護士が従業員の相談を受ける場合は,会社を相手方とする相談を取り扱えない場合があります(6-3)。
採用活動で紹介できますか。
求人票や採用サイトで,福利厚生として紹介できます。利用条件と異なる説明をしないよう,実際の契約内容に合わせて記載してください(3-1)。
家族も利用できますか。
家族対応型の契約であれば,対象にできます。配偶者,子,父母など具体的な範囲は,契約条件によります(5項)。
従業員の相談内容を会社に報告してもらえますか。
会社が費用を負担していても,相談内容を当然に取得できるわけではありません。弁護士は職務上知り得た秘密を保持する義務を負うため(弁護士法第23条),会社への報告は集計情報にとどめ,個別の内容を共有する場合は本人の同意を得る設計が基本です(6-1)。
不当解雇や未払残業代の相談もできますか。
会社と従業員の利益が対立する事項は,利益相反のため取り扱えない場合があります(6-3)。対象外の相談は契約であらかじめ定め,他の相談窓口を案内できるようにしておきます。
初回相談の無料枠を超えた場合はどうなりますか。
追加費用の有無と負担者は,契約条件によります。導入前に,1回あたりの時間,年間の回数,追加相談の費用負担者を確認してください(5項)。
EAPを導入すれば,安全配慮義務を果たしたことになりますか。
いいえ。EAPは従業員支援の補完策であり,職場環境や個別事情に応じて使用者が講ずべき措置を代替するものではありません(6-5)。
短時間・有期雇用の従業員も対象にすべきですか。
EAPの対象者の範囲を直接定めた法令は,ありません。ただし,雇用形態だけを理由に対象外とする場合は,待遇差が不合理と評価されないかの検討が必要です(パートタイム・有期雇用労働法第8条。6-4)。
EAPの費用は福利厚生費として処理できますか。
税務上・会計上の取扱いは,制度の設計(対象者の範囲や相談枠の定め方等)によって異なる可能性があります。導入前に,税理士等へ確認してください(5項)。

12 まとめ|従業員の安心を企業の魅力につなげる

弁護士によるEAPは,従業員が相続・介護,離婚,借金などの法律問題を相談できる環境を整える福利厚生です。採用活動での説明材料,人材定着の支援,人事部門の負担軽減など,導入を検討する理由は複数あります。ただし,応募者数や定着率の改善を保証する制度ではありません。

導入にあたっては,対象者,料金,相談枠,秘密保持,利益相反の扱いを,契約と社内規程で明確にする必要があります。会社自身に対応義務のある問題は,EAPとは別に社内で対応してください。

次の一歩として,9項のチェックリストで自社の整備状況を点検し,検討中の契約案があれば,6項の4点(秘密保持,個人情報,利益相反,対象者・規程)に照らして確認することをお勧めします。

関連記事(次に読む記事)

EAPのご相談の前に整理しておくとよい資料

EAPの導入や契約内容の確認について,専門家への相談を検討される場合は,次の資料を手元にご用意いただくと,状況の整理が進めやすくなります。

  • 導入の目的と,対象としたい従業員の範囲(雇用形態,家族の有無)
  • 検討中のEAPサービスの見積書,契約書案,利用規約
  • 現行の就業規則,福利厚生に関する社内規程
  • 求人票や採用サイトでEAPを紹介する場合の記載案
  • 従業員数,事業所の所在地,予算の目安
免責事項

本記事は,掲載時点の法令,指針,裁判例等に基づき,一般的な法的情報を提供することを目的として作成しています。個別の事案では,事実関係や証拠等によって結論が異なるため,本記事は法的助言を目的とするものではありません。また,法令の改正,裁判例の変更等により,掲載内容が変更される場合があります。具体的な事案については,当事務所の弁護士へお気軽にご相談ください。

執筆・監修

日本橋法律特許事務所 代表弁護士 中山泰章(第二東京弁護士会所属)

EAPの導入をご検討の企業様へ

顧問契約とは別に導入する法律相談型EAPについて,導入のご相談を承っています。対象者や利用条件,費用等は個別にご案内します。

お問合わせはこちらへ

EAP導入前の確認事項

対象者・秘密保持・利益相反の扱いは,整理できていますか?

お問合わせはこちらへ