不正競争防止法

1 はじめに

 事業者にとって,商品の名前や自社で開発した技術のデータなどの情報は,貴重な財産です。これらが競合他社に無断で使用されたり,奪われたりしてしまうと,大きな損害が生じかねません。そのため,自社の商品名などが無断使用されていないか,また知らないうちに他者の営業上の利益を侵害していないかなど,事業活動を行うにあたっては不正競争に関して正しく理解し,対策を取っておかなければなりません。

 

2 不正競争防止法とは

 不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)は,事業者間の公正な競争などを確保するため,「不正競争」(不競法第2条)の防止などに関する措置などを講じ,国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です。特許法や商標法,意匠法などの知的財産に関わる他の法律と異なり,権利を付与するという形ではなく,あくまで事業者の「行為」を規制することで,事業者の営業上の利益を保護し,公正な競争秩序を維持することをめざしています。

 

3 「不正競争」とは

(1)「不正競争」の定義

 それでは,「不正競争」は,不競法で具体的にどのように定義されているのでしょうか。「不正競争」として,不競法第2条で挙げられているのは,次の10の行為です。

 ① 周知表示混同惹起行為(第1号)

 ② 著名表示冒用行為(第2号)

 ③ 形態模倣商品の提供行為(第3号)

 ④ 営業秘密の侵害(第4号~第10号)

 ⑤ 限定提供データの不正取得など(第11号~第16号)

 ⑥ 技術的制限手段無効化装置などの提供行為(第17号・第18号)

 ⑦ ドメイン名の不正取得などの行為(第19号)

 ⑧ 誤認惹起行為(第20号)

 ⑨ 信用毀損行為(第21号)

 ⑩ 代理人などの商標冒用行為(第22号)

 以下では,それぞれの「不正競争」について,確認していきましょう。

(2)周知表示混同惹起行為

 広く認識されている他人の商品又は営業の表示(以下「商品等表示」といいます。)と同一又は類似の商品等表示を使用して,他人の商品又は営業と混同を生じさせることをいいます。

 「広く認識」の基準は,全国的に知られていることまでは必要とされず,一地方で知られているだけでも足りる点で注意が必要です。

 また,「混同」は,現に発生していなくとも,そのおそれがあれば,「混同」と評価されます。

(3)著名表示冒用行為

 他人の著名な商品等表示を自己の商品等表示として同一又は類似のものとして使用する,いわゆる「パクリ行為」です。

 一見すると,⑵「混同惹起行為」と同じ行為のようにも思われますが,「著名な」は,特定の地域だけではなく,全国的に知られている必要があります。

(4)形態模倣商品の提供行為

 通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる,他人の商品の外部及び内部の形状並びに形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感(以下「商品の形態」といいます。)を模倣した商品の譲渡,貸与,輸出入などをする行為を指します。

 「商品の形態」から除かれるものとしては,商品の機能を維持するために必要不可欠な形態や同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合が挙げられます。

 また,日本国内で最初に販売された日から3年が経過すると,保護の対象ではなくなることにも注意が必要です。

(5)営業秘密の侵害

 盗むなどして営業秘密を不正に入手し,その情報を自らで使用する,または第三者に開示するなどの行為が営業秘密の侵害に当たります。

 例えば,顧客名簿や新規事業計画,価格情報,対応マニュアルのような営業情報や,製造方法・ノウハウ,新規物質情報,設計図面などの技術情報がこれに当たります。

 この場合の「営業秘密」に該当するのは,

 ① 秘密として管理されていること(秘密管理性)

 ② 事業活動に有用な技術又は営業上の情報であること(有用性)

 ③ 公然と知られていないこと(非公知性)

 の3要件の全部が満たされていることが必要です。

  まず,「秘密管理性」(①)とは,情報に接することができる従業員などにとって,その情報が会社の秘密だと分かる程度の措置(マル秘の表示,アクセス制限など)がされていることとです。

 次に,「有用性」(②)とは,公序良俗に反する内容(脱税情報など)を法律上の保護から除外するための要件であり,公序良俗に反しない情報であれば有用性が認められることが多いです。現実に利用されていな情報や失敗した実験データなどのネガティブ・インフォメーションにも有用性は認められ得るとされています。

 そして,「非公知性」(③)とは,その情報を保有している人の管理下以外では,一般に入手できないことです。

(6)限定提供データの不正取得など

 こちらは,⑸「営業秘密の侵害」と似た規制ですが,営業秘密ではなく,限定提供データを盗むなどの不正の手段で取得し,そのデータを自ら使用し,又は第三者に開示するなどの行為が限定提供データの不正取得などに当たります。ここでの「限定提供データ」とは,企業間で複数者に提供や共有がされることで,新たな事業の創出につながったり,商品・サービスの付加価値を高めたりできるなど,その利活用が期待されているデータを意味します。

 具体的には,

 ① 業として特定の者に提供すること(限定提供性)

 ② 電磁的方法により相当量蓄積されていること(相当蓄積性)

 ③ 電磁的方法により管理されていること(電磁的管理性)

 の3要件の全部が満たされていることが必要です。

 まず,「限定提供性」(①)とは,反復継続的に一定の条件の下でデータ提供を受ける者に提供することを意味します。例えば,データ保有者が会員制のデータベースの会員に繰り返しデータ提供を行っている場合などがこれに当たります。

 次に,「相当蓄積性」(②)とは,社会通念上,電磁的方法により蓄積されることによって価値を有することを意味します。例えば,携帯電話の位置情報を全国エリアで電磁的方法によって蓄積している事業者が,特定エリア単位で当該位置情報を抽出して販売している場合,その特定エリア分のデータがこれに当たります。

 そして,「電磁的管理性」(③)とは,特定の者に対してのみ提供するものとして管理する保有者の意思が,外部に対して明確化されていることを意味し,具体的には,IDやパスコードなどのアクセスを制限する技術が施されていることなどが必要となります。それ以外のアクセス制限の手段としては,ICカードや特定の端末,トークン,生体認証などがあります。

 もっとも,これらの3要件に当てはまるとしても,営業秘密やオープンなデータと同一のものは限定提供データから除かれます。

(7)技術的制限手段の無効化装置などの提供行為

 音楽,映画,写真,ゲームなどのコンテンツには,無断コピーや無断視聴を防止するための技術が施されており,これらは技術的制限手段と言われています。このような技術的制限手段を無効化してこうしたコンテンツを視聴することなどができるような装置,プログラム,指令符号(シリアルコードなど),役務を提供するなどの行為も不正競争行為に該当します。

(8)ドメイン名の不正取得等の行為

 不正の利益を得る目的又は他人に損害を与える目的で,他人の特定商品等表示と同一又は類似のドメイン名を使用する権利を取得し,若しくは保有し,又はそのドメイン名を使用することも禁じられています。

 「不正の利益を得る目的」,「他人に損害を与える目的」とは,公序良俗,信義則に反する形で,自己又は他人の利益を不当に図る目的や他人に対して財産上の損害,信用の失墜などの有形無形の損害を加える目的を意味します。例えば,保有するドメイン名を不当に高額な値段で転売する,他人の顧客吸引力を不当に利用して事業を行う,他人の特定商品等表示と同一又は類似のドメイン名を取得してアダルトサイトを開設するなどして相手に損害を加える,などが挙げられます。

 「特定商品等表示」とは,人の業務に係る氏名,商号,商標,標章その他の商品又は役務を表示するものを意味します。

 「ドメイン名」とは,インターネットにおいて,個々の電子計算機を識別するために

割り当てられる番号,記号,文字の組合せ(IPアドレス)に対応する文字,番号,記号その他の符号又はこれらの結合のことをいいます。例えば,日本弁護連合会のサイトのURL(https://www.nichibenren.or.jp)においては,“www.nichibenren.or.jp /”が,架空のメールアドレスである“000example000@nichibenren.or.jp”)においては,“nichibenren.or.jp /”がドメインです。

(9)誤認惹起行為

 商品・サービスの広告や表示において,商品の原産地や品質・内容などについて誤認させるような表示をするなどの行為を意味します(商品名に原産地ではない地名を付けるなど)。

 この規制の対象には,表示をする行為だけではなく,そのような表示をした商品を譲渡するなどの行為も含まれるので,注意が必要です。

(10)信用毀損行為

 競争関係にある他人の営業上の信用を妨害する虚偽の事実を告知し又は流布(拡散)する行為を指します。

 「競争関係」にあたるかは,双方の営業について,その需要者又は取引者を共通に可能性があることで足ります。

 また,「他人」の名称自体が明示されていなくとも,告知などの内容などから,「他人が」誰を指すのか理解できれば足ります。

(11)代理人などの商標冒用行為

 パリ条約の同盟国などにおいて,商標に関する権利を持つ代理人が,不当に商標を使用するなどの行為などを指します。

 ここでの代理人は,現在の代理人だけではなくその行為の日の1年以内に代理人であったものも含まれます。

 この規定はパリ条約に対応するための規定で,主に国際的に商標に関する権利者の保護を国際的に強化するために設けられたものです。

 

4 企業における不正競争リスク

(1)自社の商品・サービスが模倣される

 無断で自社の商品・サービスが模倣されてしまった場合,本来,その商品・サービスから得られたはずの利益が他社に奪われてしまいます。 

(2)他社の商品・サービスを知らないうちに模倣してしまう

 競合他社の商品・サービスを知らないうちに模倣してしまった場合,差止請求や損害賠償請求を受けるおそれがあります。さらに,模倣の事実が公になった場合,模倣した自社の社会的評価(レピュテーション)の低下も招きかねません。 

(3)退職した社員が営業秘密・ノウハウを持ち出す

 退職した社員が,自社の営業秘密やノウハウを持ち出した場合,その情報を使って顧客の奪取などが行われるおそれがあります。

 

5 弁護士に相談するメリット

(1)競合他社の権利を侵害してしまうリスクを事前に回避することができる

 新たな商品・サービスを開発した場合など,あらかじめ弁護士に相談しておくことで,競合他社の権利の侵害の有無を事前に確認し,紛争を予防することができます。

(2)競合他社に対する適切な対応がスムーズにとれる 

 万が一,競合他社の権利を侵害して差止請求や損害賠償請求を受けてしまった場合,弁護士が代理人として,前面に立ち,自社の正当な利益を保護するために必要なさまざまな対応を行います。

(3)自社の正当な権利を保護するための手続きも相談できる

 自社の商品・サービスが模倣されてしまった場合,弁護士が代理人として競合他社と対峙し,適正妥当な手段・態様により,模倣によって侵害されてしまった自社の正当な権利を回復します。

 

6 当事務所で提供できるサービス

 当事務所では,不正競争防止法に関わるご相談に対応しております。

 具体的には商品・サービスの模倣や営業秘密の不正使用,営業誹謗行為などが問題となる紛争への対応や相手方との交渉,訴訟対応なども行っております。また,皆様が営業活動を行う上で不正競争防止法を遵守するための方策や営業秘密の情報管理に関するアドバイスなども提供しております。

 

7 まずは弁護士にご相談ください。

 不正競争防止法違反は,加害者となっても,被害者となっても,自社の営業活動に大きな妨げとなってしまいます。そして,そうした事案への対応には,法律の専門家である弁護士の知見や支援が必要です。また,不正競争防止違反によって自社の営業秘密を不正に利用されないためにも,企業規模に合わせた適正妥当な体制で情報管理を行うことも企業にとって重要な予防策の一つです。

 当事務所では,知的財産や不正競争行為をめぐる事案に関する経験を活かし,依頼者様お一人おひとりにとってさまざまな解決策をご提案しております。不正競争防止法違反をめぐる対応に関するご相談は,お気軽にお問い合わせください。