〜経営悪化を理由に人員削減を検討する企業が,解雇通知の前に確認すべき法的リスクと手順〜
整理解雇とは,経営上の理由による人員削減のために行う解雇をいいます。労働者に落ち度がない類型であるため,能力不足や非違行為を理由とする解雇よりも,裁判所の審査は厳しくなります。本記事では,業績悪化を受けて人員整理を検討する企業の経営者,人事・法務・総務のご担当者に向けて,裁判例が用いる4つの観点,無効となった場合のリスク,希望退職・退職勧奨の設計,予告や届出などの手続,実際の進め方を,解雇通知の前に確認すべき順序で整理します。
- 整理解雇は,経営上の理由による人員削減のための解雇です。労働契約法第16条のもとで,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の妥当性という4つの観点から,厳しく審査されます。
- 近年は,4つを全て満たすべき「要件」ではなく,総合的に考慮する「要素」と理解する見方が有力です。もっとも,実務では4つ全てについて,通知の前に根拠資料と記録を整えておくことが安全です。
- 無効と判断されると,労働契約は存続し,解雇日以後の賃金(バックペイ)の支払を命じられるおそれがあります。人員削減という目的も果たせず,経営再建の計画が狂います。
- 希望退職の募集や退職勧奨は,解雇回避努力の中核となり得ます。他方で,応募の強要や執拗な働きかけに及べば,不法行為や退職の意思表示の取消しの問題を生じるおそれがあります。
- 解雇には,原則として30日前の予告又は30日分以上の平均賃金の支払が必要です。解雇予告の除外認定は,経営不振による整理解雇では通常は使えません。
- 1箇月以内に30人以上の離職が見込まれる場合は,再就職援助計画や大量雇用変動届など,ハローワークに対する手続が必要になります。
- 解雇全体の考え方は,「解雇の種類と有効性の判断(解雇ピラーページ)」で確認できます。整理解雇の個別の判断は,経営資料や過去の対応の記録によって結論が変わるため,通知の前にご相談ください。
目次
- 1 整理解雇とは何か
- 2 整理解雇の「4要素」と裁判所の見方
- 3 人選の場面で注意すべき労働者の属性
- 4 整理解雇が無効となったときの企業のリスク
- 5 希望退職・退職勧奨の設計と限界
- 6 実務の進め方(STEP1〜STEP7)
- 7 予告・証明書・ハローワークへの届出
- 8 よくあるNG対応と改善の方向
- 9 労働組合の有無による対応の違い
- 10 自己点検チェックリスト
- 11 よくある質問(FAQ)
- 12 弁護士へ相談すべき場面とタイミング
- 13 まとめ
根拠法令・参照資料
※労働契約法第16条・第17条,労働基準法第19条・第20条・第22条・第26条,労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」といいます。)第24条・第27条及び同法施行規則第7条の2・第8条・第9条,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「男女雇用機会均等法」といいます。)第6条・第9条,育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第10条,労働組合法第7条,雇用保険法第10条の4・第23条,民法第96条・第536条・第709条。
厚生労働省が公表する労働条件に関する解説(整理解雇の4つの観点を説明するもの),「多様な正社員の雇用ルール等に関する裁判例」,並びに次の行政資料(厚生労働省「再就職援助計画の提出手続」,岡山労働局「解雇予告除外認定申請について」,ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」,厚生労働省「雇用関係助成金支給要領」(令和8年10月1日版)の共通要領)。
本記事で紹介する裁判例は,判例データベースに掲載された判決等の全文により,裁判所,日付,事件番号,結論及び判断の理由を確認しています。
上記は,2026年(令和8年)10月20日時点で確認した内容によっています。
この記事はこんな方におすすめです
- 業績悪化を受け,人員削減が必要かどうか,解雇に踏み切ってよいかを判断したい経営者・役員の方
- 希望退職の募集や退職勧奨を,整理解雇に先立つ措置として設計したい人事・総務のご担当者
- 解雇予告,解雇理由証明書,ハローワークへの届出など,通知の前後に必要な手続を確認したい法務のご担当者
- 労働組合や社外のユニオンから申入れを受け,説明や協議の進め方を整理したい方
- 裁判例で何が問題とされたのかを踏まえ,自社の準備状況を点検したい方
主要用語の定義
整理解雇とは,企業の経営上の理由による人員削減の必要から行う解雇をいいます。
解雇回避努力とは,解雇に至る前に,役員報酬の削減,新規採用の停止,配置転換,出向,一時帰休,希望退職の募集など,解雇以外の手段によって人員削減の必要を減らす取組みをいいます。
希望退職とは,会社が一定の期間と条件(退職金の上乗せなど)を示して,広く退職希望者を募り,応募した労働者との間で合意により労働契約を終了させる手法をいいます。
退職勧奨とは,会社が特定の労働者に対し,合意による退職を働きかけることをいいます。労働者が応じるかどうかは自由です。
バックペイとは,解雇が無効とされた場合に,解雇日以後の期間について使用者が労働者に支払うべき賃金をいいます。
大量雇用変動届とは,1箇月以内に30人以上の労働者が離職する場合に,事業主がハローワークに提出する届出をいいます。
1 整理解雇とは何か
この項の結論
整理解雇は,使用者の経営上の事情による解雇です。普通解雇や懲戒解雇と異なり労働者側に理由がないため,労働契約法第16条の判断の中でも厳しく審査されます。
1-1 整理解雇の意味と法律上の位置付け
経営不振や事業の縮小など,企業側の経営上の理由で人員を削減するために行う解雇を,整理解雇といいます。「業績が悪化したので,数名に辞めてもらいたい」という相談は,景気の変動や事業再編のたびに企業法務の現場に寄せられます。
整理解雇に特別の条文はありません。整理解雇も,労働契約法第16条の「解雇は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,その権利を濫用したものとして,無効とする。」という規律の下で判断されます。
厚生労働省は,整理解雇の有効性について,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の妥当性の4つの観点から判断される,と説明しています(2-1)。
1-2 解雇の種類と整理解雇の違い
解雇は,解雇の理由によって,大きく次のように整理できます。整理解雇は,労働者の側に理由がない点に特徴があります。
| 種類 | 解雇の理由 | 審査の特徴 |
|---|---|---|
| 整理解雇 | 企業の経営上の必要(業績悪化,事業の縮小・廃止等) | 労働者に落ち度がないため,4つの観点から厳しく審査されます。 |
| 普通解雇 | 労働能力の不足,勤務態度の不良,傷病による就労不能など労働者側の事情 | 労働契約法第16条のもと,理由の客観的合理性と相当性が審査されます。 |
| 懲戒解雇 | 重大な企業秩序違反に対する制裁 | 就業規則上の根拠,懲戒事由への該当性,手続の適正が加わります。 |
| 諭旨解雇 | 懲戒解雇相当の事案で,本人に退職を促す形をとるもの | 制度の設計と運用,退職に応じない場合の対応が問題になります。 |
それぞれの詳細は,各記事で解説しています。本記事では,経営上の理由による人員整理に絞って解説します。
1-3 整理解雇と退職勧奨・希望退職の違い
人員整理を検討する際は,解雇通知を出す前に,整理解雇と,合意による退職(退職勧奨・希望退職)を区別して理解しておく必要があります。合意による退職の基本は,「合意退職」で解説しています。
| 比較項目 | 整理解雇 | 退職勧奨・希望退職 |
|---|---|---|
| 法的性質 | 使用者の一方的な意思表示 | 労働者の同意による合意退職 |
| 理由 | 経営上の必要性 | 経営上の必要性を背景とした任意の協力要請 |
| 審査の観点 | 4つの観点から,解雇の有効性が厳しく審査されます。 | 労働者の自由な意思による合意といえるかが問われます。 |
| 問題となった場合のリスク | 無効の場合の地位確認とバックペイ | 強要があれば不法行為,意思表示の取消し |
整理解雇は,他の手段を尽くした後の最後の手段として位置付けられます。希望退職の募集や退職勧奨が解雇回避努力の一環として評価される一方で,これらを実施する際にも,強要にならないよう設計する必要があります(5)。
2 整理解雇の「4要素」と裁判所の見方
この項の結論
裁判例は,人員削減の必要性,解雇回避努力,人選の合理性,手続の妥当性という4つの観点を踏まえて判断します。近年は総合考慮の「要素」と見る立場が有力ですが,4つ全てに備えるのが実務の基本です。
2-1 「4要件」から「4要素」へ
かつては,4つの事項を全て満たさなければ整理解雇は無効になる,という意味で「4要件」と呼ばれていました。厚生労働省は,現在は4つを総合的に考慮する「4要素」と理解する見方が有力であり,いずれの立場でも結論に大きな差はない,と説明しています。
もっとも,裁判例の整理は一様ではありません。東洋酸素事件(東京高等裁判所1979年(昭和54年)10月29日判決,地位保全の仮処分事件の控訴審)は,①事業部門閉鎖の合理的必要性,②配置転換の余地がなく剰員の発生が不可避であって,解雇が恣意的でないこと,③人選の合理性という3つを検討し,手続は別の段階(解雇の効力の発生を妨げる事情)として扱いました。後の日本通信事件も,同様の整理をとっています。同判決は,企業全体が破綻に瀕する場合に限って整理解雇が許されるという考え方には,同調しないとも述べています。
その後の裁判例は,これらを4つの観点に整理し直して判断するものが多く見られます。例えば東京自転車健康保険組合事件(東京地方裁判所2006年(平成18年)11月29日判決)は,4つの要素を考慮することとし,最初の3つは使用者が,手続の不相当性は労働者が,それぞれ主張・立証すべきものと整理しました。したがって,使用者は,通知の前に,必要性,回避努力及び人選について,裁判所に示せる資料を用意しておく必要があります。
2-2 人員削減の必要性
人員削減の必要性とは,経営上,人員を削減しなければならない客観的な事情があるかという観点です。決算書,売上や受注の推移,資金繰り,事業計画など,客観的な資料で裏付ける必要があります。経営状況を示す資料がなければ,必要性は認められにくくなります。
必要性は,倒産寸前の状態に限られるわけではありません。ただし,削減の規模が,経営上の必要に見合っているかは問われます。例えば横浜商銀信用組合事件(横浜地方裁判所2007年(平成19年)5月17日判決)は,副支店長2名を含む15名の解雇について,その必要性に疑問を示しました。
一方で,必要性が高いと認められても,他の観点が不十分なために無効とされることがあります。日本通信事件(東京地方裁判所2012年(平成24年)2月29日判決)は,必要性の程度を「かなり高い」としながら,回避努力が十分に尽くされておらず,人選の合理性にも疑問が残るとして,解雇を無効としました。
2-3 解雇回避努力
解雇回避努力とは,解雇に至る前に,解雇以外の手段で人員削減の必要を減らすために,実際に尽くした取組みをいいます。検討した事実だけではなく,実施した事実が問われます。主な回避措置は,次のとおりです。
| 措置の例 | 検討のポイント |
|---|---|
| 役員報酬の削減 | 労働者の整理に先立ち,経営陣が負担したかが問われます。一時的な減額にとどまる場合は,評価が限られます。 |
| 新規採用の停止・時間外労働の抑制 | 採用を続けながら解雇する場合には,必要性との矛盾が問われます。 |
| 配置転換・出向 | 他の部門や関連会社に受け入れる余地を,具体的に検討した記録が重要です。 |
| 一時帰休(休業) | 休業させる場合は,平均賃金の6割以上の休業手当の支払が必要です(労働基準法第26条)。 |
| 希望退職の募集 | 優遇条件,対象者,募集期間が,会社の財務状況に照らして妥当かが問われます。 |
日本通信事件は,役員報酬等(5名で合計3億2000万円超)に手を付けないまま,100万円にも満たない退職条件を示して退職勧奨を行い,応じなかった者の解雇を断行したことなどから,回避努力を不十分と判断しました。なお,同判決は,希望退職の募集を会社全体に及ぼすことまでは求めておらず,利益を生む部門を含めた募集は受忍限度を超えるとしています。横浜商銀信用組合事件は,希望退職を募集せず,降格や配置転換の打診も検討しなかったことから,回避努力は「およそ不十分」としています。
アイレックス事件(横浜地方裁判所2006年(平成18年)9月26日判決)は,製造部門の整理解雇について人員削減の必要性は認めたものの,希望退職の募集をせず,臨時的社員46名も削減しないまま解雇したことなどから,回避努力は十分でなく,人選方法にも疑問が残り,説明も相当ではなかったとして,解雇を無効としました。同判決は,特に削減を困難とする事情がない限り,正社員の整理解雇は臨時的社員を削減した上で行われるべきだと述べています。雇用形態ごとの位置付けは,3で説明します。
2-4 人選の合理性
人選の合理性とは,誰を解雇の対象とするかの基準が合理的であり,公正に運用されたかという観点です。勤務成績,勤続年数,扶養家族の状況,懲戒歴などの客観的な基準を事前に定め,基準に基づいて当てはめた過程を記録しておくことが基本となります。
年齢,職位,考課を選定要素とすること自体は,直ちに不当とはされません。もっとも,横浜商銀信用組合事件は,優先順位や重み付けの根拠を示さず,専務理事一人に判断を任せたことを問題としました。日本通信事件は,基準が「非採算部門」という抽象的なものであったこと,退職勧奨に応じなかった者を個別の事情に配慮せずに指名したことを問題としています。
これに対し,日本航空の客室乗務員の事案(東京地方裁判所2012年(平成24年)3月30日判決)では,休職者基準,病欠日数基準及び年齢基準が,客観的な基準と評価されました。控訴審の東京高等裁判所2014年(平成26年)6月3日判決は控訴を棄却し,最高裁判所第二小法廷2015年(平成27年)2月4日決定も上告を棄却し,上告を受理しませんでした。一方,同じ会社更生手続下の客室乗務員の事案でも,大阪地方裁判所2015年(平成27年)1月28日判決は人選の合理性がないとして解雇を無効としましたが,大阪高等裁判所2016年(平成28年)3月24日判決は,将来の貢献度に着目した人選基準を合理的と判断して原判決を取り消し,最高裁判所第三小法廷2017年(平成29年)6月6日決定は上告を受理しませんでした。これらの事案は会社更生手続の下で行われた人員整理であり,通常の企業にそのまま当てはまるとは限りません。
2-5 手続の妥当性
手続の妥当性とは,労働者や労働組合に対し,人員削減の必要性,時期,規模,方法を説明し,誠実に協議したかという観点です。解雇の直前に初めて通知する,経営資料を示さない,一律の対応に終始するといった進め方は,不利に評価されます。
横浜商銀信用組合事件は,解雇の直前に初めて通知し,経営資料も示さなかった点を問題としました。日本通信事件は,被解雇者を選ぶ手続が,個別の事情に配慮しない性急かつ画一的なものだったと評価しています。他方,日本航空の運航乗務員の事案(東京地方裁判所2012年(平成24年)3月29日判決)では,賃金等の減額,数次の希望退職者の募集を経たこと,病気欠勤・休職等の基準や年齢基準を人選に用いたことも不合理ではないとされたこと,労働組合と団体交渉等を尽くしたことなどから,解雇が有効とされました。控訴審の東京高等裁判所2014年(平成26年)6月5日判決は控訴等を棄却し,最高裁判所第一小法廷2015年(平成27年)2月5日決定も上告を棄却し,上告を受理しませんでした。
2-6 裁判例の比較表
2-2から2-5で紹介した主な裁判例を,次の表に整理します。判決の結論は,個々の事案の事情によるものであり,同じ措置をとれば同じ結論になるとは限りません。
| 裁判例 | 事案の特徴 | 判断 | 実務上の示唆 |
|---|---|---|---|
| 東京地方裁判所2012年(平成24年)2月29日判決日本通信事件 | 必要性は高いが,回避努力・人選に問題があった事案 | 解雇無効。地位確認と未払賃金を認めました。 | 必要性が高くても,他の観点の不備で無効になります。 |
| 横浜地方裁判所2007年(平成19年)5月17日判決横浜商銀信用組合事件 | 15名の解雇。希望退職の募集や降格・配転の検討がなかった事案 | 解雇無効。回避努力は「およそ不十分」とされました。 | 選定要素の重み付けの根拠と,事前の説明を用意する必要があります。 |
| 東京地方裁判所2006年(平成18年)11月29日判決東京自転車健康保険組合事件 | 4要素を考慮し,主張・立証の分担を整理した事案 | 解雇無効。例外的に慰謝料100万円を認めました。 | 強行した場合は,賃金以外の賠償も問われるおそれがあります。 |
| 東京高等裁判所1979年(昭和54年)10月29日判決東洋酸素事件 | 事業部門の閉鎖に伴う解雇 | 解雇有効(仮処分を認めた原審を取消し)。 | 3つの検討事項と,手続を別段階とする整理を示した判決です。 |
| 東京地方裁判所2012年(平成24年)3月29日判決日本航空運航乗務員解雇事件 | 会社更生手続下。賃金減額,複数回の希望退職等 | 解雇有効(控訴審・上告審も維持)。 | 会社更生手続下の事案であり,射程には注意が必要です。 |
上表のうち,会社更生手続下の事案は,通常の企業の人員整理とは前提が異なります。自社の事案に当てはめる際は,その点を踏まえてください。
2-7 主張立証に備える資料の整備
4つの観点は,裁判になってから整えられるものではありません。通知の前に,次のような資料を時系列で整理しておくと,後日の説明に耐えられます。
| 観点 | 整えておく資料の例 |
|---|---|
| 必要性 | 決算書,月次の損益,受注・売上の推移,資金繰り表,事業計画,取締役会議事録 |
| 回避努力 | 役員報酬の改定の記録,採用停止の決定,配置転換・出向の検討メモと打診の記録,希望退職の募集要項と応募状況 |
| 人選 | 選定基準の決定過程,基準ごとの評価資料,対象者ごとの当てはめの記録 |
| 手続 | 説明会の資料と議事録,個別面談の記録,労働組合との協議の議事録 |
想定事例として,製造業のA社が,主力取引先の発注減を理由に,製造部門の20名の削減を検討するとします。この場合,発注減による売上の見通し,役員報酬の減額や採用停止の実施時期,他部門への配置転換の可否,選定基準の決定の過程,組合又は従業員代表への説明の経過を,記録によって示せるかが,有効性を判断する際の焦点となります。
3 人選の場面で注意すべき労働者の属性
この項の結論
人選では,法律で解雇が制限・禁止される場合を最初に除外し,次に,限定正社員や有期契約の労働者の位置付けを確認します。属性による扱いの違いを説明できない人選は,リスクが高くなります。
3-1 解雇が制限・禁止される場合
整理解雇であっても,次の場合は,法律上,解雇が制限又は禁止されています。人選の候補者を挙げる段階で,該当の有無を確認してください。
| 類型 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 業務上の傷病・産前産後の休業期間中 | 労働基準法第19条第1項 | 休業期間とその後30日間は,解雇できません。打切補償を支払う場合や,天災事変その他やむを得ない事由で事業の継続が不可能となり,行政官庁の認定を受けた場合は例外です。 |
| 性別を理由とする解雇 | 男女雇用機会均等法第6条第4号 | 性別を理由とする退職勧奨及び解雇について,差別的な取扱いが禁止されています。 |
| 妊娠・出産等を理由とする解雇 | 男女雇用機会均等法第9条第3項・第4項 | 妊娠・出産等を理由とする解雇は禁止されます。妊娠中及び出産後1年以内の解雇は,事業主がこれらを理由とする解雇でないことを証明しない限り,無効です。 |
| 育児休業等を理由とする解雇 | 育児・介護休業法第10条 | 育児休業の申出や取得を理由とする解雇その他の不利益取扱いが禁止されています。 |
| 組合員であること等を理由とする解雇 | 労働組合法第7条第1号 | 組合員であること,組合に加入しようとしたこと,組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇や不利益取扱いは,不当労働行為となります。 |
これらに該当しない人選であっても,結果として特定の属性に偏っていれば,その理由を説明する必要があります。例えば,育児休業の取得者が多く含まれる場合は,選定基準の運用が公正であったかを,記録で示せるようにしておいてください。
3-2 勤務地・職務を限定した労働者(限定正社員)
勤務地や職務を限定して雇用した労働者についても,厚生労働省の整理によれば,整理解雇の判断枠組み又はこれに準じた枠組みで有効性が判断されます。限定があることの影響は,主に解雇回避努力の判断に表れるとされています。
鐘淵化学工業(東北営業所A)事件(仙台地方裁判所2002年(平成14年)8月26日決定,仮処分事件)は,人員削減の必要性等の他の3要素は一応備わっていると認めながら,転居を伴わない範囲に勤務地が限定された地域職の労働者について,関連会社等への転籍出向を真摯に模索したとは認めがたく,地域職から総合職への転換(転居を伴う転勤)を提案したことも回避努力を基礎づける重要な事情とはいえないとして,解雇を無効としました。他方,専修大学北海道短期大学事件(札幌地方裁判所2013年(平成25年)12月2日判決)は,閉校に伴う教員の整理解雇について,就業場所が限定されていた事実は使用者が行うべき雇用確保の程度を軽減する理由にならないとしつつ,学校法人には他の学校に新たな科目や教員の配置を設けることができないといった特有の事情もあるとして,解雇を有効としました。控訴審の札幌高等裁判所2015年(平成27年)4月24日判決は控訴を棄却し,最高裁判所第一小法廷2016年(平成28年)6月2日決定も上告を棄却し,上告を受理しませんでした。限定の有無にかかわらず,可能な配置転換・出向等を現実に検討し,打診した事実が問われます。
3-3 有期契約・パートタイム等の労働者
有期労働契約の期間中の解雇には,「やむを得ない事由」が必要です(労働契約法第17条第1項)。期間の定めのない契約よりも,解雇のハードルは高いと考えられます。期間満了による雇止めを選ぶ場合も,契約の更新状況によっては,別の法的問題が生じます。
正社員の整理に先立って臨時的な契約の労働者を削減すべきであったとして,解雇を無効とした例(アイレックス事件)があります。雇用形態を理由に順序を決めるのではなく,各人の契約内容と,回避措置としての位置付けを整理してください。
4 整理解雇が無効となったときの企業のリスク
この項の結論
整理解雇が無効とされると,企業は労働者の地位を認め,解雇日以後の賃金を支払う必要があります。人員削減の目的は達成できず,組合対応や職場への影響も加わります。
4-1 地位確認とバックペイ
解雇が無効であれば,労働契約は終了していません。労働者が就労できなかったのは,使用者の責めに帰すべき事由によるものと評価されるため,使用者は反対給付である賃金の支払を拒むことができません(民法第536条第2項)。このため,解雇日から判決確定までの賃金(バックペイ)の支払を命じられるおそれがあります。対象者が多いほど,金額は膨らみます。
民法第536条第2項の後段は,債務者が債務を免れたことによって得た利益は債権者に償還しなければならない,と定めています。労働者が解雇後に他社で得た収入(中間収入)の扱いが,この規定に関わります。
4-2 中間収入の控除の範囲
最高裁判所は,米極東空軍山田部隊事件(第二小法廷1962年(昭和37年)7月20日判決,昭和36年(オ)第190号)で,使用者の責めに帰すべき事由により解雇された労働者が解雇期間中に他の職で得た利益は,賃金から控除できるが,その限度は平均賃金の4割の範囲にとどめるべきだと判断しました。同日の同裁判所の判決(昭和36年(オ)第189号)は,休業手当に関する労働基準法第26条が解雇の場合にも適用され,他の職で平均賃金の6割以上の収入を得たからといって当然には支払を免れないとしています。したがって,他社への再就職が早い労働者がいても,企業の負担が大きく減るわけではありません。
4-3 慰謝料等の賠償
解雇が無効とされた場合でも,慰謝料は,原則として賃金の支払により慰謝されると考えられています。もっとも,東京自転車健康保険組合事件は,要件がないにもかかわらず解雇を強行したこと,妊娠を知っていたこと,撤回の要求を拒んだことなどの事情から,賃金の支払では償えない特段の精神的苦痛があるとして,100万円の慰謝料を認めました。
4-4 人員削減の目的の未達と事業への影響
無効となれば,復職を認める必要があり,削減しようとした人件費が残ります。経営再建の計画そのものが狂います。また,整理解雇を実施すれば,残る従業員の士気や会社への信頼にも影響し,人材の流出につながるおそれがあります。
労働組合がある場合や,社外のユニオンに加入された場合は,団体交渉が求められます。正当な理由なく団体交渉を拒めば,不当労働行為(労働組合法第7条第2号)となります(9)。「業績が悪いのだから仕方がない」という理屈は,裁判では通りません。解雇以外の手段を尽くした事実が,企業の防御の中心となります。
5 希望退職・退職勧奨の設計と限界
この項の結論
希望退職や退職勧奨は,解雇回避努力の中核になり得ますが,強要になれば別の法的問題を生じます。優遇条件,対象者,面談の方法を,財務状況に即して設計し,記録を残してください。
5-1 希望退職の設計項目
希望退職の募集は,応募するかどうかを労働者が自由に決める点に特徴があります。設計の際は,次の項目を整理します。
| 項目 | 検討内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 目的・規模 | 削減の目的と人数,対象部門 | 経営上の必要性に見合った規模かを確認します。 |
| 対象者 | 対象の部門・年齢・職種 | 対象を絞りすぎると,回避努力が不十分と評価されるおそれがあります。 |
| 優遇条件 | 割増退職金,再就職支援,有給休暇の消化など | 条件が低すぎる場合も,同様のおそれがあります。財務状況との均衡を検討します。 |
| 期間・手続 | 募集期間,説明会,応募方法,撤回の可否 | 期間は,検討に必要な時間を確保できる長さとします。 |
| 説明の内容 | 経営状況,募集の趣旨,応募しない場合の取扱い | 事実に反する説明は,後日の取消しの主張を招きます。 |
希望退職は,退職金の上乗せなどの優遇措置を伴うため,会社が定めた期間内に,応募に至るかどうかの意思決定を労働者が行います。一度実施すると後戻りがきかないため,実施前の設計が重要です。
5-2 退職勧奨の限界
退職勧奨は,特定の労働者に個別に退職を働きかける手法です。社会通念上相当な範囲を超えて行われれば,違法となります。下関商業高校事件(最高裁判所第一小法廷1980年(昭和55年)7月10日判決)は,市立高校の教員(地方公務員)が退職しない意思を表明し,優遇措置も打ち切られているのに,短期間内に多数回,長時間にわたり執拗に退職を勧奨したことなどを違法とした原審(広島高等裁判所1977年(昭和52年)1月24日判決)の判断を是認しました。国家賠償法に基づく事案で,裁判官2名の反対意見も付いています。民間企業にそのまま当てはまるとは限りませんが,退職の意思が明確な労働者への働きかけの限界を考える際の参考になります。
退職の意思表示が,強迫によってされたと評価される場合は,取り消されるおそれがあります(民法第96条第1項)。不法行為として責任を負うおそれもあります(同法第709条)。実務上は,次の点に留意してください。
- 面談の目的,退職を求める理由,優遇条件を明確に伝え,考える時間を与えます。
- 面談の回数,時間,同席者の人数に配慮し,社会通念上相当な範囲にとどめます。
- 「応じなければ解雇する」といった趣旨の発言や,威圧的な言動は行いません。
- 労働者が退職しない意思を明確にした場合は,その意思を尊重し,同じ内容の働きかけを繰り返しません。
日本IBM事件(東京地方裁判所2011年(平成23年)12月28日判決)は,対象者が退職に消極的でも直ちに説得を終える義務はなく,在籍のデメリットや退職のメリットを説明して再検討を求めることは,社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り許容されるとし,「戦力外」と告げても直ちに違法とはならないとして,慰謝料請求を棄却しました。控訴審の東京高等裁判所2012年(平成24年)10月31日判決も,施策の方法・手段が不相当とはいえず,自己決定権や人格的利益の違法な侵害は認められないとして,控訴を棄却しています。もっとも,これは面談の態様が相当な範囲内にあったという個別の評価です。結論だけで,自社の面談の進め方を正当化することはできません。
5-3 離職理由・雇用保険・助成金への影響
自己の責めに帰すべき重大な理由によるものを除く解雇により離職した者は,特定受給資格者に当たります(雇用保険法第23条第2項第2号)。雇用保険法施行規則は,解雇(第36条第1号),事業主から退職するよう勧奨を受けたこと(同条第9号),及び大量雇用変動の届出がされたため離職したこと(第35条第2号)を,特定受給資格者の範囲に含めています。他方,ハローワークインターネットサービスの「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」は,従来から恒常的に設けられている早期退職優遇制度等に応募して離職した場合は,特定受給資格者に該当しないとしています。
離職票の離職理由は,実際の経緯に沿って記載してください。事業主が偽りの届出や証明をして失業等給付が支給された場合は,連帯して納付を命じられることがあります(雇用保険法第10条の4第2項)。また,厚生労働省の雇用関係助成金支給要領(令和8年10月1日版)の共通要領は,不支給要件として,支給申請日の前日から1年前の日までの間に労働関係法令の違反(送検された場合)があった事業主,労働保険料を納付していない事業主,偽りその他不正の行為により不支給措置が取られている事業主,支給申請書等に事実と異なる記載又は証明を行った事業主などを定めています(0302)。共通要領の不支給要件には,解雇の有無そのものは含まれていません。もっとも,各助成金の要件は別に定められているため,申請を予定している助成金がある場合は,その助成金の要領で確認してください。
6 実務の進め方(STEP1〜STEP7)
この項の結論
整理解雇は,必要性の裏付け,回避措置の実施,人選基準の設計,説明と協議,合意退職の試み,予告・通知の順で進めます。各段階で,担当者,判断事項,記録を決めておくことが重要です。
6-1 全体の流れと記録
次の順序は,4つの観点に対応した進め方の一例です。事案によって順序の入れ替えや並行が必要になります。
| STEP | 判断事項 | 保存する記録 |
|---|---|---|
| STEP1 | 人員削減の必要性と規模 | 決算書,損益,受注見込み,事業計画,取締役会議事録 |
| STEP2 | 回避措置の実施 | 役員報酬の改定,採用停止,配転・出向の検討と打診の記録 |
| STEP3 | 人選基準 | 基準の決定過程,評価資料,当てはめの記録 |
| STEP4 | 説明と協議 | 説明資料,議事録,質疑応答の記録 |
| STEP5 | 希望退職・退職勧奨 | 募集要項,面談記録,退職合意書 |
| STEP6 | 予告・通知・届出 | 解雇予告通知書,届出書の控え |
| STEP7 | 解雇後の対応 | 解雇理由証明書,離職票,対応経過のまとめ |
- STEP1 人員削減の必要性の裏付け決算書,売上推移,受注見込み,事業計画など,客観的な資料を整えます。削減人数の根拠(どの部門で,どの程度の人件費を削減する必要があるか)も,資料で説明できる形にします。経営状況を示す資料がなければ,必要性は認められにくくなります。
- STEP2 解雇回避措置の実施と記録役員報酬の削減,残業の抑制,新規採用の停止,配置転換,出向,一時帰休,希望退職の募集などを検討し,実施した事実を記録に残します。検討しただけで実施しなかった措置は,その理由を記録します。
- STEP3 人選基準の設計勤務成績,勤続年数,扶養家族の状況,懲戒歴など,客観的で合理的な基準を設定します。年齢,性別,組合活動への参加などの属性に偏った選定は,違法となるおそれがあります。性別を理由とする解雇は男女雇用機会均等法第6条第4号に,組合員であることを理由とする解雇は労働組合法第7条第1号に反します(3-1)。基準ごとの重み付けとその理由も,記録します。
- STEP4 労働者・労働組合への説明と協議必要性,時期,規模,方法を,経営資料を示しながら説明します。誠実に協議した経過を,議事録として残します。解雇の直前に初めて通知する進め方は避けます。
- STEP5 希望退職・退職勧奨と退職合意書の作成5で述べた設計に沿って,希望退職の募集や個別の退職勧奨を行います。合意退職が成立した場合は,退職合意書を作成します。記載事項の骨子は,次のとおりです。本例は一般例です。実際には企業ごとの実情に応じた調整が必要です。
- 退職日と,合意による退職であることの確認
- 割増退職金・解決金の金額と支払時期
- 清算条項
- 秘密保持条項
- 離職理由の取扱い(実際の経緯に沿った記載とし,会社都合として扱う場合はその旨)
- STEP6 解雇予告・通知と届出以上を尽くしてもなお削減が必要な場合に限り,解雇を行います。30日前の予告又は平均賃金の支払を行い(労働基準法第20条),30人以上の離職が見込まれる場合は,ハローワークへの手続を行います(7)。
- STEP7 解雇後の対応労働者から請求があれば,解雇理由証明書を交付します(労働基準法第22条第2項)。離職票を適切に作成し,対応の経過を整理して保存します。後日の紛争に備え,記録は一式で保管してください。
7 予告・証明書・ハローワークへの届出
この項の結論
解雇には,30日前の予告又は平均賃金の支払が必要です。整理解雇では予告の除外認定は通常使えません。30人以上の離職が見込まれる場合は,再就職援助計画又は大量雇用変動届の手続が加わります。
7-1 解雇予告と除外認定
使用者は,労働者を解雇しようとする場合は,少なくとも30日前に予告をするか,30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります(労働基準法第20条第1項)。予告の日数は,1日について平均賃金を支払った場合には,その日数分だけ短縮できます(同条第2項)。
「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」や「労働者の責に帰すべき事由」に基づく解雇については,行政官庁の認定を受ければ,予告が不要となります(同条第1項ただし書・第3項)。もっとも,労働局の資料によれば,事業経営上の見通しの誤りによる金融難など,事業主の危険負担に属する事由は,「やむを得ない事由」に当たらないとされています。したがって,経営不振による整理解雇では,通常はこの認定を使えません。
7-2 解雇理由証明書
労働者が,解雇の予告がされた日から退職の日までの間に,解雇の理由について証明書を請求したときは,使用者は遅滞なく交付する必要があります(労働基準法第22条第2項)。請求しない事項は記載してはなりません(同条第3項)。整理解雇の場合は,人員削減の必要性を含む経営上の理由を,簡潔かつ正確に記載します。
7-3 再就職援助計画と大量雇用変動届
労働施策総合推進法は,一定規模以上の離職者が出る場合の手続を定めています。主な違いは,次のとおりです。
| 手続 | 対象となる場合 | 内容と時期 |
|---|---|---|
| 再就職援助計画(第24条) | 経済的事情による事業規模の縮小等で,一の事業所において1箇月以内に30人以上の離職者が出る場合 | 計画を作成し,過半数組合又は過半数代表者の意見を聴いた上で,ハローワークに提出して認定を受けます。計画は,最初の離職者が生ずる日の1箇月前までに作成しなければなりません(施行規則第7条の3第1項)。 |
| 大量雇用変動届(第27条) | 一の事業所で,1箇月以内に,自己の都合又は自己の責めに帰すべき理由によらない離職者が30人以上となる場合(施行規則第8条)。国・地方公共団体は,届出ではなく通知の対象です(法第27条第2項)。 | 離職者の数その他の事項を,大量雇用変動の前に厚生労働大臣へ届け出ます(第27条第1項)。大量雇用変動がある日(離職が複数の日にわたる場合は最後の離職が生じる日)の少なくとも1箇月前までに,大量離職届(様式第二号)を事業所の所在地を管轄するハローワークの所長へ提出します(施行規則第9条)。 |
| 両者の関係 | 再就職援助計画の認定を申請した事業主 | 認定の申請をした日に,大量雇用変動届を提出したものとみなされます(第24条第5項)。 |
大量雇用変動届の離職者数には,日々雇用される者や期間を定めて雇用される者(6箇月を超えて引き続き雇用されるに至った場合等を除く),試用期間中の者(14日を超えて引き続き雇用されるに至った場合を除く),常時勤務を要しない者,天災事変その他やむを得ない事由による事業継続不能で離職する者,及び既に届出・通知がされた者を含めません(同規則第8条)。再就職援助計画の対象は,経済的事情による事業規模の縮小等に伴い,一の事業所で常時雇用する労働者について1箇月の期間内に30人以上の離職者を生ずる場合です(同規則第7条の2)。30人に満たない場合も,任意に再就職援助計画を作成して認定を受けることができます。
8 よくあるNG対応と改善の方向
この項の結論
整理解雇の失敗例は,資料の不足,措置の不実施,進め方の強引さに集約されます。いずれも通知の前に是正できるため,次の3例を自社の状況と照らして点検してください。
| NG対応 | 何が問題か | どのようなリスクがあるか | 改善の方向 |
|---|---|---|---|
| 経営資料を示さず,「赤字なので解雇する」とだけ伝える | 必要性と手続の双方について,説明が尽くされていません。 | 手続の不備を理由に,無効とされるおそれがあります。 | 決算書や事業計画を示して説明し,質問に答えた記録を残します。 |
| 希望退職を募集せず,対象者を直ちに指名して解雇する | 回避努力が尽くされていません。 | 回避努力の不足を理由に,無効とされるおそれがあります。 | 役員報酬の削減や採用停止などを先に実施し,希望退職を行って応募状況を記録します。 |
| 退職勧奨に応じなかった者を,個別の事情を見ずに解雇の対象とする | 人選の基準が,応諾の有無という不合理なものになっています。 | 人選の不合理を理由に無効とされるほか,退職勧奨の強要が問われるおそれもあります。 | 事前に定めた客観的な基準で選定し,個別の事情を検討した記録を残します。 |
9 労働組合の有無による対応の違い
この項の結論
労働組合がある場合は,団体交渉への誠実な対応が必須です。組合がない場合も,従業員への説明と協議の経過が,手続の妥当性として評価されます。
| 状況 | 対応の要点 |
|---|---|
| 過半数組合がある | 人員削減の計画を早期に示し,団体交渉に応じます。人選で組合員であることを考慮してはなりません(労働組合法第7条第1号)。再就職援助計画を作成する場合は,組合の意見を聴きます。 |
| 少数組合・社外のユニオンから申入れがある | 正当な理由なく団体交渉を拒めば,不当労働行為(同条第2号)になります。交渉事項の範囲,資料の開示,議事録の作成を整理します。 |
| 労働組合がない | 従業員説明会や個別面談で,必要性,時期,規模,方法を説明します。再就職援助計画を作成する場合は,過半数代表者の意見を聴きます。 |
組合との交渉の場では,使用者が人員削減の必要性や回避措置の内容を具体的に説明できるかが重要です。交渉の席に就く前に,STEP1からSTEP3の資料を揃えておいてください。
10 自己点検チェックリスト
この項の結論
次の10項目は,整理解雇の通知の前に確認しておきたい事項です。未整備の項目が多い場合は,通知を延期し,是正を優先してください。
- 人員削減の必要性を示す決算書・事業計画などの資料を整理した
- 削減人数の根拠を,資料で説明できる
- 役員報酬の削減,採用停止,配置転換などの回避措置を実施し,記録した
- 希望退職の募集(又は実施しない理由の整理)を行った
- 人選基準を通知の前に定め,基準ごとの重み付けの理由を記録した
- 解雇が制限・禁止される属性(休業中,妊娠・出産,育児休業,組合活動等)に該当しないか確認した
- 労働者・労働組合に対し,経営資料を示して説明し,協議の議事録を残した
- 解雇予告又は予告手当の準備と,解雇理由証明書の交付に備えた
- 30人以上の離職が見込まれる場合の,ハローワークへの手続を確認した
- 離職理由の記載方法と,雇用保険・助成金への影響を確認した
11 よくある質問(FAQ)
この項の結論
次の10問は,実際の相談で多い疑問を整理したものです。個別の事案では結論が異なるため,一般的な考え方として参照してください。
12 弁護士へ相談すべき場面とタイミング
この項の結論
整理解雇の判断は,経営判断と法的リスクが複雑に絡みます。決定の前,募集条件を決める前,通知の前の段階で相談すると,選択肢が多く残ります。
12-1 相談のタイミング
次のような場面は,弁護士に相談することをお勧めする目安です。
- 業績悪化を受け,人員削減を検討し始めたとき
- 希望退職の募集条件を決める前
- 人選の基準や,説明資料を配布する前
- 労働組合や社外のユニオンから申入れがあったとき
- 解雇予告・解雇通知を出す前
12-2 課題別の対応
| 課題 | 自社で整理できること | 弁護士が関与し得る場面 | 相談の目安 |
|---|---|---|---|
| 有効性の見立て | 資料の収集と時系列の整理 | 4つの観点に照らした法的評価と,無効時のリスクの試算 | 解雇を決定する前 |
| 希望退職・退職勧奨 | 募集の目的と人数の整理 | 優遇条件・募集期間・面談の進め方の設計,退職合意書の作成 | 募集条件を決める前 |
| 人選・説明資料 | 選定基準案の作成 | 基準の適法性の確認,説明資料のリーガルチェック | 配布や通知の前 |
| 労働組合との交渉 | 要求内容の整理 | 交渉の進め方の助言,協議の範囲の整理 | 申入れを受けたとき |
| 届出・行政対応 | 離職者数の算定 | 再就職援助計画・大量雇用変動届の手続の確認 | 離職予定日の約2箇月前 |
12-3 スポット相談と継続的な支援
個別の案件については,スポット相談で足りる場合があります。一方,人事労務の課題が繰り返し生じる企業では,継続的な支援の利用が考えられます。当事務所の支援内容は,「人事労務対応コンサルティング」及び「労務体制を整備し,企業を強くするためのサポートプラン」で案内しています。
13 まとめ
この項の結論
整理解雇は,4つの観点で厳格に審査される最後の手段です。通知の前に,資料・記録・合意書を整備し,希望退職などの回避措置を尽くすことが,紛争の予防につながります。
整理解雇の可否を判断する際は,まず人員削減の必要性を資料で確かめ,次に回避措置を実施して記録します。その上で,客観的な基準で人選し,経営資料を示した説明と協議を行います。
次の一歩として,本記事の10のチェック項目に照らし,未整備の項目を洗い出してください。不足している資料が多い場合や,人選・説明の進め方に迷う場合は,通知の前に弁護士へ相談し,進め方を点検することをお勧めします。
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- 直近の決算書,月次の損益,資金繰り表,事業計画など,経営状況を示す資料
- 就業規則,賃金規程,退職金規程,雇用契約書など,労働条件を定めた文書
- 対象部門・対象者の人数,雇用形態,勤続年数,賃金の一覧(個人情報に配慮したもの)
- これまでに実施した回避措置(役員報酬の改定,採用停止,配置転換等)の記録
- 労働組合の有無,過去の協議の議事録,従業員への説明の経過をまとめたメモ