〜対象となる求職者等と場面,指針が求める4つの措置,行政指導・公表と損害賠償のリスクを整理〜
就活セクハラ対策の義務化とは,求職者等が求職活動等の場面で,事業主が雇用する労働者から性的な言動を受けて求職活動等を阻害されることのないよう,事業主に対し,相談体制の整備などの雇用管理上の措置を講じることを法律で義務付ける制度をいいます。2026年(令和8年)10月1日に改正法が施行され,採用活動を行う事業主は,企業規模を問わず,この措置を講じる必要があります。本記事は,制度の全体像と,措置を講じない場合の行政上・民事上のリスクを整理するものです。規程の骨子や研修などの運用の詳細は,関連記事で扱います。
- 2026年(令和8年)10月1日から,求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置は,事業主の法的義務となっています(均等法第13条第1項)。指針の措置は,企業の規模や職場の状況を問わず,必ず講じなければならないとされています(施行通達)。ただし,求職者等と労働者が接する機会がない場合は,指針の措置を全て講じていなくても差し支えないとされています(解釈事項問37)。
- 「求職者等」には,応募者や面接を受ける人のほか,就職説明会,インターンシップ,OB・OG訪問などの採用に資する活動の参加者と,実習の受講者が含まれます。雇用契約が成立していないことは,対象外の理由になりません。
- 講ずべき措置は,指針4が定める①方針の明確化・周知・啓発(求職活動等に関するルールを含みます。),②相談体制の整備,③事後の迅速かつ適切な対応,④併せて講ずべき措置(プライバシーの保護,不利益取扱いをしない旨の周知)です。
- 措置を講じない事業主は,厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となり,勧告に従わない場合は公表され得ます(均等法第35条,第36条)。措置義務違反それ自体を理由とする損害賠償請求権を定めた規定は確認できませんが,行為者の不法行為責任や会社の使用者責任(民法第709条,第715条)は問題となり得ます。
- 面談の時間・場所・体制,SNSの利用など,採用実務のルールの整備と,採用に関わる労働者への周知・啓発が必要です。各措置は4項で,自社の状況は9項のチェックリストで確認できます。
目次
- 1 就活セクハラとは
- 2 対象となる求職者等と求職活動等
- 3 法改正の経緯と全体像
- 4 事業主が講ずべき措置
- 5 行政指導・企業名公表のプロセス
- 6 損害賠償責任の考え方
- 7 指針(告示)の構成
- 8 よくある誤解
- 9 自己点検チェックリスト
- 10 よくある質問(FAQ)
- 11 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
- 12 まとめ
根拠法令・参照資料
※雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」といいます。)
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号。2025年(令和7年)6月4日成立,同月11日公布,2026年(令和8年)10月1日施行)。同法による改正後の均等法を,以下「改正法」といいます。本記事の条番号は,改正後のものです。
事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号,2026年(令和8年)2月26日告示。以下「指針」といいます。)
雇均発0424第1号「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(令和8年(2026年)4月24日。以下「施行通達」といいます。)
厚生労働省雇用環境・均等局雇用機会均等課「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年(2026年)4月24日,同年9月30日改訂,令和8年10月1日適用。以下「解釈事項」といいます。)
労働基準法第89条,民法第709条,第715条,労働契約法第5条
令和5年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」(PwCコンサルティング合同会社,2024年(令和6年)3月)(3-1)
日本経済新聞2019年(平成31年)3月16日,同月29日の各記事(6-3。新聞記事は,事実の出典として示すものです。)
上記は,2026年(令和8年)10月6日時点で確認した内容に基づきます。
この記事はこんな方におすすめです
- 採用活動を行う企業の経営者や,人事・総務・法務の担当者の方
- 自社の採用活動のどの場面が対象になるかを確認したい,採用責任者の方
- 面接官やリクルーター,OB・OG訪問の運用ルールを整えたい,人事担当者の方
- 措置を怠った場合の行政上・民事上のリスクを把握したい,経営者や管理職の方
主要用語の定義
就活セクハラ(求職活動等におけるセクシュアルハラスメント)とは,事業主が雇用する労働者による性的な言動により,求職者等の求職活動等が阻害されるものをいいます(指針2⑴)。指針は「求職活動等におけるセクシュアルハラスメント」と表記しており,本記事では「就活セクハラ」と呼びます。
求職者等とは,事業主に雇用されようとしてその意思を表示している求職者に加え,事業主が行う労働者の採用に資する活動に参加する者や,教育実習,看護実習等の実習を受ける者をいいます(解釈事項問29)。
求職活動等とは,求職者が行う求職活動や,求職者に類する者が行う職業の選択に資する活動をいい,採用面接,就職説明会,労働者への訪問(OB・OG訪問),インターンシップ,実習等が含まれます(指針2⑵)。
性的な言動とは,性的な内容の発言及び性的な行動をいいます(指針2⑷)。
雇用管理上の措置とは,就活セクハラから求職者等を守るために事業主が講ずべき,方針の明確化,相談体制の整備,事後対応等をいいます。
法的義務とは,法令上「講じなければならない」とされる義務をいいます。
望ましい取組とは,指針が,措置義務に加えて行うことが望ましいとする取組をいい,法的義務ではありません。
1 就活セクハラとは
この項の結論
就活セクハラは,事業主が雇用する労働者による性的な言動により,求職者等の求職活動等が阻害されるものをいいます。同性に対する言動や,被害を受けた人の性的指向・ジェンダーアイデンティティにかかわらず,対象となります。
指針は,求職活動等におけるセクシュアルハラスメントを,「事業主が雇用する労働者による性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害されるもの」と整理しています(指針2⑴)。当事務所では,次の3つの要素に分けて理解することを勧めます(当事務所の整理です。)。
- 事業主が雇用する労働者による言動であること正規雇用労働者に限らず,非正規雇用労働者を含みます。派遣労働者については,派遣先も派遣元と同様の責務を負うことが,指針で示されています(指針2⑶)。
- 性的な言動であること性的な内容の発言(性的な事実関係を尋ねること,性的な内容の情報を意図的に流布することなど)と,性的な行動(性的な関係の強要,必要なく身体に触れること,わいせつな図画を配布することなど)が含まれます(指針2⑷)。
- 求職者等の求職活動等が阻害されること言動の内容,行為者と求職者等の関係,求職活動等への影響などの事実関係を踏まえて,個別に判断されます。求職者等が不快に感じたという事情だけで,直ちに該当すると断定することはできません。
1-1 指針が挙げる典型例
指針は,典型例として,次のような場面を挙げています(指針2⑸)。限定列挙ではなく,個別の事案の状況によって判断が異なる場合もあります。
| 場面 | 指針が例示する言動 | 実務上の留意点(当事務所の整理) |
|---|---|---|
| 就職説明会 | 労働者が求職者等の腰や胸に触れ,求職者等が苦痛に感じて意欲が低下する。 | 身体への接触は,意図にかかわらず問題となり得ます。 |
| インターンシップ | 性的な冗談を継続的に行い,活動に支障が生じる。私的な食事に執拗に誘う。 | 親しみやすさを意図した言動でも,求職者等の立場を踏まえた距離感が必要です。 |
| 採用面接 | 性的な事実関係を質問する。 | 採否に関係のない私的な質問は,行わないルールが有効です。 |
| 面談の場所・会場 | 性的なポスターを掲示し,求職者等が苦痛に感じる。 | 面談会場や応接スペースの環境も,点検の対象です。 |
| 全般 | 労働者が求職者等に性的な関係を求める。 | 採否への影響をほのめかす行為は,特に重大な問題に発展するおそれがあります。 |
このほか,容姿や身体について繰り返し発言すること,恋人の有無や結婚の予定を尋ねること,個人的な連絡先の交換を求めること,ホテルや自宅へ誘うことなども,言動の内容や頻度によっては問題となり得ます(実務上の例示であり,指針が挙げる例ではありません。)。
採用担当者や役員など,採否に影響を与え得る立場の者による言動は,求職者等が拒絶しにくいため,より深刻な問題に発展するおそれがあります。
1-2 事業主や役員,取引先の労働者による言動
措置義務の対象となる「性的な言動」の行為者は,事業主が雇用する労働者です。事業主自身や,法人の役員は,この「労働者」には当たりませんが,指針は,これらの者による言動についても,必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが望ましいとしています(解釈事項問31)。
インターンシップ等で,取引先企業の労働者など顧客等から性的な言動を受けた場合も同様です。指針は,相談があったときに,4の措置も参考にしつつ,必要に応じて適切な対応を行うよう努めることが望ましいとしています(指針5⑵,解釈事項問31)。
2 対象となる求職者等と求職活動等
この項の結論
「求職者等」は,応募者や面接を受ける人に限られず,採用に資する活動の参加者や実習の受講者を含みます。求職活動等は,通常の就業場所に限らず,オンラインや飲食店,採用に実質上つながる懇親の場も含まれ得ます。
「学生は従業員ではないから対象外」という理解は,成り立ちません。雇用契約が成立していない人であっても,求職者等に当たる場合は,措置の対象です。
2-1 求職者等の範囲
| 区分 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 求職者 | 事業主に雇用されようとしてその意思を表示している者です。事業主の募集に応じた者や,採用面接を受ける者などが当たります。新卒・既卒の応募者,中途採用の応募者のいずれも含まれます。 | 施行通達,解釈事項問29 |
| 採用に資する活動の参加者 | 事業主が行う労働者の採用に資する活動に参加する者です。就職説明会,インターンシップ,OB・OG訪問などの参加者が当たります。 | 解釈事項問29 |
| 実習の受講者 | 教育実習,看護実習その他の実習を受ける者です。 | 解釈事項問29,指針2⑵ |
| 対象とならない者 | 授業の一環としての社会科見学や,企業を招いた講演会など,専ら教育を目的として行われる活動の参加者です。 | 解釈事項問29 |
オープンカンパニー,カジュアル面談,採用イベントなどの名称の活動は,名称だけで,当然に対象になる,又は対象にならないと整理することはできません。事業主が行う労働者の採用に資する活動に当たるかどうかを,活動の目的,内容及び参加者との関係から,個別に確認する必要があります。実務上は,採用につながり得る接触であれば,対象として扱い,同じ防止措置の下で運用することを推奨します(実務上の推奨対応)。
採用内定者は,労働契約の成立状況によって整理が異なります。採用内定により労働契約が成立したと認められる場合は,内定者は,職場におけるセクシュアルハラスメントの防止措置(均等法第11条第1項)と,相談等を理由とする不利益取扱いの禁止(同条第2項)の対象となります。この場合の事業主は,セクハラ防止指針(平成18年厚生労働省告示第615号)に則った対応が必要です。特に内定者が学生である場合は,求職者等セクハラ防止指針も参考にすることが望ましいとされています。採用内定の取消しは,不利益な取扱いに含まれます(施行通達,解釈事項問27)。一方,労働契約が成立したと認められない内定者は,求職者等に当たり,求職者等セクハラ防止指針に基づく措置が必要です(同)。労働契約の成否は,事案ごとに判断されます。いずれの場合も,採用活動と同じ窓口・ルールで運用することを推奨します(実務上の推奨対応)。
2-2 対象となる場面
指針は,求職活動等の例として,採用面接,就職説明会,労働者への訪問(OB・OG訪問),インターンシップ,教育実習・看護実習等を挙げています(指針2⑵)。SNS等のオンラインを介するものや,通常の就業場所以外で行われるものも含まれます。
| 場面 | 該当の考え方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 面接,説明会,インターンシップ | 対象です。オンラインでの実施も含まれます。 | 指針2⑵ |
| OB・OG訪問 | 対象です。OB・OG訪問を行うための飲食店で行われるものも含まれます。 | 指針2⑵,解釈事項問30 |
| SNS・DM等での連絡 | SNS等のオンラインを介する活動も含まれます。採用活動に関連する連絡は,対象となり得ます。 | 指針2⑵ |
| 説明会後の懇親会,食事の場 | 懇親の場等であっても,実質上,事業主の採用に資する活動の延長と考えられる場面で行われるものは,対象です。 | 解釈事項問30 |
懇親の場等が対象となるかは,労働者の職務との関連性,求職活動等との関連性,労働者と求職者等との関係性,参加者,参加や対応が強制的か任意か等を考慮して判断するとされています(解釈事項問30)。関係性については,例えば,求職活動等の開始以前から部活動等の私的な活動で面識があるかどうかといった観点が考えられます。
「面接中だけ気を付ければよい」という理解は,不十分です。採用活動に関わる場面は,面接の前後や,会社の外にも広がります。
2-3 採用活動を行っていない事業主
定期的な採用活動を行っておらず,求職者等と労働者が接する機会がない場合は,指針4の措置を全て講じていなくても差し支えないとされています。ただし,採用活動を開始し,求職者等に対する説明会や面接を実施することとなれば,その時点で全ての措置を講ずる必要があります(解釈事項問37)。
3 法改正の経緯と全体像
この項の結論
改正法は2025年(令和7年)6月11日に公布され,2026年(令和8年)10月1日に施行されました。求職者等に対する就活セクハラの防止措置は,均等法第13条に設けられた規定に基づく事業主の義務です。
改正前は,求職者等に対する防止措置を事業主に義務付ける法律上の規定はなく,行政による周知や,企業の自主的な取組が中心でした。改正法は,均等法に,次の規定を置いています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 均等法第13条第1項 | 事業主に,求職者等からの相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付ける。求職活動等において行われる,事業主が雇用する労働者による性的な言動により,求職者等の求職活動等が阻害されることのないようにするためのものである。 |
| 均等法第13条第2項 | 労働者が,事業主による求職者等からの相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由とする,事業主による解雇その他不利益な取扱いを禁止する。 |
| 均等法第13条第3項,第4項 | 事業主が講ずべき措置等の適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を,厚生労働大臣が定めることとする。 |
| 均等法第14条 | 国,事業主及び労働者の責務を定める(指針3)。 |
3-1 これまでの経緯
| 時期 | 主な動き |
|---|---|
| 2025年(令和7年)6月11日 | 改正法が公布(同月4日に成立) |
| 2026年(令和8年)2月26日 | 指針が告示(令和8年厚生労働省告示第52号) |
| 2026年(令和8年)4月24日 | 施行通達及び解釈事項が発出 |
| 2026年(令和8年)9月30日 | 解釈事項が改訂(同年10月1日適用) |
| 2026年(令和8年)10月1日 | 改正法が施行され,求職者等に対する就活セクハラの防止措置が事業主の法的義務に |
背景には,就活セクハラの実態があります。厚生労働省の委託事業による実態調査(2024年(令和6年)1月実施,2020年度から2022年度に卒業して就職活動又はインターンシップを経験した1,000名が対象)では,インターンシップ中に就活等セクハラを一度以上受けたと答えた人が30.1%,インターンシップ以外の就職活動中に受けたと答えた人が31.9%でした。男性の回答割合が女性より高かった点も,調査結果に示されています。被害を受けたと答えた人(インターンシップ中228名,それ以外235名)に行為の内容を尋ねた結果では,インターンシップ中は「性的な冗談やからかい」(38.2%),「食事やデートへの執拗な誘い」(35.1%),「不必要な身体への接触」(27.2%)の順に多く,「性的な関係の強要」も19.7%(インターンシップ以外の就職活動中は16.2%)ありました。インターンシップ以外の就職活動中の場面は,「リクルーターと会ったとき」(32.8%)が最も多くなっています(令和5年度厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」,PwCコンサルティング合同会社,2024年(令和6年)3月)。なお,この調査は,インターネットによる回答に基づくもので,個別の事案が就活セクハラに当たるかどうかを示すものではありません。
3-2 職場のセクハラ・カスハラとの関係
同じ2026年(令和8年)10月1日に,カスタマーハラスメントの防止措置も事業主の法的義務となりました。カスハラ防止措置の内容は,「カスハラ防止措置の義務化とは|2026年10月施行・対象事業者と4つの措置」で整理しています。両者と,従来からある職場のセクシュアルハラスメントの防止措置は,次のように区別されます。
| 項目 | 就活セクハラ(本記事) | 職場のセクシュアルハラスメント | カスタマーハラスメント |
|---|---|---|---|
| 保護の対象 | 求職者等 | 労働者 | 労働者 |
| 主な行為者 | 事業主が雇用する労働者 | 事業主,上司,同僚等 | 顧客,取引の相手方等 |
| 根拠規定 | 均等法第13条 | 均等法第11条 | 労働施策総合推進法第33条 |
| 指針 | 令和8年厚生労働省告示第52号 | 平成18年厚生労働省告示第615号 | 令和8年厚生労働省告示第51号 |
| 施行 | 2026年(令和8年)10月1日 | 改正前から義務 | 2026年(令和8年)10月1日 |
社内の相談窓口を,職場のハラスメントやカスハラの窓口と併せて運用することは,考えられます。ただし,求職者等が窓口を知り,利用できるようにするため,採用サイト等での周知が必要となる点が,社内向けの窓口と異なります(指針4⑵イ)。
4 事業主が講ずべき措置
この項の結論
指針は,事業主が講ずべき措置として,①方針の明確化・周知・啓発,②相談体制の整備,③事後の迅速かつ適切な対応,④併せて講ずべき措置の4つを定めています。
均等法第13条第1項は,雇用管理上必要な措置の具体的内容を,指針に委ねています(同条第3項)。指針4は,次の措置を定めています。
4-1 ①方針の明確化・周知・啓発
事業主は,次の3点を講じなければなりません(指針4⑴)。
- 就活セクハラを行ってはならない旨の方針の明確化と,周知・啓発管理監督者を含む労働者に周知・啓発します(指針4⑴イ)。例として,就業規則等への記載,社内報・パンフレット・ホームページへの掲載,研修・講習の実施が挙げられています。
- 行為者に厳正に対処する旨の方針と,対処の内容の明確化・周知就活セクハラに当たる性的な言動を行った者に厳正に対処する旨の方針と,対処の内容を定め,周知します(指針4⑴ロ)。懲戒規定の明確化などが例として示されています。
- 求職活動等に関するルールの明確化と周知労働者に対しては,求職者等と面談等を行う際の規則を定め,研修等で周知・啓発します。規則の例は,面談の時間・場所の指定,複数人で対応するなどの実施体制,やり取りに用いるSNSの種類の指定です。求職者等に対しては,規則を踏まえた面談等に関する留意事項を,ホームページやパンフレット等で周知します(指針4⑴ハ,解釈事項問33)。
指針や解釈事項が挙げるのは,ルールに定める事項の例です。複数名での面接,夜間の面談や飲酒を伴う懇親会の制限などを,法律が一律に義務付けているわけではありません。どのような内容を定めるかは,事業主が自社の採用フローに応じて判断します。設計例は,4-7で整理しています。
4-2 ②相談体制の整備
事業主は,相談窓口をあらかじめ定め,求職者等に周知しなければなりません。形式的に設けるだけでは足りず,実質的な対応が可能な窓口が必要です(指針4⑵イ,解釈事項問34)。担当者の指定,相談に対応するための制度の整備,外部機関への委託が例として挙げられています。周知は,ホームページやパンフレット等で,窓口の部署や担当者の連絡先を示す方法によります。
- 窓口の担当者が適切に対応できるようにすること就活セクハラが現実に生じている場合だけでなく,発生のおそれがある場合や,該当するか微妙な場合も,広く相談に対応します。被害を受けた人が萎縮して相談をためらう場合があることも,踏まえる必要があります。例として,窓口の担当者と人事部門の連携の仕組み,留意点を記載したマニュアル,担当者への研修があります(指針4⑵ロ)。
- 人事担当者以外の担当者の指定も検討すること求職者等が,採用担当の人事担当者への相談をためらうことも想定されるため,人事担当者以外の者を窓口の担当者に指定することも考えられます。例外なく人事担当者以外とする必要はなく,企業が適切に判断します(解釈事項問34)。
求職者等は,事業主の窓口のほか,教育機関の窓口や都道府県労働局にも相談できます。事業主と教育機関の連携が望ましいとされています(解釈事項問35,指針5⑴)。窓口の設計手順は,「カスハラ防止措置の実務対応|相談窓口・就業規則の設計手順」でも解説しています。求職者等向けの窓口も,同様の考え方で設計できます。
4-3 ③事後の迅速かつ適切な対応
相談の申出があった場合,事業主は,事実関係の確認,被害者への配慮,行為者への措置,再発防止の措置を講じなければなりません(指針4⑶)。
- 事実関係の確認相談者と,行為者とされる者の双方から,事実関係を確認します。相談者の心身の状況や受け止めに配慮し,双方の主張に不一致があり事実の確認が困難な場合は,第三者からも聴取します。確認が困難な場合の例として,均等法に基づく調停の申請など,中立な第三者機関に紛争処理を委ねることも挙げられています(指針4⑶イ)。
- 被害者への配慮事実が確認できた場合,速やかに,被害者に対する配慮の措置を適正に行います。被害者と行為者を引き離すこと,行為者による謝罪,人事担当者等による相談対応などが例です(指針4⑶ロ)。
- 行為者への措置事実が確認できた場合,行為者に対する措置を適正に行います。就業規則等に基づく懲戒その他の措置,被害者との引き離しなどが例です(指針4⑶ハ)。懲戒処分の考え方は,「懲戒処分」のページもご覧ください。
- 再発防止方針を改めて周知・啓発するなど,再発防止に向けた措置を講じます。事実が確認できなかった場合も,同様の措置を講じます。社内報等への方針の再掲載や,研修の再実施が例です(指針4⑶ニ)。
指針が挙げる措置は例示であり,どの措置を選ぶかは,事案の内容や状況によります。
4-4 ④併せて講ずべき措置
指針4⑷は,4-1から4-3までの措置と併せて,次の2つの措置を講じなければならないとしています。
- プライバシーの保護相談者及び行為者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ,その旨を労働者及び求職者等に周知します。マニュアルへの明記,窓口担当者への研修などが例です(指針4⑷イ)。
- 不利益取扱いをしない旨の周知労働者が,事実関係の確認等の措置に協力したこと,都道府県労働局に対して相談,紛争解決の援助の求め,調停の申請等を行ったことなどを理由として,解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め,労働者に周知・啓発します。就業規則等への記載が例です(指針4⑷ロ)。
均等法第13条第2項は,労働者が,事業主による求職者等からの相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由とする,解雇その他不利益な取扱いを禁止しています。指針の例示は労働者を対象としており,求職者等が相談したことを理由とする選考上の不利益取扱いについては,法・指針が明示していません。もっとも,そのような取扱いを行わない旨を社内ルールに明記しておくことを推奨します(実務上の推奨対応)。
4-5 望ましい取組
指針は,措置義務に加えて,次の取組を望ましいものとして挙げています(いずれも法的義務ではありません。)。
- 教育機関との連携(指針5⑴)大学や専門学校等の教育機関が設置する相談窓口の担当者など,求職者等の関係者から,相談に関する情報提供があった場合に,連携して適切に対応します。
- 顧客等による言動への対応(指針5⑵)顧客,取引の相手方,施設の利用者などによる就活セクハラに類すると考えられる言動について相談があった場合に,4の措置も参考にしつつ,必要に応じて適切に対応するよう努めます。
- パワーハラスメント等に類する行為への配慮(指針6⑴)求職活動等におけるパワーハラスメントや,妊娠・出産等,育児休業等に関するハラスメントに類する行為についても,労働者の言動に注意を払い,同様の方針を示すことが望ましいとされています。相談があった場合は,4の措置を参考に対応します。性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動や,機微な個人情報の暴露等も対象に含まれます。
- カスタマーハラスメントに類する言動への対応(指針6⑵)顧客等による求職活動等におけるカスタマーハラスメントに類すると考えられる相談があった場合に,4の措置も参考にしつつ,必要に応じて適切に対応するよう努めます。
職場のパワーハラスメント防止措置は,「パワーハラスメント(パワハラ)対策|企業が講ずべき10の措置と実務対応」をご覧ください。
4-6 措置の整理と着手の順序
| 区分 | 措置 | 主な内容 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 法的義務 | ①方針の明確化・周知・啓発 | 就活セクハラを行ってはならない旨と,行為者に厳正に対処する旨の方針の明確化。求職活動等に関するルールの策定。労働者と求職者等への周知 | 均等法第13条第1項,指針4⑴ |
| 法的義務 | ②相談体制の整備 | 相談窓口の設置と求職者等への周知。担当者が適切に対応できる体制 | 均等法第13条第1項,指針4⑵ |
| 法的義務 | ③事後の迅速かつ適切な対応 | 事実関係の確認,被害者への配慮,行為者への措置,再発防止 | 均等法第13条第1項,指針4⑶ |
| 法的義務 | ④併せて講ずべき措置 | プライバシーの保護。不利益取扱いをしない旨の周知 | 均等法第13条第1項,指針4⑷ |
| 法律上の禁止 | 不利益取扱いの禁止 | 労働者が相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由とする,解雇その他不利益な取扱いの禁止 | 均等法第13条第2項 |
| 望ましい取組 | 教育機関との連携,顧客等による言動への対応等 | 連携した対応,類する言動への対応,パワーハラスメント等への配慮 | 指針5,6 |
着手の順序に,法定のものはありません。実務上は,次の順序で進めると,未整備の部分を把握しやすくなります(実務上の推奨対応)。
| 手順 | 主な担当 | 主な判断事項 | 残す記録 |
|---|---|---|---|
| STEP1 採用活動の接点を洗い出す | 採用責任者,人事 | 説明会,インターンシップ,面談,OB・OG訪問,SNS等での連絡など,求職者等と労働者が接する場面と,関与する労働者の範囲 | 接点の一覧,関与する労働者の範囲 |
| STEP2 方針とルールを定める | 経営層,人事,法務 | 方針の表現,面談の時間・場所・体制,SNSや懇親会の扱い | 方針文書,面談等のルール |
| STEP3 相談窓口を定めて周知する | 人事・総務,法務 | 担当者の指定,外部委託の要否,人事担当者以外の窓口 | 窓口の指定,採用サイト等への掲載記録 |
| STEP4 事後対応の手順を定める | 人事,法務 | 事実確認の方法,被害者への配慮,行為者への措置,プライバシーの保護 | 対応マニュアル,相談記録の様式 |
| STEP5 規程の整備,研修,運用の見直しを行う | 人事,法務 | 就業規則等への反映,研修の対象,見直しの時期 | 研修の受講記録,見直しの記録 |
4-7 採用実務のルール設計例
指針や解釈事項が挙げる面談等のルールの例(時間・場所の指定,実施体制,SNSの種類の指定)を踏まえた,設計例を次に示します。いずれも法定の義務ではなく,採用実務で検討されることが多い運用上の対応例です。本例は一般例です。実際には企業ごとの実情に応じた調整が必要です。
| 項目 | 設計例 | 検討のポイント |
|---|---|---|
| 実施体制 | 面接や面談は,原則として複数名で実施する。又はオンラインで実施する。 | 人員の確保と運用の負担を踏まえます。 |
| 時間・場所 | 会社の施設や大学の公開スペースなど,第三者の目が届く場所で実施する。個室での長時間の面談や,夜間の面談は避ける。 | 例外を認める場合の承認手続を決めておきます。 |
| 飲酒を伴う場 | 採用活動に関連する懇親会や食事の場では,飲酒を禁止又は制限する。 | 内定者の懇親会やOB・OG訪問の食事も対象にするかを決めます。 |
| 連絡手段 | 求職者等との連絡は,会社のメールアドレスや電話など,会社が管理する手段に限る。 | 個人のSNSでの連絡を例外とする場合の報告ルールを決めます。 |
| 事前報告・記録 | 面談の日時・場所・参加者を事前に上長へ報告し,記録を残す。 | 記録の保存期間を決めます。 |
| OB・OG訪問 | 会社が関与する範囲と,社員の個人的な活動との線引きを定め,社員に周知する。 | 会社の管理が及びにくい場面ほど,ルールの周知が重要です。 |
5 行政指導・企業名公表のプロセス
この項の結論
措置義務違反そのものを処罰する規定は確認できませんが,厚生労働大臣による助言・指導・勧告と,勧告に従わない場合の公表が定められています。いきなり公表される制度ではありません。
| 手続 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 報告の請求,助言・指導・勧告 | 厚生労働大臣が,改正法の施行に関し必要があると認めるときに,事業主に対し,報告を求め,又は助言,指導若しくは勧告をします。この権限は,厚生労働省令で定めるところにより,その一部を都道府県労働局長に委任できます(同条第2項)。 | 均等法第35条 |
| 報告をせず,又は虚偽の報告をしたとき | 第35条第1項の報告をせず,又は虚偽の報告をした者は,20万円以下の過料に処されます(施行通達)。 | 均等法第39条 |
| 公表 | 厚生労働大臣が,均等法第13条第1項及び第2項等に違反している事業主に勧告をした場合に,その勧告に従わなかったときは,その旨を公表できます。 | 均等法第36条 |
5-1 労働局への相談と紛争解決の援助・調停
求職者等は,事業主の窓口のほか,教育機関の窓口や都道府県労働局のいずれにも相談できます(解釈事項問35)。指針4⑷ロは,労働者が,都道府県労働局に対して相談,紛争解決の援助の求め,調停の申請等を行ったことを理由とする不利益取扱いをしない旨を,定めて周知することを求めています。措置を整備していない事業主は,行政指導に加えて,労働局を通じた対応も求められ得ます。
公表の基準や実施の頻度など,運用の詳細は,現時点では示されていません。既存のハラスメント防止措置の運用を参考にしつつ,今後の厚生労働省の公表資料に注意する必要があります。
6 損害賠償責任の考え方
この項の結論
措置義務違反それ自体を理由とする損害賠償請求権を定めた規定は確認できません。もっとも,就活セクハラの事案では,行為者の不法行為責任や会社の使用者責任(民法第709条,第715条)等が問題となり得ます。責任の有無は,個別の事情によって判断されます。
6-1 民事責任の整理
| 主体 | 根拠 | 考え方 |
|---|---|---|
| 行為者本人 | 民法第709条 | 故意又は過失により,求職者等の権利又は法律上保護される利益を侵害した場合に問題となります。個別の行為が常に責任を生じさせるとまではいえません。 |
| 会社(使用者) | 民法第715条 | 行為が会社の「事業の執行について」行われたと評価されるかが問題となります。採用活動に関与した労働者の行為であっても,当事者の関係や行為の業務関連性等の個別の事情で判断されます。 |
| 会社自身の対応 | 民法第709条等 | 相談を受けた後の調査や対応が不適切であった場合に,会社自身の対応が違法と評価されるおそれがあります(6-2の裁判例では,相談対応の評価が審級で分かれています。)。 |
| 安全配慮義務 | 労働契約法第5条 | 労働契約上の義務であり,労働契約が成立していない求職者等との関係で,当然に成立するとはいえません。会社にどのような民事責任が成立するかは,当事者の関係,行為の業務関連性,会社の関与・対応等の具体的事情によって判断されます。 |
措置義務の整備状況が,これらの責任の判断にどう影響するかは,施行から間もないため,裁判例の蓄積はこれからです。今後の裁判例を待つ論点です。
6-2 関連する裁判例
求職者等に対する就活セクハラの措置義務を直接判断した裁判例は,施行から間もないため,まだ蓄積されていません。次の裁判例は,職場でのセクシュアルハラスメントに関する事案ですが,会社の防止措置,相談対応及び懲戒処分の評価について参考になります。いずれも実在の裁判例で,判決原文で確認した内容です。改正法の施行前の事案です。結論は個別の事実関係によります。
| 判決 | 事案 | 判断 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|
| 大阪地方裁判所2004年(平成16年)9月3日判決(第一審) 大阪高等裁判所2005年(平成17年)6月7日判決(控訴審) 日本郵政公社(近畿郵政局)事件 | 男性職員が,勤務先の女性の課長代理に,男性用浴室の扉を開けられて話しかけられたことをセクハラ行為として申し立てた。あわせて,申立てを受けた郵便局・近畿郵政局の職員の対応(二次セクハラ)も争われた。公務員の事案で,国家賠償法等に基づく請求である。 | 第一審は,セクハラ行為を違法としたほか,被害の申告者より先に,加害者とされた者から事情を聴取して調査を進め,申告者の聴取が1週間後になった対応等を,相談員の職務上の義務違反として違法とし,国家賠償責任(15万円)を認めた。控訴審は,セクハラ行為も,申立てへの対応も,違法とはいえないとして,第一審の認容部分を取り消し,請求を棄却した。控訴審は,事実関係を把握する手順は,個別の事案に即して担当者の判断に委ねざるを得ない面があり,他方当事者からも早期に事情を聴く必要がある場合もあるとし,申告者の聴取が遅れたことを違法とはしなかった。 | 相談対応の手順(誰から,いつ聴取するか)の評価は,審級で分かれた。確定した結論は,違法性を否定したものである。聴取の順序や時期の判断を,記録に残して説明できるようにしておくことが重要である。 |
| 神戸地方裁判所尼崎支部2005年(平成17年)9月22日判決 A社(総合警備保障業)事件 | 女性の従業員が,同僚からセクハラを受けたこと,会社が予防措置・是正措置をとらなかったこと等を主張して,慰謝料を請求した(反訴)。 | セクハラの事実は,従業員の供述のみでは認められず,存否が不明であり,立証責任を負う従業員の不利益に帰するとした。また,会社には,労働組合とのセクハラの防止・対応に関する協定書と,従業員への各種広報活動があり,男女雇用機会均等法等を通じて企業に求められる防止措置として十分であるとして,予防義務違反を否定し,慰謝料請求を棄却した。 | 防止方針の周知・啓発の実施状況が,会社の予防義務違反の有無の判断で評価された例。事実の存否は,申告者側の立証の問題にもなる。 |
| 最高裁判所第一小法廷2015年(平成27年)2月26日判決 (第一審:大阪地方裁判所2013年(平成25年)9月6日判決。控訴審:大阪高等裁判所2014年(平成26年)3月28日判決) 海遊館事件 | 管理職の男性従業員2名が,1年余りにわたり,同じ部署の女性従業員に対して性的な発言等を続け,出勤停止(30日,10日)の懲戒処分を受け,降格された。処分と降格の有効性が争われた。 | 第一審は請求を棄却し,控訴審は出勤停止処分を無効とした。最高裁は,会社が,セクハラ禁止文書を配布・掲示し,研修への参加を全従業員に義務付けていたことなどを踏まえ,被害者が明確に拒否していなかったことや,事前の警告・注意がなかったことを,行為者に有利な事情とはせず,出勤停止の懲戒処分と降格を有効とした。 | 行為者への措置を講ずる際に,防止方針の周知や研修の実施状況が,処分の有効性を支える事情として評価され得る例。就活セクハラを直接判断したものではない。 |
相談対応の手順や防止措置の整備状況が争われた例があることから,会社の責任は,行為者個人の問題にとどまらず,教育,ルール,相談対応及び事後対応といった会社の体制の整備状況が問われるおそれがあると当事務所は考えます(当事務所の見解です。)。
6-3 就活セクハラに関する報道事例
就活セクハラに関連する事件が,企業の採用ルール見直しの契機となった例があります。NEC株式会社(以下「NEC」といいます。)は,社員が就職活動中の学生に対するわいせつな行為をしたとして,2025年(令和7年)1月8日に逮捕されたことを公表しました(「当社社員の逮捕について」(https://jpn.nec.com/press/202501/20250114_02.html)同社公表資料2025年(令和7年)1月14日(以下「NEC公表資料」といいます。),2026年10月6日最終閲覧)。あわせて,採用活動の見直しとして,1対1の面会を会社施設や大学構内のオープンスペース,オンラインに限り1時間以内とすること,平日の日中に限ること,飲酒の禁止,連絡手段を会社のメールや携帯電話に統一すること,面会の事前の届出,採用関係社員による誓約書の提出などを示し,採用活動全般に関する相談窓口を新たに設置しました(NEC公表資料,2026年10月6日最終閲覧)。
2019年にも,就活生を巡る事件が相次いで報じられました。住友商事株式会社は,2019年(平成31年)3月29日,元社員が準強制性交等の疑いで逮捕された事件を受け,OB訪問での飲酒禁止,入社3年未満の社員がOB訪問を受けることの禁止,対応時間(午後1時から6時まで)と場所(原則として社内施設)の限定,就活支援企業が運営するOB訪問のマッチングアプリの利用禁止,苦情・相談窓口の設置などの再発防止策(8項目)を発表し,事件発生後に,この社員を懲戒解雇していたと報じられています(「住商,OB訪問の飲酒禁止 元社員の逮捕受け対策」日本経済新聞電子版2019年(平成31年)3月29日(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43090740Z20C19A3XQ9000/,2026年10月6日最終閲覧))。
株式会社大林組の社員が,就職活動中の女子大学生に対する強制わいせつの疑いで逮捕された事件では,東京地方検察庁が2019年(平成31年)3月16日までに不起訴処分としたと報じられています。理由は明らかにされていません(「大林組社員を不起訴 強制わいせつ容疑で地検」日本経済新聞電子版2019年(平成31年)3月16日(https://www.nikkei.com/article/DGKKZO42558610W9A310C1CC0000/,2026年10月6日最終閲覧))。
逮捕や不起訴の事実は,民事上・刑事上の責任の有無を直ちに示すものではありません。本項は,事件の当否を論ずるものではなく,企業が採用実務のルールを見直した例として紹介するものです。
6-4 採用活動上のリスク
就活セクハラは,SNSや口コミサイト,学生同士の情報共有,大学のキャリアセンターなどを通じて拡散するおそれがあります。評判が下がれば,応募者の減少や内定辞退の増加,大学・就職支援機関との関係悪化につながるおそれがあります。これらは,法的な責任とは別の,採用活動上のリスクです。
7 指針(告示)の構成
この項の結論
指針(令和8年厚生労働省告示第52号)は,1から6までの6つの区分で構成されています。原文は,厚生労働省のウェブサイトで確認してください。
指針は,事業主が講ずべき措置の内容を具体化するものです。構成は,次のとおりです。原文は「厚生労働省指針(令和8年厚生労働省告示第52号)」で確認できます。
| 区分 | 項目 | 概要 |
|---|---|---|
| 1 | はじめに | 趣旨,根拠条文(均等法第13条第1項から第3項まで) |
| 2 | 求職活動等におけるセクシュアルハラスメントの内容 | 定義,「求職活動等」「労働者」「性的な言動」の範囲,典型例 |
| 3 | 事業主等の責務 | 事業主及び労働者の責務(均等法第14条) |
| 4 | 事業主が雇用管理上講ずべき措置の内容 | ⑴方針の明確化及び周知・啓発,⑵相談体制の整備,⑶事後の迅速かつ適切な対応,⑷併せて講ずべき措置 |
| 5 | 事業主が行うことが望ましい取組 | 教育機関との連携,顧客等による言動への対応 |
| 6 | パワーハラスメント等に類する行為への対応 | パワーハラスメント等,カスタマーハラスメントに類する行為への対応 |
8 よくある誤解
この項の結論
「学生は従業員ではないから対象外」「面接中だけ気を付ければよい」「採用担当者が勝手にやったことで会社は関係ない」といった理解は,措置義務の範囲や会社の責任を見誤るものです。
8-1 誤解1:学生は従業員ではないから,対象外である
対象です。措置の対象は,雇用契約が成立していない求職者等です。応募者や面接を受ける人のほか,就職説明会,インターンシップ,OB・OG訪問などの参加者が含まれます(2-1)。
8-2 誤解2:面接中だけ気を付ければよい
面接に限られません。説明会,インターンシップ,OB・OG訪問,オンラインでの面談,SNS等での連絡,実質上採用の延長と考えられる懇親の場も,対象となり得ます(2-2)。採用担当部署だけでなく,現場の社員や管理職を含め,採用活動に関わる労働者に,ルールを周知・啓発する必要があります(指針4⑴ハ)。
8-3 誤解3:採用担当者が勝手にやったことで,会社は責任を負わない
事業主の措置義務は,行為者個人の責任とは別に,会社として,方針,窓口及び事後対応を整備する義務です。民事上も,会社の使用者責任等が問題となり得ます(6項)。紛争では,行為者本人の問題にとどまらず,教育,ルール,相談窓口の機能,苦情を受けた後の調査といった会社の仕組みが検証されるおそれがあります。
8-4 誤解4:罰則がないので,対応を後回しにしてよい
措置義務違反そのものを処罰する規定は確認できません。しかし,措置を怠れば,助言・指導・勧告の対象となり,勧告に従わなければ公表され得ます(5項)。民事上の責任が問題となる場合もあります(6項)。
9 自己点検チェックリスト
この項の結論
次の11項目のうち,「はい」と答えられない事項は,未整備のおそれがあります。
- 2026年(令和8年)10月1日に改正法が施行されたこと,及び自社が採用活動を行う限り対象の事業主であることを,経営層と採用に関わる管理職が認識しているか
- 「求職者等」の範囲(応募者,面接を受ける人,説明会・インターンシップ・OB・OG訪問の参加者,実習の受講者)を,採用担当者が説明できるか
- 就活セクハラを行ってはならない旨と,行為者に厳正に対処する旨の方針を明確にし,管理監督者を含む労働者に周知・啓発しているか
- 面談の時間・場所,実施体制,SNSの種類など,求職者等と面談等を行う際のルールを定め,労働者に周知しているか
- 面談等に関する留意事項を,採用サイトやパンフレット等で,求職者等に周知しているか
- 求職者等向けの相談窓口を定め,連絡先を採用サイト等で周知しているか。人事担当者以外の窓口も検討したか
- 窓口の担当者が,該当するか微妙な場合も含めて適切に対応できるよう,マニュアル,人事部門との連携,研修を整えているか
- 事実関係の確認,被害者への配慮,行為者への措置,再発防止の手順を定めているか
- 相談者及び行為者のプライバシーを保護する措置を講じ,労働者及び求職者等に周知しているか
- 労働者が事実関係の確認等に協力したことなどを理由として,不利益な取扱いをされない旨を定め,周知しているか
- OB・OG訪問,インターンシップ,採用代行や取引先の労働者が関わる場面で,会社のルールと相談先を示しているか
10 よくある質問(FAQ)
この項の結論
FAQでは,義務化の時期,対象,違反時の扱い,委託先が関わる場合,就業規則の改定の要否を整理します。
11 弁護士へ相談すべき場面・相談のタイミング
この項の結論
制度の内容は公表資料で把握できますが,規程・ルールの文言の確定,相談窓口の設計,個別の相談への事実確認や行為者への措置といった場面では,早い段階で弁護士に相談することが有効です。
次の場面では,弁護士への相談を検討してください。
- 就業規則やハラスメント防止規程に,就活セクハラの方針と対処の内容を反映する,具体的な文言を確定させたいとき
- 面談ルールや,懇親会・OB・OG訪問の運用を,自社の採用フローに即して設計したいとき
- 相談窓口の設置方法(社内,外部委託,人事部門以外の担当)を検討したいとき
- 求職者等から相談があり,事実確認の方法や,行為者・被害者への対応を判断したいとき
- 行為者の懲戒処分の可否や程度を検討するとき
- 求職者本人,大学,労働局などから,事実関係の確認や対応を求められたとき
- 採用代行会社やグループ会社など,他の事業主との役割分担を整理したいとき
弁護士が関与できる業務は,テーマに即して,次のように整理できます。法的評価(言動が就活セクハラに当たるか,措置が相当か),防止方針の策定と規程の整備,採用担当者向けの研修,相談窓口体制の構築,苦情・相談への対応,事実調査と社内調査,行為者・被害者への対応,行政対応や損害賠償請求への対応です。弁護士が関与しても,結果を保証するものではありません。
規程の整備のように範囲が明確な検討は,単発の相談が適することがあります。運用の開始後に相談が繰り返し生じる場合は,継続的な顧問契約の方が,経緯を踏まえた助言を受けやすくなります。労務体制全般の整備については,「労務体制を整備し,企業を強くするためのサポートプラン」もご覧ください。
12 まとめ
2026年(令和8年)10月1日から,求職者等に対する就活セクハラの防止措置は,採用活動を行う事業主の法的義務となっています。まず,9項のチェックリストで,自社の未整備事項を洗い出してください。次に,方針と面談等のルールの明確化・周知と,求職者等に周知する相談窓口の設置から着手し,事後対応の手順を整えます。
措置義務違反そのものを処罰する規定は確認できませんが,助言・指導・勧告,公表,行為者や会社の民事責任のリスクがあります。採用担当部署だけに任せず,人事・総務・法務が連携して,採用活動全体を見直すことが重要です。
規程の文言の確定や,個別の相談への対応は,事案ごとの判断が必要です。必要に応じて,専門家に相談してください。ハラスメント全般への対応は,「ハラスメントに関する取扱分野」でも整理しています。
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- 懲戒処分行為者への措置として検討する,懲戒処分の考え方を確認できます。
- 人事労務対応コンサルティング人事労務の課題に弁護士が関与する支援の内容を確認できます。
- 労務体制を整備し,企業を強くするためのサポートプラン労務体制全般の整備を継続的に支援する,サポートプランの案内です。
就活セクハラ対応のご相談の前に整理しておくとよい資料
就活セクハラ防止措置の整備や,個別の相談への対応について,専門家への相談を検討される場合は,次の資料を手元にご用意いただくと,状況の整理が進めやすくなります。
- 現行の就業規則,ハラスメント防止規程,採用マニュアル・面接官向けの資料
- 採用フロー(説明会,インターンシップ,面談,OB・OG訪問,リクルーター制度の有無と運用)がわかる資料
- 採用に関わる労働者の範囲(部署,人数)と,採用代行等の外部委託先がわかる資料
- 相談窓口の設置状況と,採用サイト等での周知の状況がわかる資料
- 過去の就活に関する相談・苦情の記録(個人情報に配慮したもの)