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1 はじめに
昨今,再生可能エネルギー(以下「再エネ」といいます。)を利用した電気のニーズは,ますます高まりを見せています。以下でご説明する「バーチャルPPA」を利用した環境価値の取引は,このようなニーズに対応する重要なツールの一つです。
そこで,本稿では,バーチャルPPAの概要と法的問題点について,ご説明してまいります。
2 バーチャルPPAとは
(1)コーポレートPPAとは
電力需要家(以下「需要家」といいます。)が,発電事業者との間で,長期間にわたり相対で再エネによる電力を購入する契約を締結することをコーポレートPPA(PPA=Power Purchase Agreement(電力購入契約))といいます。
本来であれば,需要家は,小売電気事業者を通じて電力を購入します。もっとも,昨今では,再エネ事業者が長期的に販売先を確保する手段として,コーポレートPPAを活用する場合が増えています。
コーポレートPPAの種類は,発電設備の設置場所と需要家が電力を消費する場所との位置関係から,オンサイト型コーポレートPPAとオフサイト型コーポレートPPAに分けられます。
さらに,オフサイト型コーポレートPPAは,と環境価値(再エネの「電気や熱そのものの価値」の他に,二酸化炭素を排出しないという「環境価値」の部分を取り出したもの*1)を合わせて取引するか,または環境価値のみを取引するかにより,フィジカルPPAとバーチャルPPAに分けられます*2。
*1:東京都環境局WEBサイト https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/renewable_energy/solar_energy/value_environmental(2024年6月13日最終閲覧)
*2:第一東京弁護士会環境保全対策委員会編『再生可能エネルギー法務(改訂版)』24頁(勁草書房,2022)
(2)オンサイト型コーポレートPPAとは
需要家の敷地内に発電設備を設置し,その敷地内で発電した電気を需要家が自家消費する形態をいいます。発電設備については,コスト面や維持管理の負担面から,需要家が自ら設置するのではなく,発電事業者が設置する第三者所有モデルが一般的です*3。
*3:第一東京弁護士会環境保全対策委員会編『再生可能エネルギー法務(改訂版)』24~25頁(勁草書房,2022)
(3)オフサイト型コーポレートPPAとは
需要家が消費する場所から発電設備が離れている形態をいいます。
この場合,現在の日本の法律上は,自己託送(自家用発電設備を設置する者が,その設備によって発電した電力について,送配電ネットワークを介し自家消費を行う別の場所に送配電する際に,一般送配電事業者から提供される託送供給サービス)を行う場合を除いて,発電事業者と需要家は直接契約し電力を供給することはできません。
したがって,発電事業者と需要家の間では,小売事業者を介して取引を行うこととなります。
(4)フィジカルPPAとは
オフサイト型コーポレートPPAのうち,発電事業者と需要家の間で電力と環境価値のいずれも直接売買する形態をいいます。日本の場合は,前述のとおり,発電事業者と需要家の間に小売電気事業者を介して取引を行います。
出所:資源エネルギー庁 2021年11月29日「『再エネ価値取引市場について』8頁
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/059_03_02.pdf
(2024年6月13日最終閲覧)
(5)バーチャルPPAとは
オフサイト型コーポレートPPAのうち,発電事業者と需要家は環境価値のみを直接売買し,電力取引は行わない形態をいいます。
環境価値の料金については,発電事業者と需要家との間で固定価格を決め,卸電力の市場価格と固定価格の差額に基づいて精算を行います。このような計算方法を行う目的は,発電事業者側が電力価格の変動を避け一定の収入を確保するためです。
なお,日本の場合は,フィジカルPPAと同様に,発電事業者と需要家の間に小売電気事業者を介して取引を行います。
出所:資源エネルギー庁 2021年11月29日『再エネ価値取引市場について』8頁
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/059_03_02.pdf
(2024年6月13日最終閲覧)
3 バーチャルPPAの適法性
前述のとおり,バーチャルPPAによる環境価値の売買を行う際には,卸電力の市場価格と固定価格の差額に基づいて精算されます(差金決済)。このような精算方法を行うことが,商品先物取引法(以下「商先法」といいます。)上の「店頭商品デリバティブ取引」(商先法第2条第14項)にあたるものとして,商先法上の許可等が必要ではないか,という議論があります。
これに対し,商先法を所管する経済産業省は,次のとおりの見解を示しています。*4
*4:内閣府WEBサイト「参考資料 第17回要望一覧と各省からの回答」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20221111/221111energy14.pdf(2024年6月13日最終閲覧)
■ バーチャルPPAが店頭商品デリバティブ取引に該当するかの判断については,にその内容を確認する必要がある。
■ 一般論として,差金決済について,当該契約上,少なくとも以下の項目が確認でき,全体として再エネ証書等(すなわち環境価値*5)の売買と判断することが可能であれば,商品先物取引法の適用はないと考える。
*5:括弧内追記は筆者による。
① 取引の対象となる環境価値が実態のあるものである(等ではない)
② 発電事業者から需要家への環境価値の権利移転が確認できる
このように,①②の項目の確認が出来る等により,その契約が全体として環境価値の売買であることが判断できれば,商先法に抵触せず,許可等は不要となります。
もっとも,バーチャルPPAが商品先上適法かどうかについては,経済産業省の見解のとおり,判断が必要です。
当事務所においては,商品先物取引法に精通した弁護士が在籍しております。バーチャルPPAの適法性について判断にお困りの場合には,お気軽にお問合せください。