諭旨解雇とは|懲戒解雇との違いと有効性の判断基準

〜退職届の提出勧告から退職金・解雇予告の扱いまで,処分前に確認すべき実務〜

諭旨解雇は,非違行為のあった労働者に退職を勧告し,退職届が提出されなければ解雇する処分として,就業規則に定められることが多い制度です。法令上の定義はなく,懲戒処分として労働契約法第15条の審査を受けます。

【この記事の結論】
  • 諭旨解雇は,法令に定義がなく,就業規則の定めによって内容が決まる懲戒処分です。諭旨退職,諭旨免職と呼ぶ会社もあります。
  • 有効となるには,就業規則上の根拠と周知,懲戒事由への該当,客観的合理性と社会通念上の相当性が必要です(労働契約法第15条)。
  • 雇用を終了させる処分であるため,有効性は慎重に検討してください。精神的な不調が疑われる欠勤を理由とする諭旨退職処分を無効とした最高裁判決があります。
  • 解雇の形をとる場合は,解雇予告又は解雇予告手当が原則として必要です。予告の除外には,労働基準監督署長の認定を要します(労働基準法第20条)。
  • 退職金,離職票の離職理由,退職証明書の記載は,処分後の紛争の原因になりやすいため,処分前に方針を整理してください。

目次

根拠法令・参照資料

※労働契約法(平成19年法律第128号)第15条・第16条,労働基準法(昭和22年法律第49号)第20条・第22条・第89条,雇用保険法(昭和49年法律第116号)。

最高裁判所第二小法廷2012年(平成24年)4月27日判決,同2006年(平成18年)10月6日判決,同2003年(平成15年)10月10日判決,東京高等裁判所2003年(平成15年)12月11日判決,甲府地方裁判所2004年(平成16年)9月28日判決(3項及び5項参照)。

厚生労働省の公表資料(解雇予告除外認定に関するQ&A,離職票の離職理由欄の区分に関する資料)。

上記は,2026年(令和8年)10月21日時点で確認した内容に基づきます。最高裁判所の2件(2012年,2003年)と甲府地方裁判所の判決は,裁判所ウェブサイト掲載の判決文で確認しました。ネスレ日本事件及び小田急電鉄事件も,判決文(判例秘書登載)で確認しました。

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主要用語の定義

諭旨解雇とは,懲戒処分の一種として,非違行為のあった労働者に退職を勧告し,一定期間内に退職届が提出されない場合に解雇する処分をいいます(具体的な内容は,就業規則の定めによります。)。

懲戒解雇とは,懲戒処分として,使用者が労働契約を一方的に解約することをいいます。

重責解雇とは,雇用保険の離職理由の区分のうち,労働者の責めに帰すべき重大な理由による解雇をいいます。

1 諭旨解雇とは

この項の結論

諭旨解雇の内容は,法令ではなく,就業規則の定めで決まります。

諭旨解雇は,労働基準法や労働契約法に定義規定がありません。就業規則に,懲戒解雇,出勤停止,減給,戒告等と並べて定められる処分の一つです。呼称よりも,就業規則にどのような効果が定められているかが重要です。

退職届が提出されなかった場合の扱いは,就業規則によって異なります。甲府地方裁判所2004年(平成16年)9月28日判決は,諭旨退職を懲戒処分と解し,退職願を提出すれば自主退職,提出しなければ解雇の効力が生じると整理しました。ネスレ日本事件では,提出されなかったため懲戒解雇がされています(3項)。自社の規定を確認してください。

懲戒解雇,諭旨解雇及び普通解雇の違いは,次のとおり整理できます。表は一般的な設計例であり,実際の効果は就業規則と退職金規程の定めによります。

項目懲戒解雇諭旨解雇(諭旨退職)普通解雇
法的な位置づけ懲戒処分(労働契約法第15条)懲戒処分(同条)。就業規則の定めによる解雇(同法第16条)
一般的な設計懲戒処分のうち最も重いものとされる懲戒解雇に相当する事由について,情状を考慮して退職を勧告する処分とされる能力不足,勤務不良,経営上の理由等を理由に行う
退職金不支給又は減額と定める例が多い(退職金規程による)全部又は一部を支給する例がある(退職金規程による)退職金規程に従って支給するのが通常
解雇予告原則必要。除外には労働基準監督署長の認定が必要(労働基準法第20条)解雇の形をとる場合は同左原則必要(同条)
主な留意点処分の相当性と手続の適正同左。退職届が提出されない場合の扱いの明確化客観的合理性と社会通念上の相当性

2 諭旨解雇が有効となる要件

この項の結論

就業規則の根拠,懲戒事由,相当性,手続の順に確認し,どれかを欠けば無効となるおそれがあります。

懲戒をするには,あらかじめ就業規則に懲戒の種類と事由を定め,労働者に周知しておく必要があります(フジ興産事件・最高裁判所第二小法廷2003年(平成15年)10月10日判決)。そのうえで,懲戒が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当と認められない場合は,権利を濫用したものとして無効になります(労働契約法第15条)。

  1. 就業規則上の根拠諭旨解雇の処分,その事由及び退職届が提出されない場合の効果が,就業規則に定められている必要があります。定めがなければ,諭旨解雇を行うことはできません。懲戒を定める場合,その種類及び程度は,就業規則の記載事項です(労働基準法第89条第9号)。
  2. 懲戒事由への該当処分の理由とする行為が,就業規則所定の懲戒事由に当たる必要があります。事実関係は,証拠に基づいて確定します。欠勤を理由とする処分では,「正当な理由のない無断欠勤」に当たるかが争われます(3項)。
  3. 客観的合理性と社会通念上の相当性行為の内容,被害の程度,反復性,本人の反省,過去の同種事案の処分との均衡,指導や注意の有無などを総合して判断されます(当事務所の整理)。処分までに長期間が経過している場合は,処分時点で重い処分を必要とする理由も問われます(3項)。
  4. 手続の適正就業規則に懲戒委員会の開催や弁明の機会の付与が定められている場合は,その手続を履行します。定めがない場合も,本人の言い分を聴いて記録しておくことが望ましいと考えます(当事務所の意見)。

3 裁判例から見る判断の分かれ目

この項の結論

欠勤の背景への対応,指導や原因究明の程度,処分までの期間が,有効性を分けています。

次の3件は,いずれも処分が無効とされた事案です。結論は事案ごとの判断であり,同様の事情があれば無効になるとは限りません。

判決事案・判断実務への示唆
最高裁判所第二小法廷2012年(平成24年)4月27日判決(上告審)
東京高等裁判所2011年(平成23年)1月26日判決(控訴審)
日本ヒューレット・パッカード事件
被害妄想などの精神的な不調から,実際には存在しない盗撮・盗聴による監視を受けていると思い込んだ労働者が,有給休暇を使い切った後,約40日間欠勤を続け,会社が無断欠勤を理由に諭旨退職処分とした事案です。最高裁は,使用者が精神科医による健康診断を実施するなどして治療を勧め,必要に応じて休職等を検討し,経過を見守るべきであり,これらをせずに直ちに「正当な理由のない無断欠勤」として処分することは適切とはいい難いとして,処分を無効と判断しました(上告棄却)。第一審(東京地方裁判所2010年(平成22年)6月11日判決)は処分を有効としましたが,控訴審が変更し,無効としています。欠勤の背景に疾病が疑われる場合は,懲戒の前に,受診の指示や休職の検討を行います。なお,同事件の復職をめぐる後続訴訟では,産業医の意見等を踏まえて命じた休職命令が有効とされ,休職期間の満了による自然退職が認められました(東京地方裁判所2015年(平成27年)5月28日判決,東京高等裁判所2016年(平成28年)2月25日判決,最高裁判所2016年(平成28年)12月20日決定)。事例判断です。
甲府地方裁判所2004年(平成16年)9月28日判決
やまなみ信用組合(論旨退職)事件
現金の紛失事件を受けて,内規の違反等を理由に諭旨退職処分とし,退職願が提出されなかったため解雇した事案です。判決は,懲戒事由の一部のみを認めたうえで,労働者が指導や注意を受けたことがなく,使用者が適切な監督をしていたことも窺われず,事件の原因が解明されていない段階で処分がされたこと,過去の諭旨退職の事例は故意の横領で性質が異なることなどを指摘し,解雇権の濫用で無効としました。指導歴,原因究明の程度,過去の処分例との比較が,相当性の判断材料になります。
最高裁判所第二小法廷2006年(平成18年)10月6日判決(上告審)
ネスレ日本事件
暴行事件から7年以上が経過した後に,会社が諭旨退職処分とし,退職届が提出されなかったため懲戒解雇とした事案です。第一審は処分を無効としましたが,控訴審は有効としました。最高裁は,処分の時点で重い懲戒処分を必要とする状況にないなどとして,諭旨退職処分を権利の濫用で無効とし,これに基づく懲戒解雇も効力を生じないと判断して,控訴を棄却しました。非違行為の把握からの期間と,処分時点での必要性を検討します。一律の期限はなく,事例判断です。

4 諭旨解雇の実務手順

この項の結論

事実調査,処分の選択,弁明の聴取,書面通知,退職手続の順に進め,記録を残します。

  1. 事実関係の調査と証拠の保全人事・法務の担当者が,行為の内容,日時,関係者の供述,物的な証拠を記録します。疾病や職場環境が背景にないかも確認します。
  2. 就業規則との照合と処分の選択懲戒事由,処分の種類,退職金規程の条項を確認し,過去の同種事案の処分と比較します。普通解雇や合意退職との比較も行います。
  3. 弁明の機会の付与本人から言い分を聴取して記録します。懲戒委員会の手続が定められている場合は,これに従います。
  4. 処分の通知該当する条項と具体的な事実,退職届の提出期限,提出しない場合の取扱い,退職金の扱いを書面で通知します。
  5. 退職手続退職届の受領,解雇予告又は予告手当,退職証明書や離職票の交付,貸与物の返還,社会保険の手続を進めます。

5 退職金・解雇予告・離職票の取扱い

この項の結論

退職金,解雇予告,離職理由の方針は,処分前に決めておきます。

  1. 退職金退職金は,退職金規程の定めに従います。懲戒解雇に伴う全額不支給の可否が争われた東京高等裁判所2003年(平成15年)12月11日判決(小田急電鉄事件)は,懲戒解雇を有効としたうえで,全額の不支給は認められないとし,退職金の3割の支給を認めました。諭旨解雇での扱いは,規程の定めと処分の理由に即して決めます。
  2. 解雇予告解雇の形をとる場合は,少なくとも30日前に予告するか,30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労働基準法第20条第1項)。労働者の責めに帰すべき事由に基づく解雇は予告が不要ですが,労働基準監督署長の認定が必要です(同条第3項)。認定を受けても,処分の有効性が確定するわけではありません(当事務所の理解)。
  3. 離職票・退職証明書退職証明書は,労働者が請求した場合に交付し,解雇の場合は理由を含めます(労働基準法第22条第1項)。離職票の離職理由は事業主が記載しますが,最終的な判定はハローワークが行います。重責解雇に当たるかは,給付制限の扱いに影響するおそれがあります(重責解雇の場合の給付制限期間は3箇月とされています。)。処分通知書,退職証明書及び離職票の理由は,一致させてください。

6 よくある失敗・NG対応

この項の結論

根拠の確認不足,疾病の見落とし,調査と弁明聴取の省略が,無効や紛争の典型的な原因です。

NG対応何が問題か・リスク改善の方向
就業規則に定めのない諭旨解雇を,口頭で告げる懲戒の根拠を欠き,無効となるおそれがあります(フジ興産事件)。規定の有無と周知を確認します。定めがなければ,普通解雇や合意退職など他の方法を検討します。
欠勤の背景に疾病が疑われるのに,欠勤を理由に処分する懲戒事由に当たらないとして,処分が無効となるおそれがあります(日本ヒューレット・パッカード事件)。受診の指示,休職の検討,経過観察を行い,対応を記録します。
事実調査と弁明の聴取を省き,退職届の提出だけを迫る相当性と手続の適正を欠き,退職の意思表示の効力を争われるおそれがあります。調査,弁明の聴取,書面による通知を経て,提出期限を合理的に定めます。

7 自己点検チェックリスト

この項の結論

「いいえ」がある項目は,処分の前に補ってください。

  • 諭旨解雇が就業規則に定められ,労働者に周知されている
  • 退職届が提出されない場合の効果(解雇か,懲戒解雇か)が明記されている
  • 処分の理由となる行為が懲戒事由に当たることを,証拠で確認した
  • 欠勤や不調の背景に疾病が疑われないか確認し,必要な対応をとった
  • 過去の同種事案の処分と比較し,均衡を確認した
  • 本人から弁明を聴取し,記録した
  • 非違行為の把握から処分までの期間に,合理的な理由がある
  • 退職金規程に基づく支給の可否と額を確認した
  • 解雇予告又は解雇予告手当の要否を確認した
  • 処分通知書,退職証明書及び離職票の理由が一致している

8 よくある質問(FAQ)

この項の結論

用語,退職届の不提出,規定がない場合,退職金,弁明の機会を整理します。

諭旨解雇と諭旨退職は同じものですか。
呼称が異なるだけで,同じ処分を指す場合が多いです。ただし,退職届の提出で自主退職とするのか,提出がなければ解雇とするのかは,就業規則ごとに異なります。規定の内容で確認してください。
退職届を提出しない場合は,懲戒解雇にできますか。
就業規則に,提出しない場合は懲戒解雇とする旨の定めがあれば,その規定に従う余地があります。ただし,懲戒解雇としての有効性が別に問われます。ネスレ日本事件では,諭旨退職処分が無効とされたため,これに基づく懲戒解雇も効力を生じないとされました。
就業規則に諭旨解雇の定めがない場合は,どうすればよいですか。
定めのない懲戒処分はできません(フジ興産事件)。普通解雇や合意退職など,他の方法を検討します。
諭旨解雇の場合,退職金は必ず支給するのですか。
退職金規程の定めによります。一律の扱いはありません。懲戒解雇の事案ですが,全額の不支給は認められないとした裁判例もあります(5項)。
処分の前に,弁明の機会は必ず必要ですか。
法令上,一律の定めは確認できません。就業規則に定めがあれば,履行しなければ手続の瑕疵が問題となります。定めがなくても,本人の言い分を聴いて記録することが望ましいと考えます(当事務所の意見)。

9 弁護士に相談すべき場面

この項の結論

事実に争いがある場合,疾病やハラスメントが背景にある場合,退職金の不支給を予定する場合は,処分の前に相談してください。

弁護士は,就業規則と処分理由の法的評価,事実調査と証拠保全,処分通知書の作成,本人との交渉,労働審判・訴訟への対応で関与できます。スポット相談で個別の処分を確認する方法と,顧問契約で平時から相談できる体制を整える方法があります。人事労務の体制整備については,「労務体制を整備し,企業を強くするためのサポートプラン」をご覧ください。

10 まとめ

諭旨解雇は,法令に定義がなく,就業規則の定めに基づく懲戒処分です。有効性は,就業規則上の根拠,懲戒事由への該当,相当性及び手続の適正で判断されます。処分の前に,就業規則の定め,証拠,過去の処分との均衡を確認し,次の一歩として,7項のチェックリストで未整備の項目を洗い出してください。合意による退職を検討する場合は,「合意退職とは|退職勧奨の進め方と退職合意書の実務対応」もご覧ください。解雇や退職勧奨の全体像は,解雇・退職勧奨のページで確認できます。

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  • 就業規則(懲戒規定及び退職金規程を含みます。)
  • 対象となる労働者の雇用契約書と人事記録(個人情報に配慮したもの)
  • 処分の理由に関する事実経過の記録(日時,関係者,証拠)
  • これまでの指導や注意の記録
  • 過去の同種事案での処分の記録
  • 事業所の所在地,業種,労働者数
免責事項

本記事は,掲載時点の法令,指針,裁判例等に基づき,一般的な法的情報を提供することを目的として作成しています。個別の事案では,事実関係や証拠等によって結論が異なるため,本記事は法的助言を目的とするものではありません。また,法令の改正,裁判例の変更等により,掲載内容が変更される場合があります。具体的な事案については,当事務所の弁護士へお気軽にご相談ください。

執筆・監修

日本橋法律特許事務所 代表弁護士 中山泰章(第二東京弁護士会所属)

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